Continue to NEXT LOOP.../SIREN(サイレン)/SS 作:ドラ麦茶
竹内多聞と安野依子の二人は、大字粗戸の大通りを南西へと向かって歩いていた。以前、この辺一帯は屍人たちが増築を繰り返し、ひとつの大きな『巣』と化していたが、宮田司郎がダムを爆破して洪水を発生させたことにより、今は瓦礫が散在する廃墟となっている。
「――しかし安野、現世に帰りたいとは、一体どういう風の吹き回しだ?」瓦礫の山の間をすり抜けながら、竹内は安野に訊く。「以前は、『羽生蛇村一三〇〇年の謎を解くまで帰らない』と張り切っていたのに
「まあそうなんですが、さすがに一ヶ月以上も帰らないのはマズイと思いまして。親や友達が心配しますし、それに――」
「それに?」
「いえ、何でも……あ、見えてきましたよ」
瓦礫をかき分けるようにして進み、やって来たのは、かつて屍人の巣の中枢があった場所だ。八尾比沙子が神代美耶子を神に捧げ、神が舞い降りた場所である。中央には巨大な岩がある。すり鉢状の岩に水が張られているように見えるが、実際は水など存在しない。岩の表面が美しく磨かれ、まるで水面のように見えるのである。眞魚教で『
竹内は、安野と一緒に水鏡のそばに立った。水鏡の表面は美しく輝いており、二人の姿を鏡のように写し返した。
「――で、安野」
「はい」
「こんな所に来てどうするつもりだ?」
「はい。まずは、この水鏡を通って、ちょっと常世まで行こうと思います」
「…………」
「…………」
「……安野」
「はい」
「常世とは、神が支配する永遠の理想郷とされる場所だ。近所のコンビニに買い物に行くノリで行けるような場所ではないぞ」
「そうなんですが、この水鏡の先にある常世は、神様以外にも、八尾比沙子さんや、須田恭也君が行っています」
「確かにそうだ。だが、八尾比沙子が水鏡を通ることができるのは、神と同体だからだ。一三〇〇年前に神の身体を食べた比沙子は、神と同じ力を持っている」
「そうです」
「恭也君にも同じことが言える。恭也君の体内には、神代美耶子の血が流れている。神代美耶子は八尾比沙子の直系の子孫であり、ゆえに、比沙子と同じく、神と同体であると考えられ……」
「…………」
「…………」
「……安野」
「……はい」
「我々も、常世に行くことができるな」
「やっと気づきましたか。そうなんです。恭也君の血には美耶子ちゃんの血が混じっていて、その恭也君の血はあたしに混じり、さらに、あたしの血は先生の血にも混じっています。だから、あたしたちも水鏡を通って、常世に行くことができるはずなんです。やってみましょう」
そう言って、安野は水鏡の淵に立った。
「――えい」
そのまま、ぴょん、とはね、一歩前に踏み出すと、ざぶん、と、まるでプールにでも飛び込んだかのように、安野の身体は水鏡へと沈んで行った。
……本当に水鏡を通ることができるようだ。感心する竹内。安野も、よくこんなことを思いついたものだ。だが、アイツは一体、何をするつもりなのだろう?
竹内も水鏡の淵に立ち、安野を追って水面に飛び込んだ。