(side 始皇帝)
「陛下! これは一体どういうことですかっ!」
「煩いぞ李斯。 これがこの中華における最善なのだ。」
「我らに史に悪名を刻めと陛下はおっしゃっておられる。」
「趙高っ!」
李斯と趙高…………2人の臣下が俺の寝所で揉めている。
「李信を退け、王賁は隠棲し、王翦や蒙武もこの世に亡き今。
何故、陛下は胡亥様に後を継がせ、太子の扶蘇様と蒙恬殿の誅殺をお命じになるのですか!
蒙恬様が死んでは、反乱が起きし時、我々の内にそれを止めうる将はおりませぬぞ!」
「朕が最後にやり残したこと、それが秦を滅ぼすことだからだ。」
「なっ!
陛下っ…………正気ですか!」
「正気だ。 李斯。
何故、朕が中華全土に行幸したと思っている。
今ある状態が、秦による侵略ではないと、説くためだったのだ。
だが、もはやそれさえも叶うまい。」
俺は、本物の嬴政に成り代わり中華を統一した後、中華の統一国家の維持を考えた。
しかし、結果は散々なものであった。
李斯がキングダムで語っていた法家と儒家の戦争は、法による人間の自由意志を雁字搦めに縛り付けることとなり、キングダムにおける呂不韋の政治と同じく、人への諦めを法に反映する結果を生んだ。
そして厳しくなりすぎた法は秦による征服・支配をことさら印象づける結果となり、嬴政が考えた中華統一構想はすべからく破綻した。
そこで、北宋における契丹のように外敵を外に作ることで国内を統制するように仕向け、蒙恬に外征を命じたが、李牧による壊滅的な打撃から立ち直っていない匈奴では相手にならなかった。
やはり、漢や唐、明、清のように
それまでの国が壊れたところ、中華全土が国を失うという同じ舞台に立ったところに1から新たな超大国を作り出すしか中華統一国家を作り出す道はないのだろうか………。
嬴政………やはりお前を死なせてしまったことがつくづく悔やまれてはならない。
お前が抱いていたであろうこれからの中華の舵取りを、俺は俺の思い描ける範疇で成し遂げようとしたが、やはり俺はお前ではなかった。
到底お前が描いたであろう中華にはならなかったのではないだろうか
中華はこれから劉邦、項羽、張良や韓信の時代を迎えることになるのだろう
そして、李斯、趙高、蒙恬、蒙毅、扶蘇…………。
章邯らもだが、秦の次の世代も担っていく彼らのことを思うとやるせないが、それもまた中華の望む歴史であるのだろう。
俺が秦王として中華統一を果たしたように……………。
「陛下っ! 陛下!」
そして俺は始皇帝としての生涯を終えた。
目が覚めるとそこは病院だった。
「帰って…………きたのか」
「政一っ!」
枕元には、俺と共にかつて、飛信隊・信………新六大将軍・李信として中華を股にかけた、同級生の太田秀信がいた。
「ああ。 俺は、帰ってきたぞ」
「うん! うんっ」
「人に話しても、誰も信じないだろうな………。」
「だけど、僕は知っているよ。」
「それだけで、充分だけどな。」
「そうだね。」
「ははっ。」
これは俺達2人だけの秘密だ。
キングダムの世界に転生し、原作とも大幅に異なるハードな苦難をもくぐり抜け、李牧や項燕、呂不韋や魏無忌などの数多の敵を倒して中華統一を果たした、あの日々のことは。
この先も、俺とこいつの、心の中の記憶としてのみ残り続けるのだろう。