やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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ハチマンとロキとフィン視点が入れ替わりながら進みます。


想いとステイタス

コマチが助かった翌日。朝食を食べ終わった俺はロキに呼び出された。

 

 

「なんだ?」

「なんか冷たいな~もっと柔らかくしたらええのに」

「…………別にいいだろ。それより用ってなんだ?」

「ステイタスの更新しとこ思ってな。なんかモンスターの大群を倒したんやろ。絶対ステイタス上がっとるで」

「…………じゃあ頼む」

「じゃ寝転がってな」

「…………」

 

無言で衣服を捲り、ベットに寝転がるハチマン。

 

「(確かに二日前より雰囲気がちゃうなぁ)」

 

二日前までのハチマンはまだ幼げがあったが、今ではすっかりなりをひそめている。

 

「さて、更新やな~」

 

ロキは慣れた手つきで恩恵(ファルナ)を更新していく。

 

「でステイタスは…………これは!?」

「……………どうだ?」

 

 

ハチマン・ヒキガヤ

Lv.1

 

 力:F346→E400

耐久:I29→I40

器用:D638→D651

敏捷:C716→C731

魔力:A840→S940

 

 

《魔法》

 

悪夢(ナイトメア)

・付与魔法

・補助魔法

 

闇影(ダークシャドウ)

・闇を完全に支配できる

・詠唱式【我は闇と同化するものなり 我は闇を従える者なり】

・詠唱連結。詠唱は本人の感情により、怒りの場合は眼が赤黒く染まる

・闇を形作ることであらゆるものを形成できる。また、消し去ることが出来る。

 

自己犠牲(サクリファイス)

・特定の味方が受けるダメージを肩代わり出来る

・詠唱式【我は庇いたい 彼の者の苦痛は我に与えられよ】

・-------------------------

 

《スキル》

 

闇の加護(ダークブレス)

・闇影の一部を意識することで使用可能

・戦闘時における魔力アビリティの高補正

・-------------------------

 

強者願望(シュタルクノゥト)

・早熟する

・想いが続く限り効果持続

・想いの丈により効果向上

 

 

「(また新しい魔法にスキル!?それに闇影の空白部分が埋まっとるし………怒りの場合は赤黒く染まる……フィンが言ってたやつやな。アビリティも全部で193上がっとる。異常や)」

 

ロキですら見たことがないスキルがまたまた登場し困惑する。

 

「(ダメージの肩代わり、それに早熟て……どんなもんなんやろ。気になんなぁ)」

「どうだった?」

「今写すからもうちょい待ってー」

「(こんなん見せたら・・・今のハチマンに見せたらあかん気がするで)」

 

ロキは『自己犠牲』と『強者願望』の部分を隠したステータスを写してハチマンに見せる。

 

「……………」

 

無言でステータスに目を通すハチマン。

 

「それにしてもハチマンはすごいで。こんな短期間でアビリティがSに上がるなんて普通じゃありえん。それに魔法もスキルも発現しててなぁ」

「そうか」

 

一言だけ返すハチマン。

 

「…………更新ありがとな、ロキ」

「主神なんやから当たり前やで」

「そうか」

 

ハチマンはステータスを確認し終わったのか、部屋を出て行こうとする。

 

「今日はどないするんや?」

「…………ダンジョンに潜ってくる」

「コマチの看病はいいんか?」

「もうした。帰ってきてからもする…………それよりも俺は、強くならなきゃいけないんだ」

 

そう言い残してハチマンは部屋を出て行った。

 

「………心配やな」ボソ

 

ロキは一人、ボソッとつぶやいた。

 

 

***

 

 

俺はロキの部屋を出た後、ある程度の準備をしてダンジョンに向かった。

ロキには言ったが、今は強くならなければならない。コマチのためにも。自分のためにも。

もう、あんな思いはしたくないから。

 

 

***

 

 

バベルからダンジョンに入り、出てくるモンスターを次々と倒していく。

ゴブリンもコボルドも敵ではない。ギルドの支給品である短刀とオラリオでの道中で買ったナイフで次から次へと切り裂いていく。

 

七階層に辿り着いたハチマンはキラーアントやオークを倒しまくり、魔石を回収しながら階層内を回っていく。

 

「(どこにある……?)」

 

ハチマンが探しているのは食糧庫(パントリー)だ。

食糧庫(パントリー)とは三階層以降に存在するルームで、ダンジョン内にあるモンスターの食料を生み出しているところである。

ハチマンはそこのモンスターを倒しに行こうとしていた。

食糧庫は当然ながらモンスターが群がる場所である。だからそこのモンスターを全滅させれば、一気に強くなれるはずと、ハチマンは踏んだのである。

 

「………見つけた」

 

モンスターがうじゃうじゃといる場所を見つけたハチマンは一旦立ち止まる。

 

「………昨日のを試してみるか」

 

昨日の、とは一瞬でモンスターを灰と化すことが出来た魔法。【闇影】だ。

 

「【我は闇と同化する者なり、我は闇を知る者なり】」

 

詠唱を唱える。

 

「【我は闇を得た者なり、我は闇を知る者なり】」

 

昨日の光景を思い出しながら、紡ぐ。

 

「【我は闇を操りし者なり。今、我は力を振るう】」

 

ハチマンの眼は赤黒く染まり、右腕には体内より力が収束されていく。

 

「なるほどな。全身の力を注いだのか」

 

ハチマンは食糧庫に突撃した。

 

 

***

 

 

「ふぅ。終わった」

 

ハチマンはルームの中心で息を吐く。周りにはすでに魔石しか落ちていなかった。

 

「そう言えば昨日、この状態で魔石を回収したんだっけか………あれ何処行ったんだ?」

 

昨日はコマチを助けることしか頭になかったが、リヴェリアに魔石回収は絶対だと言われていたため回収したのだ。

しかし、昨日この状態で…………右手で掴むようにしたら魔石が消えたんだよな。

 

「えっと、こうしたっけ?」

 

ハチマンは周囲に転がっている魔石に向けて、右手を振るう。

すると、魔石がそこから消えた。

 

「あれ?もしかして消えた………いや、あるな」

 

なんか違和感が右手を襲うし……。

 

「じゃあ逆に振るか」

 

ってことで反対向きに腕を振るうと、

 

「お~ジャラジャラ出てくる」

 

魔石がたくさん出てくる。

まだまだありそうだった。

 

「これ、どうにかならないかな……?」

 

ハチマンは考えを巡らせた。

 

 

***

 

 

その後あれこれを試し続け、ついに闇影の一部を分離させて、そこに物を入れることに成功した。

 

「それにしても闇影は便利だな………なんでも出来んじゃん」

 

そうなのだ。闇精霊の少女が与えた力は、いち冒険者が使うには巨大すぎるものだった。………それを扱えるハチマンもハチマンなのだが。

 

「…………でも、魔法に頼るだけじゃダメなんだ」

 

ハチマンが独りで呟くのと食料庫にモンスターが入ってくるのはほとんど同時だった。

モンスターはハチマンを見るや、襲いかかってくる。

 

「強くなるには……………技術も経験も必要なんだ」

 

ハチマンはモンスターに向かって走り、相手の攻撃を防具の上で滑らせてから自らの攻撃を叩きこんだ。

 

もちろん一撃でモンスターは灰と化し、魔石が落ちる。

 

それを拾いながらハチマンは思考する。

 

「どうすればいいんだ…………?」

 

 

***

 

 

ハチマンがダンジョンにて無双していた頃。

黄昏の館内では、ロキがフィン達を集めていた。

 

「どうしたんじゃロキ。昨日も儂らを呼びだしたじゃろうに」

「これを見てくれるか?」

 

ロキが三人に見せたのは、ハチマンの本来のステイタスである。

 

「なんだこれは!?」

「早熟じゃと?あきらかにレアスキルだろう」

「【闇影】に追加効果がされている。怒りの場合、か」

「昨日フィンが言ってたんはこれのことやったみたいやで」

「そうみたいだね」

「それに……ダメージの肩代わりだと?これも未知の魔法だろう」

「それもハチマン自身の発現魔法らしくてなぁ……ホントどんな思いやったんやろ」

「「「……………」」」

 

魔法やスキルという形で表れるほどの強い思いに、三人は沈黙せざるを得なかった。

 

「ま、『自己犠牲』と『強者願望』は伏せてハチマンには知らせたけどな」

「それは正解だと思うよ。僕だってそうしただろうし」

「確かに…………今日のハチマンは様子が少し変だったな」

 

まるで何かを求め続けているような感じがしたなっとリヴェリアは呟いた。

 

 

***

 

 

あのあともう一つあった食糧庫で同じようにモンスターを狩りつくし、地上に戻ってきたハチマンは持っている魔石を換金しにやってきた。

換金所に行き、ハチマンは受け付けの女性と応対したのだが……。

 

「これ、換金してください」

「はーい……て、えええ!?」

 

応対した女性が驚くのは無理なことであろう。

何故なら魔石がジャラジャラとハチマンの右腕から出てくるのだ。

 

「……換金できませんかね?」

「い、いえ、出来るんですが…………あの、どれくらいありますか?」

「……なんか大きな入れ物とかあります?」

 

ってことでハチマンの前には大きな入れ物が。

そして周りにはたくさんのギャラリーが何事かと様子を見ている。

 

「(…………人に見られるのは慣れないなぁ)」

 

ある程度の対人スキルを手に入れたハチマンだが…………まだまだのようだ。

 

「ではッ、お願いしますッ!」

 

何故か興奮気味の受付嬢の合図で、ハチマンはジャラジャラと魔石を出していく。

ハチマンの背丈の4分の1ほどの入れ物にはどんどん魔石が溜まっていき…………そして。

 

「すいません…………まだあるんですが」

 

入れ物が一杯になっても、魔石は無くならなかった。

 

「ではまずこちらから換金いたしますね~♪」

「はい」

 

めっちゃ上機嫌な彼女に連れられて元の位置へと戻る。

 

「では、今から計算いたしますので少々お待ちください」

 

そう言って彼女は魔石を奥に持っていった。

周囲では「なあ、あれどのくらいになると思う?」「5万ヴァリス!」「10万ヴァリス!」「12万だ!」などなど様々な憶測が立っていく。

 

「(なんか盛り上がってんなぁ~そんなにおかしいことなのか?)」

 

おかしいことです。

 

 

***

 

 

待つこと数分。

彼女が出てきた………巨大な袋を、しかも10以上持って。

 

「はぁ、はぁ。終わりました。えっと…………全部で20万ヴァリスです」

「「「20万ヴァリス!?」」」

 

周囲が驚くのも無理はないだろう。

今のハチマンは装備からして新人冒険者であり…………そしてあまりにも付いている血が少ないのだ。

 

「どうもありがとうございます」

 

ハチマンは素直な礼を言う。あんだけの魔石を処理した彼らには合掌だ。

 

「ご利用ありがとうございました」

「あ、えっと……………まだ続きありますよ?」

「……………そうでした」ガク

 

そう言ってガクっと頭を垂れる女性。さっきまでの作業がそれだけ大変だったのだろう。

 

「……………大変でしたら今じゃなくてもいいんで「いえいえ、今で大丈夫です。もう一度お願いします!」

 

ハチマンの言葉に被せてくる受付の女性。彼女からしたら他の店で換金されるのは困るのだろう。それは自身の給料に繋がるのだから。

 

「じゃあ行きますね」

「どうぞ~」

 

この行為があと3回続き、ハチマンの所持金は84万5900ヴァリスとなった。

最後までハチマンを担当した女性は、疲労感に顔を歪ませながらも最後まで頑張って仕事をしていたそうな・・・。

 

 

***

 

 

ホームである黄昏の館へと戻ってきたハチマン。

まずは自分の部屋にヴァリスを置きに行こうとすると…………途中でロキとフィンに埒られてしまった。

 

「あのう、俺なんかしましたか?」

「な~んも」「別に何もしてないよ」

 

聞いてもはぐらかされるだけだったため、渋々ではあったがハチマンはそのまま埒られることにした。

 

やってきたのはロキの部屋。

 

「さ、ステイタスの更新やで~」

「あ、助かる」

 

ハチマンはサッと衣服を捲ってベットにうつ伏せになり、ロキはその上に跨った。

ロキがステイタスの更新をしている中、ハチマンはフィンと話していた。

 

「今日はどうしたんだい?」

「今日は7階層まで潜って……食糧庫を二つ回りました」

「モンスターがたくさんいただろう?」

「はい。でも、全部倒しましたよ?おかげで所持金が80万超えてですね……」

「………」

「………」

 

ハチマンが喜々として話す中、二人は沈黙する。

心の中で、お前は本当に規格外だなーっと思いながら。

 

「………更新出来たで~」

「どうだ?」

「えっとな………………は?」

「ロキ?」

「どうしたんだ?」

 

 

ハチマン・ヒキガヤ

Lv.1

 

 力:E400→471

耐久:I40→I98

器用:D651→C710

敏捷:C731→B806

魔力:S940→SS1063

 

魔法以下は前回と同じ。

 

 

「フィン、ちょっと見てくれるか?」

「どれどれ……凄いな」

「どうなんですか?」

「異常だね。だけどようやく意味がわかった」

「なんのことですか?」

 

フィンが言ったのは『強者願望』のスキル効果のことだ。

早熟するという効果が、アビリティに出まくっていた。

 

「(これが早熟・・・・それにしてもおかしいやろ!?)」

 

ロキが心の中で叫ぶ。

そりゃあトータルで387も上がったらおかしいことだろう。

それにアビリティの最大値と言われている『S999』を超えていることもおかしい。

 

「ロキ、伝えるべきじゃないけれど……これは隠し通せないよ」

「せやな………しゃーない。言ってみるか」

「さっきからなんなんだ?二人だけで話して」

 

ハチマンからしたらずっと放置されっぱなしだ。そりゃあ不満も溜まる。

 

「ハチマン、よく聞きや………実は前の段階で新しい魔法とスキルが発現していたんや」

「………そうか」

「………怒らないのかい?」

「普通なら怒るところだろうが……なにか理由があったんだろう?ロキが意地悪で伝えないとは思えない」

「良かったねロキ。随分とハチマンに信頼されているじゃないか」

「ありがとなーハチマン。うちはうれしいで!」テレ

「………別にそんなんで言ってねーし」プイ

「こ、これは……ツンデレ!?いや、ハチマンは捻くれとるから捻デレや!!」

「よくわかんないが不愉快だからやめろ」

「悪い悪い。あ、話の途中やったな…………これが新しい魔法とスキルや」

 

ロキはハチマンに『自己犠牲』と『強者願望』を見せる。

ハチマンはそれを見たが、特に何も言わなかった。

一瞬だけ笑みを浮かべたが……気付いたのはフィンだけだった。

 

「それと今回の更新結果や」

 

今回の更新結果の用紙をハチマンに見せる。

もちろんだが用紙は共通語(コイネー)で書かれている。

 

「トータルで387上がってる。言うとくけど異常なことやからな」

「……そうなのか」

 

ハチマンとして異常異常言われ過ぎて困惑しているのだが…そんなことは露知らず、ロキは話を続ける。

 

「…ハチマン。強くなりたいんか?」

「!……ああ、そうだ」

「なんでや?」

「昨日の出来事があったからだ!昨日、俺がしっかりしていればコマチはあんなふうにはならなかった!俺が迎え撃つと言ったからコマチはああなったんだ!俺がもっと強ければ、強ければ!!」

「………………なるほどなぁ」

「ハチマン。昨日のことを詳しく話してくれないか?」

「………………分かった」

 

この後、ハチマンは昨日の出来事を出来る限り明確に二人に伝えた。

聞いた二人は戦慄せざる得なかった。

もちろんハチマンがそう思うようになるのは仕方がないことだろうが…………それよりも重大なことがあった。

 

「モンスターを一瞬で?」

「そうだ。【闇影】を怒りながら使うとそうなった。右手を振るえば、そこにいたモンスターが一瞬で灰と化した。今日も食糧庫のモンスターで試したが…………一瞬だった」

「これはますますLv.1どころじゃないな…………」

 

そんな芸当は第二級冒険者(Lv.3、4)でも出来ないだろう。

 

「まずは見せてくれないかい?」

「今日はもう疲れたので明日で良いですか?」

「いいよ」

 

 

この日はこれで終わり、ハチマンは夕食の後小コマチの看病に行ってから自室にて眠りに着いたのだった。

 

 




長くなりました。6000字超えたのこの話が最初ですね。
それとUA40000突破しました。ありがとうございます。

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