とある二周目の垣根帝督   作:riboson

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二周目の到来と同時に、この物語は始まる。

無音の空間、その空間に音は無い。衣擦れの音も、足音も、鳥の囀りも、風の音も、何も聞こえない。静寂が支配する虚無の空間。その中でその声は、異様なまでに響いた。声にしては異質なそれは、虚無の空間の中でただ広がる。壁は愚か最果てすらも無いその空間、反響しない筈のその空間において、その声は異常なまでに大きく大きく鳴り響いた。

 

 

 

「神の命により、生死の扉は開く」

 

 

 

声を発するは神。この世の創造者にして概念的且つ絶対的たる存在。神がそう言うと、たちまち虚無の空間に光が射す。まばゆき一筋の光、目を潰されそうな程に猛烈なそれは、煌々と輝いて自らの存在を主張する。垣根帝督の持つ白い翼だって、太陽の光だって、こうも白くは光らないだろう。それ程がまでに、その光は鮮烈で強烈で煌びやかだった。それはもう、畏怖すら感じるくらいに。

 

こひゅ、なんて引き攣った音がした。息を呑む音。垣根帝督はその光の前で、ただひたすらに驚愕していた。人の身でありながら神の力の片鱗を目にした垣根帝督は、あまりの次元の違いに戦慄し、そして恐怖する。何度も生唾を飲み込むがしかし、驚愕故の喉の渇きは解消されそうもない。圧倒的な力の差を感じた。感じさせられ、見せつけられた。ここまで圧倒的な力の差を感じたことはあっただろうか。いや、絶対に無いだろう。まるで百獣の王の前に這い蹲る蟻のような気分だ。垣根帝督は絶対的な力を前にして、そんな錯覚までもを覚える。

 

世間一般からしてみれば、垣根帝督は強い。世界唯一の超能力開発機関、学園都市の序列第二位。この世界には存在しない筈の素粒子、未現物質を生成する能力を持つ化け物。アレイスターが動かす駒の一つ、スペアプラン。最強たる男一方通行の、唯一無二の代替品。そんな、本来ならば無敵を誇るくらいに強い男はしかし、その力を前にして平伏すほか無かった。何せ、圧倒的過ぎるのだ。

 

学園都市最強を誇るメインプラン、一方通行。奴の背中から迸る闇の塊、もとい黒翼を見た時だって、力の差は感じた。奴がメインプランで自分がスペアプランだということに納得したし、同時に今の自分では絶対に勝てないと思った。何で奴と自分の間にはこんな差があるんだ、なんて軽い絶望と落胆を覚えたりもした。だが今回のそれは、最早度合いが違う。一方通行と垣根帝督の間には壁がある。だがそれは、絶対的で絶望的な壁ではない。世界を塗り替えた時の、あの時の力を持ってすれば、おそらく垣根帝督は一方通行並ぶ実力を持ち得る筈だ。彼等二人の実力差は、今やさして開いていない。垣根帝督はそう推察している。実際、その推察はあながち間違っていない。

 

ーーだが。目の前のこの景観の、この力の、この光の、絶対性と圧倒性と特異性と異常性は。一方通行のそれとすらも、嘗て世界を塗り替えた時の垣根帝督のそれとすらも、まるで格が違う。圧倒的で絶対的な力の差、そして超えられない壁。先程まで普通に会話していた筈の対象との間に、垣根帝督はそんな差や壁を感じてしまう。勝てない、超えられない。それは直感であり確信であり事実だった。いいや、最早勝てる勝てないの問題ですらも無いのだろう。相手はこの世界の根幹で創造主で概念なのだから。その気になれば、垣根帝督という存在自体を消すこととて容易な筈だ。何とも絶望的で悲哀的で圧倒的で巨大な力の差。垣根帝督はそれを前にして押し黙る。今迄の自分の常識の全てを崩された気分になった。

 

「私の力はかなり強大でね。見る者は大抵震え上がり、驚愕し、そして恐怖するものだよ。人間にとって恐怖は危険を避ける上で必要不可欠な感情だから、当然の反応なのだがね」

 

 

神は悠然とした声でそう語る。相も変わらず人間のそれとは掛け離れた異様な声で、神は言葉を紡ぐ。体が靄で実体が無いため表情は窺い知れないが、その声は何だか笑っている様に響いた。声なのか音の連続なのか判別付かぬそれは、まるで笑みを含んでいるかのように聞こえた。

 

 

「だが例外はいるものさ。私の力の全てを打ち消してしまう、何とも規格外の例外は、確かにいるんだ。……嗚呼。いつ思い返しても、やはり彼は面白い」

 

 

歓喜に打ち震えるような声で、神は言った。まるで宝物を愛でるように、精一杯の喜びと興奮と嬉しさを詰め込んだような声で、神はそう述べた。嘆願するように、震えるように、感極まったように、叫ぶように、神は言った。

 

垣根帝督は疑問を持つ。神の力は圧倒的だ。それはその力を前にしたからよく分かる。だから垣根帝督は神に問いかける。驚愕故に見開いた目を一度伏せ、押し黙ろうと頑なに閉じた口を無理矢理にこじ開け。そして垣根帝督は問いかける。震える喉を無理矢理正常にして、垣根帝督は絞るように言葉を紡ぐ。

 

 

「神の力を打ち消す、なんてありえねぇだろ。……何者なんだよ、そいつ」

 

 

目の前の神は途轍もなく絶対的な存在である。それはその力を目にした垣根帝督が一番良く分かっている。あの黒い闇を噴出させた一方通行でも、世界を塗り替えた時の自分でも、きっとあの力には対抗出来ない。それは双方の力を体感した垣根帝督の、客観的な感想だった。ではその途轍もなく絶対的な存在である神の『力を打ち消してしまう』彼とやらは、一体全体何者だというのか。正直、疑問でしかなかった。

 

 

「気になるかい垣根帝督。そうだろうね、気になるだろうね。力を求める君ならば。だがまあ、今の君はまだ知らなくていい人間さ。彼と私が出会ったのは、こことはまた違う世界軸でのお話なのだから」

 

違う世界軸、この言葉について少し補足をしておこう。世界は様々な可能性、及び選択肢によって無数に分岐している。例えば、鉛筆を倒した場合。いずれかの方向に極端に傾いた状態で倒す、倒した途端全てを薙ぎ倒す程の強風が吹き付ける、等の特殊条件は付いていない。この場合、鉛筆はどの方向にも倒れうる。すると鉛筆が右に倒れた世界A、左に倒れた世界B、奇跡的に倒れずバランスを保った世界C等複数の世界が派生、及び分岐する。そして何億何兆那由多無限もの可能性に分岐した世界の全てを観測して管理する存在、それがこの神なのだ。……まあ、ここまではいいだろう。ここまでは垣根帝督だって理解している筈だ。だが、問題はその先だ。

 

 

「尚更納得出来ねぇな。テメェがありとあらゆる世界を監修するとんでもない存在だってのは分かった。……分かったが、そのとんでもねぇ存在の力を打ち消してしまう彼とやらは、じゃあ一体何者なんだって話だろうが」

 

 

垣根帝督の問いに、神は答える。僅かに逡巡するような間をとって、それから神は意味ありげに返答する。

 

 

「……君は知らなくていい。まだ、ね」

 

 

ここである少年の話をしよう。垣根帝督は未だ知る由も無い、一人の少年の話を。……上条当麻というヒーローがいる。右手に特殊な力を持つ、物語の真なる主人公。その正義感は異常なまでに強く、他を自より優先することに何の疑問も持たない。異質なまでの正義感を携えた、救済者に成るべくして生まれたような少年。それが上条当麻。

 

彼の持つ力は至ってシンプル。『右手で触れるだけであらゆる異能を消し飛ばす』という、単純明快且つ強力な能力。その異能の規模は関係無い。それが神の起こす奇跡でも地球を滅ぼす規模の能力でも全てを書き換える力でも。異能ならば彼は全てを打ち消すことができる。その能力の名を、『幻想殺し』。その力は文字通り、あらゆる幻想を打ち砕いて消し飛ばす。

 

 

「……ふふ、まあここら辺りで閑話休題といこうじゃないか。たとえ今の君が彼を知らずとも、君が世界を生き抜くのであれば。何れは彼と交差する時が来るよ。何れ、必ずね」

 

 

神はそう断言する。事実だから、そう断言する。上条当麻はヒーローだから、必ずや災禍に飛び込む性質を持つ。不幸であるが故に、必ずや災禍に巻き込まれてしまう。よて。垣根帝督が世界で戦い続ければ、何れ垣根帝督と上条当麻は交差する事になる。何らかの災禍の中で、何れ必ず。

 

 

 

 

「だから安心して二周目に突入したまえ。応援しているよ? 垣根帝督」

 

 

 

 

神が愉快げにそう言うと、世界は反転した。文字通り、反転したのだ。ぐるぐるぐるぐる。虚無の空間が反転する。回って廻って周ってまわってマワって、そしてマワル。上が下になって下が上になって右が左になって左が右になって、そして分からなくなる。上が上なのか下が下なのか右が右なのか左が左なのか、さっぱり分からなくなる。全ては反転し、逆になり、逆さまになり、反対になる。嘗て上と呼ばれていた方向が今、上なのか下なのか右なのか左なのか、分からなくなる。全部全て何もかも、分からなくなる。

 

 

 

 

「ふふ、人というのは誠に面白い物を作る。げえむ、だったか。仮想空間に於けるもう一人の自分を形成し、それを操作。ひとときのみ現実から離れた新しい世界を垣間見ることが出来るようになる。何ともまあ人間らしいと言うか、不完全らしいと言うか」

 

 

 

 

光は闇になって闇は光になって生は死になって死は生になって。そんな異常な空間の中で。全てが反転して廻って逆になって狂って歪んでしまった空間の中で、神は平然と悠然と普段通りに楽しげに優しげにそう語る。まるで拾った子猫にでも語り掛けるように、十年来の友人と会話するように、近所の人におはようの挨拶をするように。驚くがまでに平常な様子で、神は垣根帝督に語り掛ける。異常な空間の中で、平常に神は語る。

 

 

 

 

「かくいう私も、少々のめり込んでしまった。矢張り仮想……IFの世界というものは面白い。実際に無きことまでもが、ありえないことまでもが起こりうる。中々に面白い娯楽だったよ。それで、その中で特に面白かったげえむがあってね」

 

 

 

 

重力が異常なまでに強まった。みしみしみし。鋼鉄すらも押し潰す位に強い重力が、その空間内でのみのしかかる。空気が薄くなる。薄くなって薄くなって、最後には無くなってしまう。景色が歪む。歪んで歪んでぐにゃぐにゃして。全部曲がって何もかもが分からなくなってしまう。何だか視界が混雑して混乱してぐちゃぐちゃする。それから凡ゆる物が捻じ曲がってゆらゆらする。ぐにゃぐにゃして、ぐちゃぐちゃして、それでゆらゆらする。

 

その面白いげえむの中にね、生き返るシーンがあるんだ。そうそう、こんな台詞だったかな。この台詞とともに蘇生魔法をかけると、勇者は生き返るのさ。神がくすくすと、笑い混じりにそう言った。蘇生魔法、勇者。聞き覚えのある単語から推測するに、きっと何処ぞのロールプレイングゲームにでも感化されたのだろう。何とも俗世的なことで。内心でそう毒付くが、声には出さなかった。と言うか、出せなかった。神以外の生物は声を出すことが出来ない。今この空間は、そういう風に設定されてそういう風に定義されているからだ。そういう風につくられているからだ。本当に、規格外の力である。

 

 

 

 

「おお、かきねよ。しんでしまうとはなさけない。だがきさまはせかいのるーるをぬりかえた。よって、ここでしぬにはおしいじんざい。だからとくべつに、いきかえらせてやろう」

 

 

 

何ともテンプレじみた台詞が、ゲームを嗜む者ならば一度や二度は見聞きするであろう台詞が、空間の中でただひたすらに響いた。ぐわんぐわん。鼓膜がおかしくなりそうだ。神の発する声なのか音の連なりなのかよく分からないそれ、響いて響いて響く。無いはずの壁にぶつかって反響し、音同士でぶつかって反響し。反響して反響して反響して、そしてその声は耳へ、突き刺すように入ってくる。何とも気分が悪くなりそうだ。

 

ーーシュィィィィィ……。空気が抜けるような、炭酸水を入れたペットボトルの蓋を開けた時のような音がした。そしてその音と同時に、画面が現れた。空間の中、唐突にその画面は現れた。青い縁によって囲まれた青みを帯びた画面に、厚みは無かった。その画面は、宙に浮いていた。画面には、白い文字でこう記されていた。

 

 

二周目を開始しますか?

▷はい

▷Yes

 

 

 

『二周目』という言葉を使う辺り、テメェ俺の人生をゲーム程度にしか考えてねぇだろ、とか。どっちを選んでも変わらねぇじゃねぇかよ、とか。冷静にその画面を見れば、きっと言いたいことは沢山あったに違いない。だが垣根帝督はそれを言わなかった。言う余裕がなかった。垣根帝督は必死だった。未練があった。やれていなくて、それでいてやりたいことが沢山あった。無我夢中に、普段の冷静さを捨て去って、垣根帝督は全力でそのボタンを押した。

 

ポチッ。重い覚悟に反して、軽快な音が鳴り響いた。上下どちらのボタンを押したかは覚えていない。それくらい必死だったのだ。まあどちらのボタンを押したところで、何ら変わりはないだろう。Yesとはいは同じなのだから。

 

 

 

 

「テッテレー。おめでとうございます、垣根帝督は生き返りました。セーブデータを更新します。……これより、垣根帝督の二周目は始まる。二度目は死なないよう、精一杯愉快に無様に足掻いてくれよ。期待しているさ、垣根帝督」

 

 

 

 

馬鹿にするような声色だった。嘲るような声色だった。そんな悠然として、それでいて皮肉げな声色で神は言葉を発した。だがそれに苛立つ余裕も、皮肉を返す余裕も、垣根帝督には無い。

 

ぴかぴか。虚無たる空間は色付き、黒に白に赤に黄色に移り変わっていく。点滅し、また別の色になり、また点滅し、またまた別の色になり、それを繰り返す。何とも目に悪そうだ。頭が痛くなってくる。ぐるぐるぐるぐる。回る。全部回る。ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。全部歪んで、全部変わる。世界は、変化する。反転、する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーープチッ、………。視界がシャットダウンした。黒で塗り潰されて、真っ暗になった。音が無くなって、何も聞こえなくなった。思考が遮断されて、何も考えられなくなった。テレビのスイッチを切った時のように、ぷつりと何かが切れたような感じがした。体に力が入らなくなって、気怠さに包まれた。垣根帝督の意識は、そこで途切れた。





あらすじ回収&上条さん登場フラグ&世界軸の仕組み説明(何でこの世界は原作と違っているのか)&序章終了
メタい所を詰めた感じになるので大して話は進んでいない……多少はご愛嬌でお願いね?
話の進み方自体は決まってたけど何処まで描写するかで割と迷った形

一応警告をかけておきましょう
次から二周目入る訳なのですが、垣根帝督の過去は原作に於いて開示されておりません
まあ要するに捏造入りますのでご注意を
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