やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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今回から少し、戦闘から離れます。


謝罪と料理

あのあと、俺はリクやヘファイストス様と別れ、ホームである黄昏の館に帰ってきた。

館内に入り、コマチの部屋を目指す。

コマチとは二日前のあの件以来、顔すら合わせていない。まあ、ただ俺が気まずかっただけなんだが。

今日、アイツに言われたことで俺は大切なものを忘れていたことに気がつくことが出来た。

もうこの世にたった二人だけの兄妹なのに、俺はコマチを見ず、ただ自分だけが正しいと信じて強くなろうとした。

コマチのことを全然考えずに突っ走ってしまったのだ。

まずは謝ろう。

 

そういやアイツには借りが出来てしまったな。剣だろうと人格があるかぎり借りは返すべきだろう。今度何か聞いてみるとするか。

 

そんなことを考えていたら、いつの間にかコマチの部屋に着いていた。

 

「すー、はー」

 

とりあえず少し緊張するから深呼吸。

 

「よし、行くか」

 

俺は部屋の扉をノックする。

すると少ししてから扉が開いた。

中からはコマチが姿を現す。

 

「……あっ」

「よ、よぉコマチ。久しぶりだな………その、今ちょっと時間をくれないか?」

「……入っていいよ」

「わかった」

 

コマチが許可したため、俺は部屋に入る。

そういえばコマチの部屋に入るのはこれが初めてだったりするのか。ほとんど俺の部屋と変わんないな。本の数だけが違うが。

 

「………」

「………」

 

部屋に入ってからというもの、コマチは口を開かず、ただ俯いている。俺もそれにつられて口を閉じている。

 

………いやいやいや。俺は何してんだ。謝罪しに来たんだろうに。

 

「「えっと……あ、」」

 

謝罪するために口を開いたら、同じタイミングでコマチも口を開いた。そのため気まずい空気が流れ始める。

 

「お、お兄ちゃんからいいよ」

「いや、コマチ。先に言っていいぞ」

「いや、お兄ちゃんなんか用があったんでしょ」

 

………そうだったわ。毎回言い出せなくなっちゃうのつらい。

 

「コマチ」

「ん」

「あの日から顔を見せなくて悪かった!ごめんな!」

 

俺はまず謝罪する。そして続けた。

 

「………あの日のあとから怖かったんだ。もし、本当にコマチが死んでたら………なんて思うとジッとしてられなかった。とにかく強くなりたかった。それでお前をほっといてしまった」

 

俺は焦っていた。コマチを失いたくない、こんなことを引き起こしてしまった自分に失望したくなくて、ひたすら強さを渇望した。

その結果、コマチをほったらかしにしてしまっていた。

 

「本当に、ごめん」

 

いくら謝罪したところで過去は変わらないし、なにが変わるってわけでもない。ただの自己満足と言われればそうなんだろう。だけど、俺は謝りたかった。コマチにさせてしまった気持ちは、兄としてさせてはいけないものだったから。

 

だが、コマチから帰ってきた言葉は意外なものだった。

 

「ばーか!」

「え?」

「お兄ちゃんが一人で背負っちゃったことくらい、コマチ、すぐ気付いたよ」

 

マジかよ。やっぱり伊達に兄妹しているわけじゃないんだな。

 

「どうせお兄ちゃんのことだから、自分のせいにしちゃうんだろうなぁってね。だからお兄ちゃん」

「うん?」

「お兄ちゃんはね、頼るってことや助け合うってことを覚えた方がいいよ」

「そう、だな」

「あれは異常事態だったし、結果としてコマチは死んでないからそれでよかったんだよ。でも、お兄ちゃんは自分のせいでこうなったと思っちゃったんだよね?すべて自分が決めたことだったから」

「ああ」

「確かにそうだったかもしれないけどさー……コマチは悲しくなるし、それで自分だけを追い込むのはお兄ちゃんの悪い癖だよ」

「………さいですか」

 

俺の癖って、自分自身を追いこんじゃうのかよ(←自覚なし)

 

「まあ、これからはこんなことは止めてね」

「わかった」

「それとね、お兄ちゃんは心配だろうけど、コマチはダンジョンに潜るからね」

「!」

「大丈夫だって。今回のことで学んだし、無理はしないよ」

「……そうだな」

 

こんなことはこれっきりにしよう。コマチを悲しませてはいけないからな。

しかしコマチが自分から言い出すとはな。てっきりもう嫌だ!って言うと思って触れてなかったんだがな俺が思っているよりコマチは立派だということか。

するとコマチはこんなことを言いだした。

 

「でもさ、どっちにしろお兄ちゃんはお見舞いに来なかったよね」

 

ん?なんかあるのか?

 

「ってことでお兄ちゃんに命令です」

「はい?」

「今日のコマチの夕食はお兄ちゃんが作ってね♡」

「マジかー」

 

まさかの晩飯当番しろよ宣言だった。

さらにである。

 

「そして今回のお詫びとして今度デート行こうよ!」

「……わかったよ」

 

デートかぁ。まあ俺に拒否権はないからな。行く分には困らない金はあるんだし。

 

「やったぁー!!約束だからね!」

「おう」

 

ってことで俺はコマチとの溝を埋めることが出来たのでした。

 

 

***

 

 

 

こんにちは。いや、こんばんは皆さん。【ロキファミリア】所属のハチマン・ヒキガヤです。

私は今【ロキファミリア】のホームである黄昏の館の厨房で料理中です。

何故ならコマチをほったらかしにした罰として、飯を作れという命を受けたからです。

そして、コマチがロキにそのことを言ったら、喜々としてロキは俺を厨房に放り込んだ。

しかもコマチの前情報のせいで俺の担当料理は三つだ。

 

「どうしたもんかな」

 

別に料理を作ることが嫌なわけではない。どのくらい作ればいいのかと考えたらやる気を失うだけだ。

 

「ま、仕方がないな。俺の自業自得だし、はりきって作るか!」

 

こうして俺は調理をしだすのだが………このときの俺は思ってもいなかった。

調理をして料理を作ってしまったがために、あんなことになってしまうなんて。

 

 

 

***

 

 

 

「ふぅ~出来た」

 

 

作り始めて一時間。俺は二つ目の料理を作り終えていた。

団員数が多いために、どうしても作る量まで多くしなければならないので簡単なものにしているが。

 

「最後は芋を使うか」

 

今のところ作った料理は肉料理と野菜のサラダだ。これらと被らずに作るとしたら魚とかなのだろうが、生憎他の団員が作っているため使えない。

そこでコマチがおいしいと言っていた芋料理を思い出した。

 

「さて、作りますかね」

 

俺は調理を再開した。

 

 

 

***

 

 

 

「なんや?いい匂いすんな~」

 

ロキは夕食を食べるために大食堂へと来ていた。

 

「ロキ様。あれはお兄ちゃんが作ったものですよ」

「ハチマンがか?」

「はい。お兄ちゃんの料理はとても美味しいんです!」

 

「早く食べた~い」なんて言ってるコマチを尻目に、ロキは思いつく。

 

「(いいこと思いついたで。これならハチマンも少しは頭冷やすやろ)」

 

コマチとハチマンのやり取りを知らないロキは密かに悪だくみをする。

 

「出来ました」

 

そこへ料理を抱えたハチマンがやってきた。

ハチマンが運んできたのは、肉が良い焼き加減で焼かれていて、その上からおいしそうなタレがかけられている料理と野菜を多く含んだ今で言う酢豚っぽいやつ。それにふかした芋を潰して、それを一口サイズに固めて揚げた料理だった。

 

「おお~お兄ちゃん本気で作ったんだね」

「そりゃもちろんな」

「なんやこれは!?ハチマンはこんなんも作れるんかい。ほんまに凄いな~」

「良い香りだね。食欲がそそられるよ」

「そうだな。早く食べたくなる」

「うまそうじゃな」

 

口々に感想を述べる【ロキファミリア】の皆さん。

ハチマンや他の団員が作った料理が並べられ、全員が席に着く。

 

「じゃあ皆!いただきますやー!」

 

ロキの音頭で夕食は始まった。

皆が手に付けるのはハチマンが作った料理だ。いい匂いだけで食欲がそそられる料理の味を、皆知りたいのだ。

もっともコマチは芋の料理に箸を運んでいたが。

まずはロキが食べてみることに。

 

「じゃあ食べてみよか」

 

ロキがハチマンの料理を口に含んだ瞬間だった。

 

「なんやこれうますぎるゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

ロキの絶叫が響き渡った。

その絶叫が合図だったのかなんなのか、団員達も一斉に口へと運び、「うめぇ!」「おいしい!」などと口々に言っていた。

 

その料理を作ったハチマン本人は、コマチに芋料理の感想を尋ねていた。

 

「どうだ?」

「おいしいよ!揚げてあるって言っても中はやわらかいから食べやすいし味もバッチシだよ!」

「良かった」

 

そしてこの日、ロキの命によって、ハチマンの週3日の料理当番が決定したしまったのだった。

 




芋の料理はジャガ丸君ではありません。
ジャガ丸君は原作9年前に初登場しているので、15年前の今には存在していないことをここに記しておきます(感想でそういう質問があったため)。

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