フィンとダンジョンに行った一週間後。
俺はリクの下を訪れていた。
「よっ」
「お、ハチマン。………例の品は出来てるぜ」
「例の品って短剣二本だろ」
「うっせーなっ!一度は言ってみたかったんだよこのセリフ!」
「あ、はい」
なんかおかしくなっているリクはほっといて、俺は短剣を受け取る。
ミノタウロスの角より加工され、ミスリルとも混ぜ合わせたというその短剣は金と銀が綺麗な柄を生み、それでいてよく切れそうな印象を受けた。
「ちなみに何個使った?」
「全部」
「この野郎結局全部使ったのかよ」
「まてまて、まだあるんだ」
「なんだ?」
「お前用の篭手と両足のホルスターだ。前に作った『銀零』だと手首と脛の部分が鎧の外に出てたからこれも着けて万全にしようという俺の気持ちだ」
「リク………」
「おっ?どうした?俺がここまで考えてるなんて夢にも思わなかったか?」
「リクって頭使えるんだな。初めて知ったよ」
「当たり前だろうが!!」
レイとの話で、俺の言葉を勝手に教えてくれたコイツには少々痛い目にあって欲しかったため、少々風当たりが強くなってしまったかもしれない。
俺は短剣とその膝当てと手首の防具を受け取った後、リクの元を去った。今日はどうしようかなーと漠然と考えていたら黄昏の館まで戻ってきてしまった。
まぁせっかく戻ってきたんだからということで館内に入ると、ちょうどガレスがこちらに向かってきていた。
「ハチマンどうした?」
「さっき専属鍛冶師のとこに武器を取りに行っててな。なにしようか漠然と考えてたら戻ってきてた。ガレスは?」
「儂は今からダンジョンにでも行こうと思ってな。ハチマンも一緒にどうだ?」
「行く」
こうして今日はガレスとダンジョン探索だ。
***
~10階層~
「そういえばハチマンと二人きりでダンジョンに潜るのは初めてだったか?」
「そう言われてみれば………確かにそうだ。初めてだな」
「稽古はしていたというのにのう」
「俺が頼んだことだしな。それにガレスは武器も含めて鍛えてくれるから正直もの凄く助かってる。ありがとう」
「はっはっはっ!礼など要らんよ。儂はそれよりもハチマンの成長した姿を見たい」
「おう!」
ガレスを失望させないためにも、ここはよくやったと言われるための戦闘をするべきだろう。
俺は前方より姿を現した『オーク』三体を見つけると、『白銀』を抜いて『オーク』達に向かって駆け出す。
『オーク』達も接近する俺の姿を捉えたのか、続々とこちらに走ってくる。
俺は『オーク』にかなり接近したところで速度を上げ、反応出来ていない『オーク』ニ体をすれ違いざまに真っ二つにする。
腰より上から横にずれ落ちた『オーク』ニ体はそのまま灰と化し、魔石を落とす。
残った『オーク』は目の前で起きた一瞬のことに動揺していたので、背後より切り裂いて絶滅させた。
「ほぅ。前見た時より太刀を振る速度と駆け引き、正確性は上がっている。見事なものじゃ。」
「そりゃあ前にフィンと行ったときにも色々あったし少しの間でも多少はよくなったはずだからな。まだまだ魔力が足りないけどな」
「フィンが言っていたリヴェリアの【レア・ラーヴァティン】に似通った魔法のことだな?確か詠唱連結によって発生した新しい可能性だとフィンは言っていたが………」
「それがさー、なんか俺の【闇影】は発展型らしいんだよ」
「進化するということか?」
「そうそんな感じ。俺の一つの感情がある一定のラインより上回った場合のみに発展型が使えるらしいんだよ。ちなみに今のところ使えるのは、怒りと興奮だな」
「怒りの時に目が赤黒くなり、興奮の時は橙色………面白いのう」
ガレスと俺の【闇影】の本質に関して話をしながらダンジョンを進んでいった。
***
~17階層~
階層主である『ゴライアス』は他の派閥が倒したらしく、今日出てくることはないだろう。
そのかわりに・・・・・ボコン、ボコン、ボコン・・・・。
『ヴオオオオオオオオ!!』
「『ミノタウロス』がたくさん………」
「
「いや、ガレスは手を出さないでくれ。俺が全部倒す!」
「この数は厳しいぞ?数体とは勝手が違う。ざっと50はいるが・・・・はぁ、わかったわかった」
俺がガレスに視線を向けると、ガレスは承諾してくれた。
「そのかわり、少しでも儂が危ないと判断したらすぐに儂も出るからな」
「ありがとうガレス」
ガレスは俺の後方へと下がり、俺は『白銀』を抜いて戦闘態勢に入る。
『ミノタウロス』も警戒しているのか、その場を動かずにこちらの様子をうかがっている。
「【
俺の魔法の中で一番使い勝手が良い【
闇属性を付与し、俺の体の周りを包み込むように展開される黒いもやは攻撃のも防御にも優れ、脚力増加=速度増加にもなる。
また、どれか一部にのみ集中させることにより、一点強化が出来る。
「行くぜ!」
『ヴォォオオオオオオオオオオ!!』
俺目掛けて次々と襲いかかってくる『ミノタウロス』。
俺は『白銀』に纏わせた【
その結果、前から襲いかかってきた『ミノタウロス』はその斬撃を受けて絶滅した。
「次!」
『ヴォ!?』
『ミノタウロス』は俺が倒したことに一瞬動揺した。まぁ、そんな動揺を俺が見逃すはずがない。
【悪夢】の効力を脚に集中させて脚力を上げ、すぐさま『ミノタウロス』に肉薄した俺は下から上へと『白銀』を振り上げる。
その一太刀を浴びた『ミノタウロス』は真っ二つになり絶滅する。
しっかしさすがの数だな・・・・骨が折れる。ガレスに俺が倒すと言った手前協力してくれとは言いたくない・・・・仕方ないな。
ハチマンの瞳が赤黒く染まっていく・・・・。
思い出す。コマチを守り切れなかったあの日の悲劇を。
「我は闇と同化する者なり 我は闇を従える者なり」
思い出す。惨めな自分を、弱い自分を。
「我は闇を得た者なり 我は闇を知る者なり」
思い出す。いつ訪れるかわからない、理不尽な力の暴力を、世界の絶望を、『隻眼の黒龍』を。
「我は闇を操る者なり 今、我は力を振るう!」
【闇影】の怒りの感情の魔法。
それは理不尽な力に対抗するために、その理不尽な力でさえ飲み込む最強の攻撃。
俺は『ミノタウロス』の影を操り、そこから闇を広げて行く。
渦巻状に巻きつく闇は、『ミノタウロス』の自由を奪う。
「絞殺せ!」
『ヴォアアアァアアアアアアアア!!』
それぞれ巻きついた闇は俺の声に反応して絞りとるように締め付けた。
結果、ミノタウロスは締め付けの強さに耐えきれずに次々と灰と化し、魔石とドロップアイテムを落とす。
ガレスの方を見ると、豪快に笑っていた。
「がっはっはっは!まさか本当に一人で倒してしまうとはな………技術といい、魔法といい・・・恐れ入ったわい」
「それは良かった」
「【闇影】の方も大分使いこなせておるようだな」
「最低週に一回は練習してるんだ」
「ほう、それはいい。次見る機会まで楽しみにしておこう」
「おう!」
俺は散らばっていた『ミノタウロス』より落ちた魔石やらドロップアイテムやらを闇の手で回収して17階層を抜けた。
***
~24階層~
「そう言えばハチマン」
「なんだ?」
「前回フィンとダンジョンに潜った時は何階層まで行ったんじゃ?」
「20階層。そこで俺が
「そうか………では、今いる階層は?」
「………初めて、だな」
「一応説明しておくが・・・ここ、24階層は中層の最下層。つまり25階層からは下層にカテゴリーされている領域じゃ。別名水の都とも呼ばれておる。・・・・・行くか?」
「行っていいなら」
「お主なら大丈夫じゃろう。さっきから『マッド・ビートル』やら『デッドリー・ホーネット』やらをいとも簡単に倒しておるしな」
「まあな」
実際のところ『ミノタウロス』よりは厄介だとは思うが、攻撃が通らないことはないし攻撃を食らうこともないから簡単に倒せはする。
さすがに
「じゃあ、行くとするかのう」
「楽しみだな」
俺はまだ見ぬ下層域へと想いを募らせるのだった。
***
おさらいだが、13~24階層までが中層にカテゴリーされており、25階層からは下層にカテゴリー化されている。
また、10~17階層までの『岩窟の迷宮』、19階層より始まる『大樹の迷宮』、そして今突入寸前の25階層~始まる『水の迷都』というように、それぞれの領域は名称がつけられている。
19階層から始まる『大樹の迷宮』の特徴としてあげられるのはやはり『毒』を中心とした『異常攻撃』が盛んに行われることである。さらにモンスターが出現するまでの
どの階層でも、一番怖いのはダンジョンの持つ無限の物量だ。それに加えて地形が厄介になってくる。
そして………
「うおお・・・すっげぇ・・・・!」
俺は今、初めて見た『
『
下層域25階層から始まる文字通りの巨大な飛瀑。幅は約四百Mほどで、高さは最低でもその二倍はあると思われる。光の反射の影響か、流れ落ちる水は
そしてこの滝の恐ろしいところは………この滝が25階層より下部にも続いていることだ。
「この馬鹿みたいにデカイ滝はこの下の26、27階層まで続いておる。まあ一部のモンスターを除いては滝を登ってきたりはせんから安心して良い」
「いやいや、『レイダー・フィッシュ』みたいに水中からいきなり襲いかかってくるモンスターもいるんだろ?」
「よく勉強しておるな。そのとおりだが、奴らはそこまで強くはない。普通に戦えば負けることはないだろう」
「しっかし人型モンスター多いな」
「ここは『ハーピィ』に『セイレーン』などは確かにそうだが・・・・顔は醜悪そのものじゃ。顔を背けないようにな」
「わかった」
「それに『イグアス』を中心とした飛行するモンスターにも注意しとけ。『イグアス』は下層最速のモンスターで冒険者の中には『不可視のモンスター』と呼ぶ者までおるくらいだ」
「面白そうだけど………今回は止めておくよ。Lv.3になったら下層をしっかりと探索することにするわ」
「そうだな。それが最善の方法だろう」
俺はガレスとダンジョンに関する話をしながら25階層内を見て回った。
途中で『ブルークラブ』をはじめとしたモンスターに襲われた。最初は少々手こずったが、二回目からは楽に倒すことが出来ていた。
また、
今まではモンスターばっかりを注視してきたので、たまにはこういった冒険らしいことも楽しかった。
『アクア・サーペント』などのモンスターも現れたが、ガレスが斧で粉砕してくれた。
そして充分に25階層内を歩き回り、俺達は帰路へと付くのだった。
また雑になってますね・・・誤字修正等ありましたらお願いします。