やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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死闘

オラリオに来てからすでに半年がたとうとしていた。

俺は今、リヴェリアに勉強を教えてもらっている。

途中までは隣でコマチも勉強していたが、今では睡魔に襲われて幸せそうに眠っている。

勉強が一段落したところでリヴェリアが口を開いた。

 

「さて、これで共通語(コイネー)はお終いだ。結構飛ばしてきたが……本当に読み込みが早いな」

「そうなのか?」

 

俺は今日、共通語の勉強をしていた。リヴェリア達三人に鍛えてくれとお願いしてから5ヵ月間色々とリヴェリアには教えてもらったのだが……。

 

「そうに決まっている。共通語のすべての読み書きを一週間もかからず終わらせたんだ。学院だったら一ヶ月はかかるぞ」

「学院?」

「ああ。このオラリオにも学区というところがあってな。そこに多くの子供達が勉強しに通っている」

「へぇ~やっぱなんでもあるんだなここって」

 

実のところ、俺はオラリオに来てからあまり出歩いてはいない。

一日のほとんどを【ロキファミリア】のホーム、黄昏の館かヘファイストス様のところかダンジョンで過ごしている。

毎朝走り、ダンジョンに行くか稽古をつけてもらい、昼飯を食い、ヘファイストス様のところに行ってアイツと話すかリクと話すかして、夕飯を食って寝るという生活を送っているからだ。

 

「そう言えば……ハチマン。今のステイタスはどのくらいなんだ?」

「最新はこれだよ」

 

俺はリヴェリアにステイタスの紙を見せた。

 

 

ハチマン・ヒキガヤ

Lv.1

 

 力:SS1583

耐久:SS1319

器用:SS2197

敏捷:SS2428

魔力:SS2954

 

《魔法》

 

悪夢(ナイトメア)

・闇属性

・付与魔法

・補助魔法

 

闇影(ダークシャドウ)

・闇を完全に支配できる

・詠唱式【我は闇と同化する者なり 我は闇を従える者なり】

・詠唱連結。詠唱は本人の感情により、怒りの場合は眼が赤黒く染まる

・闇を形作ることであらゆるものを形成できる

 

自己犠牲(サクリファイス)

・特定の味方が受けるダメージを肩代わり出来る

・詠唱式【我は庇いたい 彼の者の苦痛は我に与えられよ】

・--------------------

 

 

《スキル》

 

闇の加護(ダークブレス)

・闇影の一部を意識することで使用可能

・戦闘時における魔力アビリティの高補正

・--------------------

 

強者願望(シュタルクノゥト)

・早熟する

・想いが続く限り効果持続

・想いの丈により効果向上

 

 

 

「……ふむ」

 

リヴェリアは静かにその用紙の内容を見る。

基本アビリティの数値の異常性は相変わらず。魔法もスキルもLv.1でこの数は異常。それらのことから相変わらずの凄さが分かる。

 

「ハチマン」

「ん?」

「そろそろランクアップ……『偉業』を成し遂げてみたらよいのではないか?」

「『偉業』……器の昇華か」

「そうだ。お前もフィンから聞いていると思うが……【ゼウスファミリア】と【ヘラファミリア】の主戦力が隻眼の竜に敗北してからすでに4ヶ月が経過している。その影響だが、現在のオラリオは治安が悪い。そのためにも出来ることなら早めに力をつけておくべきだ。無理はしては元も子もないがな」

「力を、つける」

「ああ。お前にはもうそれが可能なはずだ」

 

ここ最近と言ってはなんだが、オラリオでは邪神を名乗る神々が革命だー、過激な行動を起こし始めている。

幸いと言ってはなんだが、【ロキファミリア】にはまだ被害は出ていない。まだ。

でも、そのうち出るかもしれない。そしてそれがコマチに及ぶかも……。

俺のすべきことは決まった。

 

「じゃあ今日はこれで終わりだ。今からダンジョンに行くのだろう?」

「おう」

 

リヴェリアにコマチをまかせて俺は1人、ダンジョンへと向かうのだった。

 

 

***

 

 

「さて……『偉業』ね」

 

現在ハチマンがいるのは12階層。湧いてくるオークたちを魔石へと変えながら13階層へと続く正規ルートを進んでいる。

すでにダンジョンに潜ってから3時間ほど経過しており、かなりの数のモンスターを屠ってきた。

その中には11、12階層にしか出てこない希少モンスター『インファントドラゴン』も数体含まれていたが、特にハチマンは気にしていない。

前にフィン達が言っていたが、上層の階層主と呼ばれる『インファントドラゴン』を倒せば大抵のLv.1はランクアップ出来るらしいが、俺はその大抵には含まれていないらしい。

実際に二ヶ月前に倒してからステイタスを更新してみたが、ランクアップしなかった。

 

「中層……行ってみるか」

 

バベルの地下に広がるダンジョンは上層、中層、下層、深層と区別されている。

Lv.1の冒険者ではソロだと4階層、5人パーティーで12階層が一般的な目安であり、実際に正しい。

しかし、この男はその一般とはかけ離れていた。

 

「よし、行こう」

 

ハチマンは中層へと足を踏み入れることを決意した。

 

 

***

 

 

「あれ?こんなものか?」

 

現在地点は中層、15階層。

ここまで降りてきたが……思ったよりも手応えがなかった。

白兎(アルミラージ)』を数十体屠ったが……あまり強くない。

そりゃあ『キラーアント』と比べたら少し強いが……その程度だ。

 

「おっ、あいつは『黒犬(ヘルハウンド)』」

 

ハチマンの前には三匹の黒い犬型モンスターが立ちふさがっていた。

黒犬(ヘルハウンド)』は中層に降りてきた冒険者の最初の壁だ。彼らの吐く炎は広範囲に及び、これまでにも多くの冒険者が彼らにやられてきている。

しかし、我らがハチマン。全くに気にせず太刀を構える。

 

「戦闘開始だ!」

 

ハチマンは『黒犬(ヘルハウンド)』に向かって走り出す。それに伴って黒犬(ヘルハウンド)もハチマンめがけて襲いかかる。

早速炎のブレスを吐く『黒犬(ヘルハウンド)』。しかし、そこにはすでにハチマンの姿はなかった。

 

『バゥ!?』

「オラッ!」

 

ハチマンは左右のダンジョンの壁を利用して『黒犬(ヘルハウンド)』の背後に移動。振り返りざまに三体ともを太刀で斬りつけた。

 

「やっぱこんなんじゃランクアップしねぇよなぁ……どうしたもんか」

 

黒犬(ヘルハウンド)』の残した魔石を拾いながら、ハチマンは考える。

()()()()()()()()

 

「……コイツならいけるか?」

 

奴とは『オーク』を超える巨体を持ち、ドン、ドン、ドンっと一歩一歩ハチマンへと近づいてくる。

奴の名は――――――――『ミノタウロス』。

 

『ヴオオオオオオオオオッッ!!』

『ヴオオオオオオオオオッッ!!』

「……前後に二体か」

 

Lv.1が遭遇したらほとんどが死に、Lv.2でも苦戦するモンスター……『ミノタウロス』がハチマンを見逃すまいと中層正規ルートの前後を挟み撃ちにしている。

 

「そういやフィンがミノタウロスをソロで倒せばランクアップ出来るかもって言ってたな」

『ヴオオオオオ!!』

『ヴオオオオオ!!』

「うるさい」

 

ハチマンは静かに前方のミノタウロスへと駆けだす。

 

 

戦闘が、始まった。

 

 

***

 

 

「【悪夢(ナイトメア)】」

 

ハチマンは十八番である魔法を唱え、足に5割、足を除く全身に3割、そして太刀に2割振り分けて、『ミノタウロス』へと斬りかかる。

ミノタウロスの方もハチマンへと向かってその巨大な腕を振るう。

ハチマンはそれを極小の動作でかわし、

 

「まずは一撃」

 

下から上へと太刀で斬りつける。

だが、『ミノタウロス』の腹からは少し血が流れるだけで、『ミノタウロス』の様子を見る限りあまり効いていない。

 

「結構力込めたんだが……肉硬過ぎだろ」

 

リクにメンテナンスしてもらっている太刀の攻撃力が少し劣るのは仕方がない。これはLv.1の鍛冶師に作られたものだからだ。

だが、【悪夢(ナイトメア)】の2割も合わせてこれだけとか……少しなめ過ぎていたようだ。

 

「シフト」

『ヴオオオッッ!!』

 

俺は【悪夢(ナイトメア)】の力を足と武器にだけ5割5割にして再び『ミノタウロス』へと斬りかかる。

ズババババッ!という音をたててミノタウロスを縦に斬り裂く。

『ミノタウロス』はそれで灰となり、魔石が落ちたのだが……。

 

『ヴオオオオオッッ!!』

「っ!ヤベッ!」

 

背後にいた『ミノタウロス』がすぐ傍まで迫っていた。

なんとか横っ跳びしてかわすが、右足から血が噴き出した。

 

「痛えなぁ、おい」

 

悪夢(ナイトメア)】を纏っていたためある程度のダメージは軽減されているが、それでもハチマンは軽くないダメージを負った。

少しまずい状況だ。

目の前のミノタウロスは前傾姿勢をとっている。つまり本気だ。

さらに、

 

『ヴオオオオオ!!』

『ヴオオオオオ!!』

『ヴオオオオオ!!』

 

三体のミノタウロスまで現れた。

これで4対1。さらに右足に怪我を負っている状況はかなり最悪だ。

 

 

 

……死ぬ。

 

 

 

ハチマンの頭に浮かぶのは生物の本能が発した注意勧告。それはこの状況そのものだ。

だが……

(ここで死んだら意味がないだろうが俺のアホ!)

ハチマンはそれをを無理やり頭から追い出す。

怪我を負っている?絶望的状況?待っているのは死のみ?

 

「いやいや、好機(チャンス)だろ」

 

ランクアップには願ってもない状況。ハチマンはそれを感じたのだ。

そのために彼は立ち上がる。

(この一本道じゃ戦いにくい。ルームに引っ張る)

 

「【悪夢】!」

 

ハチマンは再度【悪夢】を纏い、怪我を負った右足に7割、左足に3割を纏わせる。

 

「ついてこいよ牛ども!!」

『ヴオオオオオオオオオッ!!』

『ヴオオオオオオオオオッ!!』

『ヴオオオオオオオオオッ!!』

『ヴオオオオオオオオオッ!!』

 

ハチマンは彼らを連れてルームへと急いだ。

 

 

***

 

 

「よし、着いた」

 

数分後、ハチマンはルームへと到着していた。

……もちろん、『ミノタウロス』も一緒だが。

 

「悪かったなここまで来させて。そして悪いが……死ね」

『ヴオオオオオオオオッッ!!』

 

前傾姿勢をとっていた初めの『ミノタウロス』の生き残りが突進してきた。

ハチマンは太刀でそれを真っ向から受け止める。

 

「ちィ!」

 

『ミノタウロス』の突進の威力は凄まじく、ハチマンは少しずつ後退させられる。

だが、この男の本気はこんなものではない。

 

「【我は闇と同化する者なり、我は闇を従える者なり】」

「【我は闇を得た者なり、我は闇を知る者なり】」

「【我は闇を操る者なり 今、我は力を振るう】!」

『ヴオオオオオオオオオッッ!!』

「喰らえ!」

 

闇影(ダークシャドウ)】によって闇の塊を形成したハチマンは、それを『ミノタウロス』へと放つ。

それをもろに喰らった『ミノタウロス』は灰となり、魔石とドロップアイテムである『ミノタウロスの角』が落ちた。

 

『『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』』』

 

仲間を討たれたことで怒った『ミノタウロス』が全員前傾姿勢をとり、次々とハチマンへと向かっていく。

ハチマンは魔石と『ミノタウロスの角』を即座に回収し、これをかわす、かわす、かわす。

そして彼もまた、怒る。

 

「お前らが怒るのはもっともだが……怒ってるのは俺もだ!!」

 

こんなに弱く、コマチを守り切れなかったあの時の自分に怒りを抱いているハチマン。

彼の眼が赤黒くなり、闇影の効果が変化する。

 

「死ね」

 

ハチマンの右腕がミノタウロス一体の直線状に振られ、地面より縦に黒い刃が『ミノタウロス』を襲った。

『ミノタウロス』は対応できずにそのまま魔石へと姿を変えた。

 

「!」

 

『ミノタウロス』を倒した瞬間、残った二体の『ミノタウロス』が同時にハチマンを襲った。

いくらハチマンがバケモノでも……油断していては攻撃をもらうのは当たり前だ。

 

「ガ、ハッ!!」

 

二体の突進をまともに喰らったハチマンは、そのままルームの壁まで吹っ飛ばされた。

 

「オエッ……はぁ、はぁ」

 

大量の血を吐きだし、肩で息をするハチマン。

そんな瞬間を見逃す『ミノタウロス』たちではなく、二体とも突進を繰り出してくる。

 

「まだだ!!」

 

――――俺は負けるわけにはいかないんだ!

――――俺は強くなるんだ!

――――俺は……!

 

「【悪夢】!!」

 

三度目の【悪夢】。

今出せる最大限の精神力(マインド)を用いて発動した【悪夢】。

太刀を引き抜く間もないため、全ての効力を足と拳に振り分ける。

 

「これで、終わりだ!」

 

足に力を入れ、飛びかかるように右と左のブローを放った。

両腕の攻撃は『ミノタウロス』に決まり、二体は魔石へと姿を変えた。

ついでに二体ともドロップアイテムを落としてくれたのは嬉しいことだ。

 

「はぁ、はぁ。勝った、な」

 

モンスターも他の冒険者の姿もなく、今ルーム内にいるのはハチマンのみ。

ハチマンは魔石と『ミノタウロスの角』を回収すると、ダンジョンの壁を頼りに立ち上がる、が。

 

「うっ、くうぅ……駄目だ、歩ける気がしないな」

 

先程の戦闘でさすがに肉体と精神力(マインド)を行使しすぎたようだ。

 

「……しょうがない。少しだけ休んでいくか」

 

ハチマンは【闇影】を発動させて地面の影に潜って少し休んでから、帰路へと付くのだった。

 




ここで闇影(怒り)をご紹介します。

文中にもありましたが、ハチマンが腕を振るった方向に地面や壁に闇の力を伝わせ、闇の刃で攻撃するものです。
遠距離でも攻撃でき、近距離では両手を身体の中心へ振るうことで串刺し状態にもできます。


あと、現在活動報告にてアンケート実施中です。

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