【東方戯曲台本形式】リベンジフルゴースト   作:三城朝海

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※術式……現実に存在している動植物や自然物、機械や文明的な生産物に限らず、あらゆる事物に対して内在させて効果を得ることができる概念的な組成物。魔力、霊力、妖力等の媒介に関わらず、そこに何かしらの力が流れれば発動する水路や回路のようなもの。効果は多岐に渡り、研究次第では複雑なものや特殊性を先鋭化させたものも発明できる。

Chap.2


2. 魔界

<魔界>1年前、霊夢14歳

 

1、人身売買、霊夢と少女、司会と客、魅魔

 

魔都パンデモニウム

 

オークション会場

 

女「へへへ、ようやく起きたね。あんた年は?」

霊「14…ってあんた誰よ」

女「あんたと同じ鎖に繋がれてこれからオークションで売られる奴隷だよ。見たところあたしよりはあんたは上玉みたいだ。せいぜい良いご主人様に買われろよ?ヒューマノイド型の人身売買にたかる妖怪どもには碌な連中がいないとは聞いているけど」

霊「あんた、元々は外の世界の人間ね、言葉でわかるわ」

女「…それがわかったところで何になる。神隠しにあってもう何年経ったかも忘れたよ。気が付いたら魔界での奴隷生活さ。不幸な人生とはまさにあたしのことだね」

霊「…そうやってうだうだ言っているから良いことが無いのよ」

女「じゃああんたは相当な幸せ者なんだな」

霊「あんたは鎖に繋がれている。私は自分で鎖を断ち切れる、確かに私は幸せね」

 

ジャラン(鎖)ガチン!(鎖を絶つ音)

 

女「なっ、あんたいったい!?」

霊「妖怪の悪行を知るには、悪行の流れに染まればいいのよ」

 

司会「さあさあお次の商品は本日の目玉、人間と魚人のクォーター、世にも奇妙な奇形児は見世物として応接間のお客様方の笑いを誘うことは間違いありません!…ってなんだお前、うわっ!」

霊「あんたらに告ぐ、今すぐ逃げた方が良いわ。さもないと、最近噂のオークション狩りに狩られるわよ?」

客1「なっ、オークション狩りだって!?」

客2「パンデモニウムで噂になっている義賊か!?不味いぞ逃げろ!」

司会「なんてこった、おしまいだあ、警察に捕まったら一生刑務所暮らしだ…」

霊「あんたもこんなところで司会者なんてやってないで、まともな仕事を探しなさい。今日の経歴をしっかりと洗っとくのよ?わかった?」

司会「はっ、はいいいい!」

 

ドンガラガッシャン!(オークション会場破壊)

 

女「お、おい!ありがとな!この恩は必ず返すよ!」

霊「早く消えた方がいいわよ。魔界の街は物騒だから」

女「あんた、良い奴だな。じゃあな!」

霊「…ふぅ、これでようやくのご対面ってわけ?復讐心の悪霊と」

魅「私を突き動かす原動力、世界を変えるのも、復讐心だ。こうして暴れ回る中で君は自分を鍛えた。魔理沙、あの子は君のことを大層心配していた。私は1年前に不慮の事故で離ればなれになってしまった弟子の友人から発せられるSOSだと受け取り、こうして現れた。」

霊「迷子も度が過ぎれば良い薬になったわ。闇が渦巻く魔界の放浪旅も、好奇心旺盛なお年頃には悪くはない体験だったし」

魅「魔界での1年間、君は何を見た?」

霊「3つの暴力よ、純粋な暴力、経済の暴力、言葉の暴力」

魅「いずれも雌雄を決し合う勝負には違いあるまい。ゲームには勝者と敗者がいる。ここは掟に従順な場所なんだ」

霊「1つ許せないのは、ゲームのシステムを操って有利なように維持してしまう連中よ」

魅「その感情もまた逆襲の火種となろう。…この種を栽培している村を探せ。広大な魔界でもたった1か所に存在する。種と村が、いずれ君と私を惹きあわせる」

霊「あんた、名前は?」

魅「奴隷解放の英雄よ、私の名前など仮の姿だ、これは記号のようなものだと思ってもらいたい。魅魔という名前に誇りも気高さも感じたことは無い。ただ、私はそう呼ばれている」

霊「魅魔、私は、理想郷を救える?」

魅「私は幽霊だ。幽霊の想う理想と、君の想う理想が同じかどうか、……目標をお互いに授け合うのは、まずは君が辿りついてから、構うまい?」

 

2、魔界縦断鉄道、霊夢と婆

 

ガタンゴトン、ガタンゴトン(列車)

 

婆「この魔界横断鉄道はねえ、あたしの婆さんの婆さんの、そのまた婆さんが生まれるよりもずっと前から作られ続けて、あたしの玄孫が死んでもずーっと作られ続けるんだよ」

霊「この辺りの景色は平和ね」

婆「牧場なんて昔は無かったさ。南の平和になった地方都市からは上の世界へ行ける縦断鉄道も出ているって話だよ」

霊「インフラが充実していることは良いことよ」

婆「魔界経済も単純じゃあないのさ。魔力発電所事故が起きてからは天界と是非曲庁の介入が引っ切り無しで、戦争に発展するんじゃないかと皆が肝を冷やしたさ」

霊「理想郷も魔界も似たもの同士ね。…お婆さん、北の大瀑布、重力駅行きはこの列車はで正解なのかしら?」

婆「間違っていても教えはせんよ。なんたってあたしゃその前の血まみれ駅で降りるからねえ、かははは」

 

3、霊魔殿、魅魔と霊夢と魔理沙

 

ザア…ザア…(北極海みたいな海の波音)

 

霊魔殿

 

霊「重力村で船を借りてから大体1時間は漕いだかしら…ここが魅魔の根城」

 

 

ギイ…(開門音)

 

ロビー

 

霊「入ったけど、人の気配はない…?」

魅「悪霊の気配とはどんなものなのだろうな?」

霊「後ろから脅かすとはまるでお化けね」

魅「まあ、お化けだからな」

霊「それじゃあ、お化けさん、魔界の果てまでこうしてやってきたわよ?…あなたがあの時、私に渡した種、重力村という寂れた漁村がある海岸沿いでしか見られない希少な植物、火花と呼ばれる花の種が、確かにあなたと私を惹きあわせたわね」

魅「火花の種は私の根城の光源でね、取扱いには注意が要るが、燃えだせば10年は燃え続ける優れものだ。これも大瀑布のすぐそばのこの地域特有の環境のおかげでもある」

霊「じゃあ、火花の花が咲いたら?」

魅「私も是非見てみたい。…さて幽霊と人間、私と君、二人の絆は復讐心だ。私は世界へ、君は理想郷へ、お互いに何かへ報復したい、返り討ちにしたいと願ってばかりいる。…願うことは容易い。だが願いにばかり時間をかけすぎるのは愚かだ。私は行動する。君も行動する。君はじゃじゃ馬だが、その熱量は認めよう」

霊「風邪を引けば熱は出るわ。私の熱はその程度のもの?」

魅「凍てつく炎のような、長くたゆまぬ強い熱を目指せ。強情になれ。君自身の復讐のためにもな。…魔界の時間の流れ方は、理想郷と5倍違う。魔界で1日を過ごしても外の世界では5日経過している。5年いれば25年後にタイムスリップだ。魔界の入り口の時間操作術式、妖怪の賢者の名は正しいようだ」

霊「そうね。じゃないと体が千切れてしまうわね」

魅「強靭な肉体が必要だ。と言っても私は幽霊、君は少女、筋肉勝負ではいささか分が悪い」

霊「最強の妖怪を倒せる?」

魅「鎖を断ち切る術式が作れるなら、ダイヤモンドを切断する術式を教えよう。巷の噂だけで敵を退けられるなら、幻影で敵を討つ方法を教えよう」

霊「本当に、できるの?」

魅「体術、剣術、魔術…。まずは君の天才ぶりを見せてもらおうか」

 

廊下

 

魔「魅魔様のところに霊夢が辿りついているとは…意外だったぜ」

霊「開口一番それかしら?魔界って良い所ね、魔理沙?」

魅「おかえり魔理沙、どうだ?兄弟子になった気分は?」

魔「ただいま魅魔様、正直、こんな弟弟子願い下げだぜ、っていててて」

魅「霊夢、その辺で魔理沙を許してやれ。今日は君たちに見せたいものがある」

霊「見せたい?」

 

第一訓練場

 

魔「魅魔様の訓練術式装置?」

魅「そうだ。基本3術を全て応用することに長けた仕掛けが施されてある」

霊「体術、剣術…」

魔「そして魔術だぜ。霊夢、飛べないお前の代わりにあたしは箒で飛んでいてやるよ」

霊「相変わらずむかつく親友ね。でもそれが魔理沙ね」

魔「適当なことしか言わないのがお前だもんな、霊夢」

魅「口ではなく、手を動かせ!」

 

寝室

 

霊「火花調合の調子はどう?魔理沙」

魔「ニトログリセリン無しで一からダイナマイト作るみたいなもんだ。骨が折れる」

霊「八卦炉の炎も火花が原料?」

魔「違う、魔鉱石だ。と言っても使い込まれてもはや魔力の塊みたいなもんだけどな。山火事も煙草のライターも料理のための火も起こせるが、この花とは別種だよ」

霊「便利ね」

魔「そう言うお前こそ、訓練終わった後の夜は何かと机に向かっているが、それって何の研究だ?」

霊「同室のあんたの快眠を煩わせてしまっていたのならごめん。あれは魅魔の装置術式解読のため」

魔「何のために解読するんだ?」

霊「あの訓練は面白いわ。飛んでくる弾を3術のどれでもいいから駆使して応用して回避すれば良し、当たらなければ勝ち、単純なルールなのに遊び方は無限なんだもの。分かりやすい上にハマりやすい」

魔「何が言いたいんだ?霊夢」

霊「いい?魔理沙。最強の妖怪には、最強のゲームをぶつければ良いってこと」

魔「つまり、妖怪同士の暴力争いじゃなくて、霊夢が決めた遊びのルールの中で戦うように仕向けると?風見幽香に?」

霊「半分正解ね。風見幽香だけじゃない。理想郷全土に広めるの。この術式がその原型になるの」

魔「盗作だな。だが算段が有る下策より、算段なしの上策の方が何倍も怖いぜ。下策は咎められなきゃ、いや、咎められてもやったもん勝ちだからな」

 

4、最終試練、霊夢・魔理沙と魅魔

 

第一訓練場

 

魅「霊夢、君は半年間我が根城で厳しい鍛錬を修めた。そして魔理沙、天界と月の裏まで放蕩旅行とその前後の鍛練、ご苦労だった」

魔「魅魔様、放蕩ではなく偵察です」

魅「冗談だ。魔理沙、霊夢、君たちには最終試験を行ってもらう」

霊「最終試験?」

魅「体術、剣術、魔術…そのすべてを極めたかどうか、私が直々に相手をし、見定める」

霊「なるほどね?順番は?」

魅「二人同時。いや、三者同時か?」

霊「三者?」

魔「まさか…」

魅1「剣術ならば、私にかかってこい」

魅2「魔術ならば、私が相手をしよう」

魅3「最後に、体術ならば、他の二人の私を倒してから、かかってこい」

 

第二訓練場(以下、魅1と霊の会話時も同様)

 

魅1「私は魔術も体術も捨て、剣術に特化した魅魔だ。だが甘く見るなよ。他の選択肢を失ったとき、封殺されたエネルギーが精神をより強度に、より緻密に、より活性化させるのだ」

霊「普段の魅魔よりお喋りになってないかしら?」

魅1「会話は三度の飯と同じだ。霊夢、相手に喋らせることは、手料理をふるまうことと変わらないぞ?」

霊「魅魔、あなたを全員倒した後のご馳走が待ち遠しいわね!」

 

ガキン!(激突音)

 

第三訓練場(以下、魅2と魔の会話時も同様)

 

魅2「魔術…、時限式で炸裂するトラップ…、速効性の治癒魔法…、術式と呼ばれる肉眼では目視不可能な細工によって成立…。細工と言うよりも芸術…」

魔「いつもの魅魔様より寡黙だな」

魅2「寡黙は努力の証…、魔理沙…、言語化困難な暗黙知こそ、偉業を成し遂げる原動力…」

魔「まずは魅魔様、あなたを倒すまであたしは黙らない!」

 

ボガン!(爆裂音)

 

魅1「霊夢、お前のそれは剣術とは名ばかりで手にしているのは3尺3寸ばかりの棒だ。棒術と科目を履き違えたか?」

霊「あら魅魔、これが巫女の武器、紙垂は垂らしてないけど立派な玉串よ」

魅1「霊力を込めて強度だけ鋼鉄化しているか、応用を利かせれば攻撃の重さをオスミウムに、実際の軽さを木製にできる。面白い」

霊「無駄口が多いわよ!剣術の魅魔!」

 

魅2「五芒星…、図形関連付け式起動の個性…、想起のスピードが優先されたか?…、それとも星座大魔法への実質的な解凍か?…」

魔「星はあたしのシンボルだ。ハートを撃ちぬく恋心もな」

魅2「想起の可能性大…、大魔法への警戒の必要性小…」

魔「魔術オタクが出すぎだぜ?お師匠様?」

 

魅1「私の剣に、その闘志もまとめてへし折られろ!」

霊「そう簡単に折れはしない!」

魅1「ぐふっ、敵の戯言に聞く耳を持ち、早々に応用を利かせるその姿勢、良いだろう。合格だ」

霊「ゴム質のお祓い棒なら、折れもしないし鞭みたいにしなるって考えただけよ」

 

魅2「魔力因子凝固結界展開…、エネルギー負荷により、魔理沙…、君の魔力を凍結する…」

魔「魔力炉トリップと同じ原理だな、だが断るぜ!」

魅2「あぐっ…、まさか…、まさか大魔法だったか…、ここに魔術の魅魔は倒された」

魔「泥臭くやるしかなかったぜ、星の粉も安くないってのに。爆発はパワーだぜ」

 

廊下

 

霊「あら、魔理沙ずいぶんと遅かったじゃない」

魔「霊夢こそ魅魔様に手を抜いてもらって良かったんじゃないか?」

霊「剣術は速さの勝負、魔術は強かさの勝負、比べるものじゃないわ」

魔「適当なこと言いやがって。…さて、次でラストか」

 

第一訓練場

 

霊「誰もいない…?」

魔「いや、見えないだけだ」

魅3「私の可愛い可愛い子供たち、私のことをいったいどう思っているのかな?」

霊「なんだか面倒くさい魅魔ねえ」

魅3「うふふ、悪態も虚言もみーんな私の子供たち。愛しているわ」

魔「愛でられるのは慣れていないもんでな。最終試験、突破してみせるぜ」

魅3「慈愛に満ちた母親だと思いなさあい?そして鬼のような師匠に尽くすのよお?」

霊「それが本音なら、愛想も尽きるわよ!」

 

ガキン!(激突音)ボガン!(爆裂音)

 

魅3「あははは!ほらほら、二対一なんだからもっと大きく出ないとダメよ!」

魔「くっ…、霊夢!ダメそうか!?」

霊「ぐふっ…、あと30秒よ魔理沙!」

魅3「何を企んでいるのかしら?それに霊夢、あなたは戦闘不能になったはずじゃないの?」

霊「復讐心の原動力…、それを教えてくれたのはあなたよ、魅魔」

魅3「ふふ、師弟関係のミソというものだ。そろそろ先に倒された私の半身たちが合流してきた」

魔「心なしか口調が元の魅魔様だ。段違いに体術強化されているけどな…!」

魅3「次は魔理沙、お前だ。手は抜かない」

魔「…!、…やばっ!」

霊「魔理沙!上に飛んで!」

魔「わっ、分かった!」

魅3「これがお前の謀りか?霊夢」

霊「霊力を脚に込めれば壁を走ることはできるのよ」

魅3「それでどうなる?撹乱か?」

霊「飛べない私が幽霊を倒すには、魔法使いの力を借りるしかないのよ!」

魔「術式回路と霊夢の血液循環、霊夢を魔法陣に見立てれば…?」

魅3「結界が張られ身体コーティングに応用、か!?」

霊「私を誤認しなさい!魔術!」

魔「全身に剣を纏え!仮定霊装!」

魅3「ふっ、師匠からの熱い返礼だ!受け取れ!」

霊「行け!魔理沙!」

魔「応!霊夢!」

魅3「子供らに負けるわけにはいかん!うおおお…」

 

ドドォン…!(爆炎と煙)

 

霊「はぁ、はぁ、…どうなったの?」

魔「霊夢!無事か!?」

霊「魔理沙、あんたこそ怪我は!?」

魔「全身鎧みたいに硬くなっていたんだ。大丈夫だ」

霊「良かった…!」

魔「うわっ、いきなり抱きつくなっての…」

魅「子供の巣立ちを見送る親の気分が分かったよ。霊夢、魔理沙、君らは私を倒し、最終試験を制覇した。これで二人とも一人前だ。…さて、ここまで全て始まりに過ぎない」

霊「分かっているわ、魅魔…。博麗の巫女の復讐はここから始まるのね」

魔「あたしも好きに生きるために魅魔様に仕えていたけど、少し寂しいな」

魅「復讐にしろ好きに生きるにしろ、そこには私と言う亡霊も付き纏う。死人の口が今から君らに道を示そう」

 

5、試練後、魅魔と霊夢、魔理沙、脱出

 

魅「霊夢、君が理想郷に帰還し、博麗の巫女としての座に舞い戻った暁には、絶対的な統制を敷き、妖怪どもを滅亡させるべきだ」

霊「魅魔、あなたの考えも分かる。対立が悲劇を生むなら、構造をなくしてしまえばいい。だけど、それはダメなのよ」

魅「どうしてだ?君は強くなり力を得た。それを使わずにどうする?人間の敵を一掃せずに怠ける気か?」

霊「妖怪は人間の敵じゃない。…母さんからの教えよ。妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を狩る。それが理想郷のルール。博麗の巫女が守るべき鉄則」

魅「その母親は理想郷に殺された。妖怪と人間、その両方から追い立てられ死に追いやられたのだ。分かっているだろう?」

霊「ええ、だからこそよ。母さんを殺した理想郷の過去、それを打ち砕くことが、私の復讐なのよ」

魅「何もかも壊せばいいだろう。変わってしまった後の理想郷の復興のシンボルに、君がなるのだ」

霊「復興させるのは私じゃない。普通の生活を送っている者たちよ。体制崩壊の後の混乱でまた犠牲者が出る」

魅「戦争は回避できない、滅亡しない文明は存在しないのだ、霊夢。アレキサンダー大王もチンギスハンも、名君が居なくなった後の王国は必ず分裂する」

霊「私は今の理想郷を一つにするシンボルになる。あなたの申し出は断るわ。魅魔、恩もここまでよ」

魅「そうか、残念だ。…魔理沙、お前はどちらに付く?」

魔「魅魔様はお師匠だ。霊夢は友達だ。…友達を裏切ることはできない」

魅「私の教えを守る弟子のことは、嫌いじゃないよ」

霊「で、どうするの?黙って見逃してくれるとも思えないわ」

魅「そうだな。弟子の二人の船出だ。…殺す気でかかろう」

魔「魅魔様、あたしは霊夢とあなたが敵対するこの未来を予見した。あなたは予測していなかった。それだけだよ」

霊「魔理沙!」

魅「まさか、霊魔殿ごとか!」

魔「あたしが何のために火花の種を調合していたと思っている?!」

魅「技は盗むだけでは足りないぞ!魔理沙!」

魔「分かっているぜ。だからこれがあたしの魔法!星の魔法だ!」

魅「二人の弟子の叛逆!これほど覚醒することもない!」

魔「霊夢!掴まれ!」

霊「うん!」

魅「トワイライトスパーク!」

魔「スターダスト・レヴァリエ!」

 

(マスパ音)

 

魔「霊夢!」

霊「なに?!」

魔「この信管が起爆術式だ。お前のタイミングで投げ入れろ」

霊「でも魅魔が……」

魔「いいんだ。魅魔様はそう簡単に死にはしない」

霊「……わかったわ、やっていいのね?」

魔「ああ、頼む」

 

ガラガラ…(瓦礫)

 

魅「げほげほ、さては幽霊払いもまとめてばら撒いたか」

霊「魅魔。今ならやり直せるわ。お願い、あなたにも私の復讐を手伝ってほしいの」

魔「霊夢……」

魅「ははは、霊夢、君の復讐はいつか終りが来るだろう。君の復讐心が満足され原動力を失う日が」

霊「まだそんなことを……。世界を変えるのも復讐心だったわね?あなたの変えたい世界は一体何だったの?」

魅「そんなことを言えるわけがない。最愛の弟子の前で」

霊「魅魔、あなたと私の理想は違ったわね。でも私はまだあなたに恩を感じている。だからこそ、プレゼントよ」

魔「霊夢!しっかり掴まれ!ブレイジングスター!」

霊「魅魔っ!」

 

魅「試練に備えろ、霊夢」

 

ドドドガガガアアアンンンン!!!(霊魔殿爆破)

 

魔「爆発するぞ!ぐっ……!」

霊「うわっ……!」

魔「……っ!ヤバい!爆風が半端ねえ!」

霊「……っはぁっ!魔理沙!あんたが落ちてどうすんのよ!?」

魔「落ちてないから安心しな。……予想以上の爆発だったな」

霊「ええ、これが火花の力……」

魔「あたしの調合力でもあるんだぜ?前々からもしものために建物のあちこちに仕掛けておいたんだがな。といっても目的は敵襲対策だったが。まさか……魅魔様を……」

霊「幽霊はもう死んでいるから二度も死なない。封印されるか浄化されるか。消えはしない」

魔「ああ、そうだな。……ああ、そうだ」

霊「重力村まで飛びましょう。ようやく帰る時が来たのよ。私たちの故郷へ」

魔「人間と妖怪が共に暮らす楽園、か」

 

6、魔界飛行船、霊夢と魔理沙

 

魔「見てみろよ、霊夢。この魔界飛行船からの景色……」

霊「一面燃えているようね。とんでもなく広大な山火事かしら?」

魔「違うぜ。辺り一面戦場なんだ。難民が溢れてキャンプを作りそこが襲われ火事になる。兵器がどんどん使われてたくさんの命が失われていく。……そんな地獄の上をあたしたちはたった今、通過しているのさ」

霊「戦争……」

魔「魔界には幾億幾兆の人口がいる。死者は増えてもそれ以上に生まれてくる」

霊「理想郷も、下手したらこうなって……」

魔「だがな、あたしは眼下の犠牲者を助けようとは思わない。お前もそうだろ霊夢。あたしたちが救いたいのは理想郷であって魔界じゃない」

霊「……もしも母さんが魔界も救うって言い残していたら、違ったかもね」

魔「あはは、他力本願な霊夢らしいぜ……なあ、帰ったらどうする?」

霊「博麗の巫女と言うシンボルを最大限に活かす。下を向いている理想郷の人々を上に向かせるような、そんな巫女に成りたい」

魔「理想郷は今、病んでいる。確かに、霊夢1人じゃうまく立ち回れるか不安だな」

霊「何よ。じゃあ、あんたが巫女をやる?」

魔「ははは、冗談。……そうだな、今ではすっかり異変の解決屋もいない理想郷だ。そこから始める博麗の巫女と協力者諸君の現状打破を目指す諸活動……人呼んで『博麗異変』だ」

霊「『博麗異変』……もはや私たちが異変の元凶ってこと?」

魔「そうだ、故郷へ復讐する悪魔染みた巫女の凶行。お似合いだろ?」

霊「異変と異変はぶつかるわ。……風見異変と真っ向からね」

魔「あたしの隠れ家も静かでいい所だ。神社と一緒に使おうぜ。場所は魔法の森、実験材料やら魔導書で散らかっているが、湿気対策はばっちりだ」

霊「その箒で適当に片づけているの?じゃあ神社の掃除もお願いしたいわね」

魔「お前の頭のホコリも払ってやろうか?霧雨異変に改名だな」

 

 

<郷・前篇>現在、風見歴5年、霊夢15歳

 

 

1、城地下、風見幽香と稗田阿求

 

夢幻城

 

最深部

 

阿「一刻も早く私を解放しなさい、風見幽香」

幽「さすがは強気な姿勢、死んでも転生するからそんなに虚勢を張れるのかしら?」

阿「……どうして、心優しい大妖怪であるはずのあなたが、理想郷に圧政を敷いて人々を恐怖させ牛耳っているのですか」

幽「……事情が変わったのよ。穏健でいられなくなっただけ。そんなことより地上はもう三年も冬のまま、夏の花はこの地下の温室で育てるしかない。紫陽花もその一つ」

阿「花は愛で、郷は滅ぼすのですか」

幽「あははは!滅ぼす?バカおっしゃいな。ここはさらなる支配の足掛かりになるだけよ」

阿「足がかり?」

幽「そう。その核を成すのはあなたの転生術式。是非曲庁まで持ち込める複雑な術式なんてあなたの脳を縛っているその術式くらいよね」

阿「まさか……!」

幽「もう今更隠す必要もないから言うわ。稗田の術式を使った破壊術式テロ計画。内側からあのムカつく閻魔どもを葬ってやるのよ」

阿「ひっ……」

幽「“なんて恐ろしいことを!”……って思っているんでしょう?そうよ。今からあんたの頭の中から大事な術式を切除して……取り出してあげるわ」

阿「さっ、させるわけにはいかない!」

幽「紫陽花の花言葉、知っている?見聞した情報を忘れない程度の能力さん?」

阿「風見幽香……あなたは……」

幽「“陰惨で冷酷”。さあ、素敵な拷問を始めましょう?」

阿「うぐっ……づぁ……きゃああああ!!!」

 

2、 博麗神社、八雲紫、霊夢と魔理沙、三月精

 

 

鳥居前

 

紫「あなたたちが理想郷を離れている間にここは大きく変わった。今は風見歴五年。魔界とは時流の速さが異なるから当然よね。あなたたちの体感では二年程度でしょうに」

霊「……で?あんたは誰よ?そこを通してくれないかしら、実家なの」

魔「風見幽香が自分の暦を使い始めたことは理解した。あまり、芳しくないな」

紫「博麗の巫女の愛娘、名前は霊夢と言ったかしら?私は過去12代に渡り理想郷の巫女を支えている者、“賢者”八雲紫と申します。賢者と名乗れば改めて言う必要もないわね?」

魔「理想郷と外の世界を隔てた張本人だな」

霊「博麗家と八雲家は代々理想郷の管理人……母さんはそう言っていたわ。八雲紫、あんたが現れた理由は何なの?」

紫「長い冬眠から目覚めたのよ。夢半ば凶弾に臥したあの娘の目指した理想郷に、私も賛成だった。戦争の余波で私が寝ている間に、あの子の夢は実を結んだのかしら」

魔「三珠姉さんのやったことは無駄じゃないさ、今はまだ日の目を浴びていないだけだ」

紫「種が成長するときには必ず大地に根を張る必要がある」

霊「博麗は枯れて種だけ残った。あんたは私にとっての日の光?」

紫「さあね。でもそこのお友達は差し詰め、雨ね」

魔「霧雨だぜ。それと魔理沙だ」

霊「どっちにしろ、私はまだ正式に巫女として認められていないことは分かっている。このオンボロ神社に住まうことも、妖怪退治もさせてはもらえないってね。何が必要?修行?」

紫「八百万の神降ろしや、封印術式の会得は鍛練が必要になるかもしれないわね。そこはもはやあなたの才能に寄るところ」

魔「霊夢が誰かにしごかれるんじゃなくて自分から修行する……?想像できない」

霊「うるさい、あんたと違って努力も座学も報われるとは思っていないだけ。事前の準備を積んだって……その場の洞察と判断が全てなんだから」

サニー「だったら私たちのことは見抜けたかい!」

 

境内

 

シュバッ!

 

魔「うおっ!?なんだ!!」

ルナ「甘い甘い!!こっちだ!」

紫「ほら、お客様よ私にあなたたちの実力を見せて」

スター「お客はどっちよ!!」

霊「音声で位置は分かるけど、姿は見えないわね」

サニー「!?ルナ!?あんた音声遮断使うの忘れているじゃない!!」

ルナ「へ?って、わあ!?サニーこそ私たちからも見えなくなっているよ!!」

スター「サニー!ルナ!あなたたち一体何しているの!!私の指示通りに……キャッ!」

魔「うるさい蠅も鳴いているカラスもよく撃ち落としているぜ」

サニー「よくも私たちのレーダー係を!」

霊「あんたは光学迷彩?景色にうまく溶け込んでいるのね」

ルナ「サニー、見抜かれているのは私たちだ!」

霊「霊符!」

サニー「え?お札?」

ルナ「わっ、丸見えだ」

霊「姿を消す能力とはやるわね。それで音を消すのと、敵を探知できるのはどっち?」

ルナ「……わ、私が音波を掻き消して気配を消せます……さっきは失敗したけど」

魔「イヤホンの接続し忘れだ」

スター「手札は最後まで伏せるものだけど、この際無視ね。私は熱源を感知すれば誰がどこにいるのかなんて分かる。ほら、正直に答えたわよ」

魔「サーモグラフィか」

スター「ふんっ、三人揃えばバレない安置から一方的に攻撃できる、はずだったのよ」

ルナ「ご、ごめん……」

霊「妖精らしいわね。私たちには何の用?」

サニー「不法侵入の取締り。私たちの家の前でこそこそ何か話していたから怪しまない訳がない」

霊「理想郷に法律は無いわ。あるのは人間と妖怪の関係と……」

紫「博麗の巫女の役割だけ、ね」

 

縁側

 

紫「あなたたちどうやら神社に住んでいたみたいだけれど、この新聞は誰が読んでいるの?」

魔「八雲紫、お前はそれをどこから出した?」

紫「妖精でさえ正直者なら私も。世界を隔てる力は小回りも利きます。瞬間移動ができる空間の裂け目をどこにでも作れる」

魔「案の定、最強かよ。スキマ妖怪」

ルナ「あ、あの、新聞を読んでいたのは私です……趣味で」

霊「ハシブト新聞社?」

魔「妖怪の山、文屋として働く鴉天狗の合同新聞、その最大手だな」

紫「風見寄りの記事を書いて成長した企業、安定志向の保守主義集団、偏向報道もお手の物」

魔「天狗らしいが、気が合わなそうだ」

サニー「おいおい、立ち話の続きかい。ここは私たちの家だ」

霊「この家が好きなのね、私も。あなたたちの新居探しができるほど平和な理想郷に変えるまで、必要なものだけ持って魔理沙の家に泊まるから。いいでしょ?」

魔「昔を思い出すな。パジャマパーティだ」

スター「つまり住んでいても良いってことですか……?」

霊「その通り」

サニー「前の家は風見配下の妖怪どもに燃やされたんだ。本当に理想郷に平和が来る?」

霊「理想郷は変われる。みんながそう望めるようにする」

紫「理想郷も大きな群れ。風見くらいの力があれば集団の共通認識にもなるけれど、まずは世間をあっと言わせないと、体制を覆すことなんてできないわ。昨今紙面を騒がしているのはこれだけれど」

ルナ「玄武の沢の乱暴な巨人の記事ですね、人間の里と妖怪の山を繋ぐ山道で牛車や馬車が襲われて略奪被害が出ていて、天狗が取材した霧雨店の問答も載っていますよ」

魔「ゲッ、霧雨店」

紫「博麗霊夢、私の力が張っている結界ともう一つ存在する大規模術式、博麗大結界の使用権限。それを賭けてあなたに試練を与えます。玄武の沢の巨人を退治しなさい。私は妖怪の賢者として、あなたが理想郷を治めるに相応しいかどうか、判断する義務があります」

霊「妖怪が妖怪を退治しろ言うとは酷ね……巨人成敗は霖之助さんの所に行ってからにする。ところであんた、この新聞の切り貼り手帳、借りても大丈夫?」

ルナ「うん、別に良いよ」

魔「何年か前の天狗の記事か、文々。新聞?“人間の里で妖怪との友好記念植樹祭”」

 

3、霧雨魔法店、霊夢と魔理沙

 

寝室

 

魔「久しぶりの我が家は落ち着くな。しかし暖炉はあってもくべる薪がねえ。また集めないとな。八卦炉で暖を取らなきゃ寒さで凍えそうだ。で、そっちはどうだ?霊夢」

霊「――この写真は植樹祭で共に苗木を植える人間の少女と山の警察の白狼天狗とのツーショットだ。会場警備に当たっている者の職務怠慢にも見えるが、平和の象徴でもある。……5年前に休刊になって以来発行されていない、死んでいるかも」

魔「言論統制、山にも秘密警察はあるのか?」

霊「……射命丸文」

魔「風見幽香は狡猾な支配を行っている。恐怖政治だ。独裁と弾圧によって疑心暗鬼と堕落を誘発している」

霊「都合の悪い奴は反逆者扱いね」

魔「霊夢、お前が魅魔様から拝借した訓練装置の術式、この森のもっと奥に住んでいる業者に頼もうと思う」

霊「業者?術式専門の?」

魔「あたしたちからレシピと素材を受け取って調理するコック、その手のプロだ。仕事も早いし正確。魔法使い的には先輩にあたる奴」

霊「信用できる?」

魔「お前と同じくらいには。似た者同士だし」

霊「どういう意味よ」

魔「頑固者ってことだ。交渉役はあたしがやる」

霊「助かるわ、魔理沙。紫の式神は何の動物かしら」

魔「弁財天の蛇か、毘沙門天の虎かな?正確には式の式、おそらくはあたしらの監視役」

霊「神社なら狛犬ね。ところで寝室まで足の踏み場を失くすガラクタはどこから?」

魔「ああ、風見が勝手に作った森の端のゴミ集積所だ。宝探しにちょうどいいがな」

霊「この、枕元に錆びた剣を置かないでもらえる?鉄臭いの」

魔「少なくとも鉄じゃないが、こーりんに鑑定してもらうつもりだ」

 




※魔界……「作家が物語を綴る時、何枚もの原稿用紙を投げ捨てては本筋の物語を進めるように、本来の世界を神が作り出す過程において、神が用途はともあれ捨てていった無駄な世界が幾重にも積み重なり出来上がった乱雑で広大で不確かな世界」と言われている。理想郷や外の世界とは比較にならないほどの知覚生命体が存在しており、国もあれば都市もあり、人もいれば人ならざる者も多種多様に存在している。幾つもの惑星が物理法則の無視から地続きで繋がってしまった宇宙と捉えても良い。
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