やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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あー間に合わなかった………。


27階層の悪夢 振りかかる絶望

ダンジョンに入るや否や、瞬く後に影へと潜るハチマン。

少しばかり力を込め、下へ下へと進んでいく。

10、11、12………

自身の最高速度で潜って行く。

 

(待ってろ、今助けてやる。アリーゼ、リオン)

 

ハチマンの頭には交流のあった【アストレア・ファミリア】の女傑が浮かび上がっていた。

 

 

***

 

 

この日、【アストレア・ファミリア】はギルドでもバベルに近い場所に出現した闇派閥の対応に当たっていた。

そしてある程度の奴らを叩きのめし、一件落着と思った時だった。

 

「おいおいおい~どこの誰かと思えば【アストレア・ファミリア】じゃねーかよ~!」

「お前は!?」

「おいてめぇら!殺るぞ!!」

「「「おお!!」」」

「総員!迎撃開始!」

「「「了解!!」」」

 

【闇派閥】と【アストレア・ファミリア】が戦闘を開始する。

ついさっきハチマン達【ロキ・ファミリア】と交戦し、辛うじて逃げおおせたヴァレッタは本拠地へと戻り、第二作戦を遂行するためにこの【アストレア・ファミリア】の前に姿を現したのだった。

そんなことを知る由もないアリーゼ達は全力で対処に当たった。

【アストレア・ファミリア】は構成員全員が第二級冒険者である。ほとんどがLv.2以下である闇派閥の連中は歯が立たない。

一部幹部は少し押しているが、すぐに増援が来て、【アストレア・ファミリア】が優勢になって行く。

数分後、ヴァレッタが動く。

 

「ちぃ、そう簡単には行かねえか。おいてめえら!!逃げっぞ!!」

 

闇派閥が逃げ始めたのだ。

闇派閥が逃げることはいつも通りなのだが、今回ばかりは進路がおかしい。

 

「アリーゼ!奴ら、バベルがある方向へと向かっています!」

「何だって!?」

 

闇派閥の連中がバベル………………ダンジョンのある方向へと逃げ始めたのだ。

アリーゼは【アストレア・ファミリア】団長。追うかどうかも彼女の指示だ。

 

「総員!追うよ!」

「「「了解!」」」

 

そして彼女は追う選択をした。

逃げる闇派閥、追う【アストレア・ファミリア】。

街中を駆け巡る中で、その途中途中で出会うギルド側についた派閥も同じように追い、闇派閥を討ち果たさんと追って、追って、追って………………。

すると、闇派閥の連中はバベルへと到着した途端、ダンジョンへと入り始めた。

最後尾だったヴァレッタは振り向き、

 

「ほら?追って来いよギルドの犬ども!私らの首が欲しけりゃなぁ~ぎゃっはっはっは!!」

 

明らかに煽りと思えるセリフを吐き、ダンジョンへと潜って行った。

この場で判断を求められるのは…………アリーゼである。

即追うべきだという意見と、罠だと考える意見。周りも少しずつ割れ始めている。

そして、アリーゼは……………決断した。

 

「皆!行くよ!」

 

ここで少しアリーゼの話をするが、彼女は人を惹きつける能力がある。

天真爛漫な女性は誰か?という質問を問われれば、彼女を知っている人間ならば全員がアリーゼだと答えるくらいにありのままな、純粋な女性なのだ。

だからかもしれないし、単なる経験不足とも言えることだろうが、この時、アリーゼは一つ、ミスを犯してしまった。

ヴァレッタ・クレーデという女を甘く見ていたのだ。

これがフィンやハチマン、シャクティならば警戒しただろう。何かがある、と。

リーダーとしての彼女は後一つ、力が足らなかったのだ。

アリーゼを先頭にした追う冒険者達(闇派閥討伐隊とでも言うのだろうか)は、凄まじい速度でダンジョンを潜って行った。

普通に潜れば約2時間はかかる18階層までを、1時間で踏破。18階層で残虐行為をしていた闇派閥の者たちに襲いかかった。

 

「くっそ!これじゃあ埒が明かねえ!!」

「おとなしく捕まれ!【殺帝】!」

「そんなんで捕まる奴がいるとでも思うのかよ~!【疾風】~!」

「このッ!」

「おっとっと危ねえな~」

 

ヴァレッタにリューが襲いかかるものの、Lvに一つ差があるのもあってか、と避けられてしまった。

だが、周りは明らかにリュー達が優勢だった。

このままいける!………多くのギルド側の冒険者たちは思っていた。

しかしここで、闇派閥が動く。

 

「てめぇら退け!」

「何!?」

「さらに下へ行くというの!?」

 

闇派閥の連中が全員、さらに下の階層に向かって動き出したのだ!

これより下は中層、下層と、さらにモンスターは強くなり、脱出が困難になる。

 

「敵に思惑は何だ!?」

 

誰もが思うところだろう。

だが、この時優勢だった彼らはすぐさま追うことに意識を向けた。

逃げるということは追い詰めているということ。

人は有利になれば、視野が狭くなる。勝てると心理的に思ってしまうのだ。

 

「行くぞおぉ!!」

「奴らを滅ぼせ!!」

 

そして、多くの冒険者が後を追った。

その中には【アストレア・ファミリア】の姿もあった。

彼女達はさすがに罠ということには気づいているものの、この勢いを止めるわけにもいかず、共に下の階層へと向かっていった。

 

そして、追っていくこと27階層。

そこで、最後尾のヴァレッタが足をとめた。

止めた場所はとある広いルームだった。

 

「諦めたな【殺帝】!お前ら行く「おいおいおい~」ぞ?」

 

しかしそこで振り向いたヴァレッタの顔は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嗜虐的な笑みに染まっていた。

 

「馬鹿かお前らはよ~。私がここで止まるまでに消えた他の連中、気にならなかったのかよ~?」

「そう言えば10人ほどがいなくなっているような……」

 

ヴァレッタの言うとおり、いつの間にか闇派閥側の人間が減っていた。

そして突如、凄まじい音が響いてきた。

 

「な、何だ!?」

「ギャハハハ!!こりゃあ悪くない選択をしたもんだな!!テメエらは私達と共に死んでもらう!!」

「ア、アリーゼ!!」

「そんな…………」

 

アリーゼ達が振り返った先には………大量のモンスター達が闇派閥と思われる人間を追っており、その人間は明らかにこちらへと向かっていった。

100を軽く超えたモンスターがこちらへ向かってきている。

そしてルームにいた全員が、そのモンスターの群れに吸い込まれた。

 

 

***

 

 

アリーゼSide

 

「はぁ、はぁ、はぁぁ!!」

 

もう何体になるか分からない。

もう体も限界が近い。

 

「皆!……いる!?」

「「「「「「「「「「ああ!!(はい!!)」」」」」」」」」」

 

良かった……皆は生きてるんだ。

まだ、望みはある。

あの大規模すぎる怪物進呈(パス・パレード)が起きた後、すぐさま他派閥の男を一人だけ地上へと逃がした。

なんとか生き抜いて地上へ着いていれば、増援が望めるかもしれない。

 

「はぁ、はぁ」

「アリーゼ!後ろです!」

「えっ!あぐっ!?」

 

少し思考を他に飛ばしていたから警戒が薄れていたんだ。後ろからモンスターに突き飛ばされた。

突き飛ばされた私は地面を転がる。

 

あぁ。私はここで殺されるんだ。

 

リューが向こうで叫んでる。でも、モンスターに囲まれていて身動きがとれそうにないね。

 

仲間が叫んでる。でも、誰も目の前の敵に精一杯のようだ。

 

あぁ。景色がゆっくりだー。これが走馬灯言うやつかな?

 

仲間との思い出が蘇ってくる。

 

楽しかったなぁ。色々あったなぁ。

 

そんなたくさんの中でも、どうしても目がいってしまうのがあった。

 

ハチ君だ。

 

あぁ。ハチ君が笑ってる。私の料理を食べて喜んでくれている。

 

こんなときにも思っちゃうなんて、やっぱり私、ハチ君のこと好きなんだなぁ。

 

皆、ハチ君。お別れだね。

 

あぁー、最後にハチ君の顔が見たいな。

 

一度でいいから。あと一度だけでいいから。

 

そして私は、そんなことを思いながら死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………筈だった。

 

目をギュウって閉じて最期の時を待ってもなかなか来ない。

どうしたんだろう?

そして目を開けてみたら………

 

「大丈夫か?アリーゼ」

「ハチ、君?」

 

 

***

 

 

ハチマンSide

 

「大丈夫か?アリーゼ」

「ハチ、君?」

 

危なかった。なんとか間に合ったな。

俺は今応対している『リザードマン』を斬りながら思った。

辺りを見渡せば、どこもかしこも地獄みたいな絵が広がっている。

すでに事切れた人の死体も少なくない。

 

「アリーゼ、無事か?」

「………私、生きてるの?」

「ああ。生きてるからしっかりしろ」

 

周りの【アストレア・ファミリア】の連中がこっちのこと気にし過ぎて、目の前の敵に集中できてないからしっかりして欲しい。

 

「状況は最悪だな……」

「ぞ、増援なの?」

「そうだぞ。って言っても俺だけだが……」

「へっ?」

 

アリーゼの表情はとても分かりやすかった。そうだぞのところで効果音にパァァ!と出そうなくらい明るくなったものの、その後の言葉で呆けた顔をした。

………今は無視だ。

 

「じゃあ取りあえず今生きてる連中だけでも帰還するぞ」

「わ、わかってる!」

 

アリーゼもようやく自意識が戻ってきたらしい。

他の冒険者たちが相手にしていたモンスターも屠っていき、少しずつ終わりが見え始めた時だった。

何故かゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!という大き過ぎる音。

それが下から響いてきた。

 

「下からだ!」

「えっ、嘘でしょ…………?」

 

そして28階層へと続く連絡路からヴァレッタ達が出てきた。

アイツ、また何かやりやがったな!?

しかも背中には神らしい人物を抱えていて―――――――――――――――

 

「ギャハハハ!!見ろ!ギルドの犬共!!これが絶望そのものだ!!」

 

ヴァレッタが叫んだ瞬間、

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!』

 

 

凄まじい叫び声が27階層に響き渡った。

 




続きは出来る限り、今日出したいと思っています。

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