やはり俺たちのオラリオ生活はまちがっている。   作:シェイド

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最終話です。


終章あるいは序章

あの日、ハチマンとは別行動だったフィン達は闇派閥の本拠地に襲撃した。

ヴァレッタや他の幹部共が27階層に行っていることを看破して、【フレイヤ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】の団員達と神々と共に候補に挙がっていた本拠地に襲撃をかけた。

その結果、多くの邪神達の送還に成功し、多くの闇派閥所属の者を無効化した。

これでパワーバランスが完全にギルド側に傾いた。

 

 

後日。

27階層に向かった救出隊が目にしたものは………地獄だった。

敵味方も判然としないほどの食い荒らされた亡骸が広がり、屍山血河の光景が広がっていた。

ギルドは即座に死亡者の名簿を作成。誰が誰だかを出来る限り把握しようとした。

そしてその死亡者には……ハチマン・ヒキガヤの名も入っていた。

 

ヴァレッタ達闇派閥(イヴィルス)の幹部も死体らしきものが確認された。

ギルド傘下の冒険者の死体数132。

闇派閥(イヴィルス)の死体数96。

計、228名の死亡が決定。ギルドはこれを公表した。

 

街からはこの報に涙する者が多かった。

やはりその中に【疾風】リュー・リオンを除く【アストレア・ファミリア】全員と、【ロキ・ファミリア】の切り札、ハチマン・ヒキガヤが入っていたことが大きいだろう。

世界中に広がったこの事件は波紋を呼んだ。

それほどまでに酷く、残忍で許しがたい事件だったのだ。

 

 

***

 

 

その数ヶ月後だった。【疾風】のリオンの暴走。

怨みを持った【疾風】は、復讐心のあまり暴走したのだ。闇派閥に関係性があったと噂された人物を徹底的に殺し始めた。

中には無関係の者もいたが……今の【疾風】の心には届かなかった。

その内黒幕であり、身を潜めていた【ルドラ・ファミリア】をたった一人で壊滅させた。

そして彼女は……ギルドのブラック・リストに載った。

お尋ね者として賞金を懸けられ、名だたる賞金稼ぎに狙われ始める。

だが彼女の身元が一時期行方不明となる。

そう、豊穣の女主人に匿われたのだ。

中にはその情報さえも入手して狙ったものもいたが、いつの間にか鎮圧されていた。

 

「フィン、【疾風】はどうなったと思う?」

「ンーそうだね。生きているとは思うよ」

「何故だ?」

「死体がないってのもそうだけど……なにより死んだ姿を見た者もいないし賞金が下げられないからね」

「……そうか」

「……リヴェリア。無理をしているね、大丈夫かい?」

「あ、ああ。すまない。こうして業務に没頭していなければ正気を保っていられそうになくてな。ぶっ倒れたならそれでもいい」

「……僕はもう泣いたよ」

「……」

「皆には内緒でひっそりと、だけど大泣きした。何十年振りかもわからないほどに声を出して泣いたよ」

「そう、か」

 

ここはフィンの執務室。現在は【ロキ・ファミリア】が誇る最大戦力の内の二人と呆けているロキしかこの部屋にはいない。

ガレスはダンジョンに潜っている。二週間ほど姿を見せてはいない。

 

「私は、我慢しすぎていたのかもしれんな……」

「おっと、泣くなら部屋に帰ってくれ。悪いけど、女性の泣き声を聞きながら仕事をする趣味は僕にはないからね」

「ああ」

 

部屋からリヴェリアが出て行く。

エルフの王女が出て行ったあとで一人、はぁ~とため息をつく小人族の英雄。

 

「気持ちは分かるんだけどね……」

「あー世界が回るーぐるぐる回る~」

「……ロキも大丈夫かい?」

 

ロキが子を亡くして泣かないのは今まで通りだが……今回の落ち込みようは凄まじい。

まるで生きがいが無くなった労働者みたいだった。

 

「フィンはどうや?」

「僕はまだ落ち着いているかな。それよりロキ、聞きたいんだけど……」

「なんや?」

 

疑問符を浮かべるロキにフィンは告げた。

 

「ハチマンは本当に死んだのかな?」

「何を言うとる?」

「ロキ、君の刻んだ恩恵の数はいくつだい?」

「103や。そして亡くなったもんの数引いたら64。これは変わってない……変わってない!?」

「なら生きている可能性がある」

「フィ、フィン!!この事実をアイズたん達に伝えたら「ダメだ」え?」

「考えてみてくれ。もし、生きていると希望を与えてから死体で見つかったら……」

「……アイズたん達立ち直れんやろなぁ」

「だからこのことは秘密にしておこう。だけどそろそろ遠征に行かないとギルドから急かされるんだよね……はぁ」

 

フィンは今日何回とも分からないため息をついた。

 

 

場所は変わって各団員の部屋。

アイズは泣いていた。

泣き過ぎて疲れ果て、涙が枯れ果てて、起きては涙が零れ……を繰り返していた。

 

―――――――どうして。なんで私から大切な人は去って行くの?

 

想うのは連れ去られた両親、そしていなくなってしまった師匠の姿だ。

 

―――――――どうして、どうして、どうして……。

 

一人、自室で泣き続ける彼女はある結論を出す。

 

「わた、しは泣いて、ばかり、いられ、ない!」

 

―――――――アイズ、俺はお前にそんなことを教えた覚えはないぞ。

 

アイズの心の中には彼が存在していた。

パニックに陥った心が創り出した仮想ハチマンだ。

 

―――――――アイズ、強くなってくれ。

 

「………私は強くなる」

 

―――――――俺はお前に………希望を見た。

 

かつてハチマンがアイズに送った言葉を思い出す。

そして決意を決める。

 

「絶対に、取り戻す」

 

 

 

コマチは泣いていた。

頭に浮かんでくるのは愛するお兄ちゃんとの楽しかった日々。

一緒に生れ故郷を出て、未知の世界に飛び出した。オラリオへの道のり。オラリオでのファミリア探し。そしてロキとの出会い。【ロキ・ファミリア】入団………。

絶望の時、自分を庇って傷を負って、それでも生還したお兄ちゃん。

自分のレベルアップの時には我が事のように喜んでくれたお兄ちゃん。

遠征時に隊列を乱して殺されそうになった時、助けてくれたお兄ちゃん。

そして……大好きなお兄ちゃんの笑顔。

 

「……こうしてる場合じゃない」

 

コマチは立ち上がる。

ここで凹んでる場合じゃない。

 

 

***

 

 

『27階層の悪夢』から数ヶ月後。

場所は変わって、ここは豊穣の女主人。

彼の【疾風】が身を置いている酒場だ。

時は昼。まだまだ仕込みの時で客はいない。

 

「リュー!お母さんが呼んでるよー!」

「分かりました。今行きます」

 

しかしここにいる従業員は皆、下手な上級冒険者より強い。

 

「おいクソ猫……そこ退いてくんない?」

「うるさいクソ脳筋」

「「あ!?」」

「あ〜もう喧嘩をやめるにゃ!」

 

かつて【疾風】を狙った凄腕賞金稼ぎ、【黒拳】ルノア・ファウストに【黒猫】クロエ・ロロもここで日銭稼ぎをしている。

こんな会話は豊穣の女主人ではすでに日常となりつつある光景だった。

そしてそんな豊穣の女主人に、一人の男が訪れる。

 

「何ニャ?営業時間はまだ……!?」

「……リオンはいるか?」

 

その人物は()()()()()()()()()()()()()―――――――――――。

 




ここまで読んでくれた読者の皆さま、ありがとうございました。

このあとの話はあるんですが……出すにしても3月以降になりそうです。
現在少しずつ改稿していってるので、よかったら最初からご覧ください。

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