やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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続きです。


療養②

次の日。

見舞いに訪れてくれたのは【アストレア・ファミリア】だった。

【アストレア・ファミリア】は正義と秩序を司る神、アストレアが運営している探索系ファミリアだ。

構成員全員が第二級冒険者であり、最高到達階層は41階層。階層主を20回撃破しており、次生まれてくる『ゴライアス』を倒せば21回目となる。

また、オラリオの街の秩序を守る憲兵的な役割も果たしており、街の住民からは頼りにされている存在だ。

 

「おーい、生きてる?」

「お陰様で生きてるよ」

 

そして今ハチマンに話かけているのが、団長のアリーゼ・ローヴェルだ。

赤髪の女性で歳はハチマンと同じくらいの若き女傑だ。

 

「………無事で良かったです」

「おう、リオン」

 

次に声をかけたのがリュー・リオン。別名【疾風のリオン】。

緑髪の高潔なエルフであり、並行詠唱も用いた高速戦闘が得意である。

ハチマンと親交があるのはこの二人くらいなので、来たのは二人だけのようだった。

 

「全身やられたんだってね…………相手は【闇派閥】?」

「…………いや、違うと思う」

「なんでですか?」

「単純におかしいからだ。ここまでの武器を何故今まで使って来なかったんだってなるだろ?」

「確かにそうですね」

「ま、取り敢えず無事で良かったよ!ハチくんが無事じゃなかったら悲しいもん!」

「………お、おう」

「……………」

「……………」

 

会話が途切れる。

アリーゼは誰とでも仲良く話すのが普通なのだが、何故かハチマンと話すときだけ奥手になる。

その理由に勘付いているリオンは、小声で「もうちょっと攻めたほうがいい」と言うものの、「い、いや、これが限界なの!」とアリーゼは攻める気皆無だった。

埒が明かなくなった為、リオンは一言必殺の呪文を唱える。

 

「…このままだと取られちゃいますよ?

それは嫌だ!

ならもうちょっと何か行動を起こした方がいいんじゃないんですか?

う~~リューが言うならやってみる!

「………?」

 

お見舞いに来たにもかかわらず、ハチマンをおいて内緒話をしている二人。

ハチマンはわけがわかっておらず、首を捻っている。

 

実はというか、すでにお分かりかもしれないがアリーゼはハチマンに恋心を募らせている。

きっかけはまたの機会に話そうと思うが、現在のハチマンのステータスを見れば当たり前なのかもしれない。

オラリオ最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】の幹部でありながら、実力は彼の【勇者(ブレイバー)】や【九魔姫(ナイン・ヘル)】、【重傑(エルガルム)】とほぼ同等であり、また、これまでに数々の【闇派閥】の悪行を防いできた男で、しかも顔が良くて、優しくて自分を犠牲にすることに何の躊躇もない、言わば憧れの存在なのだ。

これほどまでのスペックを兼ね備えた男と何かしらのきっかけがあったとしたら……惚れてもおかしくはないのだろう。

 

中々覚悟が決まらなかったアリーゼだが、ついに覚悟を決めたのか、ハチマンに近づいて行って、

 

「ハチ君、ご飯食べない?」

 

そう言ったのだ。

 

 

***

 

 

アリーゼが考えたのは、『手料理作ってハチ君の胃袋を掴んじゃおう!』作戦である。

なんだ、オーソドックスじゃないかーっと、思われる方もいるだろう。だが、これはかなりの勇気と覚悟が必要になってくるものだ。

何故ならば自身の手料理を作って食べてもらった時、何と言われるか、心配でならないからだ。もし、「うえっ、まっずいなこれ」とか言われた日は最悪だろう。次の日から引きこもりになるのは確実だ。

さらに、アリーゼはハチマンが料理がとてもできて、それが神御用達のレストランの料理に引けをとらないくらいの絶品料理だということを知っているのだ。

しかし、そのため他のハチマンに懸想している女が手料理を作らないことも知っている。ならば作ってしまえ!と思い至ったわけなのだ。

 

「ハチ君、何かリクエストある?」

「そうだな……熱もあるし、お粥とお願いしてもいいか?」

「まかせて!」

 

そう言ったあと、アリーゼは治療院内にあるキッチンへと走って行った。

 

「では、私も手伝いをしてきますので、少し待ってて下さい」

「おう」

 

リューもアリーゼの手伝いをすべく、キッチンへと向かった。

 

 

 

数分後、何故かリューだけが帰ってきた。

 

「あれ?手伝いに行かなかったのか?」

「いえ、手伝おうとアリーゼの元に向かったのですが、何故か止められました。絶対に包丁を持っちゃだめだからね!とまで言われました」

「………リオンってもしかして料理できないの?」

「昔に一度だけ【アストレア・ファミリア】で昼ご飯を作った時にしたことがあります。それ以降、何故か私にだけ料理当番が回ってきませんでした」

「…………」

 

【疾風のリオン】、弱点、壊滅的に料理が出来ない。

 

「………さて、暇になってしまったので、今の内にでも【闇派閥】壊滅のために情報を交換しましょう」

「いいぞ」

「最近は殺帝(アラクニア)の一派の動きが活発化しています。おそらく近頃に何かを仕掛けてくるはずです」

「ヴァレッタか……あいつめんどくさいんだよなぁ。すぐ逃げるし嫌がることしかしてこねえしさ」

「それは同意します。奴は早く葬り去らないといけないでしょう」

「だよな」

「それに合わせて【ルドラ・ファミリア】が怪しい動きを見せています。こちらにも警戒が必要です」

「連中のことだから、また碌でもないことをしでかしてきそうだな」

「【アストレア・ファミリア】としてはこれが限界です」

「【疾風のリオン】としては?」

「勘ですが…………【闇派閥】が確実に大規模な何かを仕掛けてきそうな気がします」

「それは俺も同感だ。たまにこそっと【闇派閥】の下っ端の奴の影に潜りこんで情報収集を行ってるんだが、その時にそれらしいことを言ってた」

「そうですか……やはりあなたの魔法は諜報に役立ちますね」

「まぁな」

「ヒューマンなのに魔法を()()()顕現させていることにも驚きましたが……本当に常識の埒外にいるんですね」

「まだまだだけどな。実際こうなってるし」

 

ハチマンは未だ、公の場で【自己犠牲(サクリファイス)】を使ったことがない。そのため周囲は自己犠牲(サクリ・ファイス)のことを知らない。

するとそこにアリーゼがお粥を持って入ってきた。

 

「おまたせ!出来たてだから熱々だよ!」

「おう、サンキュー」

「なんなら食べさせてあげようか?」クスクス

「いいのか?じゃ、頼むわ」

「……え?……ええ?えええ!?」

 

アリーゼとして冗談として言ってみたのだが、今のハチマンはダメージは癒えておらず熱まで出ている。思考が単純になっているのだ。

自分がすくって食べるよりも、他の人にすくって食べさせてもらった方が楽だと本能から思ってしまっている状態なのだ。

 

「じゃ、じゃあその、あーん」

「あーん」

「………///」ゾクゾクゾク

「……おう、美味いぞ」

「良かったぁ~」

「次くれ」

「あ、ちょっと待って!」

 

ハチマンが次を催促すると、何故かアリーゼはリューを連れだって部屋の隅へと移動した。

 

どうしたんですかアリーゼ?今がチャンスなんじゃないですか?

いや、その………ハチ君が可愛すぎてそれどころじゃないんだ………

何を言ってるのですか?羞恥心で頭まで回らなくなったんですか?

と、とにかくリューもやってみて!そしたら絶対わかるから!

………いいでしょう

 

リューはアリーゼの言っていることが理解できなかったが、とりあえずやってみることにした。

 

「ではヒキガヤさん。…………あ、あーん」

「あーん」

「!………」ゾクゾク

「次頼む」

「ちょっと待ってて下さい」

 

そしてまたしても端っこに集合する二人。

 

ね、どうだった?

やってみてやっと意味がわかりました。これは危険です

だよねだよね!あれはズルイよ!女の子を落とすためにあるようなものだよ!

 

所謂ギャップ萌というやつである。

普段は指揮官としての姿や真面目な態度しかとらないハチマンが、こんなときだけは無防備にあーんをする………危険である。

もしかしたら【闇派閥】よりも質が悪いかもしれない。

 

その後少し相談した二人はお粥をハチマンに渡し、

 

「ごめんねハチ君!私たちこれからアストレア様に呼ばれてるからお暇するね!」

「早く良くなってくださいね」

「わかった。じゃあな」

 

と、この場を撤退したのであった。

 

 

 

***

 

 

最後に訪れたのは【ガネーシャ・ファミリア】団長、シャクティ・ヴァルマだった。

彼女は藍色の髪をした麗人であり、Lv.4、第二級冒険者だ。二つ名は【象神の杖(アンク―シャ)】。

オラリオの治安を【アストレア・ファミリア】同様に守ってきた【ガネーシャ・ファミリア】にとっていなくてはいけない存在だ。

 

「怪我はどうだ?」

「外傷は治ったよ。でも蓄積されたダメージと血液不足が解消されるまでは療養の姿勢で行くつもりだ」

「私としても君ほどの人材を今失いたくはない。あ、別に今じゃなくても失いたくはないぞ」

「わかってるって。シャクティの生真面目さは十分わかってるよ」

「普通だがな……まぁ早めに治していてくれ。【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】、そして【ロキ・ファミリア】に【フレイヤ・ファミリア】………今どれかの派閥の戦力が大幅に崩れたら【闇派閥】の連中が調子に乗ってきてしまう。言葉は悪いかもしれんが君が死んだら【闇派閥】に有利が傾く恐れがある。それだけは避けたい。だから、その……」

「死ぬなってだろ?」

「そういうことだ」

「シャクティは真面目だからなぁ。こんな硬い言い方してるが、実は俺のこと心配してくれてんだろ?」

「………心配でなければ見舞いにはこんよ」

「だろうな」

 

シャクティはハチマンに惚れているというわけではないが、同じギルドに所属している派閥の幹部として、上に立つ者として、少なからずの戦線を張ってきたからには情もかけるのだろう。

 

そんなシャクティだからハチマンは話そうとしたのかもしれない。

 

「………なあ、シャクティ」

「どうした?」

「………いや、なんでもない」

「どうしたんだ?」

「……お前忙しいんだろ。なのに俺に時間割いてくれたんだ。ありがとう」

「別に礼はいらない。そのために見舞いに来たわけじゃないからな」

「わかってるよ」

「では、私はそろそろ帰る。復活したらしっかりと働けよ?」

「当たり前だろ」

 

シャクティは部屋を出て行った。

ハチマンは周囲に誰の気配もないことを確認した後―――――――独り、呟いた。

 

「悪いな……」

 

 

***

 

 

次の日。

 

「来たでー!ハチマーン!」

「おうロキ、おはよう」

「おう、おはようさんや」

 

朝一番にロキが訪ねてきた。

ちなみに今日からはコマチとアイズがお世話をしにやってくるらしい。

 

「調子はどうや?」

「悪くはないぞ。回復も順調だし、このまま行けば一週間後には完全に回復すると思う」

「おお~!!それは良かったな!」

「おう。それでだな、ロキ」

「なんや?」

「ステイタスの更新をして欲しい」

「いいでいいで!」

 

療養中ではあるが、すでに寝返りが出来るようになっているハチマンはロキにステイタスを更新してもらうことにした。

理由はあの"名無し"との戦闘によって、『偉業』達成となり、Lv.6へと至れるかもしれないからだ。

ロキはハチマンに跨り、己の血を垂らしてステイタス更新を進めて行く。

そして――――――

 

「ハチマンLv.6キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

ロキの絶叫が治療棟に響き渡った。

 

「おっしゃぁぁ!!」

「これが結果や」

 

 

ハチマン・ヒキガヤ

Lv.5

 

 力:SS4677→SS4992

耐久:SS4391→SS4996

器用:SSS6095→SSS6127

敏捷:SSS5238→SSS5319

魔力:SSS7388→SSS7400

孤独:A

耐異常:F

武人:D

神秘:D

 

魔法・スキルは以前と変わらず。

 

 

「トータルで1045も上がっとる。耐久なんて伸びが異常やで」

「そりゃあんだけ血を出してぶっ倒れてたんだからな。当たり前っちゃ当たり前だな」

「それでもちろんLv.6にランクアップするやろ?」

「おう」

「おっしゃ」

 

ロキはまた少しだけ血を垂らし、ステイタスを更新していく。

 

「Lv.6になるにあたって一つ発展アビリティが増えたで」

「なんだ?」

「リヴェリアも持っとる《精癒》や。これは使えるはずやで」

「魔力の自動回復は持ってて損ないし、悪くないな」

「じゃ、また1から頑張ってな」

「おう。すぐにオールSにしてみせる」

「あーフィン達抜かされるなぁ」

 

 

 

 

 

 

そして一週間が過ぎ……………

 

俺は治療院から退院した。

 

「アミッド、色々とありがとな」

「いえ、私も【ディアンケヒト・ファミリア】の一員ですから」

「そっか。じゃ、また今度な」

「はい、もうこんなことにはならないでくださいね」

「もちろんだ」

 

アミッドに見送られながら、俺はホーム、黄昏の館へ帰宅するのだった。

 




無理やり感があったのは許して下さい!
次回はダンジョンに潜ります。ハチマンでソロです。

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