やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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フレイヤ様のターンです。



銀髪の女神様

ガヤガヤガヤガヤ・・・・・。

 

今日も今日で多くの人々が賑わいを見せるオラリオのメインストリート。

現在時刻は正午近く。少しずつ人が増加してくる時間帯である。

そんな時間に俺はというと…………。

 

「えーっと……少々くっつき過ぎじゃないですかね?」

「これくらい普通だわ」

「そ、そうですか」

 

フードを被った銀髪の美人な女神様とともに街を回っていた。

何故こうなったのか。その経緯を説明していくとしよう…………。

 

 

***

 

 

夏。

 

俺がオラリオに来て、もうそろそろ一年という歳月が過ぎた頃。

 

俺の生活には変化が生じていた。

 

一日の流れとしては、朝の外壁ランニングは変わらずに行い、その後に剣の素振りをするようになった。

朝飯を作るのはいつもの当番制に戻り、8日に1回のペースへと変わった。

朝飯を終えたあとは決まってダンジョンに行く。必ず毎日行っている。ただ、時間は正午までの4時間だけだ。

そしてそれ以降は3日に1回ペースで変えて行っている。

ある時はフィンやガレスに稽古をつけてもらい、またある時は街に出てリクのところへ行ったり、『レイ』に会いに行ったり、本を買いに行ったりして、またある時は部屋で本を読んだり、団員兼用の図書室でリヴェリアと勉強したりなどしている。

 

それの繰り返す生活を送っていた。

 

そして今日も同じように時間を過ごし、ダンジョン24階層付近で怪物行列にあったもののそれをすべて斬り捨てて無事に帰還。昼ご飯はどこかのレストランで食べよーかなーとか思いつつ、前にコマチと出かけたときに買った服を着て、最近の趣味的なものになりつつある隠れた名店探しを行うために路地裏などに入り込んだりしていたときだ。

 

目の前から誰かが歩いてきた。

 

いや、この表現はおかしいな。普通に街を歩けば前から人が歩いてきてすれ違うのは当たり前だしな。

 

だが、この様な表現が正しいと思う。

何故なら歩いてきた誰かとは女性であり、さらには全身より神威が微量醸し出されていて、そしてフードを被っていたからだ。

 

明らかに女神である者がフードを被ってこんな路地裏を歩いている。

あやしい………!

ここはもちろんの如く無視だ。無視が1番いい選択だ。

だから俺は、颯爽とその人物の隣を通り過ぎようとした、が、

 

「あら?久しぶりね」

「え?」

 

俺はやってしまった。前に聞いたことのある声に反応してしまった。

声をかけられてその場で振り返ってしまったのだ。この怪しさ満点の女神に対して。

 

…………ん?久しぶりだと?

 

俺が知っている女神で久しぶりと言えば、女神デメテルだろうか。

あの人なら結構前に一回会ったことがあるだけだから、久しぶりと声をかけられるのも頷ける。

しかし、神デメテル見たいな良人のお手本のような人がこんな路地裏に何のようだろうか。

 

も、もしかして実は神デメテルは裏社会では有名だったりするのか?

もし、もしもそんなんで「ぐふぐふくふふ」とかいう笑い方してたら俺の常識が覆されてしまう。

 

だが、それも杞憂に終わることとなった。

何故ならばその女神がフードをとったからである。

 

「覚えてない、かしら?」

「―――――――」

 

俺は絶句した。

俺はこの女神を知っている。

そう、それはまだオラリオに来て間もない頃、朝のランニング中に出会った銀髪の女神。

名前は聞いていないが、明らかに普通の派閥の主神ではないことは確か。

それに…………

 

「(俺あの時綺麗とかなんか言った気がする………)」

 

どうしよう。今更ながらとても恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。

顔見れねぇよ。

 

「ねえ?あなたロキのところのハチマン・ヒキガヤよね?」

「え、あ、は、はいそうですけど………」

「私のこと知っているかしら?」

「えっと………」

 

…………どうしよう、知らないんだけど。

いや、待てよ。確かロキと一緒になってゼウスとヘラの責任問題を追及していた……………。

 

「もしかして神フレイヤ?」

「正解~!!嬉しいわ、知っていてくれたなんて」

「あなたのところの派閥は有名ですから」

 

そう、神フレイヤが主神を務める【フレイヤ・ファミリア】は、俺が所属している【ロキ・ファミリア】と並んでこの世界でも屈指の人々が多く住んでいる迷宮都市オラリオにおいて、二大トップと評されており、屈強な第一級冒険者も所属している。

そして実はだが【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】はあんまり仲が良くない。

どこまで強かろうとなんだろうと、神は娯楽を愛しているし、人は競争心というものが存在する。それが力が同じくらいの派閥同士となればなおさら仲は険悪になる。

だからここは何事もなかったかのように少し会話してから終わりだと思っていた。

 

しかし、そんなのはただの幻想に過ぎないかった。

 

「ねぇ、少し一緒に街を回って見ないかしら?」

「えっ?」

「私ちょうど暇してたのよ」

「まあ、いいですけど……」

 

いきなり一緒に街を回ろうと言われたので、反射的に了承してしまった。

 

「じゃあ行きましょ?」

 

 

***

 

 

というわけで話は冒頭に戻る。

 

「そういえば今日はどこを回るつもりだったのかしら?」

「えーっと、適当な店で飯を食べて、どっかの雑貨屋か本屋にでも行こうかなぁって考えていたんですが………」

「へえ。いつもそうなの?」

「まあ大体はそうです」

「楽しそうね」フフ

「あ、ありがとうございます?」

「何でお礼を言っているの?」クスクス

「いやー、まあーな、なんていうか」

「変ね~」フフフ

 

駄目だ。なんて言うかずっとこのペースだ。

この歳上のお姉さんに弄ばれているような感覚。

………それにさっきから意識しないように努めてはいたが、ずっと腕に当たってる二つの双丘が気になって仕方がない。

だって俺13歳でも男ですよ?一端の男なんですよ?どうしてもその感触を感じてしまうのが普通です。

それになんでこんないい匂いするん?どうしてなん?女神って全員こうなんか?

―――――――いや、デメテル様とかそういう良人だけだな。ロキはたまぁにしかしないし、実際中身おっさんだし。あ、ヘファイストス様もだな。なんでだろう。

 

「とりあえずそこのお店に入りましょう?」

「あ、はい」

 

考え事してたらいつの間にか料理店の前に来ていた。

危ない危ない。コマチから学んだ女性とのお出かけの際の注意点。

 

1、他の女の話をしない!

2、他の女のことを考えない!

3、その人のことを必ず褒める!

 

の三つを完璧に忘れていた。

…………何故コマチが同性のことを女!と呼んでいて敵意をむき出しにしているのかは知らないが、グッジョブコマチ!

 

それからというもの、夜になるまでの間、俺はフレイヤ様と共に街を回った。

料理店に行った後に雑貨屋に行き、最後に本屋を回ってから露店で串肉を買って食べるという最近の生活では一番楽しい時間だった。

 

 

***

 

 

「今日は楽しかったわ」

 

フレイヤ様をこちらを見ながら微笑む。

今はフレイヤ様の住むバベルへ向かっている最中だ。

何故?そんなもの見送りに決まっておろう。こんな綺麗で可愛い人を一人で返すとかそんなの男じゃないね。てか人間じゃねえーな、うん」

 

「あら、そうかしら…………それは嬉しいわね///」ボソボソ

「えっ?」

「いえ、なんでもないわ」

 

と、フレイヤ様は言っているが、

 

「(聞こえてるんだよなぁ)」

 

前にもこんなことあった気がするが………まあいい。

とりあえずもうそろそろバベルに着きそうだし、そろそろかな。

 

「あ、フレイヤ様」

「?どうかしたかしら?」

「えっと、これをどうぞ」サシダス

「!これは…………」

 

俺が差し出したのは雑貨屋に寄った時に買った、ちょっとしたアクセサリーである。

銀髪に似合うような紫色のパールのアクセサリーだ。

 

「どうぞ。正直言ってこんなもの貰っても迷惑かもしれないですけど………」

 

なにせ相手は美の女神フレイヤ様。こんなものを差し出してくれる男神や人間など星の如くいるはずだからだ。

だが、

 

「ありがとう!大切にするわ!」パアア

「あ、はい」

 

予想に反し、喜んでくれたみたいだ。

…………何だろう。このやらかしてしまったような感じは……………。

 

「では、この辺で別れましょうか」

「あ、もう着いたのね………………」ジー

 

…………なんだろう。

 

「…………」ジー

「えっと……」

「…………」ジー

「……………また今度一緒に街回りますか?」

「!もちろんよ!…………ではまたねハチマン。次は一週間後に同じ場所で会いましょう?」

「わかりました」

「…………次までに敬語は抜いていなさいね」

「うっ、はい」

「ではまた」

「うっす」

 

こうして俺の長くて新鮮な一日は終わりを告げた。

 

 

***

 

 

フレイヤSide

 

 

神フレイヤはハチマンと別れた後、すぐさま自室へと戻り、今日一日を振り返っていた。

まず自身の眷族に命じてハチマンを探し出し、偶然を装って(・・・・・・)ハチマンに接触。その後二人きりで街を回ることが出来た。

 

「(きゃーきゃー!!これって人間で言うデートっていうやつよね?そうよね?最後にはこんな髪飾りまで貰っちゃたし///)」

 

そう、神フレイヤは自身が美を司る神であるが故に多くの人を寄せ付け、また、惹きつける。

だが、向こうにそんな気がなく、こちらの魅了さえも効かない少年とのデートは新鮮な体験だった。

 

「………こんな気分になったのはいつ以来かしらね?」

 

神フレイヤはまだ、人間で言う恋たるものを知りはしないのだった。

 

 




次回、コマチのダンジョンでの冒険。

多分二話になると思います。

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