ハチマンが18歳で、コマチが15歳になっています。
新章始動。
そして前回のあとがきでアイズ出ないとかいいましたが、出してしまいました。
変動
ダンジョン。
それはこの世界において世界三大秘境に数えられる地下迷宮であり、どのくらいの規模をしているのか誰にもわかっていない未知の世界。
遠い昔から現在に至るまで多くの冒険家が挑み続けた自然の産物だ。
そして今――――――――――――――
この世界は、いや、地下迷宮を擁する都市オラリオは、混沌の時代を迎えていた。
ダンジョンは遥昔より、邪悪な
その中でも特に逸した存在である
彼の今でいう世界三大クエストに数えられた最凶の
そして6年前、当時世界でもっとも強かったと言えた【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の合同隊が三大クエストへの挑戦を決め、これを決行した。
結果として、
それにより、迷宮都市オラリオの混沌の時代が始まりを告げる。
どこが【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の後釜となるのか、その件で当時二番手の位置にいた【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が対立。
さらに他の派閥も「もしかしたら俺達にもチャンスあるんじゃね?」ってことで覇権争いが始まった。
また、隻眼の竜に魅入った者たちが【
まさに、群雄割拠の時代である。
「あ~最近ホント疲れるなぁ………!」
そんなオラリオに身を置く一人のヒューマンの青年。
名をハチマン・ヒキガヤ。二つ名は【
【ロキ・ファミリア】所属の第一級冒険者で、Lv.5。【ロキ・ファミリア】でも屈指の実力を持つ男だ。
主な武器は剣、短剣、弓である。そしてLv.2到達の世界最速ホルダーを持つ男でもあったりする。
この男の『偉業』は人が聞いたら恐怖を抱くレベルのもの。
曰く、Lv.2で
曰く、Lv.3でLvが一つ上の【闇派閥】の幹部(Lv.4)を一人で10人相手にして勝った。
曰く、Lv.4で
このような噂が冒険者たちの中で騒がれている。
だが大体の者は「ふ~ん。ま、うわさが独り歩きしてるだけだろ」と言う。
そしてこれがすべて本当に起こったことであることは極一部の者たちしか知らない。
そんな彼――――――――――――ハチマン・ヒキガヤは今、ダンジョン34階層へと出向いていた。
彼一人である。
彼が一人でダンジョンに潜るのはそんなに珍しいことではないが、今回だけはある理由があった。
「あー!!【闇派閥】ども本当に邪魔!鬱陶しいうえにしつこすぎるんだよ!」
彼は現在オラリオでトップクラスの派閥であると言っても間違いではない【ロキ・ファミリア】所属だ。さらに立場上幹部とも言える位置にいる。
そんな彼は団長であるフィン・ディムナより、対【闇派閥】の司令官へと推薦され、ギルド側についた各ファミリアの者たちをまとめ、都市の至る所から姿を見せては被害を出す【闇派閥】の者たちの対処を行っている。
しかし、【闇派閥】の方は狡猾で、さらに良い司令官がいるのか引き際がよくわかっている。
そのため毎回現れた【闇派閥】の連中からの攻撃を防いで終わってしまう。
つまりは追撃が間に合わず、殲滅することが、お縄に付けることが出来ないのだ。
ギルド側からは急かされ、部下からは頼られ………俗に言う中間管理職みたいなものを日々やっていると………息抜きをする暇がないのだ。
「さて、サクッと狩りつくすか」
腐った目をした男は腰より銀色に輝く剣を抜き、目の前に群がっているモンスターに向かって走り出した……。
***
黄昏の館。
【ロキ・ファミリア】の
ハチマンは毎日ここからダンジョンや街に出向き、一定の時刻になったらここへと帰ってきている。
今日は週初めの恒例、幹部会議なので主神ロキがいる部屋へ向かう。
ノックをして部屋に入る。
「うっす」
「お、ハチマンが三番やな」
「ハチマン、相変わらず目が腐ってるよ」
「しょうがねえだろ。ここんとこ忙しくて社畜やってんだ」
「社畜??……今日はなにをやってたんだい?」
「昨日言ってたことだよ。【闇派閥】に対するイラつきを、ストレスを解消するためにダンジョンに潜ってた」
「ちなみに何階層まで?」
「45階層」
「『ウダイオス』はどうした?」
「倒したぞ?」
「だと思ってたよ」
そう言いながら苦笑するフィン。
フィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】団長で第一級冒険者。Lv.6で二つ名は【
主な武器は槍、短刀だ。
物腰の柔らかい人物で、オラリオの女性冒険者の中で1,2を争うほどの人気者。
非常に頭がキレ、常に冷静。指揮官としてファミリアにはなくてはならない存在だ。
そして彼には野望がある。小人族の再興という野望が。
小人族は本来女神フィアナを崇拝していたが、約1000年前に神々が天界より降臨したとき、女神フィアナが存在しないことを知る。その後、一気に衰退していった。
そしてフィンは、その見た目ゆえに見下されやすい小人族の希望となるために、小人族の象徴になるためにオラリオへ一人、やってきたらしい。
「フィン、リヴェリアとガレスは?」
「ガレスは椿のところへ行っているはずだ。リヴェリアは先程入団したばかりの子と一緒にギルドへ行ったよ」
「へぇ~新しい奴入ったのか」
「うん。でも彼女は…………」
「フィン、アイズたんの教育係にハチマンも付けたらどうや?」
「………それがいいかもね」
「おいおい、リヴェリアと俺を付けるってことはなんかあるのか?その新団員」
副団長であるリヴェリアと、幹部であるハチマンを付けなければいけないほどの新団員とは、一体どんな奴なのか。
「あー彼女は少々特殊でね。これを見てくれ」
「ん?」
フィンがハチマンに見せたのはとあるステイタス。アイズ・ヴァレンシュタインとあるからその彼女のステイタスなのだろう。
「おいおいこれは…………」
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【エアリエル】
・付与魔法
・風属性
・詠唱式【
《スキル》
【
・任意発動
・怪物種に対し攻撃力高域強化
・竜種に対し攻撃力超域強化
・憎悪の丈により効果向上
「凄すぎるだろこのスキル……それに始めから魔法顕現って………俺と一緒か」
「そういうことだ。アイズの世話係として、これ以上の適任者はいないだろう」
「……でも、俺には【闇派閥】を対処する役目があるんだけど」
「僕が代わりをする。元々ハチマンを推薦したのは僕だし、本来は僕がやらなくちゃいけない仕事だからね」
「……わかった」
「ハチマンならそう言ってくれると思っていたよ。アイズのこと、よろしく頼む。あ、言っておくけど魔法とスキルのことは彼女に言わないでくれ」
「なんでだ?」
「アイズたんはな、まだ7歳の女の子や。そして力を求めとる。そんな子に教えようとするか?」
「しないな」
「そういうことや。まだアイズたんには魔法のこととスキルのことは教えとらん。まずはきちんとした大人に育てないけんしな」
「おぉ~」
「どうしたんハチマン?」
「いや、ロキにしては素晴らしくまともな案だと感心してしまっただけだ」
「えぇー!?それは酷無いかハチマン!さてはあの銀髪女神のせいやな。己フレイヤァァァ!!」
「いや、絶対フレイヤは関係ないからな」
「おや?ハチマン。いつから神フレイヤを呼び捨てするようになったんだい?」
「え?あ、いやこれは………」
「ハチマンのアホ!もうコマチに言いつけたる!」
「止めてく「どうしたのお兄ちゃん?」………」
ハチマン達が話している中ロキの部屋に入ってきたハチマンの妹、コマチ・ヒキガヤ。
彼女は現在Lv.4で【ロキ・ファミリア】の幹部。
その可愛らしい顔立ちと屈指の強さでオラリオの男性冒険者に凄い人気を誇っている。噂では非公式ファンクラブまであるそうだとか。
しかし、そんな彼女には欠点がある。
「で?何の話なの?」
ニコニコと笑っている顔は可愛らしいが、目が一切の光を宿していない。
冷や汗をかくハチマンは取り繕いながら、
「いや、ただ新しい団員のはな「だったらロキ様がコマチに言いつけるなんてこと言わないよね?」そうですね……」
「で?何の話?」
「……フレイヤの話」
「……へぇ、そうなんだ」
腰につけていたら短刀を一瞬で抜きハチマンの首へと向ける。
「あの駄女神のどこがいいのお兄ちゃん?ねえ?ねえ?」
「いや、別にいいとか悪いとかじゃないんだけど」
「じゃあなに?」
すでに部屋の端まで追い詰められているハチマン。
そしてさらに追い込もうとするコマチ。
そんな二人の姿を見ながら主神と団長はため息をつく。
((また始まった……………))
コマチ・ヒキガヤの欠点。それは大のブラコンであるということ。
少し、昔の話をしよう。
彼らの父親は彼の有名な【ゼウス・ファミリア】に所属していたゴロウ・ヒキガヤで、その妻はこれまた有名な【ヘラ・ファミリア】に所属していた比企谷小枝子である。
しかし、両親は隻眼の竜の眷族達の手によって殺されてしまい、二人は孤児となってしまった。
それからこのオラリオを目指して旅をして(当時彼らは12歳の少年と9歳の少女)【ロキ・ファミリア】へと入団する。
そこでハチマンの才能が開花する。
圧倒的才能+努力をし続けたハチマンは、両親が殺されてしまったために残ったコマチを”守る”ことに固執してしまい、その兄の隣に立つために努力し続けたコマチは様々な感情が重なり合った末、大のブラコンになってしまったのだ。
考えてみてほしい。
当時9歳の少女に訪れた、突然の両親の死亡。旅の間の未知の世界との遭遇。そしてオラリオに来てたくさんの知らない人との邂逅。
これだけの濃い時間を過ごせば頭がこんがらがるのも無理はない。
そしてそんな中で唯一心の支えだったのが兄であるハチマンだったのだ。
兄大好きっ子に育ってしまっても仕方がないものだろう。また、元々仲が良かったことも原因の一つと言えよう。
***
現在ではハチマンの"守る"という固執した考えはほとんどなくなった。これはコマチ自身が強くなり、一人立ちしたことが大きいだろう。
しかし、コマチのブラコンは治っていなかった。
………むしろオラリオに来た時より酷くなっているかもしれない。
(コマチは正真正銘のブラコンや。最近ではヤンデレ化しとるし………どうしたもんかなぁ)
娯楽好きの神々の中でも随一の娯楽好きであるロキだが、ヤンデレだけは対処しきれないらしい。
曰く、ヤンデレは恐ろしいんやで……だそうだ。
(あ、とりあえず止めないとハチマンがこっから落ちる)
ロキが物思いに耽っていた間、コマチはさらにハチマンを追い詰め、その後ろの窓へグイグイ押しこんでいた。
これを見てさすがにフィンが「そこまでにしてあげてくれコマチ。これ以上やるとハチマンが落ちる」と進言して一旦の収束を得た。
「で?お兄ちゃん?あの駄女神となにしたの?」
「い、いや、なにもしてない。ただ「ただ?」……呼び捨てで呼んでって言われただけです」
「そんなんだから目が腐るんだよ………今度夜襲かけようかな」
(((うわっ、ガチでやりそう……)))
「そ、それよりフィン、リヴェリア達はまだ帰らないのか?」
「ガレスはそろそろだと思うけど………リヴェリア達はもしかしたらダンジョンに行ったかもしれない」
「じゃあ俺呼んでくるぜ!」
「えっ?ちょ、お兄ちゃん?!」
「じゃ、コマチ。また後でな」
ハチマンはロキの部屋から出ていき、リヴェリア達を探しに行った。
否、コマチの追及から逃げた。
「うぅ~」
ハチマンがいなくなってから、コマチの態度は激変する。
さっきまでのヤンデレっぽいものではなく、一人の可愛らしい女の子の顔を出す。
「どうしてお兄ちゃんの前だとああなっちゃうんだろう……」
「ドンマイやでコマチ」
「……うん、ロキ様」
***
一方、黄昏の館を飛びだしたハチマンはダンジョンへと向かっていた。
ガレスなら会議に出ないことはない。不安なのは新団員を連れだっているリヴェリアである。
もしかしたらその子が早くも暴走している可能性だってある。
(とりあえず1~2階層を探そう)
新米冒険者は3階層までしかソロでは行ってはいけない。それ以上進めば命にかかわるからだ。
ハチマンはリヴェリア付きなのも考えに含めた上で思考し、最適解を出したのだ。
ダンジョンに入り、螺旋階段を下っていく。
それから少しの間キョロキョロと探しまわっていたが、少し先の方でモンスターの産声が響いた。
そしてその声に反応してその場所まで行くと……。
金髪の少女がモンスターに囲まれていた。
戦闘しているようで奮戦しているが、如何せん数が多い。このままでは数に呑まれるだろう。
(とりあえず助けておくか)
助けると決めたからには全力で。
ハチマンは一瞬でその場へと移動すると、腰から抜いた剣で辺りのモンスターを一掃した。
「大丈夫か?」
一掃し終えた後、ハチマンは金髪の少女の方へ声をかける。
するとそこへリヴェリアが走ってきた。
「なにを勝手な真似を……ん?ハチマン?何してるんだ?」
「リヴェリアと新米の子を呼びに来たんだ。さっきまではこの子に襲いかかろうとしていたモンスターを一掃してた」
「なるほどな……そういや今日は会議の日でもあったな。もう戻るとしよう。おっと、その前に」
そしてリヴェリアはというと金髪の少女の近くへと歩いて行き……。
「馬鹿者!何をしておるのだ!」
「ぅぅ……」
拳骨を少女の頭へと振り落とした。
ランクアップばかりだとはいえ、Lv.6のステイタスを持つリヴェリアの拳骨だ。魔導師の者でも相当の威力を持つ拳骨を食らいながらも、その少女は地に伏すことなくその場で意識を保っていた。凄い。いや、普通に凄い。
そしてリヴェリアなどおかまいなしにハチマンの方へ近づいて行く。
ハチマンが「ん?どうした?」と聞くと、少女は口を開いた。
「私に、剣を教えてください」
スキルはオリジナルです。
あの爆砕するスキルを、勝手に名付けて書いただけです。はい。
ソード・オラトリア10巻に爆砕するスキルの詳細が載っていたので書き換えました。