「な、何を言い出すか貴様っ!」
昌文君は俺に向かって唾を散らしながら、そう吐いてくる。
「その程度の見分けもつかんのか! 無礼者め!」
ここで退いたら俺の負けだ。
嬴政を死なせた責任を取らされて、俺は殺されてしまうだろう。
失敗には、誰かが責任を負わされるのが政治の常であるからだ。
「……………っっ。」
昌文君は、黙るばかりである。
あまりにこちらが我ながら大胆な発言をしていることに、つい黙らざるを得なかったのであろうか?
だと、良いのだが……………。
(side 昌文君)
間違いなく、此奴は政様ではない。
確たる証拠はないが、長年戦場で培ってきた勘が儂にそう言っておる。
確かに、政様と覚しきご遺体とは全く区別もつかないくらいそっくりだ。
だが、今の秦王にある、独特の雰囲気…………気品とでも言うのか、それが此奴にはない。
いくら、邯鄲という敵国の都で育ったとはいえだ。
だが、妙だ。
なぜ、此奴はここまで冷静でいられるのだ?!
「どうした? 貴様。
私はいかにも本物の嬴政だが、何を躊躇っている?
もし、その死体が本物の嬴政とあくまで言い張るなら、貴様の責任は免れないぞ
太子を見殺しにした大罪人の汚名を刻むか、それともこのまま俺を本物の嬴政と認め、咸陽に帰るか。
どちらか選べ」
儂に向かって、此奴は大層なことを言ってきた。
此奴っ……………何と白々しいことをぬかしおって!
じゃが、見た感じ政様と同じ10才くらいのこ奴は、何故こうも堂々としていられるのだ?
あり得ぬ。
でも、もし、此奴が秦王になったら、間違いなく今の王よりも優れた王になるのではないか
此奴のその、一周回って白々しいまでの肝っ玉の太さ、いや、厚顔無恥さが儂の勘にそう知らせている。
「殿、如何致しますか。
このものはどうも変です。 子供らしさが全くありません。
趙の間者ではありませんか?」
いや、それはない。
何故なら、武芸を習った形跡が、その身のこなしからは見て取れないからだ。
…………確かに秦王の血は引いていないだろう。
しかし、秦王の血を引く者よりも遥かに王として必要な胆力。
此奴はそれを持っておる。
秦王朝の社稷に対しては罪を犯すことにはなろう。
しかし、もし、此奴が王になるなら、秦は、更なる高みに上る事が出来るのではないか。
儂の心は決まった。
儂は即座に先程の側近の首を切り落とした。
「と、殿!?」
「どうか、無礼をお許し下さい。 政様。」
儂は、此奴に賭けることにした。
(side 足立政一)
「何。 人には誰しも間違いはあるものだ。
気にするな」
どうやら、俺はこの賭けに勝ったようだった。
だが、間違いなく、この昌文君は気づいている。
俺が、嬴政ではないことに。
それを承知で俺を受け入れてくれたのだ。
その理由を確かめる必要がありそうだな。
だが、今はひとまず、昌文君の顔を改めて確かめておこう。
「ところで、そなたの名は何という?」
「昌文君と申します。 政様」
「そうか。 では、これからよろしく頼む。 昌文君。」
「はっ!」
「では、これから咸陽に向かう。
直ちに支度せよ!」
「「「ハハッ!!」」」
その夜、俺は昌文君を呼び出した。
「何用でございますか」
「ご託はよい。
昌文君、貴様、俺が嬴政で無いことに気づいているな?」
「……………やはり、政様ではなかったか。
お主は何者だ?」
やはり、気づいていたか。
「俺が何者かを答える前に、貴様、何故、俺を嬴政と受け入れた?」
一気に畳み掛ける。
「フッ…………大した理由ではないわ。」
「ほぅ。」
「お主は10才にしてその胆力を持ち、儂の前でも全く怯まなかった。
そんなお主が秦王になったなら。
そう考えたまでじゃ。」
偽りを言う目ではない。 野望といったものも感じられない。
「そうか。 感謝する。
昌文君。」
「何じゃ。」
「お前は良い選択をした。
俺を信じてくれたお前に、俺の野望について話そうと思う。
そして、何故、嬴政と入れ替わるなどという選択をしたかについてもな。」
決して元の世界に戻りたいとかではない。
「ふむ。」
「俺にはたった1人の弟がいた。
だが、弟はとあるバカに殺された。
そして、俺は思った。
弟を殺したのは時代の理不尽だと。 そして、嬴政も時代の理不尽によって殺されたと。
俺は、弟の時は、ただただその暴力に抗う術を知らず、眺めていることしか出来なかった
だが、嬴政が、目の前で死ぬのを見て、それではいけないと悟ったのだ。
だがら、俺は、こうした時代の理不尽を駆逐するために。
たとえ後世に、悪名を残そうとも、やり遂げることを誓ったのだ!! 昌文君!!」
「はっ?」
「よく聞け! 昌文君。
俺は、あの昭王にさえ成し遂げられなかった、中華統一。
それを必ず成し遂げるつもりだ。
たとえ、どのような茨の道を歩もうとも、必ず。
だから、昌文君! 俺に力を貸せ!!」
「ははっ! 」
昌文君は心底驚いた様子を見せ、次の瞬間、片膝をついた。
(side 昌文君)
此奴、何という男なのだ。
僅か10才にして、昭王と同じ、中華統一を語るとは………!
期待を遥かに上回る男のようだ。 此奴。
良いだろう。
儂は、やはり貴様に全てを賭けようでは無いか。
儂の見立てが間違ってなかったことを、せいぜい証明してもらうぞ。
「この昌文君、嬴政様に身命を賭してお仕え致しまする!」
儂の選択を、これからも誤らせてくれるでないぞ。
小童!!