一体、どれほどの時を待ったのであろうか。
一日? 一週間? 一ヶ月? そんなものではない。半年? いや、もっとだ。一年? 二年? 大方このぐらいなのであろう。このぐらいが実際の正しい待ち時間。
しかし、自身の感覚では十年、百年は待ったかのようであった。
それほど、時が来るのを待ち続けたのだ。
あの時、私は生きることを選択した。戦って戦って戦い抜いた果ての潔い死ではなく、生きて生きて生き抜いた果ての恥を選んだ。
確かに死よりも生を選んだからといって、普通はそれを恥とは言わないだろう。寧ろ当たり前の正しい選択なのである。だが、私にとってはあの場で死よりも生を取ったことは恥だったのだ。
最初は死を選ぶつもりであった。
私を指揮していた提督は戦死し、多くの同胞たちも海へと散っていった。だから座して死を待つよりは、武人として、軍人としての最後を迎え、死んでいった同胞たちの下へと行こうと決意したのだ。
その決意は、一人の同胞の手によって変えられた。私と共に生きる道を選んだ同胞は、こんなことを言っていた筈である。
ここで死を選ぶことは軍人としての道ではない。何かを得られる行為でも、軍人としての誇りを守れることでもない。ここは逃げるべきだ。生きるために逃げるべきだ。生きてさえいれば、やれること、やるべきことはたくさんある。今日の屈辱を晴らすことが、死んでいった同胞たちの無念を晴らすことができる。けれど、一時の自己満足のために死んでしまえばそれらのことはできない。だから生きるべきだ。どうしても死ぬと言うのならば、やることをやってから死んでも何も問題は無い。
これを聞いた時、まさに天啓が下ったかのような気分になった。これらの言葉が正しいのかどうかは分からないが、私は正しいことだと受け取った。
多くの同胞たちの無念を晴らす。
特にこの言葉を胸に、一時の恥を選んだのである。
同胞たちの無念を晴らすその時まで、一時の恥を、生き恥を晒すことを誓ったのだ。
それから面壁九年の思いを貫き、その時が来るまで待ち続けた。逸る気持ちを抑え、今か今かと待ち望む日々。
そしてついに来たのだ。待ちに待ったその時が。
今、私は懐かしい海を見ている。群青色で見る者を魅了する我が故郷。同じ釜の飯を食した、私が慕い、私を慕った数多の同胞たちが眠っている海だ。
私の視界には、故郷へと帰って来た私を歓迎するように、群青色を怨念の漆黒に染めて現れる怪物たち。こうして対峙することをどれほど夢見たことであろうか。
怨恨渦巻く青き世界に、再び秩序と平和を取り戻すために。
同胞たちの安らかなる眠りを妨げる悪しきモノどもを、我が正義の剣をもって斬り払うために。
軍人としての我が責務を果たすために。
帰って来たのだ!
この海に!
「ソロモンよ、私は――」