疲れ切った体をベットに預ける、やや年季の入ったベットはキシキシといわせながら僕の全身を受け止めてくれた。
今日は身も心も疲れた、色々ありすぎた。
同じチームメイトにあの天空のストライカーがいて、そのストライカーの必殺技を見れて、そして僕もまたドリブル技を身につけた。
どれ一つ昨日の俺は予想だにしなかったことだ。信じられないけど、すべて現実なんだ。これがまさしくまるで盆と正月がいっぺんに来た、というところなんだろう。
「それにしてもデーモン・ディストーション....あれが俺の必殺技なのか」
予想斜め上をいく必殺技だ。数ある必殺技をの中で悪魔なんて単語がつく必殺技、僅かに不安がある。
どうして俺の必殺技はこれなんだろうか?考えながらベットの上をゴロゴロする。悪魔...俺となんの関係が。
すると着信音がした、勉強机の上に置いた携帯からだ。気怠い体を起こして携帯を確認する。無料通話アプリのサッカー部のグループにキャプテンの言づけがあった。
「急にすまない、明日全員でミーティングを行いたい。予定が入っているならば可能であればこちらに合わせて欲しい。」
本当に唐突のミーティングだ。するとすぐにもう一つ着信がきた。どうやら鵜飼先輩のようだ。鵜飼先輩は3年のMF、あまり練習に顔を出さないのでわからない。ただ少し難しい人だった。
「突然だな、内容は?」
返信が返ってくるのに分もかからなかった
「すまない、それは明日話す」
腑に落ちない鵜飼先輩は問い詰める
「いや、明日話すって話の内容もダメなのか?」
「あぁ、大事なことだから。みんなと向き合って話したい」
「いや、待てよ」
大事なこと、一体キャプテンは何を話そうとしているのか?思い当たる節はない。
「俺は大丈夫だ」
会話を切るように和田木先輩が一言、するとみんなが続々続いた。俺もとりあえず便乗しておこう
「自分も大丈夫です」
送信する。さて、もう疲れたし寝るか。携帯を元の場所に置き、部屋の電気を消す。暗くなった室内に窓から月明かりがベットを照らしていた。
再びベットにダイブする。キシキシと音を立てて再度受け止めてくれた。右を向いて窓を見る、月が綺麗だ。月の美しさに誘われるように瞼を閉じた。小さな寝息だけが、室内に響いた。
「こんにちは」
翌日放課後、真っ直ぐに部室へと向かった。部室に入るとキャプテンと雲井、そして松比良先輩と和田木先輩。
「やぁ新葉」
「おう」
松比良先輩は手を上げた。キャプテンは何も言わない。こちらに背中を見せて黙ったままだ。
「えっと今日は」
「まぁ待て、いずれ話すそうだから」
和田木先輩は長椅子に腰掛けながら話す。特にいつものようで慌てた様子はない。しばらく待つことにした。
「きたぞ、伊崎」
それから鵜飼先輩と羽柴先輩、向島先輩と白石先輩が部室に入って、最後に堅山と石郡が掃除で遅れてやってきた。これで全員。狭い部室なので11人入ればもう窮屈に感じる。
羽柴先輩、2年のDF。これといって特徴がないのが特徴という先輩で個性の強い人が集まったこの部では逆に特徴がないという個性と捉えられている。
向島先輩、2年のMF。大人しく弱々しく話すので遠くからだと声が聞こえなかったりする。
そして最後に白石先輩、2年のFW。キャプテンとは長い付き合いで小学生の時から仲がよかったらしい。一年違うがキャプテンとは仲がよく良き理解者として知られる。
「んで、なんで集めたんだ」
勢いよく椅子に座りながら鵜飼先輩が尋ねる。足を意味もなく小刻みに動かしている、急のミーティングによく思っていないようだ。
「みんなに聞きたいんだ」
キャプテンはそう言ってこちらを見る。覚悟の目、いつもとは違う引き締まった顔、強い意志を持ってここに臨んでいる。
「勝ちたくないか?」
「はぁ?何言ってんだ?」
「だから、フットボールフロンティアで勝ちたくないか?全国、行きたくないか?」
冷ややかな声で尋ねる鵜飼先輩に対して、キャプテンはいつもの態度からは想像がつかない真っ直ぐで純粋な少年の思いで返した。
「いや、無理だから。何言ってんだ」
鵜飼先輩は否定する。その理由、根拠はわかっている。
「無理じゃない、10年前の先輩たちもやっている。だったらできる」
「馬鹿か、あれはカースト制定初年だったからだ。今と環境が違う」
鵜飼先輩は少しイライラしてきたのか声が強くなる
「そうやって最初から投げ出すのか?俺はもう去年みたいに後悔したくないんだ。もう最後の夏なんだ。だったら最後くらい俺は....「あのなぁ」
鵜飼先輩はゆっくり立ち上がりながら言葉を遮る。ゆっくりキャプテンの元へ歩く。
「お前も身をもって知ったはずだ。なのに勝ちたいなんて戯言、もう一回あんな目にあいたいのか?」
「違う。前回は勝ちを目指さなかったからだ。今回俺は本気で勝ちたいんだ。」
決して声を荒げることなく思いをぶつけている。すると鵜飼先輩は踵を返し、部室を見渡しながら言った
「伊崎がこんなことを言っているがお前らはどうなんだ?」
「俺は陽太と同じ、勝ちたいんだ」
一歩鵜飼先輩へと踏み出して和田木先輩が答える
「何言ってんだ和田木!お前あの試合で一番ボロボロにされただろ?」
「だからだ!だから俺は悔しいんだ」
和田木先輩の意志が固いと睨むと、他の人に同じように聞く。
「おい一年、お前らはどうなんだ?「無駄だ、一年は皆勝つことしか考えてない」
そうだ、俺らは勝ちたいんだ。雲井なんて特にだろう。和田木先輩が俺らの返答を代弁してくれた。
「何も知らないくせに!白石!松比良!」
「すいません、自分も勝ちたいです」
「確かに勝利の可能性は低い、だけど。伊崎さんがこんなに燃えているんです、だから僕はついていきます。」
揃いも揃って!小さく吐き棄てると最後の砦に尋ねた。
「向島、羽柴は?お前らも去年をしってるんだから」
「そうですね、僕も怖いです。なんでいまでもサッカー続けてるのかわかないほど、あの試合は...思い出したくない」
「勝ちたいけど、現実的ではないのも事実だし」
向島先輩は思い出して怯える。鵜飼先輩はほくそ笑んで2人の元に寄っていく。
「話はそれだけか?なら俺らは帰るから。伊崎、馬鹿なことはやめとけよ」
そして2人を連れて出て行ってしまった。静まり返った部室。そんな静寂の中
「あれで、良かったんだろうか?」
「いいんですよ、いずれわかってくれる日が来てくれます」
キャプテンもこうなることを覚悟していたんだ。チームをまとめるのがキャプテンの仕事なのに、これで良かったのか。きっととても悩んだに違いない。白石先輩が理解者として寄り添う。そうだ、いつかわかってくれる日が来る...。
「あのー、すまんのぉ」
そこに突然やってきた初老の男性、部室のドアを音もなく開けたのかいつの間にか隅の方に立っていた。
「いつの間に!佐々木監督!」
監督?思わず綺麗に直立する。佐々木監督は俺らを一人一人見ると小さく笑った。
「一年生4人。これでサッカーができるのぉ」
「はい、これでフットボールフロンティア予選に出られます!それでですね....俺たち、本気で勝ちたいんです。佐々木監督、俺たちは10年前と同じように全国に行きたいんです!」
キャプテンの熱い思い。監督はニコニコしながらそれを聞いていた。この人が10年前のサッカー部を率いていた人なのか。伝説のジャイアントキリングの当事者...。
「本当にその覚悟があるんだな」
「はい」
口を開いた監督。先ほどまでの伸ばされた語尾が締まり、威厳のある男性の声となった。
「ならば裏門に集合だ。」
裏門、その場所に何があるのか....