あの"名無し"襲撃事件(ロキ命名)から約6ヶ月が経った。
あのあと俺はかなりの修行を続け、オールとまではいかないまでも、器用、敏捷、魔力がS評価である。力がBで耐久がEだがまぁいいだろう。今ではフィン達を1対1なら圧倒出来るまでになったのだ。文句はない。
フィンが【ヘル・フィネガス】を使ったら分からないな。したことないし。
ちなみに6ヶ月の間はダンジョンでの鍛錬と【闇派閥】を潰すために動いていた。
そのおかげか、【闇派閥】のアジトを数か所にまで絞ることが出来た。
確実に【闇派閥】の力を削いではいるものの、奴らもしつこく食い下がっているため膠着状態が続いていた。
そしてこの日、俺はリクのもとで新武器の製作を行っていた。
今までにはなかった変形武器ということで、製作期間が並ではない。
「ハチ、そこを押さえててくれ。今からここだけうっとく」
「わかった」
基本的に俺は鍛冶のことはさっぱりなので、リクにまかせっきりだ。
リクはこの9年でかなりの有名鍛冶師になった。
あの【ヘファイストス・ファミリア】の中で幹部も務めていることから、リクの腕は世界でもトップ10に入るか入らないかってところだろう。実際にへファイストスが言っていたので疑う余地もない。
本人はまだまだだと言っているが、もう少し自己評価を上げてもいいと思う。
リクが腕を振るうたびにカン!カン!と良い音を立てて素材が変形していく。
今回素材に使っているのは
そして、
その名の通りダンジョンより採掘される
壊すことは不可能とされ、『
…………………でもなぁ。
「俺これ壊しちまったんだよなぁ」
「ん?あぁその件か。あれは俺の見立てが甘かっただけだ。ハチでもさすがに『オリハルコン』は壊せないさ!とか思ってたら一撃で木端微塵だもんな」
「だってリクが全力でやっていいとか言うから全力でやって見たら…………………だぞ?」
「だぞ?じゃねーよ。お前の全力を勘違いしてたんだ。何故かダンジョンまで行くことになって18階層まで行って、端っこの方でやりたいって言ったから、俺はてっきりリヴェラの連中に気付かれたくないんだなぁって思って承諾したらお前………何した?」
「リヴェラの街周辺と17階層へと繋がる方面の壁を粉々にしたな」
「それがおかしいんだよ!!俺がどれだけの死の恐怖を味わったか教えてほしいか!!おい!?」
「い、いや、いいです」
「わかるか!?なんか【悪夢】纏って本気でやる気なんだと思ったら別の魔法まで重ねて、しかも地面は崩壊するし『ゴライアス』まで襲ってくるし、もう散々だった!!」
「わ、わかったから、リク。作業を続けてくれ」
「絶対わかってないからなお前」
リクは恨みがましくこちらを見ながらも作業を再開しだしてから、俺はため息をつく。
あの時は誰も壊せないなんて聞いて久々に心が躍っちまったからなぁ。【悪夢】に【闇影】の興奮バージョンだったか?を合わせてそれを『白銀』で放ったらあの結果だった。
もし『レイ』でやっていたらリヴェラもただでは済まなかっただろう。最悪全滅だったはずだ。
それにダンジョンの野郎がすぐに修復しちまったから『ゴライアス』が18階層で暴れて大変だったな。急いで戻ったらリヴェラ半壊しちゃってたし。
すまん、リヴェラの冒険者の皆さん。
俺が過去の出来事を思い出しながら遠い目をしていると、リクの方から作業音が聞こえなくなった。
どうやら終わったらしい。
「よぉし、ハチ。これでパーツはすべて揃った。お前の工程は終わったか?」
「ああ。さっき出来たばっかりのやつ以外は済んだ」
「そろそろ終わるんだな………初めてだぜ?こんなに長く一つの武器の製作に時間かけたのは」
「ヘファイストスに比べたら全然だけどな」
「今ここでヘファイストス様のことを出すな。虚しくなってくる」
「悪い悪い」
何せ100年以上の歳月をかけて剣を創り出すような生粋の鍛冶職人だからな。いくらここ、オラリオの鍛冶職人たちでも100年の時をかけて作ろうとする奴はいないよな。ヘファイストス本人ですら嫌がってたし。
「よし、出来たぞ」
リクと話している間に最後のパーツも仕上がった。
「………早すぎやしないか?」
「元々弦とか弓柄や弓幹には大して細工はしないつもりだったからな。少しだけ機能を付けただけで済んだ」
「何つけたんだ?」
「俺が呼べばすぐさま手に戻ってくる機能。万が一に、な」
「……………この世でコイツに勝てる奴はいるのか?」
「ん?なんか言ったか?」
「んにゃ、何でもねーよ」
もし、"名無し"以上の使い手がいたとするならば、想定はしておくべきだ。いつもは影の中に入れておくが、使用中にブッ飛ばされたら取り戻すのが大変だ。
「じゃあ今から最後の工程に入るか。完成は明日の夜だろうからその頃取り来いよ!」
「おう」
リクの工房を後にし、帰路へとつく。
東のメインストリートは人々の喧騒で溢れていた。
しかし、そこに一人の青髪の少女を見つけ、近づく。
「よっ、アスフィ」
「あ!ハチマン!」
青髪の少女とは【
アスフィとはオラリオに来る途中に出会い、コマチも含め三人でとある洞窟冒険をした仲である。
「今帰りですか?」
「ああ。専属鍛冶師のところに行ってた」
「私は久々の一人の時間を過ごしていました」
「………ご愁傷様」
アスフィは【ヘルメス・ファミリア】所属で、主神のヘルメスにいつもトラブルに巻き込まれているらしい。
俺もヘルメスには色々と絡まれるから分かる。あれはめんどくさい。
「そうだ、これから食事でもどうですか?」
「いいぞ。今日は飯当番じゃないしな」
「やったぁ!じゃあ早速行きましょ!」
本当にやめてほしい。こんな可愛い少女のしぐさ一つが、男を勘違いさせる原因だと知ってほしいものだ。ビッチでもあるまいし。
……??俺は今何を?
「………まただ」
「……どうかしましたか?」
「いや、気にしないでくれ」
「おかしなハチマンですね」
クスクスと笑うアスフィを見ながらも、俺の思考は別のことにあった。
また起きたのだ。自分が自分でないような感覚。まるで
明らかに
先程思ったビッチという言葉の意味が分からない。そんな言葉、どこで知った?
「大丈夫ですか?」
「ッ!」
気付けば目の前にアスフィが移動していた。
俺を覗き込むように上目遣いで尋ねる。
「気分がすぐれないようでしたら食事はまた今度でもいいですよ?」
「………いや、大丈夫だ」
「そうなら良いのですが………」
「心配してくれてありがとな、アスフィ」
「い、いえ、これくらい普通です」
どうやら自問自答している間に意識が薄れていたらしい。俺としたことが情けない。
その後アスフィと豊穣の女主人で食事をした。
ヘルメスに関する苦労話が主だったが、アスフィがスッキリ出来たと言っていたから良しとしよう。
店の前でアスフィと別れ、再び帰路へとつく。
ふと空を見上げれば、少しずつ黒雲が迫っているが見えた。
「……嫌な予感がする………準備しとくか」
この時、俺は甘く見過ぎていたのだ。
あんな悪夢が起きようなんて思いもしなかったのだ。
唐突的な終わり方で申し訳ないです。うまく出来ませんでした。
すでにお分かりの方もいるかもしれませんが、この物語のスタートは………いえ、お楽しみに取っておきましょう。
種明かしはまたの機会に。
次回予告
勃発、大規模な抗争、VS【闇派閥】!
お楽しみに。