イナズマイレブンcross   作:練武

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3話 天空のストライカー

グラウンドでしばらく待つと先輩2人が着替えが済んでこちらに来た。

 

「んじゃ、軽く準備運動を各自で」

 

キャプテンの一言により各自体を動かし始める。

 

「新葉〜、準備運動一緒にしようぜ。」

 

石郡の提案に了承し、俺らはペアで体を伸ばすことにした。その途中、何度か視界に入る雲井。なにもすることなく、ただ突っ立っていた。うつむいているので、表情は見えない。

 

「雲井が気になるのか?」

 

僕の視線の先を気にして、石郡が尋ねてきた。

 

「まぁ、ね。1人だし」

 

「なぁ、あいつについてどう思う?」

 

「どう思うって、なんで?」

 

石郡は少々複雑そうな顔をしている。不可解な点でもあるのだろうか。

 

「俺さ、あいつが一度だけボール蹴ったの、見たんだ」

 

「いつ?」

 

「この部室にきた時、グラウンドに誰かいるなと思ったら練習着姿でいたんだ、あいつが...サッカーボールを地面に置いて、ペナルティエリアから3、4m離れてたと思う。そこからシュートしたんだ。最初はゆったりとしたフォームだったんだ、ボールに足が当たる、そう思った瞬間ボールはペナルティエリアに入ってその先のゴールネットを揺らしたんだ。とてつもなく早かった...あいつは何者だ」

 

頭に何かよぎる。

疾風の如く駆け抜け、宙を舞って神速のシュートを放ちゴールを奪い去る天空のストライカー。そんな小見出しがつけられたサッカー少年という雑誌の表紙には少し慣れないように笑う少年がいた。

それが雲井空。

思い出した、彼は天空のストライカーと呼ばれた男だ。

 

「天空のストライカー...って知ってるか」

 

「あぁ、関東の方じゃ有名なストライカーらしいな、どこの中学にいったかは知らないがきっとAとかBみたいなカースト上位の学校へ呼ばれたんだよ。」

 

「それが雲井空、僕らの目の前にいる男だ」

 

それを聞いた途端石郡は目を丸くした。

 

「そんなわけないだろ、天空のストライカーなんて呼ばれてんだ、ここに来るなんて正気とは思えない。」

 

「だけど君も見たんだろ、そのシュートを。そしてもう一つ気になる点がある、一週間遅れてここにきたことだ」

 

「じゃあなんだ?あいつはなんでうちみたいなカースト最下位のサッカー部に来たんだ?」

 

「それは...」

 

まだ推察の域だし、僕だって信じられない。だけど石郡が見たそのシュート、それに雲井空なんて名前、そうそう同じになることなんてない。理由がなんなのか、今は全くわからない。だけど今あそこにいるのは、まぎれもなく天空のストライカーなのだ。

 

「後でサイン、もらえるかな?」

 

「お前、ここにいる理由の方が気にならないか?」

 

天空のストライカーは何度かテレビで見た。その巧みでありながらも素早いボール捌きでDFをごぼう抜きにして一気にゴールに近づき、そして必殺技を決める。同じ小学生とは思えないほど、鮮やかだった。

 

「終わったか?ならシュート練いくぞ」

 

そんなことを思い出しているとキャプテンが練習の始まりを告げた。確かめるにはこれが一番だ。シュート練をするためにキャプテンの方へ向かった。

 

 

「ただのシュート練だと味気ないし、DFに和田木か石郡入ってもらっう。いいか2人」

 

「俺は大丈夫っす」

 

「俺にも打たしてくれるよな?」

 

「心配するなって、やらしてやるよ」

 

GKには松比良先輩が入り練習を開始した。

 

「じゃ、まず俺から」

 

MFの伊崎さんは軽やかにドリブルを始めた。

 

「いかせはせん!ぬははは」

 

和田木先輩は謎のスイッチが入ったのか大きな体を使って止めようとする。

 

「悪いな、ちょっと本気出すぜ。アグレッシブビート!」

 

伊崎先輩は急にぐっと構えた。そこに和田木先輩がボールを奪いに突っ込む。このままじゃ取られる、その瞬間、一瞬視界から伊崎先輩が消え現れた時には和田木先輩の後ろに回っていた。

 

「ぐっ!くそぉ」

 

心電図が突如乱れたように、和田木はその場で倒れた。

 

「んじゃ決めるぜ。うらぁぁ!」

 

そのままペナルティエリアに入るギリギリでシュートを打った。しかし冷静に見ていた松比良先輩がそれを危なげなく弾いた。

 

「やるなぁ、松比良」

 

「恐縮です」

 

アグレッシブビート、ドリブル必殺技だ。まさか必殺技をこんなに間近で見られるなんて。石郡もやや驚いたようで目を見開いていた。そして雲井は....

 

「....」

 

神妙な面持ちで、それを見ていた。彼の順番は最後、意図的なのか偶然なのか。

 

「クッソォ!練習でそんなの使うなよ!」

 

「へーん、負け惜しみを」

 

悔しがりながら立ち上がる和田木先輩に伊崎先輩は手を差し伸べた。必殺技かぁ、いいなぁ。

 

「次はお前だ!石郡、さぁやってみろ」

 

「無理っすよ、俺DFっすよ」

 

「何言ってんだ俺らDFとてシュートを打つ機会がないわけではない、それにシュートを打つことが別に生きることがあるんだからやってみろ、まぁ試合に勝てないから意味ないけど」

 

何か腑に落ちないのか複雑な顔をしていたが位置に着くと数回深呼吸して手を挙げた。準備ができたらしい。

 

「行きます」

 

「こい」

 

ボールを蹴り走り出した。正面から来る和田木先輩。

石郡は一度止まり出方を伺おうとしたが。

 

「おらぁぁぁぁ!キラースライド!」

 

和田木先輩のスライディング、まるで無数の足が生えているように見えた。すごい勢いでボールめがけて滑り込んだ

 

「ってちょ!うおおお!」

 

反応が遅れた石郡はスライディングに飛ばされた、文字通り。

二、三度地面をはねてから、しばらくして立ち上がった。

 

「和田木さんひどいっすよ!いきなりなんて」

 

「伊崎が最初に使ったんだ、文句はあいつに言え」

 

「え?俺?」

 

怒る石郡、それに油を注ぐように適当に発言する伊崎先輩。それを見て笑う和田木先輩。

見ていて微笑ましい、楽しい部活だった。

 

「違う」

 

ぽつりと一言、後ろの雲井。

 

「何が?」

 

「これは楽しいだけだ」

 

相変わらずずっと俯いている。

 

「楽しいことの何がいけないんだ」

 

「楽しいことはいいんだ、サッカーは楽しい。だけどサッカーは何のためにするか、何を目的にするか」

 

「何って勝つために決まってるだろ?」

 

「そうさ」

 

そこで顔を上げる。悲しげでありつつも、目には力強い意思が見えた。

 

「勝つためだよ」

 

そう言ってキャプテンの方に近づいていく。

 

「キャプテン、次自分お願いします」

 

「お、雲井。お前には期待してるんだぜ、よし和田木頼んだ」

 

雲井はボールを持つと所定の位置に置いた。和田木先輩は何か不満そうに雲井を見つめていた。対する雲井はただゴールだけを見つめていた。ネットを揺らすそのことしか頭にないように。心の準備ができたらしく、ゆっくり手を挙げたが、それを遮るように和田気先輩が声をあげた。

 

「雲井、俺がお前と初めて会った時から俺はお前のその何というか...鼻にかかる態度が気にいらねぇんだ。俺が部室に来た時も、挨拶なかったし」

 

「すいません」

 

「いいぜ、先輩だからな俺。許してやるよ。かかってこい」

 

そう言ってほくそ笑んだのが見えた。間違いない。先ほど石郡にやったキラースライドをするつもりだ。

 

「では、行きます」

 

天空のストライカーのプレーが眼前で披露されるんだ、一挙一動見逃せない。見せてくれ、お前のプレーを。

 

ボールを蹴りだした、ゆっくりだ。ボールが転がりドリブルを開始したと思った時、次のボールへのワンタッチでその速さは想像を超えた。

 

「キラースライ...「疾風ダッシュ!」

 

ドリブルをしている雲井がまるで瞬間移動しているように二、三度移動し、キラースライドの体制に入る和田気先輩と衝突する距離までくると、突如消えた。風が吹いた。和田気先輩の後ろから、雲井を運んで。

雲井は忍者のように突然音もなく和田気先輩の後ろに現れたのだ。

 

「なに!」

 

そのままドリブルで攻め上がる。その速さに松比良先輩も異様だと感じ、腰をかがめてシュートを待つ。

 

「決める」

 

すると突如ボールを高く蹴り上げると、自分もそれを追うように飛んだ。

天空のストライカー。それを象徴する必殺技だ。

 

「天空一閃!」

 

空中でボールの前まで上がるとボールを思いっきり蹴り押した、刹那、ボールはその足から離れ、ゴールを襲う一閃となった。

 

 

「ぐ!ぐうぅ!」

 

松比良先輩はゴールを襲うボールを何とか掴む、が。

体もろとも、ゴールネットに叩きつけられた。

 

「まぎれもない、天空のストライカー....」

 

静かにゴールネットを見つめる彼の背中が、あまりにも遠く感じた。

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