やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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前回との雰囲気の違いが半端じゃないです。


悲劇

神へファイストスと人格を宿した剣と出会ってから、すでに1週間が経過した。

 

ハチマンとコマチは二人でダンジョンの8階層まで来ていた。

まだ幼いハチマンとコマチに色んな知識を与えてくれるリヴェリアから、『もう8階層までなら行っていい』と許可を得たため、ヴァリスを稼ぎに来たというわけである。

 

「8階層だとどれくらい稼げるんだろうな」

「4階層までで20000ヴァリス。6階層までで40000ヴァリスだから60000ヴァリス稼げるんじゃないかな?」

「小町がそこまで考えてるなんて・・・お兄ちゃんうれしいよ」

「あー!またバカにしたなー!このアホ、ボケナス、ハチマン!」

「だから最後は俺の名前なんだけど……悪口じゃないからね」

 

二人で談笑しながら階層内を歩いていた。

 

 

***

 

 

「あ、『ウォーシャドウ』が出たぞ」

「ホントだ。デカイね」

 

しばらく歩いていると、一体の『ウォーシャドウ』と遭遇した。

『ウォーシャドウ』と言えば、新米冒険者の最初の壁となるモンスターだ。

体長はでかく、ハチマン(12歳)の2倍以上はある。

 

だが、この二人は一切恐れていなかった。特にハチマン。

 

『ゥゥゥ!』

 

『ウォーシャドウ』は先制攻撃とばかりにその巨大な腕を振るってくる。当たればかなりのダメージを受けるであろう一撃だ。

……当たればの話だが。

 

「遅いな」ヒュ

「うりゃあ!!」ブン

『オゥ!?』

 

ハチマンはその攻撃を少しばかり身体を捻ってかわした。

その隙にコマチが下にもぐりこみ、ナイフで攻撃する。

 

『ガァ・・』

「ありゃ?やっぱり効かないや」

 

コマチの攻撃は当たったが、得物であるナイフの威力では掠り傷を負わせることしかできなかったのである。

 

「【悪夢(ナイトメア)】」

 

『ウォーシャドウ』がその場から動かないことを好機とばかりに、ハチマンは魔法を唱える。

そして黒いもやを全身に纏い、コマチにもわける。

あとは倒すだけだ。

 

「ふっ!」

『グワッッ!!』

「うらぁー!」

『ウゥ・・・・グホ・・・・』

「止めだ」

 

ハチマンのもやの纏ったナイフの一撃で『ウォーシャドウ』は灰へと還り、魔石を落としていった。

 

「よし、終了だな」

「はぁ、どうしてお兄ちゃんはそんなに冷静なの?」

「ん?」

「いや、普通モンスターと出会ったりとか戦ったりする時怖くないの?コマチはたまに少し怖いときもあるんだけど」

「……たった一人の強者がいたところでは痛くも痒くもない。さっきみたいなな」

「怖いのはなに?」

「数だ。それも圧倒的な数。これはたった一人強い人がいても無駄だ」

「へー……そうなんだー」

「棒読みがスゲエぞ」

 

コマチの棒読みには呆れるしかないが、俺の持論は多分間違っていないはずだ。

魔石を回収しながら話しかける。

 

「仲間と言えば……『キラーアント』に出会わないな」

「確かにそうだね」

 

『キラーアント』

 

7階層あたりから出没するモンスターで、リヴェリア達との事前学習では注意を促された。

『キラーアント』は一体一体のポテンシャルはそこまで高くはないが、恐ろしいところは死んだあとにまき散らす臭いで、仲間を呼び寄せるやっかいなモンスターだ。

さっきハチマンが言っていた数で攻めるモンスターでもある。

 

「と思っていたら……」

「『キラーアント』見っけ」

「うわあ」

 

二人がうめき声を上げた。

何故なら10匹を超える『キラーアント』がこっちを観ているから。

 

「ま、いいや。戦闘開始だコマチ」

「おっけー☆」

 

 

 

***

 

 

「はぁ、はぁ、ふぅ。これくらいか?」

「はぁ、はぁ、はぁ」

「大丈夫かよ」

「いや、ちょっとキツイから休憩しようよ」

「じゃあ休憩しようぜ」

 

二人は『キラーアント』を全部で20匹以上倒していた。

コマチは今まで一番長い戦闘だったためか、結構きつそうだった。

コマチのためにも、休憩をするために各階層を繋ぐ道へ向かっていたときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ。

 

 

 

この音が鳴り響いた。

 

「この音……」

「嘘だよね……」

 

ピキッ。ピキッ。ピキッ。ピキッ。ピキッ。

 

ダンジョンの至る所に割れ目が出来始める。

 

そして、その割れ目が完全に割れて……『オーク』が現れた。

『オーク』だけではない。

『キラーアント』もたくさん出てくる。

 

「これは……ヤバすぎるだろ」

「うわ、うわぁ」

 

気付いたら辺り一面がモンスターだらけとなっていた。

モンスターの数は最低でも50は存在するだろう。

 

「これ異常事態(イレギュラー)だろ・・・」

「お、お兄ちゃん」

 

さて、どうするか。

普通ならば逃げるのが先決だろう。俺もそうしたいところだ。

だがさっきの戦闘での疲れからか、俺もコマチも逃げ切れる気がしない。

しかし、ここで戦うのも無謀だ。

 

そして俺は決断した。

 

「小町、聞いてくれ」

「うん」

「俺は今からここにいるモンスターをすべて殺る。その間コマチは頑張って敵の攻撃を防いでいてくれ」

「お兄ちゃんを信じるよ」

「ありがとな」

 

俺は、俺達は戦うことを選んだ。

 

 

***

 

「ああっ!」

『グゥ!?』

「がぁぁぁ!!」

『ゲフッ!?』

「だあああ!!」

『ゴォォォォォ!?』

 

倒す、倒す、倒す!

 

「うらああああ!!」

 

倒す、倒すんだ!

 

「はああああああああああ!!」

 

倒さなければ、全滅させなければ!!!

 

「うおおおおおおおおおッッ!!」

『ギャアアアアアス!?』

「よし、これで半分だ!コマチは……えっ?」

 

あふれ出たモンスターの半分を駆逐し、コマチの一旦の姿を確認した時だった。

コマチが―――――――血を流しながら倒れ込んだ。

周りには多くのモンスターが群がっている。

 

「お、おい……嘘だろぉ」

 

ハチマンの口から乾いた声がこぼれ出す。

 

「嘘だよな……こんなの嘘に決まってる!」

 

しかし、コマチは血を流しながら倒れ込んでいる。

 

「うあ、うあ、ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

ハチマンは駆けだした。最愛の妹のもとへ。

彼女が血を流していた。倒れこんでいた。

じゃあ、助けなきゃ。救わなきゃ!

 

「コマチぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

ハチマンは周りのモンスターを無造作に葬り去りながらコマチへと近づく。

 

「お、おにい、ちゃん?」

「コマチ!?待ってろ、今助ける!」

 

コマチがまだ生きている。今はそれだけで大丈夫だ。

だが、

 

「ごめん、お兄ちゃん。約束、まもれ、なかった」

「あれは俺が悪かったんだ!コマチは何も悪くない!」

「あはは……そうかな……うええ」

「コマチ!?」

「お兄ちゃん、ごめん。意識が……」バタ

 

遠のく。

言い終わる前にコマチは意識を失った。

9歳の少女がかなりの血を吐いたのだ。当然ながら意識は失われる。

 

「コマチ、コマチ………ごめんな。不甲斐ない兄で!ごめんな!」

 

ハチマンは一人でコマチに謝る。

それがたとえ聞こえていなくとも、ハチマンはそうした。したかった。

 

「(コマチがこうなったのは俺のせいだ。俺の……判断のせいだ)」

 

それが兄として、選んだものの責任と信じて。

 

しかし、まだモンスターはたくさんいる。

彼らは八幡達を喰らおうと、ひたすら隙を窺っていた。

 

だが、それが仇となった。

もし、すぐさま飛びかかっていたら結果は変わっていただろう。

 

 

「……【我は闇と同化する者なり、我は闇を従える者なり】」

 

ハチマンは詠唱を紡ぐ。

その瞬間モンスターたちは一斉に飛びかかろうとした。したのだ。

しかし、身体が動かない。動いてくれない。

 

原因はハチマンにあった。

 

「【我は闇を得た者なり、我は闇を知る者なり】」

 

ハチマンは詠唱を紡ぎながら、目線をモンスター全員に向けていた。

その瞳は赤黒く染まっており、その瞳から凄まじい殺気があふれ出している。

モンスターたちは身じろぎ一つ出来ない。

 

「【我は闇を操りし者なり、今、我は力を振るう】!」

 

詠唱が完了したハチマンが右腕を横に振るっただけで、その軌道上にあったものが灰と化した。

両腕を振るい、残りのモンスターも同じように灰となった。

 

気付けばすべてを殺しつくしていた。

 

これを見た通りすがりの冒険者はこう語る。

 

「あれは同じ人間じゃない。人の皮を被った化物だ」と。

 

 

***

 

 

 

その後、ハチマンは【闇影(ダークシャドウ)】の力ですべての魔石を回収し、小町を抱えてダンジョンを走り抜け、そのままホームへと向かった。

 

ホームに入り、すぐさまフィンのいる執行室まで行く。

彼はすぐに対応してくれた。

団員の一人に万能薬(エリクサー)を買ってこさせ、女性団員にコマチをベットまで運ばせた。

万能薬を使い、小町は意識を取り戻した。

あと二日ほど休めば、またいつも通りに動くことが出来るそうでなによりだった。

 

 

***

 

 

ハチマンSide

 

俺は一人でオラリオの街を歩いていた。

今日はフィンや仲間達のおかげでなんとかなったが……次はどうなるかはわからない。

 

そして痛感した。

 

己の弱さを。

己の甘さを。

己の情けなさを。

 

 

……このままでいられるか。

 

 

「強く、強くなるんだ」ボソ

 

だからここに誓う。

 

「俺は……強くなって見せる」

 

そう自分に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして奇しくも今日は、オラリオにゼウスファミリアとヘラファミリアの主戦力が全滅したという一方が届けられた日だった。




急いで書いたせいか展開がいきなり過ぎました。
ちょっと回想入れます。

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