エピローグ
「終わりましたね」
響が呟いた。夕立の隣で並走する彼女は、戦いで傷つき動けなくなった艦娘の一人が寄りかかっている。そしてそれは響に限ったことではない。
ソロモンの深海棲艦本隊を討ち破った夕立らは、休むことなく武蔵らと合流。それから鎮守府への帰路につく。因みに武蔵らの方の深海棲艦は、突如として蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったらしい。北上が言った通り、飛行場姫を討ち取ったから逃げて行ったのだろう。
「大激戦だったな、骨が折れたぞ」
「誰も死んでないって奇跡だね。ラッキーだよ、まったく」
「あー、疲れた。今日はもう休みたい」
武蔵、北上、長良が口々に言う。
だが夕立は何も聞いていない。響の呟きも武蔵たちの言葉も何も聞いていなかった。彼女は勝利の余韻に浸っていた。やり切った爽快さが全身をひた走り、その心地良い気持ちに満たされていたのである。
「これで散って行った同胞たちも、いくらか報われるであろう。私の二年間は無駄ではなかったのだ」
俯けが透き通るような海、見上げれば抜けるように青い空、まったく清々しい。
やがて、夕立たちの視界に鎮守府が入って来た。鎮守府が見えて来ると、艦娘たちは安堵の息をつく。帰って来たという思いが胸いっぱいに広がった。
さらに近付いていくと、埠頭に大勢の人影が見えて来る。岩峰や加賀と言った鎮守府の留守を預かっていた者たちだ。
夕立は自分でも気付かない内に明石の姿を探した。
埠頭の方でも夕立たちの帰還に気付き、ドッと盛り上がる。それから明石も夕立の姿を探し始め、お互い同じ瞬間に姿を認めた。
「明石……」
フッと夕立は微笑む。
数瞬後、岩峰が明石に声を掛けて、夕張が肩を押す光景が見られた。あわあわと慌てながら明石は海の上に足をつける。そしてスッと夕立の方に近寄って来た。
明石は夕立の前まで進むと止まってから、もじもじと太ももをすり合わせる。こうやって来たは良いものの、何と言えば良いのかというところか。
先に口を開いたのは夕立だった。
「出迎え大義」
すると、明石は急にぽろぽろと涙を零し始めた。頬を伝い落ちては、海の一部となって流れ行く。そして涙が流れるように、言葉を紡ぎ出した。
「心配だったの。貴女が本当に帰って来てくれるか、私は不安で堪らなかった。夢で見たのよ、貴女が死んじゃうのを。だから、だから私――」
これ以上は言わせない、いや、言う必要はないとばかりに、夕立は明石の言葉を遮って、力強く言った。
「明石よ、私は帰って来た!」
その言葉で明石は一度、二度と頷き、涙を拭う。だが、涙は一向に止まらないばかりか、激しくなった。次第にふるふると震え始め、最後にはガバッと夕立を抱きしめる。
夕立も動く左腕を明石の背中に回す。
互いの呼吸が聞こえるほどに、しっかと二人は抱き合った。
(私の悲願は成就された。ソロモンの海を取り戻したのだ。しかし、これで終わりではない……これからだ。私はこれからなのだ! 次はソロモン以外の全海域を取り戻す。そして平和が訪れた暁には……)
胸に込み上げて来る熱いもの。
夕立はその熱に促されるままに、明石を抱く腕の力をいっそう強めるのであった。
これで完結となります。
読者の方々は応援ありがとうございました。もう少し膨らませようとも思いましたが、それでグダってエターナルしちゃうよりは、さっぱりと書き上げた方が良いと判断して、このような終わりにしました。
とにもかくにも、完結。読者の方々、本当にありがとうございました。