戦国四君の1人で、義侠心に篤い人物。
魏王の愛妾・如姫に代わって如姫の身内の仇を討ち、代わりに軍権の割り符を盗ませ、邯鄲救援の名目で軍を預かりながらも動かない将軍:晋鄙を殺して軍を奪い、邯鄲を救援した後、軍を解散して趙に留まったが、安釐王の要請を受け、帰国。
後に合従軍を起こし、秦を函谷関に追い詰めたものの、李斯の離間策にかかった安釐王に呼び戻され、合従軍は失敗。
失意の内に死去。
劉邦に陳平を推挙した、魏無知は彼の子とされる。
(side 魏無忌)
「呉慶。」
「ハッ。」
「魏火龍の同士討ちに関して、貴君が調べた結果を委細話してはいただけまいか。」
「畏まりました。 原因は…………」
私は、兄上から帰国を要請され、つい先年、大将軍の筆頭に任じられ、魏の軍権の全てを掌握した。
この、私の筆頭食客にして、軍師も務める呉慶も大将軍に返り咲いている。
この、私が魏を留守にしていた内に、魏の国内情勢は急激に変化してしまった。
「魏の伝家の宝刀」と謳われた名将揃いの晋一族の晋鄙将軍を、秦に亡命を図っていたとはいえ、王命に背くとうそぶいて殺して以降、魏には魏火龍七師…………晋鄙将軍の副官であった太呂慈と紫伯を除く5人が私の食客出身ではあったが………と呼ばれる7人の大将軍が出た。
しかし、その大将軍のうち、呉慶を除く6名全員が1ヶ月の内に病死し、呉慶も邯鄲にいた私を訪問してきた。
それ以降、魏国の国勢は更に衰えを見せて、やむなく私が呼び出されたと言う訳である。
しかし、この魏火龍七師の内、廉頗将軍との戦傷で亡くなったとされる太呂慈も含め、僅か1ヶ月で6人が亡くなるのはまさに異常事態である。
何かがあったとしか思えず、私は呉慶に事の顛末を改めて調べさせた。
「成る程。
紫太が、紫伯とその義妹の紫季歌の恋路を妨害し、太呂慈に紫季歌を嫁がせた。
妻殺しの太呂慈に紫季歌を殺された紫伯が、太呂慈、晶仙、馬統を殺した…………か。
で、呉慶」
「ハッ。」
「何故、紫太は、太呂慈に紫季歌を嫁がせたのだ?」
「紫太の、実の子ではない紫伯への、死ぬ前の最後の当てつけであるとの見方も強いですが、実はそうではありません。」
「…………それだけではないとは?」
「こちらをご覧下さい。
私が、かつて魏を出奔するに至った、本当の理由はこちらになります。」
「?! あ、兄上は何をやっておるのだ!?」
本当の理由。 それは、
「紫伯はかつて、大梁随一の美男子としてその名を馳せており、その容姿で大梁内の大勢の少女や貴婦人を虜にしておりました。
そしてその貴婦人達の中には大王の愛妾・如姫様も含まれており、それに嫉妬した大王が、紫伯への厭がらせを計画しました。
紫太に策はないかと尋ねたところ、紫伯を嫌っていた紫太は、紫季歌を太呂慈の元に嫁がせると言う暴挙に出たのです。
そして、紫伯が魏火龍の3人を殺したことに逆上した大王は、私と霊凰、凱孟の3人も同罪とし、逮捕しようとしました。
私は、息子の鳳明が幼かったので、邯鄲の貴方様の元に馳せ参じました。
私も大将軍に任じられたのは、貴方様の手前、魏火龍七師筆頭であった私を逮捕するのを憚られたからです。
そして、この文書は、その紫太と大王の往復書簡になります。」
間違いなく兄上の筆跡であり、魏王の印も捺されているし、紫太の筆跡も間違いないとのことで、このやりとりが実際にあったことは確かと言える。
何ということであろうか。
兄上が、半ば自身の下らない嫉妬の為に、功臣に厭がらせをした結果、功臣の暴走を制御出来ずに処断してしまうという愚挙を犯していたとは。
そして、その尻拭いを私にさせようとしているとは!
双六をしていた時もそうだった。
趙の狩りを侵攻と勘違いした兄上は私に縋り付いておきながら、結局狩りと分かると、私を遠ざけた。
晋鄙の時も、かつての段干崇の時よろしく、晋鄙が秦ヘの亡命を図っていたことを証明しても尚、私の帰国を許さなかったかと思えば、此度のコレだ。
私は、兄上にとって、都合の良い道具でしかないのか?!
私は兄上にとっては弟ではなく、政敵とでも?
私が魏王の座を狙っているとでもお考えなのか?!
それだけならば、まだ仕方ないと思えた。
しかし、この度の魏火龍同士討ちの件に兄上が深く関わっていたとなれば、話は違う。
兄上は、国を損なった!
武人の功績に対し、厭がらせで応えた兄上は、魏国の武人の信義を、名誉を、忠義を踏みにじったのだ!
これ以上、兄上を王にしていては、魏国からは正義の光が消えてしまう。
魏の為に尽くす武人がいなくなってしまう。
そうなれば魏国は終わりだ。 兄上をこれ以上、王位に就かせていてはまた同じことが繰り返されてしまうだろう。
「呉慶っ!」
「ハッ!」
「兵を直ちに集めよ! 大梁中の侠客の方々もお呼びするのだ!
私は、魏無忌は、魏国の為に兄上を討つ!」
「ハッ!」
孟嘗君に憧れていたあの時の私には、もはや顔向けは出来ない。
義兄弟の契りを交わした春申君…………黄歇殿にも、義兄の平原君・趙勝兄貴にさえも、顔向けは出来ない。
「目指すは魏圉の首、ただ一つ!
王として国家の剣たる魏火龍七師を処断した昏君を赦すな!」
軍は急造ではあったが、大梁の宮城に侵攻するや、近衛兵を撃破した。
「?! 何の真似だ! 無忌っ!」
「兄上。 いや、魏圉っ!
貴方が魏火龍七師にしたことを、武人の築き上げた名誉に傷をつけた貴様を私は許しはしないっ!」
兄上は食客の剣に倒れて死んだ。
「無忌様っ! これは一体、何としたことですか?!」
「無忌様っ!」
群臣達は騒ぎ出す。
「よく、聞けっ!
魏火龍七師のうちの、呉慶を除く6人の死は、病死でも何でもない
魏王の、魏圉の下らない嫉妬による卑劣な、紫伯への厭がらせによる同士討ちに逆上した魏王が、魏火龍七師を処断したことである!
魏火龍七師という、国の英雄達を、自身の都合で仲違いさせ、徒に国の棟木を傷つけた、この昏君を私、魏無忌は、たとえ兄上であっても許すことは出来なかったのだ!
今日の、魏の国運が危殆に瀕した要因は、全て、魏圉が自身の都合で、勝手に功臣である魏火龍を仲違いさせ、処断したことにある!
故に私、魏無忌はここに宣言する。
昏君・魏圉の招いた、今日の魏の未曾有の国難の収集を収めるため、私、魏無忌は魏王に即位するつもりだ!
無論、これは放伐(簒奪)である事は承知している。
兄を殺したという不義に対し、私は、魏を立て直すことで償っていくことをここに誓う!」
私は、もはや引き返せない道を突き進むことを選んだ。
義侠の道とは異なる、人倫にもとる道だとしても、私は……………。
そして、この報せは魏国全体を駆け巡った。
私は、即座に魏火龍・紫伯、凱孟、霊凰を解放し、呉慶共々大将軍に任じた。
侠客達の中には、当初、私の兄殺し不義に対し、私の元を離れていくものも多かったが、やがて魏火龍騒動の真相が広まっていくや、一定の理解を示す侠客達も出てきた。
そして、魏の国民が、この事態を歓迎したのは言うまでもなく、魏国全体にはこの数十年間、類を見ない程の団結が見られ、対秦征伐の気運は最高潮に達していた。
晋鄙の、秦への亡命疑惑はフェイクです。
このフェイクがないと、信陵君は「自分は晋鄙将軍を殺しておきながら、兄を責める自分勝手な奴」になってしまうためです。
信陵君は、個人的には好きな人物なので同じく好きな方にはこの改変は申し訳ありません。