(side 足立政一=嬴政)
魏無忌が五カ国同盟を組んだ。
この報せを受け、秦の宮廷は既に大騒ぎとなっていた。
「楚との国境には、張唐将軍を派遣し、牽制に当たらせるべきだ!」
「魏・韓は王齕大将軍と蒙驁将軍が既に洛に兵を構えているから、彼らに引き続き、見張らせよう。」
「趙は、馬陽に蒙武将軍を移動させました。」
「ふむ。それだけでは不安だな。麃公将軍に友軍として、魏・韓・趙のどこから来ても対応出来るように待機させておくのが良いかと。」
「あ、ああ。 良きに計らうが良い 丞相。」
この一連の出来事は原作では無かったことだ。
おそらく、ここら辺は史実通りに動いているに違いない。
史実通りにいくなら、李斯が離間策を使って魏無忌を失脚させられるのだが、魏無忌が王となってしまった以上、失脚させるのは不可能。
かなり厳しい状況だ。
そして、親父は、そうした文官や呂不韋達との協議に忙殺されているようだった。
顔色も悪く、最近では姫妾との×××も疎かとの噂もある。
そろそろかな。
「昌文君。」
「何じゃ。」
俺は昌文君と宮城の階段の途中の広場で、城下に広がる咸陽を眺めながら話していた。
「お前も私兵用意しとけよ。
戦は想像以上にもつれるぞ。」
「…………無論じゃ。」
「3000は欲しいが…………難しいか」
「難しいわ! 出来るかっ!」
「そうか…………。」
「………………。」
太子ではやはり出来ることにも制限が出てくる。
そういう意味では一刻も早くあの親父には死んで貰いたいものだ。
早くタヒね。
「お主、今、何を考えていた?」
「……………さぁな。」
昌文君は思いの外、鋭い男だった。
そして、更に二ヶ月後。
各地の間諜から伝令が届いた。
「魏・韓・趙・燕・楚が衛にて狩りを行っている」
との伝令である。
つまり、合従軍が興ったという事実上の宣言なのだ。
秦の宮廷は更なる大混乱に陥っており、親父は病に臥せることも多くなってきていた。
太子である俺はまだ参加出来ないのがもどかしかったところであるが、そろそろ参加させるべきでは無いかとの意見が徐々に朝廷内からも出始めていた。
咸陽の街もどことなく緊張に包まれている。
皆もやはり不安なのだろう。
そして更に半月後に、衝撃の報せが届く。
この日は、俺は病に臥せった親父に代わり、ようやくはじめて朝政を任された。
「それで、どうしたのだ?」
まあ大体は呂不韋が仕切ってくれる。
あと3年、いや、2年以内には倒したい奴だが、この場では頼もしい。
「は、はっ!
王齕大将軍・蒙驁将軍の部隊、合従軍と交戦し敗走。
函谷関にまで退却し、体勢を立て直す故、各地より兵を函谷関に集結させて欲しいとのことです!」
王齕は言うまでも無く、キングダムにおける六大将軍、秦国随一の猛将である。 汗明には負けていたけど。
そして蒙驁も間違いなく名将で、新六大将軍になるであろう桓騎や王翦といった副官も既に加入済であるから、間違いなくその軍は秦国でも無類の強さだ。
この報せに、文官の間に更なる緊張が走る。
「それで、戦の詳細を聞かせてくれ。」
「はっ!
まずは馬陽の蒙武将軍、亜水にいた麃公将軍の部隊は交戦が予想された河台・鄭里盆地に軍を進めましたが、間に合わず、王齕大将軍と蒙驁将軍の二軍のみで交戦状態に入りました。
王齕大将軍が魏に、蒙驁将軍は燕に、副官の王翦将軍が趙軍に、桓騎将軍が韓軍に当たられ、楚は部隊を温存する形となりました。
まず崩れたのは王齕大将軍の部隊です。
凱孟軍を撃破し、紫伯の部隊も追い詰めていましたが、
どうやら凱孟・紫伯は囮であったようで、霊凰軍・乱美迫の部隊が渡河して王齕大将軍の部隊は壊滅状態になってしまったとのことです。
幸い、王齕大将軍は凱孟・紫伯に重傷を負わせ、味方の退却を援護致しましたため、どうにか無事とのこと。
また、蒙驁将軍も崖上に作った堅砦が、不幸にも燕の部隊が山民族であったために破られ、また、廉頗将軍の別働隊にも脇腹をつかれ、かなりの被害が出た模様です。
それを受け、王翦・桓騎両将軍は撤退したとのこと。
これが戦の全貌です。」
文官は皆、あきらめかけていた。
表情から見て取れる。
目から生気が失われつつあった。
李牧によって起こされた原作の合従軍よりも、今の状況はかなり危機的だ。
まず、既に1回、味方が敗北しており、士気が挫かれている。
次に将の質が李牧のソレよりも遥かに高い。
敵は燕からは劇辛、オルド、趙からは廉頗、楚からは汗明、臨武君、魏は紫伯、凱孟、霊凰、そして魏王・魏無忌。
加えて未知数な韓将…………喬立大将軍とは何者だろうか。
それに対して、味方は王齕、王翦、蒙驁、桓騎。
蒙武、張唐、麃公を足しても、やはり役者不足は否めない。
加えて、李牧の時の合従軍は侵攻の足並みを揃えるため、全速力とは言えない進軍速度であったが、既に合流済みの軍は既に足並みを揃える必要は無い。
大軍故に融通は利かないかも知れないが、その分進軍速度は李牧のソレよりも速い。
「……………それで、王齕大将軍達の軍隊はどうなっておるのだ?」
「王齕大将軍・蒙驁将軍の部隊は合従軍の追撃を受けていますが、王翦将軍の巧みな殿軍采配により、各地の城から兵を加えつつ、要所要所には城を固めさせた結果、些かの猶予が出来てはおります。」
丁度、劉邦の金蝉脱殻の計に似たような感じになっているのだ。
城を固めさせ、焼け石に水程度ではあるが、足止めを図らせ、足止めにならないような城は、兵を必要最低限だけ残して残りを全て回収する。
「ほぅ。 流石と言ったところではあるな。」
って、文官の大半は話聞いてないな。
何やってんだよ…………全く。
「おい、貴様ら文官共っ! 何をしているっ!
呆然としている余裕があるというのかっ!」
つい、俺は叫んでしまう。
あの嬴政のようだ。
ハッ! っと文官共は一斉にこちらを見る。
呂不韋や李斯、昌平君までもがこちらを見た。
「今、この瞬間にも、国が滅びようとしている!
往年の楽毅が斉の湣王を攻めて臨淄を陥落させたように、貴様らは咸陽をむざむざ落とさせる気か?
国が滅びて俺の首が飛ぶだけで済むならば良い!
しかし、貴様らも無事では済まぬし、貴様らの家族さえも無事では済まぬだろう。
民達もそうだ。
上は死にかけた老人から、下は生まれたばかりの赤子まで、亡国という理不尽を味わうことになるし一生を希望を持てぬ世界で終えなくては成らなくなる!
貴様ら以外に、それを止める術を探せる輩がいると、思っているのかっ!」
まさに嬴政やってるな……………俺
「「「は、ははっ!」」」
文官共は我に返り、地図を運び出させたり、対応策を話し合う方向に動き出す。
「ふむ。 して、太子様。 どのような術をお考えか、この呂不韋にも教えてくださいませ」
突然、呂不韋が俺に向かって話しかけてきた。
一応、考えはあるが…………あまりにも大胆すぎるので何故か呂不韋には話しづらかった。
が、話すことにした。
「まずは、士気をどうにかせねばならない。
味方は敗走し、士気が低下しているのに対し、敵は勝利で士気を更に高めた。
故に、士気を取り戻すため、俺は……………。
父大王から、王位をこの瞬間にも、継承し、自ら函谷関に出撃する!!」