ニュースで昨日ホテルの爆発があったと放映されていました。最近は物騒だと感じる聖杯戦争参加者の一人な水谷響です。
やはり聖杯戦争においては場違い? 感はすごいですが、あんまり気にせず相変わらず今日も学校に通います。
連続殺人犯が捕まったとはいえ、そんなニュースが起きたのですから少しだけ下校が早まりました。学生からしたら少しだけ嬉しいニュースですよね。いや、少しばかり不謹慎かもしれないですけど。
でもたぶん、ホテルの爆破は流れの通りセイバー陣営の本当のマスターさんによるものだろう。
彼とは一切波長が合わないので一度たりとも夢が繋がったことはないけど。
あ、私の夢見は前世よりも何故か範囲が広がってしまって、一応コントロールもできるようにはなってきています。別に説明する必要性を感じないので詳しくは割愛。
今日もゆっくり徒歩で帰宅した私を待ち構えていた現代服な暇人王、ギルガメッシュを何故か家にあがらせた現在。
更に暇だと煩く言ってたので、父のゲーム機を引っ張り出してリビングにてプレイさせています。
私はそれを横目にしながらテーブルで宿題。アンデルセンは面倒そうな顔をしつつ横のソファーで本を開いて時々羽ペンを走らせている。
たまにギルガメッシュが見てみろと言ってくること以外は何事もない時間となっています。
いや、実は先ほど姉が帰ってきたけど。アンデルセンに認識阻害をしてもらい、友達と遊んでると言い張っておきました。
「そうなんだ」と納得してくれた姉は時計を見て慌ただしく部屋に戻って着替えて、部活の友達と遊んでくると出ていった。姉もまた、嵐のような人である。
「我を友人と称すなど、普通ならば極刑にもあたる不敬である。が、今の我は気分がいい。許すぞ童子」
「はーい。次は気を付けまぁす」
片手をシュピッとあげて返事をして、宿題を再開です。字を書くのに時間がかかってしまうので仕方ない。けど時間の割に字があまり綺麗でないのはなんというかな感じだ。
習字を習いたいって言ったら習わせてくれるだろうけど、そこまでして綺麗な字が書けるようになりたいとかじゃないし。あと、字を書くより本を読む方がいい。
というのは言い訳になってしまうだろうか。
「フハハハハ! 見よ響、全てこの我の領土にしてやったぞ!」
「わーすごーい。さすが王様だね! 私にはまだ難しくて、そんなことできないやー」
SLGゲームなのだが、難易度マックスで何度か滅ぼされかけているのを見たが数時間でここまでできるのか。
よくやるなと凄いなって気持ちが半々だが、賛辞を送ると機嫌良さげに「そうであろう」と得意気な顔を浮かべている。
もう機嫌がいいならそれで構わないや、とやや投げやりに考えているとそのゲームをもう一回するには飽きてしまったらしい。
「暇になってしまったぞ。何かないのか響」
「ええ? うーん……何かある? アンデルセン」
「俺が知るわけないだろう馬鹿め。と言いたいところだったが、オセロがあっただろう」
確かにそういうのあったなと思い、テレビの横の棚を漁る。
確かここに、そういうボードゲーム系が幾つか入っているはずである。
「オセロ、オセロ……ふむ」
聖杯の知識でも確認しているのか思案顔のギルガメッシュは放っておいて、オセロと他に将棋やら囲碁やらチェスやらある分を引っ張り出す。
とはいえ一度に全部は運べないので、何回かわけて運ぶのだけど。
「アンデルセンは私がそういうの下手って分かってて言うんだからもう」
「だが負けても楽しむお前にはちょうどいいだろう」
「ひどい言い様ー! 負け続けたら流石に私でもつらいんだからね?」
そう言いつつもオセロの駒の数を半分ずつ分けて両脇に置く。
これでひとつ準備完了である。
「はい! 三回くらいやろ! その後はアンデルセンと交代でどう? 王様」
宿題もあと数ページ残っているので、交代は必須です。必須なんですよ、そこで何故と驚いてる童話作家さんやい。
「うむ、それで我は構わん。せいぜい楽しませてみせよ童子」
「う……努力はするけど、期待しすぎないでね……?」
愉しげな英雄王様に腰が引けつつも、勝負開始です。
最初の一回は手を抜かれて勝たせてくれましたが、続く二回とも負けです。悲しいけどやはり。
「後は頑張ってね。何、アンデルセンならいけるいける頑張れ」
そんな感じで半ば棒読みなエールを送ると嫌そうな顔を向けられる。
私の知ったことではないけどね! マスターは見ての通り宿題をしないといけないからね、仕方ないね。
出していたゲームを全て遊んで再度暇になってしまうが、もうやるものもないというやつです。
え? アンデルセンとギルガメッシュの勝負はどうなったか、なんて。
当然の如くギルガメッシュが圧勝していきましたとも。ゲームに本気出すとか大人げないと思うな私。
「ギルガメッシュって飽き性だね」
「ふん、当然だ。結果が見え透いた勝負ほどつまらんものはないからな」
あ、はいそうですね。流石王様はすごいね。性能の差をむざむざと見せつけられたというわけですね。
いや、そこを勝負しようとか思ってないけどさ。
「じゃあ次はトランプでいっかー。神経衰弱しよー」
なんだかもう考えるのもめんどくさくなってきたから、出したボードゲーム各種をしまってから新品のトランプを取り出す。
新品ならば傷がついてないし、途中で混ぜれば多少はいい勝負にもなるだろう。
「よいぞ。手を変え品を変えて挑んでくるのを相手取るのもまた実に愉しい」
機嫌は落ちてないならもう何でもいいと何度目かの感想です。
バサバサとテーブルにトランプを落とし広げて更に手でかき混ぜる。
綺麗に並べて開始すれば、これが中々いい勝負となった。
まず一度出て失敗したら同じ数が出た限りはそれぞれ取るのは当然のことながら、一巡するごとにかき混ぜては並べ直していきます。
一番手はハンデとしてギルガメッシュ固定なので、三番目の私は有利なようなそうじゃないような。
「えーと、これだ! あぁっもう、外した!」
思いの外三人して熱が入りつつ、現在は四戦目。私、ギルガメッシュ、アンデルセンの順でそれぞれ一回は勝っているという結果。かなり善戦したといっていいと思う。私頑張った。
今回は負けそうだと思いつつ終盤はそれぞれの手番で場のカードをかきまぜて次に回します。
「ふ、残念だがこの勝負我がもらったぞ!」
「いやいや英雄王。今回響の次は俺の番なのだが? ……と、そら! これで俺の勝ちだな!」
「なんだとぉ!?」
うっかり順番が頭から抜けていたらしい王様を横目にして、アンデルセン先生が見事四回戦を勝ち取りました。
いやー中々濃い内容に、私はもうくたくただ。
負けたギルガメッシュはもう一回と言っているけど。子供か。
「もう夕方だよ。王様もマスターさんのところに帰らないとじゃないの? 聖杯戦争って夜にするものなんでしょ?」
「それもそうだが、あやつはつまらん男だ。かしずいて我に奉じてこなければ即座に契約を切っていた。だがそれに対しお前たちは見所がある。見事我を興じさせてみよ」
「そんなこと言われても困るよ、王様」
まったくほんとに嵐の目だな、この王様は。とんでもない難題ですよ、それ。流石神性持ちの王様の中の王様であると思わせる。
アンデルセンも面倒そうな顔を隠しもしないし。
「その程度できなくてどうする童子。童子らしい振る舞いを見せればそれだけで笑える余興になるぞ?」
「む、それどういう意味ですかー! アンデルセンといい、ひどい言い様ですねっもう」
むむむと眉間に皺を寄せてふいと視線をそらしてしまう。
何故この男二人は人を貶めてくるのやら。流石の私でもちょっぴり傷つくこともあるんだぞ?
だからほらギルガメッシュさん、その大笑いマジで止めてくれませんか。精神のどこかがほんとに傷ついてるんで。いや本当に。
拗ねるという行為をして尚且つ笑われたという点になのだけど。
「ふ、そう拗ねるでない。その表情は中々に見物であるが。それに免じて今日は帰ってやるとする」
「もう来ないでもいいです」
「照れるな照れるな。次は土産のひとつでも用意してやろう」
素直な気持ちをストレートに言ったのに斜めに解釈されて尚且つ餌でつられました。悲しい。
できればお菓子とか買ってきてくれると嬉しいです。
思わずぽろっと言ってしまえば大爆笑の上霊体化して帰っていきました。
つい昨日にも見た気がする光景だと思う。
「お前は真性の馬鹿か阿呆か」
「何も言わないで……今自分でも反省してるから」
やってしまった感を覚えつつ、肩を落とす。
深く考えず返答してしまうのはよくないよね。直るとは思わないけど、直すように努力しよう。
広げたままのトランプを集めて元の場所に戻し、それから部屋に戻ってランドセルを机の横にかける。
これでやっとゆっくりできると思いながら本を読んでいると母や姉が帰宅して、にわかに家が暖かくなった気がする。
私はこの暖かさが好きだと、ギルガメッシュとのやりとりのどことなく試されてる感を思い出してそう思った。
晩御飯を食べてお風呂に入れば後は寝るだけ。
寝て夢を見て、また明日が始まる。
夢の中では知らない他人のものを垣間見ることも多々あるけど、時間さえあえば友人のソラウとつながる。
今日も今日とて夢で会った友人は、婚約者がセイバー陣営の拠点に攻めいったが失敗し挙げ句に魔術回路がズタボロにされた上撤退に令呪使用で残り一画のみと聖杯戦争継続も厳しくなったと嘆いていた。
正直なところ、それを機にソラウは安全な場所に移動してほしいものだがどうだろうか。
「それは、でもできないわよ。ケイネスが選択しない限り、私は婚約者として彼を支えないとだもの」
ソラウは普段婚約者さんについてああだこうだと文句とか言っているけど、なんだかんだ婚約者さんを気にかけている。
役にたたない原作知識からすればかなり変わった考えを持ったと感じますね。
でも私としては友人が危ない橋を渡るのは見ていられないんですよ。わかってください。
「……ありがとう、ヒビキ。まだケイネスが目覚めていないから何とも言えないけれど、相談してみるわ。だからそんな、泣きそうな顔をしないで」
「む……そんな顔、してないよ」
指摘されてごしごしと目元を拭い、ソラウに抱きつく。
夢の中だというのに彼女からは薔薇のような匂いが薫った。
「はいはい」
仕方ないなと言わんばかりに背中を撫でられて、私は不満顔だ。
「死んじゃ駄目だからね、ソラウ」
「……ええ。言われなくても死んでなるものですか」
強い意志のこもった眼差しに、ほんの少し安堵を覚える。
死にたくない、と強く思うのならば彼女は大丈夫だ。その意思があったのなら、死ぬべきでない時に生きていられる。
ここには恋に従った女はいないから、きっと。
私の友人は大丈夫だと、そう信じています。