本当はもっと前に書くべきだったんですが、抜けておりました。
新章開始。
世界は今、絶望に染まっていた。
世界最大の戦力と言っても過言ではない冒険者たち。
『ゼウス・ファミリア』、『ヘラ・ファミリア』両派閥の主戦力が…………世界三大クエストの一つである、『隻眼の竜』に敗北し、多くの名だたる冒険者達が命を落とした。
その一報は、瞬く間に世界中へと広まっていった。
これはハチマンがLv.2になる5ヶ月前の出来事である。
***
その日、迷宮都市であるオラリオは喧騒に包まれていた。
主にゼウスら神を、オラリオにいた神らが囲う形で、だ。
現在神ゼウスと神ヘラ両名は、今回の件についての詳細を語っていた。
それを聞いている神々。その中心には二人の神の姿がある。
『ロキ・ファミリア』の主神ロキと、『フレイヤ・ファミリア』の主神、フレイヤである。
彼らのファミリアは以前のゼウスやヘラの派閥には敵わなかった。
所謂二番手という位置に留まっていた。
だが、今回の失態はこの力関係を逆転させられる規模のものだった。
「――――――――――というわけで我々主神と、その守備に当たっていた彼ら以外は全滅した」
「………ヘラはこのこと以外に何かあるんか?」
「………特にないわ」
「あら?いいのかしら?このままだとあなたたちの座は私たちに移るわよ?」
「いや、今回のことはそんな簡単に済ませてええ問題やない。ただ一番が変わりましたよーっていう問題やないんや」
「それはわかっている」
「ホンマか?」
「ああ。今回我々が『隻眼の竜』討伐に失敗したということは、この世界を危険にさらさせるには充分なものだ。我々と『隻眼の竜』衝突によって崩壊した村さえある。責任はとるつもりだ」
「つもりやなくてとるんが普通や」
「そういうことよ。英雄になれなかった方々はさっさと退場して欲しいわ」
「ッ!!ま、待て。我々が今まで引っ張ってきたからこそお前らがあるはずだろう!?確かに私たちは『隻眼の竜』には敗北した。だが、他ニ体、『ヘビーモス』と『リヴァイアサン』は私たちが倒したのだぞ!これは世界を危険にさらす行為か?違う!!この世界を救うための行為だ!!」
「やめろヘラ」
「!?」
「お前の言いたいことはわかる。だが、我々が敗北したという事実は変わらない」
「それは………」
「ロキ、私たちはどうすればいい?」
「自分らの眷族を連れてオラリオから立ち去ればいいやないか。あくまで失脚した、という外面は立つやろ」
「そうだな・・・・」
「ゼウス・・・・・」
「わかった。ロキ、フレイヤ。あとは頼んだぞ」
「はっ」
「誰に向かって言ってるのかしらゼウス?」
こうしてゼウスとヘラ、そしてその眷族たちは失脚という形でオラリオを去ることとなった。
「・・・・・さらばだ」
彼らがどこにいったのか。それは明らかになっていない。
***
「………ふぁぁ~朝、か」
またあの夢を見ていた。
俺はあのとき神ゼウスの真下に闇影を使って忍びこんでいたため、会話をすべて聞いている。
あの会話からわかることは多い。
・ゼウス、ヘラ両名のファミリアの失脚
・主戦力の全滅、わずかな眷族
・世界の悲願、世界三大クエスト
・そのうち『ヘビーモス』、『リヴァイアサン』は彼らによって殲滅済み
・『隻眼の竜』に敗北した
・ゼウスとヘラの両名はオラリオを追放された?
………このぐらいだろうか。
はっきり言って『ゼウス・ファミリア』は昔に親父が所属していたファミリアであり(思い出せない人は4話目にバック!)、俺達も少しの間話を聞いた。
あの団長達全員が亡くなったのか………これは少し、心にきた。
親父とお袋の遺体を見ていたせいかそこまで暗くはならなかったものの、少し気分がブルーになった。
コマチにはもちろんこのことは教えていない………多分気付いているはずだが。
俺が心にくるものがあったのは単に彼らが死んだからではない。
世界三大クエストの方だ。
すでにニ体は倒されたが………多分三体の中で最強である『隻眼の竜』がまだ残っている。
神ゼウスの話が本当ならば今のところは安心できる。
だが………。
いつ彼の竜がオラリオに攻め込んでくるかわからない。
いつ常識が覆されるかわからない。
そのとき、俺は
そんなことはさせない。させてたまるかってんだ。
俺ごときが出来ることなんて限られているのはわかっている。
まだまだフィンやリヴェリア、ガレスに助けられる側だと言うことはわかっている。
それでも俺は、もう、失いたくない。なに、ひとつ。
***
俺は現在ダンジョンに潜っている。
今は15階層を歩いている。
装備はリクに作り直してもらった太刀。リクに新しく作ってもらった銀色の鎧。その中にサラマンダーウールのインナータイプを着ている。
1~12階層は上層としてカテゴリー化されており、Lv.2になったものならもの凄い失態さえ犯さなければ死ぬことはまずあり得ない。
しかし、13階層より中層にカテゴリーされている場所は12階層以下より断然手ごわくなる。
ダンジョンより生み出されるモンスターが、ミノタウロスをはじめとして強くなるということもあるが、問題はダンジョンの性質にある。
上層では、ただダンジョンはモンスターを生み出す母体のような効果しか発揮しないが、中層からはモンスターたちに有利なものが発生している。
その名も
例えばだが先程目の前に現れたアルミラージ10体ほどで構成された集団全員が、そこらへんにあった岩を砕いてその中から小型の石斧を取り出し武装してみせたように、モンスターも武器を使用してくる場合が出てくる。
これは『
モンスターたちがどういった感覚でこれらを手に持ち、使いこなしているのかはわからないが、厄介なことこの上ない。
あ、そのアルミラージ?全員倒して魔石に姿変えたよ。ついでにドロップアイテムのアルミラージの角も手に入ったよ。
その後も順調に中層正規ルートを進みつつ、途中途中で現れるアルミラージにヘルハウンドらの集団を倒していきながら魔石を拾い、もっと先へと進んでいく。
「おっ」
すると目の前に初めて実際に目にかかるモンスターが現れた。
そのモンスターの名はハード・アーマード。
中層では鉄壁と評される防御力を持つ
ハード・アーマードのことを知った、というかモンスターの生態について俺がこうも知っているのは、黄昏の館内にある団員ならだれでも使用可能な図書館。そこの資料を覚えているためである。
「さてさて………今回の目当ての一つにやっと出会えたな」
今回のダンジョン探索においての目的は二つ。
一つはハード・アーマードに関することである。
以前、フィンに稽古をつけてもらった時に、聞いてみたことがある。
「なあフィン。中層に出現するハード・アーマードのことで少し質問何だが……」
「何だい?」
「資料には体を丸めたハード・アーマードに物理攻撃は効かないって書いてあったんだが、あれって効くようにする方法はあるのか?」
「それに魔法とかスキルを使わずに、かな?」
「ああ」
「……どうして僕に聞くんだい?他にもリヴェリアやガレスにだって聞いてもいいと思うんだけどね」
「フィンは得物を使うだろ。槍はもちろんだがナイフ捌きも一流だとリヴェリアが言ってたんだ。それでだな」
「なるほど。わかった。教えてあげるよ」
「どうすればいいんだ?」
「……いや、君は多分すぐに体得できるはずだからヒントだけ。ヒントは相手の体の芯を見抜くことかな。あとは………わかるだろう?」
というやり取りがあったのだ。
つまりは・・・・・。
「やってみるか」
俺は懐からギルドの支給品であるLv.1、それも新米の冒険者が扱うナイフを取り出した。
このナイフを使って、力任せになることも魔法を使うこともなく、ハード・アーマードを倒しきることが一つ目の目標だ。
俺はナイフを右手に構え、攻撃に備える素振りを見せる。するとハード・アーマードは高速に回転してころがる攻撃を仕掛けてきた。
とりあえずは攻撃を受け流したり避けたりしながらハード・アーマードを観察する。そして使っている体の場所を特定し、そこをこのナイフで切り裂く!
それもただ切り裂くだけではナイフの方が壊れてしまうだろう。だから武器の使い方も学び直しにきたのだ。
「よっと」
高速で回転してころがる攻撃をしてくるハード・アーマードに対して俺は避ける、受けながすを繰り返し、ハード・アーマードの動きを観察する。
すると甲羅の部分の斜め下あたりの皮膚がほかの部位に比べて動きが大きいことに気付いた。
ナイフを逆手に持ち、攻撃を仕掛けてくるタイミングに合わせて俺も腕を動かしその部位を狙いに行く。
もちろんナイフの反りの向き、切り裂く場所、速さも考慮したうえで、だ。
すれ違いざま一撃をお見舞いする。
「どうだ?」
そうして振り返って見ると、ハード・アーマードは地に伏しており、さっきまで丸めていた体は真っ直ぐになっていた。
主要の部位を斬り裂いたことで体が今までどおりに動かなくなったらしい。
「これで一つ目の目的というか目標は達成だな」
俺はそのままナイフでハード・アーマードに止めを刺した。
***
現在俺は16階層まで来ている。
18階層は所謂モンスターが生まれてこない
だが、俺にはそれまでにこの16階層でやるべきことがあった。
今回の目標の二つ目。
『ヴゥオオオオオオオオオオオオオ!!』
「出たな」
これもハード・アーマードと同じような内容だ。
以前ガレスと稽古をしていた時、ミノタウロスの肉は斬りにくいということを教えてもらった。
確かに思い返してみれば、初めてミノタウロスを相手した時の切り裂く感覚が他のモンスターと比べて悪かったように思える。
目の前には天然武器と思わしき巨木を携えたミノタウロスが三体。立ちふさがっていた。
ちょうどいい。
「やっぱりまずは一体に減らさないとな」
俺は太刀を鞘より出し、全能力を開放して全力で二体を叩きに行く。
巨木を振り回してきたミノタウロスA(以後ミノA)の攻撃を太刀で受け止め、立っていた位置から左移動して巨木を横に振るってくるミノタウロスB(以後ミノB)の攻撃を飛んでかわす前に、ミノAとの力を微妙に強めて押しこみ、弾く。
するとミノAは巨木を持ったままバンザイをするように両腕を上に上げている状態になる。そこに先程俺がかわしたミノBの巨木が炸裂する。これでしばらくミノAは無視してていい。
俺が飛んでかわした際に残っていたミノタウロスC(以後ミノC)が着地地点で待ち構えていることを視界にとらえたため、ダンジョンの天辺を蹴って右の壁の方へと退避する。
「ちっ、少し狭いな」
俺としては狭い方も悪くはないのだが、どちらかというとスペースがあるところの方が戦いやすい。特にこういう筋力特化には。
「悪・・・・いや、魔法に頼らずに倒さねえと意味がない」
今までの俺はことあるごとに悪夢を使用し、戦いに勝利してきた。だが、魔法に頼ってしまうと酔うような感覚に襲われる。その感覚があってはまだまだアイツを扱うには早いというわけだ。
とりあえず太刀をしっかりと構え、ミノ達の動きを観察する。
立ち方、動く前の予備動作、攻撃の際の狙い場所、間合いの長さ…………目の前にあふれている情報を整理し最適な行動を導き出す。
それは武の極致。長い間修行し、鍛錬したものが稀に習得できるとされる眼。
今のハチマンはその極致に向かってもの凄いほどの勢いで邁進している。
「今なら、やれる!」
俺は先程ハード・アーマードを屠ったナイフを取り出して太刀を鞘に納める。
「(本当なら一体の時に試したかったが………気が変わった)」
このナイフで全員仕留める、と。
ミノはB、C、Aの順番に縦に並んでいる。
ミノBが先に動いた!
巨木を持ってこちらに向かってくる。
対する俺はというと………
「はっ!」
もちろんミノBに合わせて突撃を開始する。………コイツで試すか。
俺はミノタウロスの巨木での横薙ぎをかわし、ミノBに肉薄した。
そして俺はナイフでミノタウロスの筋肉の線をなぞるように切り裂いていく。
『ウガァオオオオオオオオオオ!!』
「うっせーなー」
ミノBが叫ぶが知ったこっちゃない。
俺は上半身の線と右足の線を斬り終えると、回し蹴りを放ってミノBを地に伏させる。まだ生きてはいるが、両腕と右足が使い物にならないはずなのでとりあえず放っておく。
「さて、お前らにはコイツをプレゼントしてやる」
ミノCが角を突き出して突進モードに移行しているのを見て、俺はほくそ笑む。そちらの方がやりやすいからだ。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオ!!』
ミノCが突進してこようと動こうとした刹那。
俺はその予備動作を確認した途端に走り、左足と右足の腱を斬り裂いた。
これでミノCは両足が使えない。
「お前でラストだ」
俺は最後の一体であるミノAに向かってゆっくりと歩いて行く。
もうどこが斬りやすいのかは知れたので簡単な作業だが、とりあえずゆっくりいこう――――――――目の前のミノAが逃げ出した。
「え?え?ちょ、待てやぁぁぁぁ!!!」
その後俺が本気で駆けだしてミノタウロスを真っ二つにしたのは言うまでもない。
***
ミノタウロスたちに止めを刺し、俺は今17階層にいる。
この17階層は階層主である
今日の朝からリヴェリアに
話によれば今から一週間前に他派閥が倒したらしい。俺は少しばかり17階層内を見回ってから18階層へと向かった。
中途半端なとこで終わってすみません。
次回は18階層ですね。
装備の解説です。
『白銀』
ハチマンが買った太刀をリクが作り変えたもの。
素材にはミスリルを使っており、今までよりも魔法を伝導出来るようになった。
呼び方はそのまま’はくぎん’
価格はおよそ203000ヴァリス。
『銀零』
ハチマンがリクに頼んだオーダーメイドの鎧。
こちらにも素材としてミスリルが使われている。
呼び方はそのまま’ぎんれい’
価格はおよそ314000ヴァリス。
『サラマンダーウール』
精霊の加護がついた護布。炎属性に対して高い耐性を持つ。
ハチマンが着ていたインナータイプのほかに、着流しやローブ状の物もある。
クーポンを利用して、値段は87000ヴァリス。