Steins;Gate γAlternation ~ハイド氏は少女のために~   作:泥源氏

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修正

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010:07:28:12:52

    ↓

2010:08:21:18:08

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うお、もう帰ってきたお! まだ1分も経ってないのに」

 

 

タイムマシンで元の時間に戻ると、すぐ耳に入った橋田の声。

タラップより颯爽とオレンジの屋上へ降り立ちまゆりを確認して。

1分ばかりでは起きるということもないようだ、静かな寝息が聞こえてくる。

 

 

「それで、牧瀬氏の命は救えたん? つーかその格好は……仕方ないね」

 

「自分じゃ出られないから、不本意だけど。

……とにかく、シュタインズゲートに辿り着いていないことは確かだよ。

だから牧瀬紅莉栖は助けられてない、と思う」

 

「……ん? じゃ、失敗したってこと?」

 

「サポートしてないあたしにはよくわかんない。この男に聞いてよ」

 

 

俺の腕の中で湿っぽい溜め息を漏らす阿万音鈴羽。

説明をしていないからずっと不満タラタラでうざったい。

このまま放り投げてやろうか……。

 

兎にも角にも、ぞんざいながら屋上フェンスに置いてやる。

軽かったので全く苦ではなかったが、この女を運んでやるなんて面倒この上なかった。

 

 

「ぐっ! ……うぅ……ほんっっと、ムカつくヤツだ鳳凰院凶真!」

 

「黙っておけ、傷に障るぞ?」

 

「くぅ……っ!」

 

「オカリン、説明プリーズ!」

 

「――結論から言えば、今回のタイムトラベルは単なる確認だ」

 

「…………」

 

 

阿万音鈴羽の恨みがましい目線は無視して俺の計画を教える。

整理、という意味で声に出すことは必要なことだ。

 

携帯電話でメールを打っている間の口慰みでもある。

 

 

「はっきり言って、

俺は牧瀬紅莉栖の殺された7月28日のことを報道レベルでしか把握していない。

つまり、世界線を変えるにしても、

今現在俺が存在する世界線での出来事すら見たことがなかった、というわけだ」

 

「……なるほど、考えてみれば当然だお。

今のオカリンは、オカリンであってオカリンでないわけですしおすし」

 

「だからこそ一回目は捨て石なのさ。複数回跳べることはコイツに確認済みだったからな」

 

「でもあと一回だけしか跳べないよ」

 

「マジでっ!?」

 

「それは嘘だろう」

 

「――っ!」

 

 

携帯電話に意識を向けつつ、未来人の観察も忘れない。

驚愕で目を丸くしている姿は存外愛らしかった。

 

 

「……どういうことだってばよ?」

 

「推測だが、あと最低一年は跳べる燃料が残っているはずだ。

それを使えば八回以上トライ出来る」

 

「…………何で、嘘だって分かった?」

 

「簡単な話だ。

まゆりが跳んできた時間は来年の七夕だからな、燃料の量まで変化しているとも思えない。

あとは、お前の自白」

 

「本当に、ムカつくヤツだよ」

 

「ククッ。お褒めに与り、ヘドが出る」

 

 

ドヤ顔で笑うと、顔をしかめてそっぽを向いた。

素直過ぎて論戦にならんな。

虚しすぎる勝利だった。

 

 

「だがだからと言って悠長に何度もチャレンジする気はない。次で終わらせてやる」

 

「おおっ、このオカリンすげぇっ! TASさんちぃーっす!」

 

「――なんて自信と実行力なの……。この男、味方になったら頼りになりすぎるよ。

……あー、父さんが言ってたオカリンおじさんの策ってやつも必要無さそうだね」

 

「策?」

 

「そ。鳳凰院凶真、携帯電話にDメール来てない?」

 

「Dメール――そうか、やはり送っていたか」

 

 

ずっと考えていたのだ。

未来の岡部倫太郎がDメールを送るならいつのタイミングか。

 

 

 

 

 

そして俺の導きだした答えは――――本日、2010年8月21日。

 

 

 

 

 

「……そう言えば気になってたんだけど、オカリンケータイ変えたん?

いや機種は変えてないんだけど、妙に新しいっつーか」

 

「よく気づいたな。これは俺の二つ目のケータイだ、ついこの間仕入れた」

 

「え? じゃあいつものケータイは――」

 

「ここにある。電源は切ってあるがな」

 

 

ポケットから取り出すのは今この手に持っている携帯電話と同じもの。

紛らわしいが、使い慣れているということもあるし、意外と気に入っているのだ。

 

 

「わざわざ買うとか、ブルジョワってんなー」

 

「この程度、他人に身体が乗っ取られることを考えれば大した出費ではない」

 

「えっ!? つまりDメールを受け取りたくないからケータイ買ったの!!?」

 

「そうだ」

 

「なんてヤツ……重大なヒントが送られてくるかもしれないのに」

 

「ふん、腑抜けた岡部倫太郎からの手助けは不要。俺に必要なのは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お待たせ致しました、鳳凰院様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「有能な人材だよ」

 

 

明らかに常人とは違う熟練の動きで、気配なく屋上に降り立った一人の男。

その姿も珍妙であり、ゴツいナイトビジョンを着けて長いポニーテール。

 

手に持っているのは、俺がメールで頼んだ物品一式だろう。

 

 

「ご苦労だった」

 

「いえ……貴方様には大きな借りがありますので……」

 

 

この世界には短期間しかいないので信頼など作れないが、

貸し借りを作ることぐらいは出来るのだ。

わざわざ繋げておいたツテは使わないと宝の持ち腐れである。

 

 

「……誰なん? かなり不審者だけど、手練れの悪寒」

 

「動きが尋常じゃない。もしかしてアレがSHINOBI?」

 

「そりゃないっしょ、HAHAHA」

 

「コイツは忍者だ」

 

「本当にっ!?」

 

「冗談は言わん。名は――バルトロメオか」

 

「……左様に御座います」

 

「Oh……」

 

 

バルトロメオは洗礼名(クリスチャンネーム)。

本名は敢えて伏せる。

この男、正確には特殊工作員の元締なのだが、

やっていることは大差ないので忍者ということにしておこう。

男のロマンだった。

 

 

「そう言えば鳳凰院様はタイムマシンに御興味がお有りの様でしたが、

ニュースは御覧になりましたか?」

 

「いや、特には。何かあったのか?」

 

「であれば、こちらのテレビをお使い下さいませ。

その方が門外漢である私の説明よりもわかり易いでしょう」

 

「そうか、重ねて御苦労だった」

 

「……勿体無きお言葉。それでは、これで……」

 

「ああ」

 

 

頼んでおいた物と携帯用テレビを俺に渡し、忍は屋上より去っていった。

まるで霞の如く。

つくづく気配の希薄な男である。

 

 

「忍者の知り合いがいるって凄すぎだろ……」

 

「で、バルトロメオさんは何を置いていったの?」

 

「――なるほど、これは面白い」

 

 

テレビを点けてすぐ目に入る顔。

その男は飛行場の前で誇らしげに偉業を語る。

 

 

 

 

 

 

愚かで、卑劣で、矮小で。

 

 

 

 

 

 

この上なく汚らわしいその手を大仰に翳しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 確かこの人……」

 

「なっ!?」

 

「そう――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「牧瀬紅莉栖の父親であり、彼女を殺した真犯人。ドクター中鉢こと牧瀬章一だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の歪み、その元凶。

この俺が修正してやる、必ず――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

take2

2010:8:21

  ↓

2010:7:28

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラジ館8階の通路で繰り広げられる父子の久しい再会。

しかしそこにあるのは感動のドラマではなかった。

父は娘の才能に妬み、惨めな恫喝で八つ当たり。

娘は父の愛情に餓え、無垢な同情で逆撫でする。

 

決定的なすれ違いは溝を深くするばかりで、ズレは大きくなるばかり。

逆上して父が手をあげるしか終わりは用意されておらず。

行き着く場所も、また限られていた。

 

 

(このまま無抵抗に殺害されるか、それとも――――)

 

 

外的要因による妨害。

だがこの人気のない場所に於いて都合の良い通行人など望むべくもない。

 

 

 

 

 

そも、これは脚本の存在する悲劇である。

脚本の中に登場する人物が邪魔をするはずないのだ。

 

そう、結果が変わるとすれば、脚本外要素の介入のみ――――

 

 

 

 

 

物陰に潜んでいた俺は、中鉢が紅莉栖の首を絞めている場面で飛び出した。

中鉢の死角から懐へ一歩で踏み込み、奴の両手を掴んで捻る。

骨を折らぬよう、軟らかく。

 

 

「なっ!? ぐあああぁあぁあぁっっ」

 

「ごほっ、げほげほげほっ……!」

 

「――チッ」

 

 

あまりにも大袈裟な声をあげるため手を離し突き飛ばす。

中鉢の身体は壁にぶつかり、変な声を出して尻餅をついた。

牧瀬紅莉栖は咳き込み俯いている。

 

この隙に床に転がっていた論文を拾い上げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで第三次世界大戦は、少なくとも中鉢論文によっては起きることがなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手首を押さえて蹲る中鉢を冷めた目で見下し、静かに観察する。

 

 

「な、なんだお前は!?」

 

 

面白いぐらい狼狽し錯乱した中鉢が、声を引っくり返して叫んでいた。

耳障りで思わず脚が出そうになる。

頭が蹴りやすい場所にあることも不味い。

路傍の石より気軽に蹴飛ばしてしまいそうだ。

 

 

「お前……さっきの……!」

 

 

今頃奴は俺の顔を思い出したらしい。

こっちは相手が取り乱せば取り乱すほど落ち着いてくる。

 

位置関係を確認、少しずつずらしていく。

 

 

「お前のせいで……お前のせいで私の発表会は台無しだ!

よくもぬけぬけと、私の前に顔を出せたな……!

どいつもこいつも……私の邪魔ばかりする……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『勝算が、あるんだね……?』

 

『このオカリンなら全て任せられる希ガス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送り出した二人を思い出す。

勝算?

当たり前だ、俺を誰だと思っている。

 

 

「さてはお前、紅莉栖と示し合わせていたな!? そうだ、そうなんだろう!」

 

 

俺が介入する場面はココだけであり、変える部分も明白。

難易度ベリーイージー。

この小さな羽虫に世界の命運が懸かっていることは、いっそ滑稽でしかない。

 

 

「許さん……許さんぞ……ガキども……!」

 

「やってみるがいい」

 

 

そうだ、煽りに煽ってコイツを動かした方が流れとして自然なのだ。

わざわざ明確に提示された解を変える必要はなかった。

 

 

「小僧……何者だ!?」

 

「我が名は――鳳凰院凶真」

 

「なに?」

 

「知らないなら構わん。お前程度の分際に知られても嬉しくないからな」

 

「貴様馬鹿にして……ッ!」

 

 

奴が懐から取り出したのは、やはり刃物。

時を操る、というのもつまらないものだな。

予想を裏切ることが有り得ないのだから。

 

 

「逃げて……っ」

 

「断る」

 

 

狙い通りで、配置も完璧。

あとはせいぜい牧瀬紅莉栖の動向に注意しよう。

勝手に死なれても困る。

 

 

「どうした、ドクター中鉢。お前の威勢は口だけか?

この俺を殺すのではなかったのか? ふん、無能は口からも放屁するんだな」

 

「ふ、ふざけるな―っ!」

 

「ダメ……、パパ、やめてっ」

 

「貴様には俺を殺すことなどできない。絶対に」

 

「死ねぇっ!」

 

 

中鉢は俺の低レベルな釣りに引っ掛かり、中腰に構えていたナイフとともに突進。

俺はその場で悠々と迎える。

 

腹部への軽い衝撃。

意外に深々と突き刺さった。

 

 

「!」

 

「は、はひひ、はひひひひひ……」

 

 

血が吹き出て床を濡らす。

特有の臭いが立ち込めて、紛れもない出血を示していた。

一般的に致死レベルの創傷だろう。

 

 

「あ、があ、ああああ!」

 

「ざ、ざまあ見ろ……あひひひひ……私を、バカにするからだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて、な」

 

「――は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を血だらけにして狂い笑う中鉢に、早々とねたばらし。

服の下に入れた輸血パックと防刃着を見せた。

 

下らない茶番劇。

噴飯物である。

しかしミッションクリアへの必須条件。

全力で演じきろう。

 

刺される気はないし、一滴の血を見せる気もない。

それでも血が必要ならば、この程度見繕うさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が演出するクールな未来のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ……!」

 

「ククッ、よくもやってくれた。殺してやるよ、糞虫が」

 

 

こんな小者に懐を取られた屈辱はある。

ちょっと凄んでやると臆病風を吹かせて。

一気に形勢が逆転し、すでに奴は逃げ腰だ。

 

……小者過ぎて、手応えが無いな。

 

 

「さて――」

 

「えっ――うっ!」

 

 

輸血パックをしまって、あっと言う間に牧瀬紅莉栖へ肉薄。

スタンガンで優しく寝かせる。

血だまりへ、いい案配でうつ伏せになった。

 

 

 

 

 

これにて『牧瀬紅莉栖殺害事件』の再現完了である。

 

 

 

 

 

あとは、

 

 

「娘は、後でたっぷりいたぶって殺してやる。中鉢、まずは貴様だ!」

 

「ひいいい!」

 

 

コイツを追っ払おう。

大袈裟に恫喝。

失禁しない程度で。

 

 

「ひええええ!」

 

 

なんとも拍子抜けな声を出し、中鉢は走り去っていった。

本当にこれでシュタインズゲートに辿り着けるのだろうか?

疑問を残す、締まらない幕切れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく、フーッハハハ!! フーッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時。

 

 

 

 

 

そう、俺は簡単すぎるミッションに気が抜けていたのかもしれない。

 

もしかしたら違う世界に来て油断していたのかもしれない。

 

知らず知らずの内に疲れがたまっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

全て、取り返しのつかない言い訳だ。

 

愚者の挙げる敗因はこうも聞き苦しいものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喉から漏れる間抜けな声。

 

身体から力が無くなり、膝をつく。

 

地面を目の前にして手で頭をなんとか支えた。

 

 

 

 

 

それでもどうにか顔を上げ、通路を見る。

 

霞む視界が夢を見ているように朧気で。

 

そんな中、あり得ないはずの人影が在った。

 

見間違いではなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、今ここに貴様がいる……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――岡部、倫太郎ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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