やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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ハチマン修業&新魔法&計画


強くなるために

【ロキ・ファミリア】所属、ハチマン・ヒキガヤのLv.6到達は、瞬く間にオラリオ中に広がった。

オラリオ唯一のLv.7であり、『頂天』である【猛者(おうじゃ)】オッタルとLvの差が1あったにも関わらず、互角の闘いをしたことは一般市民も知っている有名な話だ。

冒険者からしたら、畏怖を覚えるほどだ。

あの時の闘いは18階層で行われ、遠目から見ていた冒険者たちは皆びっくりしていた。

オッタルがLv.6になっていたのは随分前のことで、逆にハチマンがLv.5になったのは、その闘いの一週間前のこと。

つまりは約Lv二つ分の差があったようなものだ。

そして闘いが互角だったということは………ハチマンはLv.5にしてLv.6の最高峰と同等の強さを誇っているということ。

そんなハチマンがLv.6へと至ったのだ。

その強さは計り知れないだろう。

 

バベルの一階にあるギルドはその舞い込んできたニュースで盛り上がっていた。

ざわざわと喧騒が絶えないギルドに、そのニュースの本人であるハチマンが入ってきた。

 

「おいおい、あれがハチマン・ヒキガヤだ」

「アイツか………」

「あの方がハチマンさんですって!」

「カッコいいです!」

「第一級冒険者にしてイケメンとか………羨ましいぜ」

「あの【光妖精(フェアリー)】と実の兄妹らしいぞ」

「本当か!!?」

「ああ。さらに【光妖精】は【闇王子】のことが大好きらしいぞ」

「爆死しろよ」

 

各々がハチマンへ様々な視線を投げてよこすが、当のハチマンはというと…………

 

(ヘファイストスはいるかな……?)

 

これから訪れる鍛冶神の所在の有無を心配していた。

 

 

 

***

 

 

 

ハチマンがヘファイストスの元を訪ねたのには理由があった。

以前ヘファイストスも口にしていたことだが、時々レイの整備のためである。

名無しとの戦闘の時にも使用し、二ヶ月に一回(一ヶ月ずっと)のソロダンジョン探索では()()()()からしか使わないが、むしろそちらの階層にいることがほとんどなのでその分レイを使用する機会が多い。

だから整備を頼みに来たのだ。

…………………次がいつになるのか、分からないのだから。

 

ハチマンはバベルに出店しているヘファイストスの店を訪ねた。

 

「すまん、ちょっといいか?」

「お、ハチさん。リクさんならいつものとこですよ」

「リクじゃなくて、神ヘファイストスはどこにいる?」

「主神なら奥の部屋っす」

「通っていいか」

「どうぞ」

 

受付の新米鍛冶師に許可をとり、ハチマンはヘファイストスの元へ向かう。

 

ヘファイストスは以前レイが飾られていた部屋にいた。

 

「あら、誰かと思ったらハチマンか。どうしたの?」

「へファイストス、レイの整備を頼んでもいいか?」

「もちろんよ。出してもらえる?」

 

ハチマンは自身の影よりレイを取り出した。

 

「確かに少しだけだけど傷ついてるわね………早くしてあげたいんだけど最近神友が降りてきて面倒見てて……ちょっと手間がかかるのよね」

「へぇ~新しい神か………挨拶しとこうか?」

「しなくていいわよ。どうせすぐに顔を忘れてしまうだろうしね………そーねー、一週間後なら整備代無くても良いけど、どうする?」

「出来るだけ早く頼む」

「珍しいわね。何かあったの?」

「いや、特になんでもないけど……レイはダンジョンだと何時も一緒にいるからさ、明日からダンジョン潜ろうって思ってて、それが結構長引くから………」

「ふふふ、そんなにもレイのことが大事なのね?」

「ま、まぁな!」

「今の時間だと……今からとりかかれば明日の朝には終わるわね」

「え?明日には終わるのか?」

「客のニーズには出来る限り応えるのが鍛冶師ってもんなの」

「そうか……助かるよヘファイストス」

「ま、その分金は払ってもらうけど」

「わかってるよ」

 

普段ならば一週間はかかる整備を一日で終わらせてくれるというのだ。金くらいは出すつもりでいるハチマン。

 

「うーん……100万ヴァリスでいいわ」

「どうぞ」

 

ヘファイストスが提示した額をすぐさま影より取り出すハチマン。

 

「貴方いつもこれよね………全財産がどれくらいあるのか気になるわ」

「さすがにノーコメントで」

「そりゃそうか。じゃあ明日の朝にまたここに来てね」

「おう」

 

レイをヘファイストスに預けた後、ハチマンは次なる目的地へと向かった。

 

 

***

 

 

訪れたのはリクの作業場だった。

目立たない裏路地の端っこにあるリクの作業場兼家にハチマンは顔を出す。

 

「リクーいるかー?」

「………………」

「おじゃましまーす」

 

返事はなかったが、ハチマンは勝手に作業場へと入る。

ハチマンが作業場に入ると、奥の方でカン!カン!と音が鳴っている。ちょうどリクが作業しているのだろう。

リクの作業が終わるまでは邪魔をすることは憚れたため、床に腰をおろして影から製作中の魔導書を取り出してその続きを始める。

しばらく時間が経った後、作業音が止み、リクが独り言を始める。

 

「よし、終わりだな。しっかし真剣ってのは出来がホント少しのことで変わるよな。今のところ最高の出来はハチに渡したやつだし……うわっ!?」

「ん?お、リク。鍛冶作業は終わったか?」

「なんだハチか。お願いだから驚かさないでくれ………」

「悪かったよ」

 

リクは驚いたようだったが、相手がハチマンだと分かりほっとする。

 

「で、今日はどうしたんだ?」

「作ってほしい武器がある」

「……いいぜ、言ってくれ」

「弓と剣の変形武器を作ってほしい」

「……………は?」

「弓と剣の変形武器を作ってほしい」

「……………ハチ、俺の耳が悪かったみたいだ。もう一回言ってくれ」

「弓と剣の変形武器を作ってほしい」

「出来るかんなもん!!?」

 

リクとしては弓かショートナイフくらいだと思っていたらしい。ハチマンの主体武器がそれだからだ。

だが、まさか合体したものを作れと言われるとは思ってもみなかったのだろう。

 

「リクはLv.4の鍛冶師だ。出来る」

「いや、変形とか誰も作ったの見たことないぞ!?」

「彼の【創造者(クリエイター)】さんなら出来ますよ」

「その二つ名で呼ぶのやめろ!!って、無理だって!!」

「なんで?」

「いや、なんでって、どうやって作ればいいかわかんないんだよ!?無理だろそんなもん」

 

今まで誰も作ったことない武器だ。あの鍛冶神ヘファイストスでさえも。

 

()()()()()()

「え?」

「お前のヘファイストスを超えるという目標達成に、これほどいいものはないはずだぞ?だって誰も作ったことないんだからリクだけのオンリーワンだ」

「た、確かに……それはそうだが………」

「しかも、変形のための装置は俺が開発した」

「マジで!?」

「おう。魔術師舐めんな」

「なら、俺は普通の弓と剣を作ればいいんだな?」

「いや、お前の全力で大型の弓と剣を頼む」

「は?」

「剣はちょうどレイくらいの大きさで、弓はそれよりちょっと大きめだな」

「え、なにその難しい設定。普通サイズでも足りるだろ?」

「大きい弓が使いたい!」

「願望丸出しかよ………でも、面白そうだ」

「だろ?」

「もっと詳しく話そう」

「喜んで」

 

その後3時間にも及ぶ中で設計図を作り上げ、なんとか構図が完成した。

 

「これなら出来そうだな」

「俺とハチの技術の総傑作か!頑張って最高の武器にしてみせるぜ!」

「そこらへんの腕は信頼してる」

 

ハチマンの使う武器はギルドの初心者用武器か、ヘファイストスの創り出したレイか、リクの作った武器しかないため鍛冶の腕は心配していない。

 

「出来あがるのは結構先になりそうだけど、待っててくれよな」

「楽しみにしてる。じゃあまた今度な。出来たら教えてくれ」

「おう!」

 

リクに新武器の作成を依頼し、リクの作業場をあとにする。

 

それからは明日からの長期ダンジョン探索に向けての準備として、携帯食料、水、ポーション、マジックポーション、万能薬………などなど様々なものを買って回った。

その後、ギルドに長期ダンジョン探索へ行くことを報告する。

最近では【闇派閥】の動きが活発になってきたため、一部の冒険者たちはダンジョンに長期間潜る際、ギルドに報告しておかなければならない。

もし報告しなければその内強制通告(ミッション)が増え続け、どちらも困ることになるからだ。

ギルドに一ヶ月間の時間を告げ、ハチマンは黄昏の館へと帰還した。

 

 

***

 

 

今日からは当番じゃないため夕食は他の団員が作ったものを食べ、シャワーを浴びた後自室に戻った。

本来ならば魔導具作りにせっせと励むところだが、今日はしない。

試してみたいことが出来たのだ。

 

「この自作の魔導書を俺に使ったら魔法覚えるのか?」

 

そう、新魔法を覚えようとしていた。

魔道書は製作者本人の魔力アビリティによって出来が変わるもの。

魔力が都市最高の魔導師【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アルーヴをも超える魔力を持つハチマン。

どれくらい強力なものなのか考えつかない。

 

「でも魔法の上限は三つなんだよなぁ」

 

背中に刻まれた恩恵の魔法の欄は最大で3つ。つまりそれ以上の魔法は覚えない。

リヴェリアは各三つの魔法にそれぞれ詠唱連結の属性を持ち、その詠唱の長さで魔法を使い分け、実質九つの魔法を操っているが、あれはエルフの王女だからこそ。

一般ヒューマンであるハチマンは三つ覚えているだけ凄いのだ。

 

「でも考えたってしょうがないな。これを信じよう」

 

そしてハチマンは魔導書を開き、読み始める。

タイトルは『魔法使いになるために』で、考えたのはロキである。

これ以外には『ゴブリンでも分かる魔法読解書』や、『一角獣でも分かる魔法分析書』などがある。

………そして実はこれを読ませている奴がいるが、これはハチマンだけの秘密である。

 

その後、読み進めて行ったハチマンは、魔導書に意識を持って行かれた。

 

 

***

 

 

「ん?ここは……」

 

辺りは真っ白だった。

そんな真っ白な空間に声が響いてくる。

 

――――――――――汝にとっての魔法とはなんだ?

 

「んなもん決まってる。仲間を守れるもの、圧倒的なものだ」

 

――――――――――汝は現在以上の力を欲するのか?

 

「ああ。そのために作り上げたのがこれだ」

 

――――――――――汝はどんな魔法に憧れる?

 

「そうだな……リヴェリアの【レア・ラーヴァテイン】だな。あれは壮絶で凄い。カッコいいし」

 

――――――――――ならば汝に贈ろう。この熱き力を。

 

 

***

 

 

「はっ!?」

「うわぁ!!……ど、どうしたのハチマン?悪い夢でも見たの?」

「………アイズか」

「勝手に入って本読んでた」

「お前なぁ………」

 

気付くと部屋にはアイズが来ており、俺の膝を枕にして本を読んでいた。

 

「ハチマンは何かしてたの?」

「………実は魔導書を試してみた」

「え!?ハチマン作れたの!?」

「あ、アイズには秘密にしてたんだっけ」

「聞いてないよ」

「なら教えとく。俺は魔導書が作れるんだ」

「じゃあ見せて見せて!」

「さっき俺が使った中身を失ったのならいいぞ」

 

アイズは魔導書に関心を持ったのか、それを読みだした。

読み進めていく内にウトウトしだしたアイズは、「借りる」と一言言ってから自室へと帰っていった。

 

ハチマンの部屋はハチマンだけになる。

 

「魔法覚えたのか…………?ま、明日朝一番にロキんとこ行けば分かるだろ」

 

こうしてハチマンは眠りについた。

 

 

***

 

 

翌日

 

朝食後すぐにロキの部屋へと向かったハチマンはステイタスの更新を頼んだ。

 

「いつもより早いなー。どうかしたんか?」

「ちょっと気になってな」

「まぁええわ。この期間でどれくらい上がんのか知りたいしな」

 

ロキはいつも通りテキパキと進め、更新が終了した。

そして、告げた。

 

「なぁ、ハチマン。なんかしたか?」

「おっ、魔法覚えたのか?」

「そうや。四つ目の魔法や」

「これは嬉しいな。半分試した感じだったから魔導書も無駄にはならなかったし」

「ホンマは三つまでしか覚えられんはずなんやけど………これやから下界はおもろい」

 

ロキとて神だ。神であるからには娯楽を求めて下界へと降りてきたのだ。こんな未知に興奮しないわけがない。

今だって少しずつ呼吸が荒くなってきている。

 

 

ハチマン・ヒキガヤ

Lv.6

 

 力:I0→H124

耐久:I0→H121

器用:I0→G200

敏捷:I0→H155

魔力:I0→I47

 

《魔法》

 

【悪夢】

【闇影】

【自己犠牲】

 

ここまでは変わらなかったが、

 

【フレイム・ボルト】

・速攻魔法

・自由自在

 

スキル以下は変わらず。

 

 

「これは………」

「【悪夢】と同じく詠唱せずに唱えられる新魔法………【フレイム・ボルト】。強そうやな」

「この自由自在ってなんだ」

「うーん、それはハチマンが試してみてや」

「わかった。だがこれで魔導書を使えば三つ以上魔法を覚えられることが分かったんだ。もっと覚えてみるとするか!」

「待てハチマン。それは止めときや」

「なんでだ?」

「そのことで話さんといけんのやけど……実は魔法を四つ以上覚えたんは少なくともオラリオではハチマンが最初なんや」

「それは……ホントか?」

「もちろんや。なんならギルドの記録見てもええで」

「本当みたいだな………」

「でもあと一つは覚えられるで。空白になっとるからな。せやから考えて覚えるようにな」

「わかった」

 

しかし五つも魔法を覚えられるという前代未聞の事態であることには変わりない。

ハチマンの【強者願望(シュタルクノゥト)】の影響がここにも出ていたのだ。

 

 

***

 

 

ロキの部屋を出て、ダンジョンに潜る準備を済ませたハチマンは早速ダンジョンに潜った。

10階層を超え18階層で少々休憩し、20階層、30階層………50~階層。

 

「………」

『グガァァ』

「………」ザン

 

群れていた『フォモール』を倒しつくしたハチマンは、魔石を拾いながらとある計画を考えていた。

【ロキ・ファミリア】の現在勢力、自身の置かれている状況。【闇派閥】の動き、アイズの成長が()()()()()()()()()()()()()()

そして………………"名無し"等の存在と()()()()()()()()()()

これらをもとにハチマンが思いついたのは……………とある()()だった。

 

「そろそろ【闇派閥】が大規模な動きを見せそうだし………()()()()()()()

 

すまない。そしてありがとう――――――――――――――とハチマンが口にした言葉は、大量に生まれてきた『フォモール』の雄たけびによってかき消された。

 




あと数話で第一部が完結する予定です。
第二部は………未定ですね。構想はありますが、これからの展開の時の読者様の反応やご感想を見て決めたいと思っております。

ちなみにですが、コマチとリクの二つ名を勝手に決めました。
コマチが【光妖精】でフェアリー。リクが【創造者】でクリエイターです。
それとこの件については活動報告をご覧ください。

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