(side 足立政一)
とにかく、あれは嬴政と紫夏で間違いない。
とりあえず、助けるしか道はないだろう。
だが、あいにく俺は武器を持っていない…………終わった。
折角のチャンス。 始皇帝嬴政に近づくチャンスなのに。
どうしようか。
それに、まだ馬車がこっちにくるまで時間があるとはいえ、こっちは崖。 飛び降りたらおそらくただでは済まないだろう。
そして、何よりも致命的なのは………………。
俺の身体が9才くらいの身体ということだ。
嬴政に成り代わるもよしってこういうことかよ。
死ね
だが、嘆いていても目の前の現実は何も変わらない。
やはり、助けるのが最善の道という状況に変わりはないはず。
それにしても、嬴政………遠目で見る限り、誰かに似ているな…………誰だっけ。
まあいいやそれどころじゃない。
馬車を眺めながら、俺は、飛び降りるタイミングを見計らうことにした。
馬車を眺めてタイミングを窺っていると。
騎兵が一人、崖と馬車の間を並走しはじめた。
騎兵と紫夏が激しく渡り合っている。
このままの状態で、俺の真下まで来てくれたなら、兵士の頭を目がけて飛び降り、体重で敵の兵士の首を折って、その余勢を駆って馬車に降りられる…………。
来たっ!
その馬車と騎馬は見事に俺の真下まで来てくれた。
「よし! 今だ!」
バッ と飛び降りた。
「?!」
兵士よりも先に、紫夏が飛び降りてくる俺に気づいたようだ。
紫夏はその軌道を察知し、 スッっと後退した。
兵士が前につんのめったところで
グキッ
俺は兵士の首元に着地した。
尻の辺りが滅茶苦茶痛かった。
だが、兵士はきちんと首を前に大きく曲げ、次いで胴体が大きく馬車に倒れた。
紫夏は俺の顔を見るや、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに真顔に戻り、
やがて、クイッと首で合図してきたので、兵士を道に投げ捨ててきた。
「お前は?」
嬴政が馬を御しながらも、俺に尋ねてくる。
「影武者です。」
影武者なんて年格好が同じなら、全く問題ないだろう。
まあ、秦の一公子なんて一々向こうが覚えている訳がない。
「そうか。」
嬴政は集中しているので、それ以上は訪ねてこなかった。
紫夏も紫夏で、弓で応戦するので精一杯だったし、俺の背格好を見ただけで察していたのだろうか、詮索はしてこなかった。
「というわけで、私も貴方の背中を守りますよ」
嬴政の背中を守るべく、弓で紫夏を援護することにしたが
お、重い……………。
弓の弦が異常に強い、強弓だった。
ヒョロヒョロとした矢が、追いつきつつあった兵士に向かって飛んでいく。
「けっ。 こんなヒョロ矢が。 うげっ!」
ヒョロ矢を剣で弾き飛ばした隙に紫夏の剣の餌食となる。
だが。
「今だっ!」
もう一方から来ていた兵士の矢が
「危ないっ!」
「ぐっ!」
俺が叫ぶも間に合わず、紫夏の胸に鋭く突き刺さってしまった。
紫夏は激しく血を吐き出して、膝をついてしまう。
「紫夏ぁ!」
嬴政は馬を御しながらも、叫ぶ。
「前を向いて、走れっ!」
紫夏はそう叫んで、再び乗り込んでこようとしてきた兵士を
自らもろとも右に広がる切りだった崖の下に兵士を追い落としてしまった。
「政様…………どうか偉大な王におなり下さい」
それが紫夏の最期のことばだった。
「紫夏ぁあああっ!」
次の瞬間。
馬がモヒヒンと嘶き、足を絡めて、大きく前につんのめってしまった。
「あっ!」
そして。
「!!」
馬車は大きく右後ろに逸れ、先程、紫夏が飛び込んでいった崖の方へ俺達もろとも転げ落ちていった。
全く、ついていない。