「………」バッ
「お兄ちゃん!」ウルウル
「ハチマン!」ウルウル
「良かった。目が覚めたようだね」
「痛たた……ここは?」
ハチマンが目を覚ますと、自分を囲むようにコマチ、フィン、ガレス、リヴェリア、ロキ、アイズが佇んでおり、目が覚めて起き上がると一斉にこちらを向いた。
そして全員が安堵したような表情を見せていた。
「【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院だよ。一昨日の夜、偶然ハチマンの姿を見つけたラウルが急いで知らせてくれたおかげさ」
「実際ギリギリだったそうだ。ラウルが気付かなければ命を落としていたかもしれない」
「ラウルが………あとでお礼言わなきゃな。痛っ!」
「不用意に動くなハチマン。お主の身体、そうとう斬り刻まれておったぞ。アミッドの魔法でなんとかなってるがダメージは回復しとらん。大人しく安静にしとけ」
「……そうするよ」
一昨日の夜に倒れて一歩も動けなかったハチマンの姿を、偶然見つけたラウルが即座にフィン達に報告。そのおかげで速やかな手配ができ、すぐさま治療をすることが出来たという。
まさにラウルはハチマンの命の恩人というわけだ。
「でも無事で良かったでハチマン!もしこのまま目ぇ覚まさんかったらと思うと……………うちもう泣きそうや……えぐっ」ウルウル
「…………すでに泣いてるぞ」
「だってあのハチマンがやで!?あんな痛めつけられとる姿を晒しとったら泣くに決まっとるやろ!」ポロポロ
「………すまん」
見ればロキの他にもコマチとアイズも泣いていた。
「良かった……お兄ちゃんが生きてて……」グスッ
「ハチマンが死んだら私、わたし、は……」グスッ
「お前らまで……泣くほどのことか?」
「泣かないわけがないじゃん!お兄ちゃんはもしコマチが意識不明だったらどうするの!?泣かないの!?」
「…………泣くに決まってるだろ」
「それと一緒だよ!」
「そうか………そうだな。アイズもか?」
「うん」
「アイズだけじゃない。【ロキ・ファミリア】全員が君のことを想っている。本当に無事で良かったよ」
「そうか………皆。心配かけて悪かった」
「(そしてありがとう)」
ハチマンは謝罪しながらも心の中では泣きそうになっていた。ミニマムハチマンはすでに号泣している。
(俺は、独りだと思ってたが………違ったな。俺のことをここまで想ってくれる仲間がいたんだな。改めて思わされた)
ハチマンは思った。
俺はコイツらに、【ロキ・ファミリア】の皆と出会えて良かったと。
【ロキ・ファミリア】に入って良かった、と。
その後少しの間談笑をしたあと、フィンが口を開いた。
「さて、そろそろ僕達はお暇しよう。ハチマン。今はしっかりと休んでくれ」
「………ああ。わかった。ありがとう」
「礼には及ばないさ。僕達はファミリア。家族なんだからね」
「………おう」
フィンがそう言ったあと、室内にいたハチマンを除いた全員が帰って行った。
一人になった部屋でハチマンは呟いた。
「………ありがとな」
ハチマンの頬を一筋の涙が撫でた。
***
眠っていたら、いきなり目が覚めた。
辺りは不思議な色に囲まれてた。
「ん?ここは………レイの中か?」
『そうだよ。僕が呼んだんだ』
「………一昨日はありがとうレイ。お前の力のお陰で名無しを倒せた」
『別にいいっていいって。あれくらいお安い御用だよ』
「そうか」
『うん』
「…………強くならなきゃな」
『敵、強かったしね』
「まだまだ世界には上がいるはずだ。そしてソイツらに対抗していくためには力がいる」
『そうだね』
「………これからも俺と一緒に居てくれるか?」
『もちろんだよ!僕はもうハチマンを主と決めてるからね!』
「……ありがとな」
『どういたしまして!………ところでハ・チ・マ・ン?』
「………なんだ」
明らかにおちょくる気満々な雰囲気を醸し出しているレイ。
ハチマンは!少し!いや、かなり警戒している!
『一昨日は格好良かったよ!』
「…………そうか?」
思ったよりも普通のことだったので一息ついてしまうハチマン。
レイは続けて言った。
『当たり前じゃん!……斬桜鬼よ。真の聖剣とは!仁を持って己を研ぎ、使い手と聖剣が一つになったその先にあるものだ!!!…………ハチマン凄かったよ!あんな大きな声でくさい台詞を言いながら決着をつけるなんて……そこに痺れる!憧れるぅ!』
「やめてやめてやめて!!それ他人からやられると恥ずかしさ満点だから!てかなんでお前そのネタ知ってんの?それ俺達の…………あれ?」
『ハチの兄貴!格好良かったすよ!………ん?どしたハチマン?なんかあったの?』
「………いや、なんでもねぇよ。それよりホントそれやめろ!」
『え~せっかく楽しいのに♪』
そう言ってレイは人の形をつくってそれに乗り移った。
「お前のそれ久々に見たな。相変わらず凄え可愛い。何?何なの?天使?天使だったりするの?」
『ちょっ、ちょっとハチマンストップ!色々言い過ぎだから………照れるよ~///』
「俺の天使!」
『もう!ハチマンの馬鹿!女ったらし!!』
「えぇーなんで?」
『自分の心に聞いてみなよ!』
レイはこの空間だけ人の形を取ることができるらしい。
見た目はピンク色の短い髪………というかセミロングというべきだろうか。それくらいの髪をしており、小柄で可愛らしい顔立ちをしている。華奢で凄く女の子らしく見える。
さらにそれに僕っ子属性が加わるのだ。
もし現実に存在したならば……………女神に嫉妬されること間違いなしだろう。
リヴェリアは美しさで女神から嫉妬されているが、レイは可愛さで嫉妬されそうだ。
「まぁいい。じゃあ俺もう出るな?さすがに休まないと死ぬわ」
『そうだね。それがいいよ。僕も久しぶりに力を解放したから疲れちゃた。ハチマン~膝枕して~』
「悪い。無理だ」
『……そっか。残念』
いつもこの姿になると膝枕をしてもらっているレイ。今回もいつものノリで言ってしまったが、現在ハチマンは養生中だ。
さすがに膝枕は難しい。
「でも」
『でも………?』
「抱きしめる事くらいはできる」ギュ
『ふぇぇ?……ふぁ、ふぁちまん///』
「暖かいな………今日はこのまま寝させてもらうわ………Zzz」
『え?え?ちょ、ちょっと待って僕の心臓がぁぁぁぁ!!……………///』
出るとか言っておきながら、結局はそのままレイの空間の中で眠るハチマン。
さらに弱っているためか、いつもより積極的で距離(物理)が近い。
五分後。
そこにはお互いに抱きしめながら眠る美男美女の姿があったとか。
***
後日。
ハチマンが養生している、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院には連日のように見舞いの客が訪れていた。
まず最初に来たのは【ロキ・ファミリア】の団員達だ。
「ハチマンさん無事っすか?!」
「ラウル、病室でそんな大声出さないで。ハチマン、無事?」
「ああ、おかげさまでな。………ありがとうラウル。お前は命の恩人だ」
「え?い、いや自分はたまたま近くを通っただけっすよ!」
「それでも結果的にはお前の行動が俺の命を救ったことに変わりはねぇよ。ありがとう」
「あわわわ………」
「なぁアナキティ、ラウルの様子がおかしいんだけど。奇病か?」
「ただ、憧れていたハチマンさんにそんなこと言われるなんて、感激っす!……とか思ってるだけだと思うわ」
「マジか!ラウルって俺のこと憧れてたのか………なんで俺を?」
「それは「ハチマンさんは格好いいじゃないっすか!以前学区で特別講師をしてもらったときの剣捌きと魔法に痺れたんです!」…………らしいわ」
「そ、そうか………まさか俺みたいなのが憧れられるとはな。ありがとな」
「自分が勝手に憧れてるだけっすから!………そ、それで何ですけど………か、完全回復したら稽古をつけてもらえませんか!」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
「ねぇハチマン。私もいいかしら?」
「おう、いいぞ」
「あ、アキ狡いっす!俺のあとに続くなんて!」
「ハチマン。私狡かった?」
堪らずラウルから抗議の声が上がるが、アナキティはラウルを無視してハチマンに問い掛けた。
「いや、普通だろ」
「だってよラウル?」
「えぇー!?これ普通なんすか?」
「いいとこ取りは当たり前だぞ」
「そうなんすかね…………」
「違いますからね。騙されないでください」
「おっ、アミッドおはよう」
途中から会話に参加してきたのは、13歳にして治療のスペシャリストであり、【ディアンケヒト・ファミリア】構成員のアミッド・テアサナーレだ。
「おはようございます……なんで新米冒険者に変なこと吹き込んでるんですか?」
「いや、これが普通だろ?」
「どこが普通なんですか!?……ラウルさん」
「はい?」
「あなたはこんな風にならないでくださいね」
「えぇー酷くないかアミッド」
「とにかく貴方は安静にしててください。……それで今から治療の続きをしますので、すみませんが……」
「あ、皆!今日はもう引き上げるわよ」
「じゃあハチマンさん!お大事に!」
「おう」
アナキティの号令によって【ロキ・ファミリア】の面々は帰って行った。
部屋にはハチマンとアミッドだけが残された。
「………で?アミッド。どうしたんだ?治療は終わったはずだろ?」
ハチマンが周りに人がいないことを告げてアミッドに尋ねれば………
「……貴方の温もりが欲しかっただけです」
先ほどと本当に同一人物か!?というくらいに雰囲気が変わり、ハチマンへと抱きついた。
「はぁ。まぁ別にいいけどよ。ラウルは俺の命を救った恩人だぞ?」
「治したのは私じゃないですか」
「まぁ、そうなんだけど」
「私の魔法のおかげですよ♪」
「でも元は俺の魔道書のおかげだろ」
実はこの二人は少し前にオラリオ外で出会っていた。
アミッドはオラリオに来るために、オラリオ行きの馬車に乗っていたのだが、道中に賊に襲われてしまったのだ。
その馬車に偶然乗っていたのがハチマンだったのだ。
実はコソっとハチマンが【闇影】でオラリオを抜け出し、魔法大国(アルテナ)にて色々と見て回ってきた帰りに偶然見かけて乗った馬車がこれだったのだ。
よりにもよってこの馬車を襲ってしまった賊は哀れだろう。
一瞬でハチマンに束縛されてしまい、一生の中で最も怖い思いをした彼らはハチマンのもとで更生されることが決まった。
その時にアミッドがハチマンに声をかけたのだ。
その後色々あって、ハチマンはアミッドに自身が創り出した魔道書を渡したというわけである。
……ちなみに襲った賊らは肉屋や魚屋など、ハチマンが常連となっている店の下っ端として働いている。彼らは仕事がなくて生きるために馬車を襲っていたらしく、今では仕事を与えてくれたハチマンに感謝しているようだ。
「そうですけど……でも顕現させたのは私です」
「………それもそうだな。今日はいいよ。もう客は来ないだろうしな」
「じゃあベットの端にでもいます」
「いやいやもっとこっちに来たいんだろ?」グイ
「え、えぇェェェェェ!!」
「一緒に寝ていいぞ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……///」ギュ
「アミッドって髪サラサラだよな。しかも珍しく銀髪だし。いい匂いするし」ナデナデ、クンクン
「ちょ!や、やめてください!ロリコンですか!?」
「アミッドと居られるならそれでも構わない」
「ちょ、ガチデレいきなり来ましたよ!!てかこの人頭おかしくなってる!血が足りてない!誰かむぐっ!」
「いいから寝ようぜ」ダキ
「~~~///」
将来英雄達を支える聖女、アミッド・テアサナーレはこの日、【闇英雄】に完全に堕ちたのだった。
そしてその姿を発見したアイズとコマチに地獄を見せられたのはまた別の話だ。
まだ続きます。
それとアミッドの話は短編集の方で出すつもりなのでそちらもよろしくです!