とある二周目の垣根帝督   作:riboson

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一章『ニ周目ガ始マリマシタ。ドウゾ最良ノ人生ヲ歩ンデクダサイ』
過去編①分岐点


『好きの反対は無関心』、こんな言葉がある。皆様はこれを聞いたことがあるだろうか。……恐らくはあるだろう。そこそこ有名な言葉で、しかも結構的を射ているのだから。なあに、なんということはない。よくある話である。最たる例を挙げるとするならば、小学生男子が同学年の小学生女子をいじめるあれ。あれは大抵の場合、敵意ではなく好意から行なっていることなのだ。構ってほしいがそれを伝える言葉が不明瞭で、そうであるが故にあの様な形でしか表せない。だからああして嫌いなフリをして、いじめてしまうのだ。

 

垣根帝督の母親は、彼に好きの反対の感情を抱いていた。もっと直接的に言うのであれば、彼女は垣根帝督に対して無関心で無頓着で無干渉だった。言葉もかけず、触れず、好意どころか悪意や敵意すらも浴びせない。好き嫌いどうこう以前の問題だった。そもそも興味からして無いのだ。彼女にとって彼とは、路傍の石ころのような存在に過ぎなかったのだ。

 

でも世話はちゃんとした。母性故でもなく、愛情故でもなく、死なせてしまうと犯罪者になってしまうからだ。子を放置して餓死させてしまえば、当然それは罪となり、逮捕されてしまう。そうすれば彼女は社会的な死を迎えてしまうだろう。職を奪われ、ありとあらゆる交友関係を失ってしまう。世間の批判も受けてしまう。だから彼女は垣根帝督に最低限の食事を与えることで死なせず、かといって育てもしなかった。

 

彼女の家には常に三人の男が出入りしていた。また、三人が三人とも彼女の恋人であった。言ってしまえば、彼女は二股どころか三股をしていたのだ。正に外道の極みといったところだろうか。

 

一人目の男は彼女の最初の恋人だった。誠実な男で、見てくれは綺麗な彼女のことを清楚な女性だと信じてやまず、他に男がいるなど一ミリも考えていなかったらしい。だから彼女の真の男女関係に気がついた時は、半狂乱になって家のガラスをパリンパリンと割って回っていた。

 

二人目の男は思い込みが激しかった。彼女は男の運命の相手であると信じてやまず、彼女に幾万もの金を費やした。要するに貢いでいた。金だけは大量にあるから、来るたびに札束を彼女に渡し、そうすることで彼女の愛を得ていた。自分が遊び相手の一人としか思われていないとも知らずに、いやはや悲しい関係である。彼女のぽっこりと膨らんだ腹を見た時は自分と彼女の愛の証だと信じて疑わず、彼女に絶対産んでくれと土下座をし、産んだ際には百万円支払うことまで保障したらしい。この男のせいで彼女は、堕胎するという選択肢を失ってしまったと言う訳だ。

 

三人目の男はホストだった。金色が混じった茶色の髪の毛をし、赤いスーツに身を包んでいた。まるで何処かの誰かを思わせる出で立ちである。そして彼は、彼女の本命の男でもあった。恐らくは整った容姿と引き込まれるような話術が主な要因だろう。彼女はその男に惚れ、二人目の男に貰っていた金をそのままに貢いでいた。しかし男の方は彼女のことを金ヅル程度にしか思っておらず、よって彼女に金をせびっては受け取り、せびっては受け取って彼女を搾取し続けていた。

 

幼いながらも垣根帝督は聡明な子供だった。母親に言葉すら教えられなかった彼だが、仮にも後に学園都市第二位になる男だ。母親とその恋人の会話から言葉を覚えることなど余裕だった。いつしか、幼き日の垣根帝督は悟った。外にすら出して貰えず、半ば自宅に監禁されている状態にある彼は、現実を悟ってしまった。……母親がいて、三人の男がいる。男の内一人は母親に搾取されていて、男の内一人は母親を搾取している。これが自分の小さな世界で、そして現実なのだ、と。

 

幼き日の彼の小さな世界、その頂点に立っていたのは、ホストの男だった。一人の男を支配する母親を支配するホストの男が、彼の世界の中の頂点だった。彼は小さな世界の頂点を知り、そして同時に思った。支配する側になりたい、母親や母親に搾取される男、あちら側にはなりたくない。二番目以降になりたくない、あらゆる面であらゆる人間の一番になりたい、と。そしてその時の思いは、後の彼の人格形成に大きな影響をもたらす事になる。余談だが、彼はホストの男と同じような格好をする事で彼に自分を重ね、そうして自分は支配する側の人間であると思い込んでいたとかいなかったとか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

転生前の記憶が戻ってきたのは、物心がついた頃のことだった。神が意図してそのタイミングで戻したのだろう。尤も、着替えやオムツの履き替えまで他人の手を必要とする赤子時代。あれを精神年齢15歳以上の状態で過ごすなど、とんだ苦難だ。母親との赤ちゃんプレイなんてマニアックにも程がある。それを回避出来たのだから、その点に関しては神に感謝しないといけないだろう。するつもりはないけれど。

 

物心がつくとされる年齢は、人によって様々である。ニ歳でつくという人もいれば、小学校低学年くらいでつくという人もいる。だが一般的には三、四歳くらいが普通だろう。だから垣根帝督は、現在の自分の年齢を三歳と推測した。母親に聞いたところで、彼女は子の年齢など覚えていないだろうから、こうして自分で推測するほか無いのだ。

 

自分に無関心な母親は、今の垣根帝督にとってかなり都合の良い存在だった。何せ推定三歳の子供が異常なまでに発達した知能を発揮していても何も疑問に思わない。だから転生した事情だの知能だのを隠す言動が必要なくなるのだ。まあ、今の垣根帝督に限らず、一周目の垣根帝督にとっても、彼女は都合の良い存在であったと言える。何せ彼女は垣根帝督の目の前で搾取する側される側という世界の現実を繰り広げ、彼を悟らせてくれた。その上金を巻き上げ巻き上げられることで人間がいかに信用出来ないかを見せつけ、彼に人間への不信感を抱かせてくれた。果てには置き去りと言う形ではあるが、彼を学園都市に送りつけてくれた。彼に未元物質を掴ませてくれた。もう本当に、彼女には感謝の情しか無い。

 

 

◇◇◇

 

 

見慣れた街並み。日本の中でも最先端を行くその街は、いつもの風景で彼を出迎えた。くるくると回る白い風車は、どこか懐かしさを醸し出す。ただいま、学園都市。垣根帝督はしみったれた感傷に身を任せ、久々に見る街に思いを馳せた……なんてことはなかった。十年以上の間過ごしてきた思い出深い街と言えば聞こえは良いが、さんざムカついた街、クソったれた街、薄汚いゴミ野郎が仕切る街だ。良き思い出なんてほぼほぼ無いどころか、全くもって存在しない。

 

学園都市に連れていかれた置き去りの末路は、非人道的実験に使われるモルモットだ。大っぴらには公開出来ない、例えば脳を分割する実験だとか、他の人格を強制的に植え付けるだとか、能力を意図的に暴走させるだとか。そんな狂った実験の被験者になるのがオチだ。稀に生まれる高位能力者だけが、この末路を回避出来る。……尤も、回避出来た所で実験材料になるか暗部に行くかの二択だ。どれにしたって碌な死に方は出来たものじゃない。

 

現在、垣根帝督は研究所にいる。二回目ともあって、当然ながら既視感のある光景だ。入ってからはまず、記憶力や計算能力のテストのようなものをやらされた。片手間でやったが恐らくは満点だろう。それが終わったら白い椅子に座らされた。椅子の近くには如何にも高そうな、血圧や熱のデータを採るための機械。それと、部屋の四隅には中心を映すようにカメラが四台。これは恐らく監視用か。

 

 

「痛いけど、我慢してね」

 

 

白衣を着た中年の女性が、優しげに声を掛けてきた。返答代わりにこくりと頷くと、その右手に握られた注射が右肘に突き刺さる。そしてそれはずぶずぶと肌の中を進んでいった。多少の痛みに顔を顰めるがしかし、針の進行が止まる事はない。

 

 

「終わったよ」

 

 

よく耐えたね、良い子良い子。女性研究員が垣根帝督の頭上に手を置き、何度も往復させる。撫でられたのだと気が付くのには、少々の時間を要した。一周目でもそうだったな、と思い出す。やはり、撫でられるというのは不思議な感覚だ。

 

まだ痛みの残る部分にガーゼが当てられた。消毒液特有のつんとした匂いが鼻腔を撫ぜると同時に、じくじくとした痛みが湧いてくる。死の痛みを体験したとはいえ、やはり痛いものは痛い。彼はそのことを実感し、それから思考を移した。

 

 

(これで投薬は終わった、となると次は……)

 

 

能力を植え付ける為には、段階が幾つか必要になる。頭脳の発達促進、記憶力計算能力増加、投薬、etc……。そして今の投薬は最終段階の作業だった。記憶と照らし合わせたから、まず間違いない。つまりこれで垣根帝督は、能力もとい未元物質を得たことになる。となれば次にやる事は……

 

 

「次は能力測定よ。着いてきて」

 

 

何とも既視感のある台詞だった。それもそうだ。これを聞くのは二回目なのだから。垣根帝督は女性研究員に促されて着いて行くと同時に、思考する。

 

 

(この場面において、俺には三つの選択肢がある)

 

 

三つの選択肢一つ目、素直に自分の能力を引き出す。要するに1周目と同じようにする。ただ未元物質を学園都市に渡すことになってしまうのが気に食わない。二つ目、能力を隠蔽して無能力者のフリをする。測定機器を誤魔化すくらいなら造作も無いし、何より能力を研究されずに済む。但し非人道的実験のモルモット確定になってしまうが。三つ目、能力を発動させ、そのまま研究所を破壊して逃走する。憂さ晴らしになるし能力を研究されずに済むが、後先が心配。

 

 

(どうすっかなぁ……)

 

 

正味碌な選択肢が無い。一つ目なら暗部落ちコース、二つ目なら完全死亡モルモットコース、三つ目なら逃亡者コースだ。良い末路は迎えられそうも無い。果てさてどうしたものか。脳内に選択肢が浮かんでは消え、浮かんでは消える。

 

 

(多分、此処は一種の分岐点になっている筈だ)

 

 

神はこのニ周目をゲームのように表現した。セーブデータの更新、勇者、蘇生。そこから推定するに恐らく、世界はゲームのように出来ている。良い選択肢を選べば良い人生に、悪い選択肢を選べば悪い選択肢にいくように出来ている。だから人間は、あの時ああすればこうすればなどと後悔するのだ。

 

ゲームには分岐が存在する。正しい選択肢を選べばハッピーエンドに近づき、間違った選択肢を選べばバッドエンドに近付く。そういう風に出来ている。そしてこの場面は恐らく、垣根帝督の人生における分岐点だ。間違った選択肢を選べばバッドエンド、一周目と同じく一方通行に殺されてしまう。正しい選択肢を選べばハッピーエンド、一方通行を撃破しメインプランの座とアレイスターとの直接交渉権を得られる。彼はそう判断した。

 

 

(学園都市に行き着き、能力開発を受けるまでは既定路線と考えて良い。

そしてこの分岐には、今後の学園都市での生き方が掛かっている……)

 

 

ともすると、これは非常に重要な選択肢となる。慎重に決めなくてはならない。間違えるなど最早論外だ。精一杯与えられた情報を吟味し、パズルのように頭の中で組み立てる必要がある、筈なのだが……

 

 

「着いたわ。この部屋に入ってね」

 

 

思考時間というものは、こちらに与えられていないらしい。呆気なく選択する時が来てしまった。内心で焦りを覚えながらも、垣根帝督は指示通り部屋へと入る。どこもかしこも病的に白い部屋の中に、大きな測定機器が一つ置かれていた。かつかつと白いタイルの床を踏み歩き、所定の位置に付く。照明に照らされた部屋の白色は、病的なくらいにてらてらと輝いていた。機械音と共に測定機器が起動する。その後、若い女性の声に良く似た機械音声が部屋中に響いた。

 

 

 

「測定ヲ開始シマス」




前半の下りは全カットする予定だったんですけどねえ
なんかホスト服やら思想やらから過去を推定してたらハイになっちゃったんでしょうねえ
あと昼ドラばりのドロドロって書いててすげえ楽しい
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