二ヶ月後
二ヶ月ほど前に闇精霊と別れた俺達は依然としてオラリオへの旅中だ。
俺は闇精霊のおかげでパワーアップし、なによりの収穫は夜が怖くないことだ。
今まではどちらかが見張りをしなければ寝られなかったが、俺の魔法のおかげで夜は暗闇に潜って眠ることが出来る。
唯一の欠点と言えば、暗くなくなった瞬間に外へ放り出されることだろうか。
はじめはびっくりしたぜ。夜に暗闇に潜って寝て、目が覚めたら草原のド真ん中に放り出されていたからな。
幸いモンスターがいなかったため良かったのだが、正直言って心臓に悪い。
目覚めたら目の前にゴブリンさん――――――――なんて気味が悪い。
「お兄ちゃんどしたの?」
「いや、今までの旅を振り返っていたんだ」
「確かにコマチ達結構歩いてきたよね~もう二カ月半ぐらい立つし、時間って早いもんだね」
「まあ毎日新鮮な体験してりゃあ時も早く感じるだろうな」
「コマチもある程度戦えるようにはなったしね♪」
「そうだな」
そう、この二カ月の間で、コマチはだいぶ戦闘慣れした。
はじめはゴブリンさん一体と一時間の死闘を繰り広げていたのだが、今では一人でゴブリン三体と対等に戦えるぐらいになった。
俺?俺は魔法使いまくってからな。ひたすら【
「この親父の日記には結構色々な情報が書いてあったしな」
「オラリオに着くのが楽しみになっちゃうよね!」
俺達は暇な時に親父の日記を読むようにしていた。
日記には迷宮都市オラリオについての概要や、親父がいた頃のオラリオの様子、そして親父の所属していたファミリアについて記されていた。
「しかし親父の所属していた【ゼウス・ファミリア】ってどんなとこなんだろうな」
「お父さんのいた頃はかなり前らしいから、情報が絶対ってわけじゃないと思うんだけどさ」
「そうだな」
コマチと談笑しながら歩いていたら、もういくつめか分からないが新しい村を見つけた。
「お兄ちゃん!村だよ!」
「そうだな」
「あれ?なんか人が凄く多くて賑わってない?」
「確かにたくさん人がいるな」
人々は皆、親父たちが最後に来て行った服………つまりは冒険者が着るのであろう防具や服などを着ていた。
「すいません。どうしたんですか?」
俺の対人スキルもこの二ヶ月でかなり上がったと思う。普通に村人と話せるし。
「ああ。実は今、この村に【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の皆さんが来ていてね。これから世界三大クエストと呼ばれるモンスターを倒しに行くのだそうだ」
「【ゼウス・ファミリア】?!」
「そうだぞ。今のオラリオでは最大派閥と評されるファミリアだ」
「お、お兄ちゃん」
「あ、ああ。ちょっと会ってみたいな」
【ゼウス・ファミリア】と言えば親父が所属していたファミリアの名前だ。もし、親父が嘘を書いていたら別だが、親父に限ってはないだろう…………ないよね?
「でも人が多すぎてなかなか前に進めないな」
「お兄ちゃん…………」
「わかってるって。おじさん、ありがとうございました」
情報を教えてくれたおじさんにお礼を述べ、俺らは一旦近くの建物の陰まで歩いていく。
「よし。じゃあコマチはちゃんと俺に捕まってろよな」
「うん」
「・・・・・・【
俺が魔法を使うと同時に、俺らの体は建物の影へと吸い込まれていく。
これが二カ月前に闇精霊から貰った新たな力。その名も【
これは闇、というか暗い所に自身の体を潜らせることが出来る。
人の影にも入り込める。
そしてこの魔法の強みは自分に触れているもの、触れられているものと一緒に潜ることが可能である。
そのため荷物類はすべてこの中に収納している。
俺達は建物の影を進んでいき、人の少ないところまで来ると、魔法を解除した。
ちなみにこの魔法は任意で解くことが可能である。
「よし、無事に人込みを抜けることが出来たな」
「じゃあ【ゼウス・ファミリア】の皆さんに会いに行こう」
「おう」
俺らは【ゼウス・ファミリア】の屯している場所に乗り込んだ。
***
「あの人が団長らしいな」
「そうだね」
「一人になったときに話しかけに行くぞ」
「うん」
そして団長と思わしき人物が一人になったと同時俺とコマチは話しかけに行った。
「あ、あの…………」
「ん?」
「はじめまして。あなたは【ゼウス・ファミリア】の団長ですか?」
「ああ。そうだが………君たちは?」
「俺はハチマン・ヒキガヤと言います」
「コマチ・ヒキガヤです」
「ひきがや………はっ!まさかゴロウの?!」
「はい、息子と娘です」
「マジか!よし、ちょっとついてきてくれ」
俺らは団長に連れられ、ファミリアの皆さんがいるところまでやってきた。
「団長?そちらの子供たちは………?」
「はっはっは、聞いて驚け!こいつらはゴロウの子供たちだ!」
マジで!!?っと言う声が至る所で響き渡った。
「えっと、ハチマン・ヒキガヤ12です」
「コマチ・ヒキガヤです!9歳です!」
一応挨拶をしておこう。挨拶って大事。
「礼儀正しいな」「あの女の子かわいー!!」「男の子もかっこよくない?」
や、やべぇ。俺、こんな大人数に見られるの、生まれて初めてだ。今までの旅である程度はマシになったはずなのに!
「ありがとうございまーす!」
マジかよー。コマチちゃんハート強っ!
「……………ところでなんだが、なんで二人だけなんだ?ゴロウと小枝子はどうした?」
「それは………………」
俺はすべてを伝えた。
住んでいた村がモンスターに襲われたこと。親父たちがモンスターと対峙したこと。そして、死んでしまったこと。
話を聞いていた【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】の人たちの中では、泣きだす人もおり、ちょっと暗い雰囲気が立ち込めた。
「そうだったのか………すまなかった。つらかっただろうにそんなことを話させてしまって」
「い、いえ…………そりゃあのときは悲しかったですし、今でもたまに思い出します。ですが、親父やお袋の血は俺らに流れているんです。親父たちは誇りです」
「…………聡明な子だな」
「コマチだって、とても悲しかったですけど、今はお兄ちゃんがいるので悲しくありません!」
「そうか…………ゴロウはいい子を持ったものだな」
「ゼウス・・・」
ゼウスって…………この人が、神様……………。
神というものを初めて見たが、なるほど。これは普通の人間とは明らかに違う。
絶大な気のようなものが感じられる。
「確か、ハチマンとコマチ・・・だったかな?」
「はい」
「そうです」
「わしたちもゴロウとの日々は昔のように思い出される。彼は昔から正義感が強かった………。彼らしい最後だ」
「ゼウス様にそう言ってもらえて、親父も報われると思います」
「ん?何故わしが神だと分かった?」
「それは…………」
俺は親父の残したノートを団長達に渡した。
中身を見た、昔に親父とともに過ごしていた人々は、「ヤベエ、こいつこんなこと考えていたのか」「ギャアハハハ!!こんなこともあったなぁ!」「懐かしいな!」っというように、それぞれ昔の出来事に、思いふけいっているようだった。
「ところで、君たちは何故ここにいるんだい?このノートにはここからかなり遠い村に住んでいたようだが………」
「あ、俺達、迷宮都市オラリオに向かっている途中なんです」
「オラリオに?」
「はい。親父のノートの最後のページにそう書いてあって…………」
「………今まで二人だけで旅をしてきたのか?」
「「はい」」
「モンスターなどは?」
「あ、倒しました」
「「「倒した?!」」」
「俺、魔法使えるんです」
「…………どこかの神の眷族にでもなったのか?」
「いえ、なんか本読んだら出るようになって・・・それと闇の精霊に力を貰いました」
「精霊!?」
なんか大ごとになってきてしまった。
いろんなところから、「あの子達、恩恵なしでここまで来たらしいわ」「魔法が使えるとかヤベエ!!まだ子供で恩恵なしだろ?!」「精霊に出会って、力を貰った?凄すぎない?」だの聞こえてくる。
やめて!俺まだ対人スキル習得したばっかだから!こんな視線浴びたら緊張しちゃうよ………。
「魔法、見せてもらっていいか?」
「いいですよ」
そういや初めてだったな。この魔法をコマチや商人以外の前で使うの。
「【
俺の紡いだ詠唱と同時に、俺の全身を黒いもやが包む。
「これは…………」
「ふむ。精霊に力を貰ったというのは本当のようだな。力の端からわずかながら精霊の息吹を感じる」
………………あの、このあとどうしたら?
「ありがとう。もう引っ込めていいよ」
「わかりました」
俺は【悪夢】を解除する。
「しっかし補助魔法か。これは本を読んだ後に発現したの?」
「はい」
「そうとう強力な魔道書を読んだんだろうね」
「魔道書?」
「ああ。多分、君が読んだ本は魔道書と呼ばれるかなり貴重な代物だ。君のお父さんである五郎は発展アビリティ『神秘』を発現させていたからな。そのときに作ったものだろう」
「発展アビリティ?神秘?」
「おっとすまない。君たちはこれからオラリオへと向かうんだろう?そこでわかるさ」
「わかりました」
「あ!実はですね………………コマチ達オラリオへの行き方がわからなくてですね~教えていただけたら助かるんですが…………」
「俺達はこれから決戦に行くから同行はできないが………地図を貸してあげよう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「じゃあ、俺達はもう出発するよ。行かなきゃならないところがある」
「どこですか?」
「隻眼の竜がいる山だ」
「これから三大クエストですか………その、頑張ってください」
「必ず、俺達は勝ってくる。また会おう。先にオラリオへ行っててくれ」
「はい!」
「頑張ってくださ~い!!!」
こうして俺達はこの世界の地図を手に入れ、ゼウスファミリア、ヘラファミリアと別れ、オラリオへ向った。
これが、ゼウス・ヘラファミリアとの最後の邂逅になることも知らずに。
次はオラリオ…………に着きません。はい。
ちょっと寄り道します。
ついでですが、最初に二ヶ月後とあるのは間違いではありません。
ハチマン達はオラリオへの行き方がわからないため、めちゃくちゃな道を行っていることからこのくらいの月日がかかっています。