フィンとの鍛錬もやっている。ちなみにこっちも実戦形式での鍛錬だ。
ガレス曰く「儂は口で教えるより実戦で教えた方がやりやすい」らしく、フィンも「実戦の方がすぐに適応できるだろう?」って言ってた。
「さて、今日は僕とやろうか」
「お願いします」
「じゃあ本気出してね?」
そう言ってフィンは槍を構える。ガレスとは武器なしでやっているが、フィンとは武器有りでやっている。
「【
俺は魔法【
「行きます!」
俺は太刀を右手で抜き、それにも悪夢を纏わせてフィンに斬りかかる。
フィンは軽い動作でそれをかわすと、首狙いの槍を放ってくる。
そのスピードは凄まじいもので、【悪夢】で強化していなければかわしきれないもの。これでもかなり抑えているスピードだと言うのだから、化け物としかいいようがない。
「くっ!」
俺は即座にしゃがみ、その槍をかわす。
「ふっ!」
すぐさま左手でナイフを抜き、フィンを下から斬りに行く。
「悪くないね」
フィンも即座にナイフを抜き、受け止めた。
「うん。反応も良くなってきてる。強くなってきてるね」
「それはよかったです」
「じゃあ次はもっと速く、強く行くよ!」
「ぐっ!」
フィンが力を上げ、俺は徐々に押しこまれる。
このままじゃ劣勢だ。
「はぁ!」
「おっと」
俺は【悪夢】の全ての力を腕と太刀に流し、力を高めてフィンのナイフを弾かせて一旦距離を取る。
これで五分に戻せたはずだ。
「これで一安心ってとこかな?」
「!?」
「遅いよ」
俺が反応するより早く、フィンが背後から槍を突き出していた。
さすがに速過ぎる!!
「ぐわっ!!」
「……へぇ」
俺は槍で突かれる際、鎧の下の部分に【悪夢】を集中させ、防具は壊れてしまったものの、なんとか防ぐことが出来た。痛かった。
「さすがだねハチマン。Lv.1とは到底思えない動きと一瞬の反応。本当に凄いね」
フィンに褒められるがあまり嬉しくない。だって攻撃を受けていてだぜ?そりゃあフィン達との差はあるんだが……悔しくね?
「あざっす」
「でも気を抜き過ぎかな。いつ、どこから攻撃がきても対処できるように神経を尖らせるべきだよ」
「はい!」
「じゃあ続きをやろうか?」
「もちろんです!」
俺は再び太刀を構え、フィンに向かっていく。
まずはフィンの槍に注意しながら攻撃を仕掛けるが……やはり槍で弾かれる。
ならば、
「シフト」
「!」
俺は【悪夢】の効力を9割足に込めて、残りを太刀に回す。
「はああ!!」
「おっと」
全速力でフィンに突っ込むがかわされる。
だがこのくらいは想定済みだ。
「……」
「っと、危ない危ない」
俺は背後に向かってナイフを飛ばしたが、フィンにはバレていたようだ。左手で俺のナイフを掴んでいた。
(どうすっか……勝ち筋が見えない。隙がねぇ……)
次々と策を考えては切り捨てる。安易な考えではフィンを騙すことはできない。考えた先の策でないと通じないからだ。
「動かないならこっちから行くよ」
「!くっ!」
俺が思考していることに気付いたフィンが槍で攻撃してくる。
俺はかわすのが精一杯だ。
しっかしフィンの槍捌きはすげぇな。1つの芸術みたいだ。どんだけ練習したんだろ。
「戦闘中に考え事かい?」
「ガハッ!!」
フィンの槍の威力でぶっ飛ばされるが、なんとか受け身を取り着地した。
「戦闘中に考え事をするのはあまり感心しないね」
「すいませんでした」
フィンにも咎められたが、確かに考え事はダメだな。一瞬の気の緩みが敗北に繋がってしまう。
ならやはり、余計なことを考えずに本能で動く方がよいのだろう。
「おおお!!」
「!」
俺は太刀をフィンに向かって振り下ろす。かわされても下から斬りに行く。
「うおおおおお!!」
悪夢の効力を攻撃とスピードに半々で振り分ける。
さらに、
「【悪夢】」
「!」
「【悪夢】!【悪夢】!!」
俺の魔力の限界、【悪夢】を叫び続け限界を突破する。これを持ってフィンに攻撃を行う。
これは1分程度しか持たないが仕方がない。それまでにフィンに膝をつかせればいいのだ。
「うおおおおお!」
「これは……無理だ」
俺が太刀で斬り、フィンの腕と肩から血が飛び散るのは同時だった。
「(これなら……いける!)」
俺はそう思って、もっと斬りかかるために一歩踏み出した瞬間だった。
「力をあげないと……対処できない」
「!?」
フィンがそう言うのと、俺の体が空を舞うのはほぼ同時だった。
俺はもの凄い勢いで飛ばされて、地に落っこちた。
「ガハッ!」
そして俺は衝撃で、意識を失ったのだった……。
***
「ふぅ。やはり凄いねハチマン」
僕はすでに気を失っているハチマンに向けて話す。
彼をまた強めに殴ってしまった。
「本当に君は逸材だと思うよ」
Lv.1であるハチマンが手加減してるとはいえ、Lv.5である僕に血を流させた……それだけでもすでに異常だ。
しかも彼の攻撃を少し受けなければ僕の拳は当たらなかっただろう。
さらに、彼の魔法【
その魔法を重ねがけ……少なくともLv3つ分の差を埋めることが出来る。
あとは彼の気持ちだ。
「さて、まずは傷の手当てをしないとね」
フィンは持っていたポーションをハチマンにぶっかける。彼は飛ばされた衝撃により、腕と口から血を流していた。口から血が出たのはフィンが殴ったからだが。
「これで少ししたら目を覚ますだろう」
とりあえずハチマンの手当ては終わったからよしとしよう。
「……やることはたくさんある。まずは、【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】の主戦力全滅。その事後処理……」
フィンには最大派閥に次ぐ【ファミリア】の団長としての責務があった。
それは……。
「これからどこを目指すべきか、ね」
あと少しでゼウスとヘラが帰還する。話はそれからだが……フィンの答えは決まっていた。
「【
フィンは覚悟とともにその言葉を口にした。
「そのためにも……ハチマンには強くなってもらわないと、ね」
少し付け足しました。