Chap.5
<異変、当日>
1、霧雨魔法店、霊夢と霖之助と阿求
『霊「母さん?どうしたの?綺麗な巫女服が…真っ赤になってるよ」
三「霊夢…これはね…母さんの命の炎の色、赤く燃え上がる勇気の色よ…霊夢も好きでしょ?」
霊「うん、母さんの服、真っ赤な色だけど、暖かいから、好き」
三「でも霊夢、あなたがこの血の色に染まってはいけない、誰の血も見ないと、最後に見るのは母さんの血だと、約束して」』
寝室
霊「……母さん……」
霖「おはよう、霊夢」
霊「……霖之助さん、私たちはどうやって城から逃げたの?」
霖「八雲紫のスキマ術式だよ。あれは万能の能力だ。あらゆる境界を操る力か……瞬間移動とは驚きだよ」
霊「私は……どのくらい眠っていたの?」
霖「とても長かった、5日だよ……これまでの疲れもどっと出たんだろう、火鼠の皮衣が爆熱を相殺したんだ。だけど爆風で吹き飛ばされたダメージは君に残っていたようだ。こいつを巫女服の素材に選んで良かったよ」
霊「なんだか苦い味を覚えているわ」
霖「魔理沙の猪苓湯だろうね。漢方の一種で茯苓、沢瀉などが利尿作用と水分循環を進めてくれて、阿膠には止血作用があるんだ。それと……」
阿「滑石には熱や炎症を鎮める働きがあります。初めまして、稗田阿求です」
霊「9代目の阿礼ね。ありがとう、霖之助さんの薀蓄を止めてくれて」
阿「私よりも古事記に詳しくて驚きましたよ。編纂を面倒がることも知られていました」
霖「それは褒め言葉かな、太安万侶もお人よしだ。今お茶を淹れて来るよ」
居間
阿「……風見幽香の根城、夢幻館は周囲に1000もの傘下妖怪を配置し一触即発な状態で沈黙、人間の里と魔法の森、妖怪の山に射命丸さんの新聞が配られ、博麗決闘法が妖精たちの間で流行となり面白い命名が確認されています」
霊「『巫女の帰還と新決闘法』……ね」
霖「とにかくイワト作戦は失敗ではないさ。みんな最善は尽くした。君の存在を知らしめて、羽根突きと花札を合わせた遊びは宣伝できたんだからな」
霊「福笑いも混ぜる?それに御の字にはまだ早い……『弾幕ごっこ』に『スペルカード』?」
阿「それです。既に人里にも伝播していますが、妖精スラングですね。『スペル』には呪文や魔力の意味もありますが、私はこう読み取ります。魅力のカード、と」
霊「魅力、か。初陣にしては上出来ね」
霖「そして今夜が冬の陣になりそうだ。新年へと日付が変わる今日の夜、10時間以内に異変が起きる可能性が高い」
霊「魔理沙の報告の年越し虫ね。穏やかな大晦日にはならないか」
阿「この5日間、異変倶楽部も不眠不休で異変の兆しを模索しましたが、ただ虫をばら撒くだけでは大したことにもならないと判断するしかありませんでした」
霊「目的は虫のばら撒きじゃない……栄養と水分のある土に種を植えたら、次に必要なのは何?」
霖「環境の条件だな。植える種にもよるが日照時間や気温、何より季節に左右される重要な要素だ。土壌と同じくらいに前提条件として不可欠。その巨大な保護の下でのみ、種は芽を出し成育を始めることができる」
阿「発芽後に土の中の養分のみに頼らず自力で茎の伸ばし葉を作り、蕾を形成することができれば完璧です。あとは時期を見計らって花を開かせ、昆虫たちによっておしべとめしべが受粉する。そして実がなり果肉の中で種も次の世代のために備える」
霊「また種に戻るって訳…・…つまり虫たちの存在は植物の花粉が発生した時に初めて役に立つものだということ。だとしたら、本当の目的は……」
阿「霊夢さん……?」
霖「阿求さん、よく当たると評判の巫女の勘だ」
霊「……ただ一つ動機だけが分からないけれど、異変のカラクリは解けた。だけど最悪の予想がもう一つだけ……霖之助さん、魔理沙はどこ?」
霖「人里だよ、今日は雪も止んでいるし監視と調査に出かけているね。それと霊夢、河童に依頼していた隠し玉がこの五日間で完成した。実地試験がてら持っていくといい」
霊「ありがとう、霖之助さん。……これは?」
霖「1つは説明書、もう一つは八雲紫の書置き……その術式自体、認識阻害か感覚遮断の効力を持っているみたいなんだが、僕の力でも特定が難しい代物だった。まったく、謎を残す妖怪だよ」
2、人間の里、慧音と魔理沙、魔界の商人
龍神像前
人1「大変だ。龍神像の目が赤い。雨の日なら青、野分が来ると紫、異変が起きる日は赤色だ。いざって時は霊廟まで逃げ込もうぜ。あそこなら安全だ」
人2「何日か前の城の騒動と関係あるのかな。ほら、天狗の記事になっている。何々?『新聞の付録の花札をお使いください。巫女発案の決闘法の術式鍵が内蔵されております』?」
人1「鴉の書いた覚え書きなんか捨てておけ。どうせ根も葉もない噂かデタラメだ。真実ってのは城が厳戒態勢で、妖怪の山が閉山しているってことだ」
人2「どこの誰かが書いたかも分からない言葉を信じてみるのも悪くないよ。ちょうどいい暇つぶしだよ。花札遊びが妖精の悪戯件数減少に貢献しているらしいし」
人1「奴らは盗むし、壊すし、騙すからなあ。ろくでもない連中だがあれが自然の権化だって言うから驚きだな。全く世も末だ。寒くて戦争する元気もねえ」
人2「……へえ、これがこうなって、何かの力を加えると“術式”っていう何でも屋が展開されるのか……」
団子屋
魔「異変の種はようやく大地に芽を出した、ってところか。あたしも水が欲しいぜ」
慧「頭脳とは土壌だ。しっかり耕せ。魔法の森の土はどうなんだい?」
魔「ここよりはマシだよ。八雲が言うには山のダムから理想郷中の地下水脈を伝って過剰な魔力が漏れ出しているらしい」
慧「地下の水脈は太古の川だ。時代と共に埋もれたが水が通わなくなる理屈にはならない。地学は勉強してないのか、魔理沙」
魔「薬学と天文学には興味あるぜ。前者はキノコの調合に、後者は星の魔法に使える実戦学問だ」
慧「風見幽香も純粋悪の妖怪ではない。危険ではあるが、理想郷の政治と歴史を学べば分かることもある」
魔「慧音先生といえば歴史学だったな。そういうことは巫女の書簡にでも保管しておくべき事項だろう。神社での窯の炊き方や畳の干し方じゃなくて」
慧「私は半人半獣だ。そして理想郷には人間と妖怪が共に暮らす。その歴史を子供たちに教えること。それが私の生き方だ」
魔「私は魔法使いだ。悪の妖怪を退治する正義のヒーロー、山も城も纏めて懲らしめる何でも屋さ、それが私の生き方だ」
慧「年頃の女子なら恋する季節に戦いか。生き急いでいるな」
魔「人間には時間が無いんだよ。文献解読に研究、実験に戦闘だ。先生と話しているのに余裕が無くてすまないと思っている」
慧「構わないさ。永遠に時間が有っても余裕がない竹林の友人もいることだしな、同じ人間でも感じ方は千差万別、心配の種は尽きないさ……。君は、流れ星のように燃える人生をご所望かい?」
魔「ああ、あたし自身が星になるなんて夢みたいだぜ。早死には勘弁だが」
慧「冠婚葬祭、できたら教え子の祝言や宴会には参加してみたいものだな」
魔「気の早い先生だな。でもありがとう、慧音先生。なんだか肩の荷が下りた気分だ」
慧「金次郎の像を見習え。薪を背負い、ひたむきに書をめくれ。そして歩みを止めるな」
魔「はは、先生には敵わないぜ」
商「随分とにぎわっているな、理想郷の人間の里は」
魔「……?まあ今日は珍しい方だ。天狗の新聞やら回覧板やらが出回って皆が雪も気にせず外に出ているからな」
商「ほう。しかしこの団子はうまいな、まあ、私は死者だから味など感じないのだが」
魔「……へ?」
ドサ(魔理沙が倒れもたれる)
魅「さて、お駄賃はここに置いておくよ。ああ、連れが疲れてしまってね」
3、博打に負けた男、男、その息子、少年剣士、霊夢、会計、魔界の商人、妖怪たち、リグル、八雲家
貧民街、あばら屋、長屋
男「うるせえ、そんな新聞知るか」
子「でも見てよ、巫女さんが帰ってきたんだ。きっと風見をやっつけてくれるよ!」
男「食い扶ちを潰す悪い女だな巫女ってのは」
子「また霧雨店に雇ってもらえば……」
男「だったら人件費削減とかいって俺をクビにしたあのクソ会計野郎を恨め」
剣「その会計とやら、僕が代わりに辻斬りにしようか?」
男「なっ、人んちに土足でかよ」
剣「僕の上司からの配達の依頼だ。これを無名の丘まで運ぶこと。それだけ」
男「藁人形……?中身は何だ?」
剣「考えなくていい。外に荷車にいっぱい積んである。これが前金、終わったら」
男「城までだろ」
子「お前らが父ちゃんをおかしくしたんだ」
剣「しっ、君だけには教える。僕は風見に潜む間者だ。……君の父さんのことは必ず守る」
子「……本当だとしたらなかなか難しい立場だね……」
剣「理解してくれてありがとう。君はここから出ないで。今夜は龍神の目が赤いから」
霧雨店
裏口
ドガッ(戸口に叩き付けられる会計)
霊「私の勘によると、あんたが魔理沙の居場所を知っているんだけど、霧雨の会計係さん?」
会「あぐっ……し、知らねえよ。あんた巫女だろ?人里の人間に手を出して」
霊「タダでは済まさない。あんたが情報を吐けばね……団子屋に魔理沙の箒と、人ではない気配の痕跡があった。あんたからも同じ匂いがしているのよ。風見の間者さん」
会「土と鉄の匂いか?農具に工具、霧雨は道具屋だ。だが売り物はそれだけじゃない。武具も売る。もちろん相手は里の人間じゃない。今夜、その取引がある」
霊「随分とぺらぺらと喋るのね、知っている匂いよ……場所を言いなさい。そこに魔理沙もいるんでしょ」
ガタンッ(さらに戸口に会計を抑えつける霊夢)
会「ウグッ……噂が本当なら巫女に乗るのもアリか……お前たちが勝てるとも思わないが、トンズラする前の置き土産だ」
霊「年越しそばなら要らない」
会「人間も妖怪も滅多に寄り付かない場所……かつて人間が子を捨て、妖怪が攫った鈴蘭畑……今は誰からも忘れ去られた名もなき丘だ」
無名の丘
男「いつ来ても気味悪い場所だ。無名の丘とは言ったもんだな」
商「そうか?漂う死臭が心地良い。怨念と後悔に満ちた安らぎの場所だよ」
男「いつもの使い魔じゃねえな。笠から顔を見せろ、お前、誰だ?」
商「さあ、誰だろうね、お前こそ、自分の正体を知った上で満足しているのか?」
男「……俺の正体?馬鹿言うな。俺は俺だ。それ以外あり得ない」
商「妻には先立たれ、息子とも不仲、職を失い、博打に溺れ、家と城との往復を繰り替えす日々……それがお前の正体だ。習慣が人格を作る。お前は満足しているのか?」
男「していたらろくでもない仕事なんて受けてない。お前と会っても居ない」
商「安心しろ、今日で仕事納めだ。全ては手遅れなのだからな」
ジャキン!キリキリキリ……(殺陣、衝突音と睨みあい)
商「……その一刀流、懐かしい太刀筋だ。私を魔界まで追ってきた老剣士を思い出す」
剣「……私情は挟みません。私は幽々子さまの剣です」
商「……そうやって板挟みになって生きているとろくな目に遭わんぞ?」
剣「……私の半分とあなたは似ている。だけど残り半分は似ていない!」
ガキン!(殺陣、互いに引き離す音)
子「ここからだと良く見えないや。父ちゃん、どこ?」
妖1「へへへ、こりゃあ良い。うまそうなガキだ」
子「う、うわああ!」
妖2「なあ、脚だ。脚なら要らねえだろ?」
子「や、やめろおお!」
妖1&2「ぐへ!いぎっ!」
霊「声出しちゃだめ。あなたはここにいて、できる?」
子「う、うん……」
ドサドサ(商人が剣士にマウントを取る)
剣「くっ……」
商「あの堅物もお前とよく似た目をしていた。人間も妖怪も、隠された感情は瞳に現れる。悲しみ、怒り、憧れ、嫉妬……どれも金にはならず、成果にも繋がらない枷でしかない」
剣「黙れっ、今日という日をどれだけ待ち望んだか……!爺の仇を討つこの日を!」
商「脆い仮面だな……復讐心は金にはならない。私は魔界の商人だ。感情は需要と言う何物も生み出さないただ受け身な姿勢を作り出す原因だ。だから手玉に取られる、分かるか?」
剣「例え利用されているだけでも、この楼観剣で、斬る……!」
商「魂魄流現師範代がこの有様では妖忌も報われないな。魂魄妖夢、お前には祖父の墓前に立つ資格はない。だが安心しろ。お前の弱さのせいで家名が笑われるのは、お前が原因ではない。お前と言う半端者しか残せなかった、後継者を導くことをしなかったアイツの責任だ」
剣「ふざけるなッ!死にぞこないめ!」
商「そうだ私は一度死んだ。だが殺した覚えもある。この白楼剣の主をな」
霊「そこまでよ、魅魔」
ビュン!(弾幕音)ガパッ・・・・・・(商人の笠が取れる)
少年剣士→妖夢
魔界の商人→魅魔
魅「せっかくの笠が台無しだ。どうしてくれる」
霊「あれで正体隠していたつもり?緑髪でバレバレよ」
魅「師匠と弟子の再会だ。魔理沙はどうした?」
霊「とぼけるな……まさかあんた来ているなんて、最悪の予想が当たったわ」
魅「言っただろう。これは本来霊夢、君が成すべきことだったと」
霊「魔理沙をどこにやった!」
魅「魔理沙は私の娘のようなものだ。邪険にはしていないさ」
子「父ちゃん!?無事なの!?」
男「馬鹿野郎、こんなあぶねえ場所まで追って来やがって」
子「ごめん、父ちゃん……と、父ちゃん、周りから妖怪が……」
男「ちっ、やべえな、俺の傍から離れんなよ」
妖「けほっけほっ……大変です。あの人たちを守らないと」
魅「情けない。私から逃げる気か?」
妖「……博麗の巫女は強い。私の楼観剣は一振りで妖怪10匹は殺せます」
魅「言い訳にしか聞こえんぞ。白楼剣は諦めるのか?」
霊「妖刀二本、魅魔のが短くて、半人のは長い……?」
魅「この業物は斬られた者の迷いを断ち切る。霊夢、君の敵対心も削げるかな?」
霊「あんたを吹っ飛ばすのに迷いなんてない……あんた、妖夢とか言ったっけ?」
妖「はい、あなたは博麗霊夢さんですね」
霊「知っているんなら早い。あの親子を守ってあげて。こいつは私が食い止める」
妖「……すみません、恩に切ります。ご武運を」
タッタッタ……(妖夢は親子の元へ走る)
霊「さて魅魔、あんた、私に断われたから、火花を使って理想郷を滅茶苦茶にする気?」
魅「あの時点で君が穏便に博麗の巫女に成れる保証は無かったからな。乙案だ」
霊「あくまで私にさせるのが甲案だったってこと……虫唾が走るわ」
魅「だが無事に巫女には成れたようだな、師として誇らしく思うぞ?」
霊「余計なお世話よ。今からでも私を説得しないの?」
魅「必要ない。乙案の達成が阻まれたら、甲案の内容をやや変更して実行してみよう」
霊「どっちもその前にあんたを成仏させるわ」
魅「魔理沙の母親を殺せるのか?」
霊「……あんたに母親を名乗る資格は無い」
ギュイン!(お互いに飛翔音)
魅「大亀に乗り、自力で飛ばないのも楽か!」
霊「その分あんたに集中できる!」
ギューン!(加速音)
魅「口だけでなく手も動かすようになったことは褒めてやろう!だがぬるい!」
霊「凍てつく炎、あんたが私をそう呼んだ!封魔針!」
子「すごいや!巫女さんが宝玉使って戦っている!」
男「馬鹿、あれは水晶玉だ」
妖「不味い……妖怪が多すぎる……このままだと守り切れない……かくなる上は……」
ブイン……(妖夢が耳元に手を当てる)
リ「やあ、精進しているね、少年剣士さん、いいや、八雲のスパイさん」
妖「私は白玉楼に仕える身……あなたこそ、魅魔の間者だったということですか、リグル」
リ「幽香の天下も終わりが見えてね。生存確率の高い側に味方する主義さ」
霊「風見の蟲使いがどうしてここに?」
魅「取引相手兼協力者だ。決して私の思想に同調している訳でもなく信用できんがな」
霊「仲間を売るのは、感心しないわ」
魅「金と資源に釣られただけだ。道草は食うなよ、リグル」
リ「僕を呼んだということはここで放ってもいいんだね、魅魔?」
魅「ああ、丘一体を頼む。こいつらを消し去れば、乙案の実行もスムーズにいく」
リ「君は死んでいるから、気にしなくてもいいね」
霊「ここで使う気!妖夢!」
妖「……!何か来ます!霊夢さん!」
リ「ははは!僕の可愛い子供たち、あの人間たちを吹き飛ばせ!」
男「蟲の大群!?」
子「赤い粉!?」
霊「伏せてッ!」
妖「囲まれた……!」
ブイン(スキマ音)
ドガーン!!!(中規模爆発)
シュー……(爆発の煙が晴れる)
霊「……え?」
橙「大丈夫だにゃ」
藍「ああ、大丈夫だ」
紫「安心なさい、大丈夫」
霊「……紫?」
紫「あら、二度も命を救っているのにお礼も無くて?」
霊「あ、ありがとう……どうして私たちを?」
紫「クリスマスの時は藍の要請が、今回は妖夢のおかげよ」
妖「すみません紫様、このような失態で面目ございません……」
藍「いや、君の機転で皆を助けられた。紫様の通信機のおかげだ」
橙「子供の方はいいとして大人なのにろくに身を守る力も無いにゃね」
男「う、うるせ」
子「父ちゃんすぐ息切れするもんね」
リ「敵は大所帯だ。不味いね、魅魔」
魅「八雲紫か、懐かしい」
紫「久しぶりね、魅魔。このままやり合うなら私の式が相手になるわよ」
魅「やはりお前は戦わないか。まぁいい。この場は退く。だが一つだけ置き土産だ」
紫「まだ何か?」
魅「見世物をしてやろう」
霊「道化るのはやめて、魅魔」
魅「これを見ても同じことが言えるか?なあ、霊夢」
ガバッ!(魅魔が懐を開く)
魔「……うぅ……」
霊「魔理沙!……魅魔!お前!」
魅「言っただろう、娘のようなものだと。子の寝顔ほど、癒されるものはない」
霊「あんたのやっていることは魔理沙も私も一番嫌いなことよ!」
魅「ふん」
紫「藍」
藍「はい、精神と肉体、両方に融合術式が張り巡らされ、一心同体の人質です」
紫「質の悪い呪術と同じね。多層に絡み合って本人しか解除ができない」
橙「藍様、紫様……私たちはどうすれば……」
藍「橙、今は警戒を。状況が変わるのを待つんだ」
妖「霊夢さんのご友人を取り込んでいる……」
魅「妖怪が人間を襲い、人間が妖怪を退治する。だが飢えや渇き、差別や貧困が蔓延すれば理想郷という文明も、成す術も無く致命的な破綻の末に滅亡する。高度化した文明も同じ、アトランティスやムーでさえ滅びた。かつてはその強力な武器を使って理想郷を攻撃したよ。魔界の物流、武器や薬物の密輸を牛耳ればあとは簡単に混乱と争乱が起こった。だがそこに立ち向かう者がいた。先代巫女、君の母親だ。戦争を終わらせ、資源を蘇らせた。ははは、皮肉にも人間と妖怪の間で板挟みになり、我々が直接手をかけずとも終わったがな。君が守りたかったものなど鼻から存在していない。母親譲りの妄想を真に受けて、ごっこ遊びで世界が平和になるなど戯言だ。母親を失ったトラウマが、魔理沙と理想郷の両方を失うかもしれないという恐怖によって呼び起こされる。これは君の試練だ、霊夢」
ビュン(魅魔の弾幕)
霊「魅魔……!」
バチン(霊夢が弾く)
紫「……この場所は毒気が多いわ。一旦退くわよ、霊夢」
霊「魔理沙……」
紫「……これは最悪の異変になりそうね」
ブイン(スキマ音)
4、白玉楼、会議、霊夢、幽々子と妖夢、三月精、文椛霖阿、八雲家
中庭
ブイン(スキマ音)
ドサドサ(大所帯がスキマから放り出される)
霊「いてて……この移動は慣れないわね」
サニー「ルナ見っけ!て霊夢だ!」
ルナ「うわっ、見つかった……てホントだ!」
スター「二人とも、一旦やめましょう」
霊「光の三妖精?どうしてあんたたちがここに……?」
サニー「かくれんぼしてたんだ」
ルナ「それ答えになってない……」
スター「妖怪の賢者さんに連れて来られたんです」
霊「なるほどね、妖精のかくれんぼね」
サニー「ただのかくれんぼじゃないんだ!かくれんぼで私の右に出る者はいない!」
ルナ「わ、私だってかくれんぼの最終兵器だよ」
スター「サニーもルナも甘いわね。私はそもそもかくれんぼの鬼をやらせてもらえないわ」
サニー「うぐぐ、確かにスターの言う通りかもしれないけれど、だるまさんが転んだなら私こそ……ん?」
縁側
子「父ちゃん大丈夫!?」
男「こ、腰が……」
妖「い、今痛み止めを取ってきますね……って幽々子様あ!」
幽「あら、おかえりなさい、妖夢。ご苦労様だったわね。紫も、妖夢がお世話になったわ」
子「ひっ、幽霊!」
紫「白玉楼を貸してくれてありがとう、幽々子。冥界なら悪霊も近づけないだろうし」
男「おいおい、ここって冥界なのか」
幽「ふふふ、紫に妖夢の働きぶりを聞く前に……そこの紅白の蝶は誰かしら?」
霊「あんたは白玉みたいな桜餅みたいな匂いもするし、春の亡霊ってところかしら?」
幽「あなたは誰?妖夢のお友達?紫の娘?」
霊「どっちも違うわ。どうやら頭の中も春真っ盛りね」
妖「それ以上幽々子様を侮辱することは私が許しません、たとえあなたでも、霊夢さん」
霊「ごめん妖夢……訳の分からないうちに拉致されて気が立っていたわ。そうよね、紫」
紫「訳はすぐに分かるわ。私の家でも良かったんだけど散らかっているし、霧雨魔理沙の家も博麗神社も香霖堂も危険地帯だと判断して、私の友達の家に集まってもらったのよ」
霊「集まる……?」
幽「うふふ、さっきの妖夢、かっこよかったわよ?ありがと」
妖「も、もう幽々子様、からかうのはやめてください」
幽「ふふふ、そんなところも可愛いわ、妖夢。……博麗霊夢……五年前の悲劇から生き延びて、魔界を放浪したのちに何かの答えを理想郷に持ち帰り、風見幽香の城という理想郷の中心で優雅な遊びをしてみせた変人……紫からそう聞いているわ」
霊「変人は余計よ、紫」
文「あやや、失礼します。霊夢さん、ご無沙汰しています。あなたの記事を独占できたおかげで増版に次ぐ増版、売り上げも右肩上がり。この勢いで山吹天狗を口説き落せば山での出版も可能です」
椛「風見幽香から大天狗に最後通告がありました。山の防衛ラインは固められ、城と同じく誰も侵入できなくなっています。帰宅のための抜け道か洞窟を探していたのですが、気づいたらここに」
霊「……そういうこと。文に椛、報告ありがとう、無事でよかったわ、霖之助さんに阿求も」
霖「君が出て行った後に僕も阿求君もここに拉致されてね。霊夢、君も怪我はないようだが……って君は……」
男「……ん?お前は確か……霧雨から独立した……」
霖「ああ、だがまさか風見の薬の運び屋っていうのは君のことか。優秀なはずの君が何故」
男「けっ、余計なお世話だ。半妖鑑定人よ。早い話が不況でリストラされたのさ」
阿「止まない雨は無いとは言いますが、終わらない冬は健康も経済も破壊します」
男「いいな。良い所のお嬢さんは」
霊「そこまでにして。今は一刻を争う。霖之助さん、魔理沙が……」
霖「……魔理沙が?」
霊「……魔理沙が悪霊に囚われて人質にされた。悪霊の名は魅魔、私と魔理沙の師匠よ。あいつは今夜理想郷を滅ぼす気でいる。大異変を起こす気よ」
阿「魅魔……大陸ではサキュバスや淫魔の意味ですね」
廊下
霊「紫、陰陽玉に付いてきた術式は何?」
紫「禁忌の術式。使い手によっては悪夢を生み出す代物。備忘録としても使うけれど」
霊「つまり?」
紫「魚に泳ぎ方を忘れさせられ、鳥に箸の持ち方を覚えさせられる。この意味わかる?」
霊「忘却の術式……」
紫「及第点ね。打ち込むには対象の虚を突く必要がある。あなたの才能ならすぐできるわ」
広間
紫「寝ながら失礼するわね。回復が必要なの。橙、地質調査の報告をお願い」
橙「はい、紫様。これは理想郷の蓋然図だにゃ。そしてここが妖怪の山……裏手に妖怪独自の社会が成立し、表の中腹に風見の城が占拠しているにゃ。頂上付近の谷には九天の滝と玄武の沢に通じる貯水ダム。この位置に溜められた水はただ放水されて川下りをするだけじゃにゃい。太古の川の跡、地下水脈を伝い扇状に大地に浸透していたんだにゃ。調査して初めて分かったにゃ」
文「で、それが何か不味いことに?」
藍「多種多様な物質を運ぶのが水だ。ダム湖畔に投棄された魔力ゴミが汚染を起こし、高濃度の魔力活性水がダムを中心に理想郷の土壌を浸食している。雪の下に隠れて誰もが気が付かなかったが、どこにでも食人木や三度栗が無尽蔵に生育する可能性がある状態だ」
椛「つまり危険の一歩手前ということですね」
妖「はい、その通りです。私は八雲家と西行寺家の連合から送られた風見の間者としてこの2年間、性別を偽ってまでスパイ活動をしてきました」
幽「私の指示なのよ~」
妖「もう!幽々子様……はあ、そして私の代わりに他の誰かがやらされたであろう任務……魔力ゴミのダムへの投棄と水脈への干渉を、この手で進めていました。小さな春を消した大きな冬……この異変を招いた犯人は私です……しかし、その中に巧妙で強力な細工をしました。風見の城の地下、魔力炉を炉心無しで起動させると巨大な魔力掃除機になるよう仕掛けを。これによってばら撒かれた土壌の魔力の処理は可能です」
幽「うふふ、悪霊自らあなたたちの相手をしたのはどうして?相当な自信を裏付ける条件や切り札でもあるのかしらね?」
霊「……三精四季五行……60年の周期で巡れ……理想郷の開花……紫、この言葉の意味は?」
紫「三精すなわち日と月と星、四季は巡る春夏秋冬、五行を司るのは火水木金土。三精は全く干渉を受けない自然の気質を表す属性、四季は生命の流れを意味する属性、そして五行が物質の属性よ。気質、生命、物質の3系統によって全ての自然を表し、自然は3系統を独立して順番に回してバランスを取ろうとする。三精で言えば日の年、月の年、星の年、そしてまた日の年、といった風に四季も五行も毎年属性を変えていくのよ」
霖「それで60年で全ての組み合わせが生まれて一周するのか」
阿「日春火から星冬土まで。3×4×5。簡単な掛算ですね」
幽「きついわ~」
霊「自然が変わっていくと言うことは、自然に影響を受ける植物や生き物もいるってことよね?例えば花とか。魅魔がかつて住んでいたのは魔界の最果て。極寒の土地よ。でもそこに咲く花があったの。その名は火花。よく燃えて、着火すれば爆発もする危険な花粉を生む」
霖「勝手に持ち出したら怒られるだろうが、これは魔理沙の研究ノートだ。霊夢が風見幽香の爆撃にあった後に、巫女服に着いた成分を調べたらしい。そしてこれがあの娘の答えだ」
幽「火花の花粉……ふふふ、粋なことする妖怪さんね」
妖「おそらく風見単体で作り上げた火薬ではないと。魅魔が絡んでいるとすれば、花粉を使った計画があるということですか?」
霊「花粉だけじゃない。土から種、芽吹きから開花まで。少量なら私一人を吹き飛ばす程度の爆発も、大量なら山1つ吹き飛ばすわ。それがこの魔力が広がっている範囲全てなら……どこもかしこも花畑になる。紫、今年の三精四季五行はどうなっていたの?」
紫「今年は日冬土、実際に太陽が見えていなくても気質が日なら必ず植物は芽吹く。そして極寒の魔界のような3年冬、土に根を張る植物全てが今年は自然の加護を受けていると言えるわね」
文「そして椛が見つけた城の地下の年越し虫……成虫が花の蜜を吸うならそこに咲いている花に限定されます。火花が咲いていたら、その花粉が虫たちの大群によって大量に空気中に舞うことになります」
椛「これで魅魔の計画が見えたということでしょうか」
霊「そうね。さっき親子と妖夢と私がリグルに狙われて、紫たちが防いでくれた爆発がその魂胆。火花の爆発を理想郷規模で起こすこと。境界で囲まれたこの世界丸ごと吹き飛ばすこと」
藍「……だが厄介なことがある。妖夢が仕掛けてくれた魔力一掃のからくりだが、掃除機も諸刃の剣だ。炉心以外の強力な魔力を持つ媒体が炉に入れられたら掃除機から爆弾に成る」
阿「先代巫女が発案し妖怪の山と協力して作ったダム……決壊させられたら風見の城に濁流が直撃します。これも強力な炉心の役割を担うかと」
霊「つまり全ての条件がそろう今夜、年が変わるまでにダム決壊を防ぎつつ炉心を抜いて魔力炉を動かして理想郷中の魔力を回収しながら、そもそも風見城にもう一度侵入して邪魔してくるであろう魅魔を倒すってこと」
幽「ややこしや〜」
橙「風見幽香や傘下の1000の妖怪が抜けているにゃね」
霖「霊夢、魔理沙はどうするんだ。迷いがあったままでは必ず付け入られる隙になる」
霊「迷いなんてない。私は博麗の巫女。理想郷か1人の命か、どちらか賭けろと言われたら私は理想郷を取る」
紫「それで?誰がどの役目を担うの?そもそも風見の城の包囲網を掻い潜って城内に入れるのかしら?」
霊「それは……」
サニー「おーい!ルナ!スター!どこだー!私の負けだよー!もう降参だから出てきてくれよー!」
霊「かくれんぼ……」
文「どうしました?」
霊「光の三妖精が大活躍ね」
5、霧の湖、毒怪獣、メディスン、鍵山雛、若頭と会計、人間たち
湖畔
雛「大きな災いが来る、災厄が迫っている。大地の下に禍々しい厄が渦巻いている」
メ「雛人形のお姉さん、あなたは人間に捨てられたことある?」
雛「私は棚に飾られ、川に流された雛人形。そして厄神になった。あなたもお人形なのね」
メ「うん!元々は鈴蘭人形なの。私は私を捨てた人間が嫌い。でも幽香は好き。一人で寂しくて泣いてたメディスンを、幽香が拾ってくれたの。あったかいスープとベッドで、絵本も子守唄も聞かせてくれた。……だから幽香の優しいヒマワリみたいな笑顔のためなら、メディスンは化け物にだってなってやるんだ」
雛「メディスンは、その、幽香さんって人のことが本当に大好きなんだね」
メ「うん!大大だーい好き!」
雛「メディスン、人間への恨みは私には無いよ。でも私はあなたのことが羨ましいって思う」
雛「お姉さんにだってできるよ!そうだ!メディスンたちと一緒にお姉さんもお城で暮らそうよ!幽香もきっと大歓迎だよ!それにお姉さん、ちんちくりんな私なんかよりお淑やかで可愛いもん!」
雛「はは、ありがとう、メディスン。でもダメなんだ。私は人の厄を食べて生きている。私が心の闇をため込むことで、みんなが幸せになれるの。私はここを動くわけにはいかない」
メ「そっか。お姉さんにはお姉さんの役目があるんだね。メディスンと同じだね」
雛「あなたにも役目が?」
メ「うん、幽香のためにやらなくちゃいけないことがあるの。そのためにこれから湖へ行くの。もう少しで約束の時間なんだ」
雛「約束ね……そうだ、メディスン。私と約束をしましょう。メディスンがその役目を果たして帰ってきたら、私もお城に遊びに行くわ」
メ「本当?」
雛「ええ、約束よ」
メ「えへへ、お姉さんとの約束かあ、嬉しいなあ。……それじゃあ、そろそろ行くね」
雛「……頑張ってね。今度会えた時は、もっとお話ししましょう、メディスン」
メ「うん、またね、お姉さん、ばいばい…………………………………………逃げて」
人間の里
若「年末に夜逃げとは考えたな。会計野郎。その頭で計算も隠密もできれば良かったなあ?」
会「もう何もかも手遅れなんだ。今逃げないと俺もお前も里の連中も全員死ぬんだ!」
若「何を馬鹿なことを……ん?」
ボガガガン!!!(霧の湖で水蒸気煙)
人1「霧の湖で爆発だあー!」
人2「蒸気でよく見えねえ!風見が暴れ出したのか!?」
会「始まった!もうだめだ!おしまいだ!」
若「騒がしいが……何か知っているんなら訳を聞かせてもらおうか。おら、表へ出ろ!」
人3「ダイダラボッチだあー!!!」
人4「バカでかい怪物だあー!!みんな逃げろおー!!」
若「な、なんだ……あの巨大な影は……山……?」
会「ひぇっ……!終わりだ……!逃げ遅れた……!殺される……!」
※理想郷の産業……主な中心地は人間の里と妖怪の山であり、お互いに取引も行うが、両者にとって最大の貿易相手は魔界である。魔界からの流入物は、里では食料や生活用品、山では機械部品や金属製品が多く、それぞれ魔界貨幣を用いた取引となる。理想郷の農業や商業はほとんど自給自足のためのものであり、輸出で最大のカードとなるのが魔力資源であり、採取採掘した資源を共有することを許可する代わりに妖精の尊厳と安全を確保することを目的とする※妖精連合が資源を管理する役割を担う。