「貴介。」
部室から出て帰宅するために俺を待っていてくれた向島に声をかける。すると一瞬体が飛び上がった。
「ひゃぁ!...って羽柴、驚かさないでよ....」
「いや、普通に声かけただけだし」
向島に怒られたがこれ自分が悪いのか?というかこれ今週に入って何度やってる?といつも思う。思い出せるだけでこのやりとりは5回目だ。しかも同じようなシチュエーション。
「声かけるなら...驚かさないようにして」
「いやそんなつもり全くないって」
そしていつもの注意。だから一応は気をつけてるつもりなのに。
まぁいつものことだから。ブツブツ文句を言う貴介を宥めている時。
「お、二人お疲れ。一緒に帰ろうよ」
白石だった。相変わらず汗に濡れても顔立ちは良いこと。
「いいよ。じゃあ行こうか」
どこか納得行ってない貴介を引っ張って、学校を出た。ちょうど夕暮れの夕日が綺麗な時間帯、西日を背に下校の道に着いた。
「まさかこんなことになるなんてな」
信号待ちをしている時、ふと漏らした。相変わらず車の交通量は多い。そのくせこの信号は長い。
住宅街を抜けると見えるのは商業施設が並んだアーケード街だ。そこをまた抜けるとまた家が立ち並ぶ、そこが俺たちの家だ。
なので学校からは中々距離がある。徒歩30分といったところか。
「ほんとだな」
白石には聞こえたようで応えてくれた。まさか、本当にな。
「ねぇ、なんで、二人は乗ったの?」
信号が青になった、俺たちは歩き出す。暫くその質問に答えることはなかったが、横断歩道を渡り終える頃、白石が口を開いた。
「あれだけ伊崎さんに熱く語られると、やっぱり」
「相変わらずの伊崎さんだな」
白石は少し照れたように笑う。小学生の時から同じチームとして仲良くやってたそうだ、親しい以上の長い時間かけてできた白石から伊崎への信頼は強く、固い。
「俺、小学生の時サッカーでとても悩んだ時期があるんだ、その時に伊崎さんに相談に乗ってもらって、解決したんだ。今の自分があるのは伊崎さんのおかげだと俺は思ってる。」
「相談内容ってのは?」
「ポジション。当時どのポジションやればいいのかわからなかったんだ、その時伊崎さんに相談して練習とか見てもらって、それでFWを勧められたんだ。」
「伊崎さんの見る目は確かだからな」
普段は軽い人で冗談ばっかり言うけどサッカーになると一人一人の能力を考慮した練習プランを持ってくる。実際その練習のおかげで俺たちは力をつけている。話をしていると俺たちはアーケード街に入っていた。夕方にはちらほら店を閉め始めるためシャッターを降ろそうとする店主の姿や、夜に備えて店頭の明かりがゆっくりと淡い光を放ち始める。
「貴介はどうなの?」
「え、それは....」
少し照れたように俯いて頬を掻くと
「サッカー、本気でしてみたくなった。」
「それだけか?」
「うん、だけど...僕にとっては、一番で、今ここにいる、理由だよ」
「そうか」
貴介は、サッカーセンスならうちの部活でピカイチだと思う。それは伊崎さんも、なによりあの鵜飼さんも認めている。だけど小心者で肝が小さいから、いつもオドオドしている。思ったようにプレーできない。最大にして、全てを台無しにする欠点だ。そんな欠点を貴介はずっと気にしている。だから貴介はいつも言っている。
「もっと、堂々としたいな」って
いつも隣にいた俺だからわかる。今回奴は変わろうとしている。
二回目のFFを機に、皮を剥けようとしている。だけど自分で変わらなくちゃいけない。応援はするさ、いつも隣で。だけど変わろうとする意思を強く持って、お前のそのセンスが前面に出るサッカーをする姿は、自分で掴まなくちゃいけない。
「頑張ろうな、貴介」
声をかけると、貴介は笑顔になった。親友も、強くなろうとしている。俺も負けられないな。
「羽柴、お前はどうなんだ?」
白石の質問の時には、もうアーケード街を抜けて住宅街に足を踏み入れていた。もう少しで分かれ道。一人は右へ曲がり、一人は直進して、一人は左へ曲がる。
「俺?俺は...もう後悔したくないからだ」
「後悔...?」
「あぁ、俺小学生の時サッカーチーム入ってたんだ。でも万年補欠。レギュラーになることを諦めてたんだよな。だから楽しくやれればいいと思ってた。けど、それは違ったんだ。最後の試合をベンチでただ見ている時、ふと思った。俺は何をしていたんだと。あの舞台に立つためにサッカーしてきたんじゃないのかと。その時になって悔しかくなって。中学に入学してその気持ちを忘れていたなんて、情けない。3年生たちの言葉が、よく響いたよ」
あの時に戻れるなら、俺は戻りたい。もっと汗を流して、もっと壁にぶつかって、もっとチームメイトと本気でサッカーしたかった。
でも、タイムマシンでもない限り時間は戻せない。いつまでも後悔の残るあの日々は取り消せない。だけど、今からならやり直せる。
お約束の十字路に着いていた。俺はそこで立ち止まると別れの挨拶を言う。
「じゃ、二人ともまた明日」
「うん」
「あぁ、また明日」
まっすぐ家へと直進する。俺達の進む道はきっとこんなにまっすぐで平坦じゃない。だけど、もう後悔したくない。ぶち当たって、砕けるまで。
夕暮れはいつの間にか地平線に半分溶け込んでいた。綺麗だ。
一軒家の我が家のドアノブを回して、家に入った
「ただいま」