ケビン……。
俺はラウル。ラウル・ノールドって言うっす!
つい最近【ロキ・ファミリア】に入団したばかりのLv.2っす!
でも、付けられた二つ名は【
「おっ、ラウルおはよう」
「は、ハチマンさん!」
そんな俺に声をかけてきたのは、オラリオ中が知っている有名人、ハチマン・ヒキガヤだった。
「お、おはようございます!!?」
「お、おおう……どうしたんだ朝から」
「い、いえ」
「じゃあ食堂でな」
「は、はいっす……」
ハチマンさんはかっこいいっす!男なら憧れると思います!
強いし優しい。俺を闇派閥から助けてくれた時もそうだったっす!
俺はそんなハチマンさんに憧れて【ロキ・ファミリア】に入団したんですが……。
入団から2ヶ月。未だにまともに話せてないっす……。
***
~食堂~
「おはようっす!」
「おっ、ラウルおはよう」
「おはよう」
食堂に行けば、すでに殆どの人が席についていた。
あ、今日はハチマンさんが料理当番だからか。
「しっかし、まさか入団したあとの方が美味しい飯を食えてるとは、入団した時は考えもしなかったな」
「まぁハチさんの飯は最高だからな」
そう、ハチマンさんは戦闘だけじゃないんです。生活面においても凄さを発揮するんです。
料理を作れば、神御用達の店と遜色ない料理を作るし(ロキによる情報提供)、洗濯も掃除も一級品(アキによる情報提供)と、弱点が何もないんです!
そして料理が運ばれてきました。
運んでいるのは第二級冒険者のハチマンさんの実の妹であるコマチさんと、まだ9歳ながらも俺より強いアイズさんです。
こうしてられないっす。俺も手伝うっすよ。
「コ、コマチさん、配膳手伝いますよ!」
「いや、大丈夫だよラウル君。アイズちゃんの方手伝ってあげて」
な、なんか地味に断られたっすけど……次々!
「ア、アイズさん、配膳手伝いますよ!」
「いい。座ってて」
「いや、でも二人でした方が早く運べますよ?」
「いい。座ってて」
「で、でも」
「いい。座ってて」
「……はいっす」
結局断られたっす……。
ションボリしながら席に帰ると、友達に声をかけられる。
「ラウル、お前懲りないなぁ」
「無理だって」
「でも、俺入ったばかりだから雑用しなきゃって思って」
「いい心掛けだ。だが、あの二人には効かないぞ」
そう、最近毎日のごとく断られてるんす………。
コマチさんとアイズさん。二人の様子を見ていればわかるっす。なんで断るのか……。
「う、羨ましいっす!」
あ、つ、つい声に出してしまった。
「え、いやあの……」
「……………」
な、仲間に、友人に軽蔑されるっす!?
「ち、ちちちがうんですよ!」
「…………ラウル」
友人のケビンが肩を握ってくる。
周りを見れば、皆下を向いて俯いている。
こ、これが恐怖っすか!?
「お前もそう思うよな!?」
「え?」
でも、仲間たちが俺に向けた言葉は違ったものだったっす……。
「ケビンお前……まだヴァレンシュタインのこと好きだったのか」
「あんなに可愛い子他にいないぞ!」
「諦めろよ」
「そうだよ。お前……ハチさんに勝てるところあるのか?」
「……ひとつくらい」
「ねぇよな」
「確かに」
「うるせぇよ!」
なるほど、ケビンはアイズさんのことが好きだったのか……ロリコンかな?
「ロ、ロリコンじゃねーし!?てかラウル、お前ロキと同じことを言うんじゃねぇ!!」
主神にも言われたのか……。
ケビンはこのままではいられないと、男仲間の中で宣言した。
「ハチさんに勝てるところがないなら……作ればいいだけだ!」
「「「そ、その手があったか!!」」」
「おいお前ら……このままでいいのか?こんなにも可愛い女が集まるファミリアにいながら好きな女に手すら出せない……この状況を見過ごしていいのか!?」
「……い、いやダメだ」
「ケビンの言うとおりだ」
「諦める必要なんかねぇ!」
朝食前にもかかわらず、思春期の男子達は盛り上がる。
それを見てラウルは思った。
なんでダンジョン探索中よりも団結力が高いんだろうって。
***
朝食後、俺達男子7名は(いつもつるんでる仲間)ケビンの部屋に集まっていた。
近くに遠征があるため、最近ではダンジョン探索は出来る限り控えるように厳命されている。このような相談事をするには絶好の機会だ。
「さて、お前らに集まってもらったのは他でもない。俺達の課題についてだ」
「ハチさんの弱点か……なんもなさそうだな」
「確かに……戦闘に関しては手も足も出ないな」
「家事だってそうっすよ。料理は言わずもがなだし、アキによれば掃除も洗濯も完ぺきにこなせるらしいっす」
「改めて思ったが……」
「す、隙がねぇ」
室内にいた俺以外が落胆する。
俺?俺は別に二人が好きってわけではないっす。あの時の声はついつい可愛い女の子を侍らせていることが羨ましかっただけで……。
「皆考えるんだ。何か、何かあるはずなんだ」
「なぁ、とりあえず一日ハチさんを尾行してみようぜ」
「そうだな」
ってなことで男7人でハチさんの尾行をすることになりました。
まずは朝食後の行動。
皆が食べ終わった食器を洗っていた。
コマチさんとアイズさんも一緒に洗ってた。
「あれがリア充ってやつだぜ……」
「比べて俺らは何やってんだ……」
「あっ」
声を上げた一人が指差した方向を見ると、洗い終わった食器を積んでいた棚から食器が落ちそうになっていた。
案の定落ちた。
しかし……
「おっと」
ハチさんが一瞬で元に戻した。
……食器はスープのカップで別々のところに数十個落ちた筈。なのにそれが一瞬で元通り。
何が起こったんだ!?
「……見えたかよ、あれ」
「い、いや」
だが、意外なところから先程の光景の説明がされた。
「ハチマン、さっきのもう一回やって」
「いやいや次は割れるかもしれないだろ?」
「……両手の人差し指だけでカップの取っ手を数個ずつ拾って、それを連続しても傷一つつかないんだから大丈夫」
「見えたのか?」
「うん。かろうじて、だけど」
「コマチは見えたよ!」
「そりゃあ第二級のトップクラスのコマチだったら見えるわな」
「えっへーん!!」
そんな会話が聞こえてきた。
「……なぁケビン。諦めないか?」
「敵いっこないって」
「コマチさん可愛いなぁ」
「な、お、お前ら……!」
確かにさっきのは見えなかったし凄かったっす。
敵わないって思っちゃうっすね……。
「まあまあ、とりあえず一日観察してから諦めても遅くはないだろ?もしかしたら勝てるところがあるかもしれない」
「一日くらいならな……」
その後も観察を続けるラウル達。
だが、目に入ってくるのは家事の凄さのみだった。
部屋を除けば綺麗に整理整頓されているし、窓などがピカピカでした。
いつのまにか掃除をし始めたハチマン。
そんな彼の姿を見て、多くの団員達が手伝い始め、ファミリアを上げた大掃除が始まったっす。
「と、とりあえず俺達も手伝おうぜ」
「そ、そうだな」
皆がしているのに俺達だけやっていなかったら、後でなんて言われるかわかりません。
というか雑用は俺達第三級や下位冒険者の仕事なのに……率先してやるハチマンさんすごいっす!
その後尾行も何もなしに一日掃除でつぶれちゃったから、ケビンがしょぼくれています。
「げ、元気出せって」
「そうそう。今回は相手が悪かった」
「……もうほっといてくれ!」
そう言い放ってプイっと顔を背けるケビン。正直可愛いわけでもないし需要ないっすね……。
しかし、ケビンは運が良かった。
たまたま近くを通りかかったハチマンさんとコマチさんがこんなことを話していた。
「お兄ちゃん今日の献立は?」
「魚を煮込んだスープと白ご飯。それに付け合わせの果物」
「……トマトは?」
「ない」
「お兄ちゃんって本当にトマト苦手だよね」
「俺が苦手なんじゃない、トマトがおかしいだけだ」
は、ハチマンさんってトマト苦手なんですね。ちょっと驚きました。
そしてふとケビンの方を向けば、ケビンはゆらゆらと立ち上がり不敵な笑い声を発し始める。
「ふ、ふふふふふ。点は俺を見はなさなかったようだな!!おし、野郎共!トマト作戦の計画を話し合うぞ!」
「ええ……」
***
というわけで作戦が決まった。
とりあえず沢山のトマトを買ってきて、こっそりと料理に大量に混ぜる。
料理当番はハチマンさんだけど、新しく料理を覚えたから試したいとかなんとかの理由をつけて説得し、当番を変わってもらった。
「よし、スープにトマトをつぎ込むぞ」
「これでハチさんに一矢報えるのか」
「なんか楽しくなって来たぜ」
最初は否定気味だった皆さんも、ケビンの必死の演説(泣いたり悲しんだり色々してた)で心を動かされ、結局のこの作戦は実行に移された。
わざわざ色を変える液体か何かを買ってきて、それを混ぜ込み色を赤色ではなく、白色にしていく。
「よーし……完成だ」
トマト嫌いの人にはあり得ないと思えるくらいのトマト(×100)をつぎ込んだスープが完成し、早速配膳を始める。
「これでアイズは俺を……ふっふっふ」
ケビンが何かニヤニヤしているが、俺は嫌な予感がしていた。
そしてその予感は、当たった。
「ん?ハチさんはまだ来てないのか」
「珍しいな」
そう、配膳をし終わっても、ハチマンさんが食堂に現れなかったのだ。
「あ、きた」
アイズさんが声を上げたと思えば、食堂に入ってくるハチマンさんが。
そしてハチマンさんが席に座ったところでロキが音頭をとる。
「頂きますやー!!」
「「「頂きます!!」」」
夕食が始まった。
(ふっふっふ、ハチさんはスープを飲んだ瞬間必ず吐き出す!それを隣のアイズに見られてお終いだ!)
(ケビンの顔が危ない薬を売る販売員みたいになってる……)
(ああ、コマチサンは今日も可愛いなぁ)
(こんなにうまくいくのかなぁ)
そして、ついにハチマンがスープに口を付けた。
「……」
「いっけぇぇぇぇぇ!!(小声)」
「……」
「どうだ!?吐き出したか!?(小声)」
「……」
「どっちだよ!?長ぇよ!?(小声)」
「ケビン、料理食べてないと怪しまれるぞ(小声)」
「そ、そうだな(小声)」
僕達は食事を再開しながらも、ハチマンさんの方を終始ずっと見ていた。
だが、一向に変化がない。トマト料理を普通に食べている。
そして――――夕食後。
僕たちは地獄を見た。
***
「あ、あのーハチさん?なんで俺達七人集められたんですか?」
場所は大広間。
ここに僕達七人はハチマンさんに集められていた。
「……俺はできるかぎり仲間には痛い目を合わせたくない」
「ハ、ハチマンさん?」
「だが、今回ばかりは見逃せないな」
「な、何がですか!?」
ケビンが自分何も分かりません風に答えるが、冷や汗をかきまくっていたので怪しさ満点だ。
「まず一つ目。尾行するならもうちょっとうまくやれ」
「え?」
「最初から分かってた」
「ええ?!」
反応してしまうケビン。これで完全に黒になってしまった。
「二つ目、あの会話はわざとだ」
「え?」
「確かに俺はトマトが苦手だ。だけど、デメテルが育てたトマトは別だ」
「……つまり」
「そう。お前たちがトマトを厨房に置いたあと、お前ら全員が見ていないときを見計らって全てのトマトを入れ替えた」
「……ってことは」
「ああ。うまかったぞ」
つまりはすべてお見通しでバレていた上、作戦をうまく利用されてしまっていたわけである。
「すみませんでしたッ!!」
全てに気付いた皆が謝り始める。
もちろん僕も謝ったっす。
「フィンやリヴェリアに相談しても良かったが……さすがにお前らが可哀そうだからやめた」
「おおお!!」
「神だ、神がいるぞ!」
「良かった……」
皆はその言葉に安堵していた。
フィンさんは良いにしても、リヴェリアさんの説教は長い。足が痺れても続くから拷問と言っても過言ではない。
「でもロキに話してみた」
「え……」
「そしたらさ……」
***
「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」
「死ぬ!死ぬってこれ!」
「クソケビン野郎おおおおおおおおおおお!!!」
「だからやめた方が良かったんだぁぁぁぁぁぁ!!?」
「これ絶対死ぬやつっす!!」
「ハチさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!もう一生こんなことしませんから許して下さいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
翌日、僕たちは早朝からハチマンさんにダンジョンに連れて行かれた。
なんでも今回の遠征で50階層に行くために、途中に出現する『階層主』を予め倒しておくことになったらしく……その役目がハチマンさんで、その階層主狩りに僕たちは連れてこられたというわけである。
現在は17階層にて『ゴライアス』と仲良く鬼ごっこ中だ。
『ゴアアアァアアアアアアアア!!』
「うわああああああ!!」
「死ぬぞ!死に物狂いで倒さないと俺たち死ぬぞ!」
「やってやらぁああああああああああ!!」
ちなみにだが、ハチマンさんは16階層に続く階段前で見物しており、助けてくれそうにない。
こちらはLv.2が七人だが、やるしかなかった。
「いっそ死ぬなら抵抗してやる!!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
「俺達はぁぁぁぁ!!強いぃぃぃぃぃ!!」
「「「うおおおおお!!」」」
そして、俺らは初めて『ゴライアス』を倒したのだった。
「はぁ、はぁ。死ぬかと思った」
「これでやっと地上に戻れる」
「早く部屋に帰りたい」
だが、これが終わりではなかったのだ。
「何言ってんだ?次は27階層に行くぞ」
「え、う、嘘ですよね?」
「ちなみに37階層にも行くからな」
「……」
***
~27階層~
「うおおおおおおおお!!」
『ガァアアアアアア!!』
「あ、危ねぇ!?」
「強すぎるって!!」
「津波とかふざけるんじゃねぇぇぇぇ!!」
27階層では『アンフィス・バエナ』に蹂躪され……
~37階層~
『アァアアアアアアアア!!』
「下からとか卑怯だぞ!!死ぬからあああああああああ!!」
「おいやめろ!こっちにくるんじゃねぇ!!」
「道連れだこの野郎ぉぉぉぉ!!」
初めてきた深層では『ウダイオス』に串刺しにされそうだった。
ハチマンさんが倒してくれたので命は取り留めたものの、生死の間を何度も経験した僕達は帰ったあとすぐに眠りについた。
そしてその後、『ハチマンさんには絶対に手を出さないこと』という僕達の中で暗黙のルールが出来たっす。