Continue to NEXT LOOP.../SIREN(サイレン)/SS 作:ドラ麦茶
「…………」
「…………」
「……安野」
「はい」
「ここは、さっきも通った道だな」
「そうですね」
「もう何度目だ」
「昨日の夜から数えて、二五五回目です」
「道に迷ったにしては、ちょっと多すぎるな」
「二十年前ならカンストしてる数値ですもんね。そもそもこの辺は一本道ですから、迷いようがありません」
「どういうことだ?」
「どういうことでしょう?」
常世で神の肉をほどよくローストして食べた竹内多聞と安野依子は、八尾比沙子と同じ力を持ち、見事、現世に戻ることに成功した。さっそく村を出てふもとの街に降りようと、下粗戸の県道333号線を南へ向かおうとしたのだが、どういう訳か同じ場所に戻ってきてしまうのである。下粗戸は、二十七年前の土砂災害以前は大字波羅宿と呼ばれていた地域で、竹内と安野が異界で初めて調査し、牧野慶と名乗る宮田司郎が井戸の底で爆弾を見つけた場所だ。異界ではいくつかの集落があったが、近年の区画整理により、現在は県道が一本通るだけの地域である。安野の言う通り、道に沿って歩けば迷うわけはない。しかし、どんなに南へ向かって歩いても、同じ場所に戻ってきてしまう。逆に、北へ向かって歩けば、すぐに上粗戸の商店街に着くのだ。まるで、異界を歩いているようである。しかし、下粗戸と上粗戸がある以上、ここは異界ではない。屍人もおらず、村人が普通に暮らしている(といっても、八月三日の土砂災害により大きな被害が出たので、復興作業に大忙しではあるが)。現世に戻ってきたのは間違いないだろう。
「……先生」
「なんだ」
「これは、科学では説明のつかない神秘の力が働いているとしか考えられません」
「だろうな」
「何が起こっているのか、あたしなりに仮説を立ててみました」
「聞こう」
「常世で神様の丸焼きを食べたあたしたちは、八尾比沙子さんの同じ状態になりました」
「そうだ。だから、現世と異界の出入りが自由自在になったんだからな」
「はい。なんなら、あたしたちも比沙子さんの同じように、手から火を噴いたりできるんです」
「ふむ」
「でも、それは同時に、あたしたちも比沙子さん同様に、神様に呪われてしまったんです」
「当然だろうな。なにせ、神の身体に手を付けたんだから」
「比沙子さんって、一三〇〇年もの間、ずううううぅぅぅっと、この村で暮らしてたんでしょうか?」
「それは本人に訊いてみないと判らんが、恐らくそうなんじゃないのか?」
「普通、そんな長い間、同じ場所で暮らそうなんて思いませんよね? たまには、海辺の家で潮風の香りと共に目覚めたい、とか、都会の朝の通勤ラッシュにもまれる生活をしてみたい、とか、思うはずなんです。そこの暮らしが気に入れば、二度と村に戻らないという選択もできるわけです。でも、比沙子さんはそれをせず、ずっと、この山奥のへんぴなクソ田舎の村で暮らしていたんです」
「ふむ」
「恐らく、神様の呪いには、『羽生蛇村からは絶対に逃れられない』というのが、含まれているのではないかと」
「あり得るだろうな。村の呪いには、八尾比沙子という人物が必要不可欠だ。あるいはそれも、村の因果律のひとつなんだろう」
「はい。と、いうことは、ですね」
「ふむ」
「あたしたちも、この羽生蛇村からは、絶対に出られないのではないかと」
「…………」
「…………」
「……それでは、異界にいるのと大して変わらんじゃないか」
「はい。そういうことになります」
はあ、と、竹内は大きくため息をついた。まあ、神を食べるという時点で、こうなることは判っていたのだが。
「では、安野」
「はい」
「その仮説が正しいとして、どう対応する?」
「そうですね。あたしたちにかけられた呪いを解くのが最善かと」
「具体的な方法は?」
「とりあえず、定期的に神代家の娘を神様の花嫁に捧げてみてはいかがでしょうか?」
「その方法は、八尾比沙子が一三〇〇年間試してダメだったから却下だ」
「そうですね。では、今から呪いを解く方法を調べましょう。大丈夫です。異界から現世に戻っただけで、大きな一歩ですから」
「確かにそうだが」
「それに、さっき先生、異界にいるのと大して変わらないと言いましたけど、そんなことありませんよ? 村からは出られませんけど、家や学校に電話をしたり、手紙を送ったりはできます。場所によってはインターネットもできるでしょうし、何より、テレビを見ることができますから」
「テレビ?」
「はい。来月から、鋼の錬金術師のアニメが始まりますからね。これを見逃すわけにはいきません」
「……突然現世に戻りたがったのは、そういうことだったのか」
「ま、いいじゃないですか。さて、村から出られないと判ったら、覚悟を決め、住むところを探すことから始めましょう。村に不動産屋、ありますかね?」
スキップしそうな勢いで村へと戻る安野。まったく。本当にアイツは、楽天的だな。竹内は、仕方なく安野の後を追った。
二人の調査は続く……。
竹内と安野が現世に戻るにはどうすればいいか、を、考えていて思いついた話です。その他、そこから派生した小ネタをいくつか盛り込んでみました。いんふぇるのが残っていればこの方法で(一応)現世に戻れると思うんですが、実際はどうなんでしょう? やっぱ堕辰子の死と同時にいんふぇるのも完全に崩壊しているのかもしれないですね^^;
ちなみに、小説内で少し触れた『神の花嫁が必要ということが因果律によって決められているならば、次代の花嫁を産むにふさわしい誰かが、現世に戻っていることもあり得る』問題について、少し考えてみました。
ゲーム本編に登場する人物で、最終的にとりあえず生き残っており、かつ、次代の神の花嫁を産むのにふさわしい存在として、3人ほど当てはまるような気がします。
1・先代神代美耶子
二十七年前に神迎えの儀式から逃げ出すものの、八尾比沙子に囚われ、宮田医院の地下室に監禁されていた人。
亜矢子・美耶子が(不完全な形で)死んでしまった以上、神代家の女性で生きているのはこの方しかいないと思われます。
とはいえ、あの
2・八尾比沙子
村の呪いを作った張本人。神代家を含む村人はほぼ全員比沙子の子孫であるため、比沙子ほど次代の神の花嫁を産むにふさわしい人はいないかもしれません。
しかし、比沙子は現在、うつぼ船に乗って、必要とされるすべての世界に首を届ける存在になっています。仕事の優先度としてはそっちのが高いような気がするので、現世に戻される可能性は低いかもしれません。
3・四方田春海
『SIREN』における唯一の生還者。神代家とは何の関係もないですが、村人全員が八尾比沙子の子孫であるとするならば、春海にもその血はわずかながらも受け継がれていることになります。
また、春海は生まれながらわずかに幻視を行えた、という設定があるので、なんらかの要因が重なり、他の村人より神代の血筋に近い存在にあるのかもしれません。
通説では春海が現世に戻れたのは恭也(美耶子)の力によるものですが、もしかしたら、それも含めて村の因果律に従った結果なのかもしれませんね。
あくまでも私なりの見解ですが、3番とか結構話が膨らみそうで面白いですね^^