星の距離さえ動かせたなら   作:歌うたい

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20万UA突破記念アンケートでの短編小説です。
内容は一方通行とアイドルマスターシンデレラガールズのキャラクター渋谷凛とのお話ですが、本編には絡まない内容となっています。
あくまでIF、番外編としておたのしみください。



アンケート小説 前編『アイオライト』

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天井が抜けた様な冬の青空がやけに燻んで見えるのは、どうしてだろう。

支した傘の間から覗く、どんな清掃業者よりも辛抱強く丁寧にアスファルトを洗う夏の雨が奏でるリズムが、憂鬱だったのは何故だろう。

店の出入り口に展示された秋桜の彩りはとても鮮やかなのに、視角出来ない土の底に這う根っこは嘘を付けないまま、取って付けた喜楽を吸い取っているようにすら思えて。

雨上がりの晴れた青空には、心を晴らしてくれる虹は架からない。

アスファルトの水溜まりには、泥の付いた桜の花弁と、歴史の浅い癖に達観を気取った自分の、退屈そうな顔。

 

 

分かってる、季節や景色は常に変わるものだけれど、褪せて見えるのは小生意気な心のフィルターが原因で。

刺激の少ない、変わらない日々、変わり映えのしない景色に口を尖らして、拗ねているだけの悪循環。

そこそこに人付き合いが出来て、家族との関係も良好で、学校の成績も問題なくて、それで、それが何になるんだろう。

いや、何かにはなるんだろう、十年後、二十年後に自ずと振り返る事を約束された頭の中のアルバムにキッチリと記されているんだろう。

きっと贅沢にも程がある、悩みとすら形容するのも馬鹿らしいそれは、けれど自分――渋谷凛にとっては確かに色を奪って、光を負かす、一滴の毒に等しい。

 

撮った写真を眺めて、私は古くなったのかな、と思うだけの青春は、桜の花弁など散らない。

懐かしんで目を細めるだけの、想い出が欲しい。

 

渋谷凛と云う名の芯を揺さぶられる程の衝動と情動を求めての、硝子の靴を探したいと思うのは贅沢なのだろうか。

シンデレラを演じれる自信はないけれど、カボチャの馬車に乗ってみたいとも思わないけれど。

 

魔法を掛けて欲しいと願うのは――。

 

 

「――1人の女の子として、当然だよね」

 

 

「脈絡無く主張すンなよ、ホント時々、訳わかンねェ事を言い出すよなオマエ」

 

 

ピック代わりの長い爪先をひょいと無遠慮に向けて指摘するものだから、折角の陶酔心地もギターの音が止めば、ビロードの幕がすっぽりと覆い被さった、色の鮮やかな葵夜の空気が戻ってくる。

 

センチメンタルに惑わされて、口を付いて出た無意識な気障ったらしい独白を、何の脈絡なくぽっかりと丸々綴ってしまって、呆れながら此方を見下ろす紅い瞳に映る自分は笑みこそ形作っているものの、内心では大惨事だ。

羞恥で高揚した頬とほんのり伝う冷や汗の一筋二筋は隠しようもないが、下手に視線を泳がせては墓穴を掘るだけだから。

なるべく内心の凄惨っぷりを気取られように、話を強引にでもシフトしなくては。

 

 

 

「あ、Cメロ……私の好きなフレーズだったのに。続き、早く聞かせてよ」

 

 

「オマエが手を止めさせンのが悪ィンだろォが。邪魔すンなら帰れよ、この犬ッコロも連れて」

 

 

「え、嫌。まだ此処に来て10分も経ってないし。いつものレパートリーも殆ど聴いてないし。それに、ハナコも大人しくしてるじゃん」

 

 

「……まァ、どっかの軍犬に比べりゃァ牙も向かねェし、どこぞのアホ犬と違って利口なのは認めるがなァ……さっきからずっと脚に身体擦り付けンのは止めさせろよ、マジで。擽ったくて仕方がねェよ」

 

 

「無愛想な人にはよく懐くんだよ、きっと」

 

 

「ハッ、そりゃ確かに実証済みだ。他でもねェ、飼い主がこれじゃァな」

 

 

「……勿論、私も含めて。言われなくても、自覚してるよ」

 

 

建築物のシャンデリアが煌めいている深い碧の河の水面を、例えば、そう言う関係の人と一緒に眺めるには、十分なムードが出来上がりそうな、ペンキの剥げた白いベンチの上。

スラリと組まれた細長い脚の太股に乗せた、側面がレッド配色のアコースティックギターの亜麻色のボディをコミカルなリズムでコンコンノックする度に、愛犬のハナコがペタペタと彼の膝に前足を引っ掻けて、音の反響するサウンドホールを粒らな瞳で見詰めている。

ヨーキーとミニチュアダックスのミックス犬らしい、ちんまりとしながらも小さな尻尾を振る姿は贔屓目無しにも愛らしいじゃないか、と。

 

揶揄かいを紡いだ、澄んだ春の夜の薄い半月に似た唇は白んでいて、そんな小さな箇所から既に生まれてくる性別を間違えていると思える程に女性的で、声色だけは蟲惑的なテノールなのだから面白くない。

絢爛な画廊に並ぶ、眩い銀月と深い雲を背に稲穂が靡く風景画を眺めて恍惚に浸るのと、風に流れる銀のホウキ星を流す白美に浮かされそうになるのはそう変わらなくて。

きっとクラスの友達にこの美丈夫の写真一つでも見せてやれば、黄色い悲鳴のシンフォニアと紹介してと殺到するコンチェルトに晒されるのは目に見えているし、コンダクターとして指揮棒を取ろうとすら思わない、そんな徒労はご遠慮願いたい。

 

無愛想なのはお互い様、そう言えるだけの関係になるのには、なかなか骨が折れたと思うし、手を焼いたのだ、とても。

そこまでして分かったのは、彼の名前がとても変わっている事と、彼の周りは何だか変わり者ばかりみたいだと云う事と、特異な外見通りに、一筋縄にはいかない人間だと云う事。

それだけ、なのか。

そんなにも、なのか。

どちらにして置きたいのかなんて、問う必要があるとは今更思わない。

 

 

 

「……続き、弾かないの、一方通行?」

 

 

「急かすンじゃねェよ……中途半端に切ったからな。最初っから弾く」

 

 

「うん。そういえば、最初に弾いてたのもこの曲だよね。確か……『ミルクティー』だっけ、曲名」

 

 

「ン……覚えてたのか」

 

 

「まぁね。テレビで一回くらい聴いた事あった程度だから、最初は『UA』の曲って分からなかったけど。でも、一方通行ってヴィジュアル系っぽい見掛けしてるから、最初はイメージと違うなとも思ったんだよね」

 

 

「……言われなくても、自覚してンよ」

 

 

「そっか、自覚してるんだ。私と一緒だね」

 

 

イメージには合わないなと思ったのは確かだけれど、今ではどこか物悲しい流暢なバラードは、彼の雰囲気にとても馴染んでしまっている、いっそ悔しい程に。

一緒だと同調した所で、嬉しいと喜ぶでもなく、呆れる事も嫌がる事もなく、春の夜風を舞台に踊る風鈴みたく涼し気に流されるのは、もはや悔しいなんてもんじゃない。

 

けれど、クシャリと心のページを掌で優しく握り込まれるような静麗な横顔が、その揺蕩う紅い眼差しがフィンガーボードに添える指先を見下ろして。

小さな紅い双子月が眺める指先のコンサートの開演を、遮ってまで不満を訴える程、子供じゃない。

 

いいや、違う。

子供じゃない事はない、年齢的にも、未熟な精神も外見も、社会的な責任面も子供というカテゴリーにいとも容易く当て嵌まってしまうだろうけれど。

それでも、子供だと見られたくないのだ、特に彼の前では。

 

 

思い浮かべるのは、3ヶ月も前の、冬の足音が聞こえてくる季節のこと。

勝手に詰まらないなと思い込んで、静かに塞ぎ込んで、退屈だと決め付けた世界に、嗤わせんなと言わんばかりに見下ろした圧倒的な極彩。

 

目を閉じれば、意図も容易く再生できる、あの日の夜のこと。

 

 

流れてくるのは、あの曲と、剥き出しにされた心と、幽かな花の香り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『アイオライト』―――

 

 

 

 

 

 

 

 

流れ星に三回願いを唱えれば、だなんてジンクスを言い始めたのは誰なんだろう。

きっと誰もが一度は耳にした事のある迷信を思い出すのは、月の光が細くて、適当な星を探すには苦労しないのっぺりとした夜空に紛れて、サッと一陣の流星が通り過ぎたから。

 

願いを叶えるには、流れ星が消えてしまう前に、三回願いを唱えなくちゃいけないだなんて。

そんな単純な事で叶えれる願いはどうなんだろうという、我ながら女の子としては全く可愛くない呆れ。

いつ訪れるかも分からない上に、瞬き一つで去ってしまう流れ星に三回も願いを唱えるなんて、単純な癖に、いざ実践となるととんでもなく難しい意地の悪さに白んでいく心も、これまた可愛くない。

けれど、願い事が長ければ長い程に叶えるのが難しいだなんて、妙に理に適っている所は、少し面白いな、と。

 

 

川のせせらぎが冬の夜には少し厳しい河川敷の、ランニングコース用にも舗装されている道幅の両端に埋め込まれたLEDのランプの碧光は、少しこの見上げれば視界一杯に広がる夜空に似ている。

学校の宿題が手に着かなくて、気分転換に散歩に連れて行ってる愛犬のハナコはそのランプの光が物珍しいのか、仕切りに匂いを嗅いだり前足で叩いていたりと、見覚えの無い風景に落ち着かないみたいだ。

 

いつもとは違う散歩コースを選んだのは、気分転換の延長。

少しでも違う風景と、少しでも違う刺激に飢えた心を誤魔化してしまいたい、そんな逆上せたセンチメンタル。

もう間も無く高校生にもなるというのに、いつまでも抱いたままのふやけた和菓子みたいな願望に夜空さえ気を利かせて流れ星を走らせてくれたのに、呆気なく見送ったまま零れ落ちた溜め息が虚しく響いた。

 

 

「……? どうしたの、ハナコ?」

 

 

不意に、ハナコの赤い首輪に繋がれたリードがピシャッと張った感覚に連られてそちらを見れば、普段はペタンと畳まれている小振りな尻尾はアンテナみたいにピンと紺碧の夜空を指していて、落ち着きなく息継いでいた如何にも犬らしい呼吸は夜の静けさに包まれたかの様にピタリと止んだ。

周り込んで見なくても分かる程に真っ直ぐと向けられたハナコの視線は随分先の方へと固定されて、人懐っこいけれどやんちゃな性格である愛犬の素振りにしてはとても珍しい。

 

猫は明暗に合わせて瞳孔を調節出来るから夜目が利くというのは聞いたことがあるけれど、犬もそうだっただろうか、と。

何か面白いモノでも見つけたのかな、と思って私自身もハナコに倣ってこの子の見詰める先へと目を凝らして見るけれど、夜闇の宵は濃くて、そこそこ視力が良いくらいの自分にはやっぱり何が在るのか何て分からなくて。

 

そして、気付く。

ハナコが凝らしていたのは視覚ではなくて、聴覚なのだと。

その音源からの距離がある所為か、川のせせらぎに混ざって聴こえる調べはとても幽かなモノだけれど、細い糸の様な微弱な旋律は確かに私の耳に届いている。

 

 

「……ギター、の音?」

 

 

「ワフッ!」

 

 

ほんの僅かに聴こえる弾かれた弦の渇いた高音に、若干自信のない臆測が口を付いて出た。

特別楽器をやってる訳でもないし、ピアノの上手な友達の様に音感を鍛えている訳でもないから、流石に確信を持って断言は出来ない。

数を並べれば頭が痛くなりそうな程の種類がある弦楽器の、一番メジャーな所をそのまま連想しただけなのに、まるでその通りだと答える様なハナコの一鳴きに驚いて、ついリードを握る掌を緩めてしまったのが、失敗だった。

 

 

「あっ、ハナコ!」

 

 

やんちゃとはいえ両親の躾の賜物か、リードを握れば無理に暴れたりしない利口さもある筈の愛犬は、投げられたフリスビーを追い掛ける程の俊敏さで、ブルーにライトアップさせれた幅の広い遊歩道を駆けていく。

確かにハナコは好奇心の強い性格だけれど、こんなにも鉄砲玉宜しく反応するものだろうか。

リードを振りほどかれた事なんて、ハナコを飼い始めて、まだ躾の整ってない一番最初の散歩の時以来だと、頭の片隅で古びた追憶をぼんやりと浮かべて、夜葵のビロードに紛れてしまいそうな小さな身体を走りながら追い掛ける。

 

けれど、次第にボリュームのフェーダーを上げて響いていくギターの旋律は高音域に始まって、中、低音域とどんどん厚みを広げていって。

細い糸の音が一つ、二つ、と重なって織り成しては大きな一本の白麗線に紡がれていく不思議感覚に、悠々と流れるメロディのピッチに合わさる様に必死に走らせていた両足がゆっくりと、ついには無意識の内に走る事を止めていた。

そして、ギターの弦を滑るキュッというフレットノイズさえも聴こえて来るほどに音源の直ぐ傍まで歩み寄った時には、両足は縫い付けられたかの様に、その場所から動けなくなって。

唯の河川敷に設けられた、白いベンチにしか過ぎない筈のこの場所が、どこか分からなくなってしまう程の光景に、心の地図にすら載ってない場所へと迷い込んでしまったのかと錯覚してしまう。

 

 

「――――」

 

 

 

 

白貌の歌うたいが、星空を口説いていた。

 

 

 

 

綴るのなら、敢えて文字に書き起こすのなら、そんな一文から始まりそうな叙情を纏った風景画を、熱心に網膜へ焼き付けている鑑賞者にキャストを変えられてしまった様な、錯覚。

在り来たりな形容が綺麗サッパリ掻き消されて、澄んだ雪原そのものみたいな長く鮮やかな白銀のポニーテールの穂先が、アコースティックギターの弦を弾く度に揺れている。

漆黒のペンキに浸けた様なコートの隙間から見える肌は夜霧を散らしてしまう程に白くて、夏風に靡く真っ白な流星にも劣らない。

 

精悍な顔付きや角張った体格は私とは異なる性を描くのに、神秘的にすら思える中性的な睫毛は長くて、月に浮かぶ女性の顔という幻覚をそのまま当て嵌めているかの様に、ただ綺麗で。

 

 

何よりも目を奪われてしまったのは、手元を一切見ないままに無数の星屑を見上げている、硝子細工の宝石みたいな紅い瞳。

星を口説いている、そんなフレーズが恥ずかし気もなく浮かんで来る程に、真っ直ぐに夜空を愛でる細い紅が、その横顔に浮き彫りにされている無垢な感情の環状線が、余りにも切ない。

 

 

代わり映えのない日常の物足りなさを訴える私の幼稚な心に埋め込んだ白い爪痕を掻き散らされた様な、甘い痛みが苦しくて、呼吸一つすら辛いとさえ思えるのに。

 

けれど、目を背ける気なんて起こらない、もどかしさ。

退屈だと拗ねた心のフィルターは剥がされた後に残るのは、一瞬にして塗り替えられてしまった極彩色の光景に、ただただ息を呑んで、呑み切れない情動は淡い吐息となって零れ落ちた。

 

金縛りにも似た錯覚を持て余して、漸くまともな思考回路を取り戻せたのは、奏でる旋律がいつの間にか途絶えた後の事。

 

 

 

「……折角聴き入ってくれてる所で悪ィンだがよ、そろそろコイツを回収してくンねェか」

 

 

「…………ぇ?」

 

 

どこか夢見心地で浸っていた余韻を切り裂く、夜のビロードの静謐さを被せたテノールボイスの鋭さが、ちっとも動かない脚に蔓延る氷河を罅を入れたみたいだった。

ベンチの背凭れに弾いていたギターを置きながら、すらすらとした口調なのに、どこか間延びした表情が浮世離れに囚われてしまっていた思考をサッと溶かしていく。

 

あぁ、もしかしてこれ、話し掛けられているのか。

 

釣り上げられた魚みたくぽっかりと口を開けたままの自分はどんな風に見えてるのか、なんて思考の片隅でやけに冷静に考えて客観視している私に呆れているのだろう。

白麗な髪を、さも困ったようにカリカリと掻いて、その人は足元で嬉々として纏わりついていたそれを、ヒョイと持ち上げて。

 

 

「……オマエのペットじゃねェのか、この犬ッコロ」

 

 

「……あ」

 

 

ペロンと両足を垂れ下げながらも首輪を引っ掻けて器用に持ち上げる片手の持ち主を眺めながら尻尾をぶんぶんと振っている我が家の愛犬、ハナコを此方に差し出したその人の言葉に、やっと状況を理解出来た。

途端にカッと油に灯を注がれたみたいに、自分の顔が熱を帯びていき、冷や汗なのか唯の汗なのかよく分からない何かが背筋をそっと伝い落ちる。

 

凄く、恥ずかしい。

 

とんでもなく間抜けを晒してしまった上に、もしかしたら演奏の邪魔すらしてしまったんじゃないだろうか、と。

もたつく舌が上手く言葉を紡げなくて、呻き声にも劣る奇妙な音の羅列を辛うじて吐き出しながら突っ立っている私は、きっと相当な不審者に見える筈。

 

はい、そうです、と言葉を滑らせるのに苦労するなんて、きっと私の人生で初めての事かも知れない。

 

 

「……ぁ、ゃ、その……」

 

 

「……」

 

 

どうしよう、この状況。

退っ引きならないにも程があるのに、今度は違う意味で足が動かない。

予想通りに怪訝そうな紅い瞳に真っ直ぐに見詰められて、余計に思考回路が滅茶苦茶に掻き混ざっていく体験なんて、これもまた初めてのこと。

三者面談の時や、成績表によく記されている、落ち着きがありますなんて評価をくれた担任が今の私を見たら、何て思うんだろう。

 

けれど、パニックに陥っていってしまった私に気付いたのか、その人はさも面倒臭そうに盛大な溜め息をついて、細い腕にハナコを抱いたままベンチから立ち上がって、トコトコと此方へと歩み寄る。

つい見上げてしまうくらいの高い背丈としなやかな体躯は、男性、女性、の要素を両面をとも纏う不思議さを孕んでいて、茫然と立ちながら視線は彼から動かせない。

気付いた時には、ヒョイと渡されたハナコを無意識の内に腕に収めていた。

 

 

 

「……変なヤツ」

 

 

薄い肉付きの唇がふと微笑みを象って、ハッキリと変だと紡がれて、思わず自分の頬が引き攣る感覚がすっかりとポンコツになってしまっていた思考を急速に速めていく。

取り敢えず、邪魔してしまった事には間違いないだろうし、謝るだけは最低限しておかないといけない。

変なヤツと言われても可笑しくない醜態を晒してしまったのは事実だけれど、だからといってその印象を抱かれたままなのは余りにも辛いし、いち女子高生としても何か致命傷な気がするし。

 

 

「その……邪魔してごめん……」

 

 

「別に邪魔にはなってねェ。一々謝ンなくて良い」

 

 

「……はい。ありがと……う、ございます」

 

 

「クカカッ、何だそりゃオマエ。敬語が苦手なら、無理に使わなくて良いンだが」

 

 

「……苦手じゃなくて、あんまり使い慣れてないだけ」

 

 

普段、学校の先生には一応ながらも敬語は使えているんだけれど、さっきまでのどこか非現実的な光景の余韻が抜け切れて無いのか、ぎこちない言葉遣いになってしまう。

口下手な所はある事くらいは自覚しているし、よく周りにも指摘されて来た事ではあるけど、この人にも直ぐに見抜かれる辺り、余程分かり易いんだろうか。

 

カラカラとした、何処かニヒルな笑みが似合う人だなと思いつつも、揶揄かいのニュアンスを指し向けられるのは、余り気持ちが良い事ではない。

ムッとした反骨心に似た何かに促されてしまったのか、我ながら生意気な性格が影響してか、つい口を尖らして、ジトッと彼を見据えてしまった。

けれど、腕の中に収まったハナコの顎を長くほっそりとした指先でカリカリと撫でている彼は此方の意図などまるで興味が無いみたいで。

 

 

「ちっせェな、コイツ。ヨークシャーテリア、ってヤツか」

 

 

「……正確にはヨーキーとミニチュアダックスのミックスなんだけど」

 

 

「名前は?」

 

 

「ハナコ」

 

 

「偉く地味だな」

 

 

「名前付けたの私じゃないし」

 

 

触りたいのならわざわざ手渡さなくても良かっただろうにと思いながらも、愉し気に丸めた瞳に長い睫毛がシパシパと瞬いて。

改めて間近で見てみれば、女の私よりもきめ細かそうな真っ白な肌に、険の鋭さを感じさせる所はあるけれど、切れ長の目尻にシャープな顔立ちはかなりの美人顔だ。

深い真紅のルビーを嵌め込んだ様な瞳もかなり日本人離れなのに、スラスラと流暢な日本語は、外国人独特のイントネーションの癖がまるでない。

ハーフか、クウォーター辺りだろうか。

 

ハナコの顎を撫でていた指先を、今度は目の前で猫じゃらしみたいに左右に動かしては、ハナコの猫パンチならぬ犬パンチを誘っては避けて、誘っては避けてを繰り返している彼に、もう少し尋ねてみよう、と。

 

 

「犬、好きなの?」

 

 

「まァ、従順なヤツはな」

 

 

「ハナコは言うことは聞いてくれるけど、結構やんちゃな時も多いよ、これでも」

 

 

「やンちゃねェ……ペットの性格は飼い主に似るらしいがな」

 

 

「……生憎、ハナコがやんちゃなのは最初っからだけど」

 

 

刺があるというよりは、単純に揶揄われているだけなんだろうけど、随分と遠慮のない物言いを投げて来るな、と。

でも、私自身も無愛想で角のある言い方でつい人を傷付けたりする事が多いのもあって強く指摘出来ないし、何というか、この人のこういう物言いは何故だか妙に型に嵌まっているような、そんな気がする。

 

自然体というか、不思議と不快とは思わないのは、多分この人も言葉を飾り立てるのが面倒だったり嫌いだったりするタイプだからだろう。

敬語が下手だとあっさり見抜かれたのも、もしかしたら私の言葉遣いのきこちなさだけが原因じゃなくて、彼もまたシンパシーに似た何かを感じ取ったのかも知れない。

多分、この人も目上相手でもあんまり敬語使わなさそうだし。

 

 

「あのさ……名前、なんて言うの?」

 

 

「一方通行。アクセラレータ。どっちでも好きに呼べ」

 

 

「……え、何その名前。アクセラレータっていうのは兎も角、一方通行って……標識?」

 

 

「……細けェ事気にしてンじゃねェ」

 

 

いや、細かいなんてレベルじゃないんだけど。

アクセラレータっていうのはまだ分かる、でも一方通行って言うのは名前といって良いのだろうか。

人の名前にケチを付けるのは失礼極まりないとは思うんだけれど、流石に指摘せずにはいられなかった。

 

でも、誤魔化してる様にはとても見えない静かに遠くを見詰める瞳と横顔に、余り深く聞くのも憚れる。

多分、色々と訳ありなんだろう。

あんまり人の複雑そうな事情に首を突っ込み過ぎるのもどうかと思うし、ひょっとしたらバンドネームみたいなモノなのかも知れない。

 

 

「……一方通行って、ギタリスト?」

 

 

「いや、趣味程度だ。とても生業に出来る程の腕じゃねェしな」

 

 

「……私は、普通に良かったと思うけど」

 

 

「ワフン」

 

 

音楽の道はとても険しく奥深い物だと云うのは最早公然の事実だしそれくらいの臆測は出来る世界なのは分かるけど、あんまり卑下されてはつい聞き惚れてしまった私の立場が無い。

善し悪しまでは分からないけど、普通に自信を持っても良いレベルなのは間違いないと言う私に同意してくれているのか、腕の中に収まったままのハナコが欠伸を噛み殺すようにふんわりと鳴いた。

 

 

「チッ……まァいいか」

 

 

わざわざ舌打ちをする辺り、私よりもよっぽど無愛想で皮肉屋な気質なんだろう、この一方通行という男の人は。

それと、大人びた外見や態度な割に、意外にもなかなかの恥ずかしがり屋らしい。

プイッと顔を背けてギターの置いてあるベンチへと踵を返した一方通行の縦長の骨張った背中を見送りながら、込み上げて来る笑いを何とか噛み殺す。

 

背ける際にちらりと見えた耳元が桜の花弁を添えた様な薄い赤を帯びていて、照れ隠しにそっぽを向くなんて妙に子供っぽいところがあるな、と。

ギターを演奏していた時の神秘的とさえ思えた印象とはまるで違って、人間味のある素振りが面白い。

 

 

「隣、座るね」

 

 

「……」

 

 

機嫌を損ねてしまった様子でもなく、別に一々私の存在を意に介すことでもないと取られているのか、無言の儘、否定も肯定もしない態度が何だかムッときて、敢えて距離を詰めて座ってやる。

拳一つ分のスペースくらいしか空きがない程に隣に座られても、一瞥をくれるルビーが怪訝そうな光を纏うだけで、特別文句を言う訳でもない。

 

本音で云えば、私は彼に興味があるんだろう。

ギターを奏でる技術も、鮮烈で魅力的な外見も、あの瞬間の、星を見詰めている儚くて、繊細な想いの丈を添えた表情も、気になる。

一種の予感、なのかも知れない。

代わり映えのない日常に失望を抱く身勝手な心を変える切っ掛けなんじゃないか、と。

見送った筈の流れ星が、もう一度私に願い事を叶えるチャンスをくれたんじゃないかって、夢見る少女染みた幼稚な夢見事に、どこか期待に高鳴る胸を誤魔化し切れないでいる。

だからこそ、少しくらいは此方にも興味を示して欲しいと思うのは、我儘なんだろうか。

 

私の腕に収まったままのハナコもまた、形ばかりは大人しくしているけれど、隣でギターの弦の張り具合を確かめている一方通行に興味津々に落ち着きない息遣いをしている辺り、彼の言う通り主従揃って心音がそっくりである。

 

 

 

「あのさ、一方通行」

 

 

「なンだよ」

 

 

「まだ名乗ってなかったから、ね…………私は、渋谷 凛。凛でいいよ」

 

 

「…………渋谷?」

 

 

「凛でいいって言ってるじゃん」

 

 

「そォ云う意味じゃねェよ」

 

 

「じゃあ、どういう意味…………ん?」

 

 

名前で呼ばなくてはいけないと強制する権利なんてないけれど、袖にされ過ぎるのもやっぱり辛い。

どういうつもりなのかと設問すべくグッと顔を近付けた瞬間に、ふと、鼻腔を擽る花の薫りに気付いた。

 

河川敷に咲いた草花にしてはやけに湿気の含まないハッキリとした香りは品種までは流石に分からないけれど、ある程度手入れのしてある花と草花とでは、香りに大きな違いが表れるもの。

だからこそ、一方通行の細長い体躯と構えてるギターによって丁度死角になっていたベンチの隙間にひっそりと置いてある、ニュースペーパー柄の特徴的なポリ袋には見覚えが有り過ぎて。

 

 

「その袋って……もしかして」

 

 

「……」

 

 

「ねぇ、一方通行。ちょっとそれ、見せて貰って良い?」

 

 

「……雑に扱うなよ」

 

 

 

何故だか複雑そうに表情を歪めながら、そっと一方通行に渡された袋は、手に取ってみれば、やっぱりウチの花屋が利用しているメーカーのモノ。

成る程、これなら彼が何かを確かめる様に渋谷と敢えて名字で呟いた理由も、そういう意味だったのかと納得出来る。

 

じゃあ、私が気付かなかっただけで何処かですれ違っていたかも知れないという可能性もあるんだろう。

まるで出来すぎた巡り合わせみたいだと、輪郭のない高揚感に昂った頬がサッと熱くなる。

運命だとかそんなロマンチズムな感情を初対面の相手に向けれる程に乙女らしい可愛い性格じゃないとはいえ、流石にちょっと意識してしまったけども。

 

 

「……まさか、一方通行がウチの花屋で買い物してたなんてね。お買い上げありがとうございました、はいこれ、返すよ」

 

 

「へいへい、どォも……オマエもあの店で店番とかしてたりすンのか?」

 

 

「そんなに毎日って訳じゃないけど。店が忙しい時に手伝ったり、母さんが業者さんとの打合せで手が離せない時とかに店番したりするくらいかな」

 

 

「その仏頂面で店番か……母親の方は愛想良かった気がするンだがな、そこまで遺伝子は有能じゃねェか」

 

 

「……カチンと来た。生憎、これでも一応看板娘って評判だったりするんだけど。というか、愛想無いし可愛い気もないのは自覚してる。でも、アンタに言われるのは何か凄く納得行かない」

 

 

「否定はしねェよ。そンな俺でも認めれるぐれェのモンだって話だ」

 

 

「……それ結局皮肉じゃん。ムカつくなぁ、もう」

 

 

 

売り言葉に買い言葉の応酬ばかりなのに、どこか小気味良いな、と思ってしまうのは何でだろう。

いや、どちらかと言うと新鮮なのかも知れない。

皮肉が許せる人徳がある訳ではない、決して、そこは認めない、ムカつくし。

 

けど、明らかに歳上っぽい相手に遠慮の一切がいらないやり取りというのは、私にとっては結構貴重だったりする。

それに、腹立だしいニヒルな笑みに相反して細く揺蕩う月の様な瞳は穏やかで、そのアンバランスさに戸惑いながらも不思議と安堵してしまう気持ちがあって。

貶されているというよりも、揶揄われてるんだな、と思える様な丁度良い距離感。

ついさっき、変なヤツ、そう言われたばかりの評価を、そっくりそのまま一方通行に返してやりたい。

 

 

「一方通行はいつも此処でギター弾いてるの?」

 

 

「いや、二週間前に一回、偶々寄って以来になるか。折角一人静かに出来そうなスポットを見付けたってのになァ」

 

 

「だから邪魔してごめんって言ったじゃん。というか、さっきは邪魔になってないって言ったのに……男に二言はないって言葉、知ってる?」

 

 

「犬に関しては、のつもりだったンだよ。なァ、ハナコ?」

 

 

「ワンッ!」

 

 

「ちょ、ハナコ……やめてよ一方通行、この子はウチの子なんだから。変な悪影響与えないでよ」

 

 

まさかの愛犬の裏切りに危機感を覚えてハナコを庇う様にして身体を背ければ、素知らぬ顔の白面の意地の悪い笑みがカラカラと転がって。

釣られちゃいけないのに、私の意志に反して口元が綻んでしまって。

馴れ馴れしいとか、そんな感情を取っ払ってしまう一方通行の特異性に、久方ぶりの充足を感じている事を自覚する。

可笑しいな、こんなに単純に心を開いても良いと思ってるなんて、私らしくもない。

 

 

「偶々寄ったって云うのは、仕事の都合で、とか?」

 

 

「仕事って程でもねェ。知り合いの頼まれ事のついでだ」

 

 

「ふぅん。じゃあ、家から結構遠かったりするんだ。どの辺り?」

 

 

「そォ遠くはねェよ。川神って言えば分かンだろ」

 

 

「川神……あぁ、それならそんなに離れてないね。電車で二、三駅くらいだし。でも、一方通行が電車に乗ったら浮きそうだよね、雰囲気的に」

 

 

浮くというのもそうだけど、悪目立ちしそうだ。

綺麗な白髪だけでも相当なのに、真っ赤な瞳と中性的で端麗な顔立ちな上、背も高い。

男女問わず好奇の視線に晒されながら、辟易としながらも席に座る一方通行の姿が容易に想像出来て、つい忍び笑いを浮かべてしまう。

私の予測は案外的を得ているんだろう。

目敏く私を一瞥しては面白くなさそうに舌を打って顔を顰めるのが、何よりの証拠だ。

 

 

「……余計なお世話だ、クソッタレ。つゥか、電車で来てる訳じゃねェよ」

 

 

「え?じゃあ自転車とか?」

 

 

「流石にチャリで来るには距離あンだろ阿呆。スクーターだ」

 

 

「あぁ、成る程、そっちか。免許持ってるんだ……じゃあ、そのスクーター見せてよ」

 

 

「パーキングに停めてンだ、態々持って来る必要ねェだろ、面倒臭ェ」

 

 

「ケチだね」

 

 

「煩ェよ」

 

 

間髪入れない合いの手みたいに返ってくる拒否の言葉は、彼からしたら当然なんだろうけど。

ちょっと勿体無いな、と。

事故が恐い側面があっても、風を切ってバイクを駆ける爽快感は正直興味がある。

流石に後ろに乗せてとまでは言わないけど、会ったばかりの相手だし。

 

 

「川神って言えば、何か変わった学校あったよね。川神学園とか、結構そのままの名前の学校」

 

 

「変わった……ねェ。まァ、決闘システムなンて酔狂なモンがあンのは彼処くれェだろォよ」

 

 

「あ、それ聞いた事ある。確か、生徒同士で闘うとか、そんな感じの…………というか、詳しいね。一方通行って、もしかして其処のOB?」

 

 

「残念ながら在校生だ。さっさと卒業してェがな……毎日毎日飽きもせず騒がしい馬鹿ばっかでよォ」

 

 

「…………」

 

 

 

さも鬱陶しそうに愚痴を零している割に、ギターのフレットを手持ち無沙汰に撫でている紅い瞳は、嘘が付けないんだろう。

目は口ほどに物を言うとは、誰の言葉だったか。

早く卒業したいと苦言を吐いているその瞳に浮かぶ感情はとても暖かく、穏やかで。

無遠慮で無愛想な癖に、きっと素直じゃないんだな、この人は。

なんというか、気紛れな真っ白い猫みたい。

大人びた外見と態度な割に、結構単純な子供っぽさがブレンドされていて、思ったより私と歳が離れてないんだろうな、と。

最初の息を呑む程の清麗な印象から、コロコロと変わっていくイメージが、まるで万華鏡を覗いているかの様で飽きさせない。

 

だからだろうか、もう一度聴いてみたいな、と思った。

何処かで聞いた事がある様な、あの優しいメロディーを。

今度は、最初から、最後まで。

 

 

「ねぇ、さっき弾いてた曲、もう一度聴きたいな」

 

 

「あァ? 質問責めばかりしやがると思えば、今度はリクエストかよ」

 

 

「良いじゃん。今度は、邪魔したりしないから」

 

 

「……」

 

 

「……ね、お願い」

 

 

真っ直ぐに見上げれば、怪訝そうに潜めた眉と、呆れた様な溜め息と。

 

 

――変なヤツ。

 

 

小さく紡がれた吐息混じりの呟きが、第一音となって。

やがて、透明で繊細な旋律へと、連なって行く。

 

揺れる蝋燭の灯火みたいな、仄かな熱と共に。

初冬の風がシグナルを知らせるみたいにカサリと撫でた、袋の音が、そっと呪文の様に鼓膜に溶けた。

 

 

 

 

――

―――

――――――

 

 

 

 

 

「……もう、3ヶ月も前になるんだね」

 

 

「……何の話だ」

 

 

「分かってる癖に。私達が最初に会った時の事だよ」

 

 

「あァ……オマエが阿呆みてェに突っ立ってた日か」

 

 

「その思い出し方は流石にムカつくんだけど。口を開けば皮肉ばっかり。あの時と全く変わらないね、一方通行のそういう所」

 

 

「そンだけの間抜け面を晒して自分を恨めや」

 

 

「……意地が悪いね、ホント」

 

 

あの日から、毎週の日曜日に此処で開かれる、小さな小さなコンサート。

チケット代わりのブラックコーヒーを差し出して、こうしてハナコと一緒に、時々は私一人で聴きに来るのが、最早すっかり恒例になって。

 

ギターだけの演奏だったコンサートは、最近では原曲を聴き込んだ私が時折歌で参加したりするのを、物言わぬ歌うたいは決して邪険にしないでくれた。

歌詞を辿っていた筈のギターの主旋律が、徐々に副旋律だけを残して変わっていく辺りが、とても擽ったい。

意地の悪い言動の裏で、こういう事をナチュラルにしてくるのだから、きっとこの人に懸想を寄せる人はとても多いんだろうな、と簡単に予測が出来る。

 

 

「そういえば、一方通行は結局会長には立候補しなかったの?」

 

 

「誰がするか、七面倒臭ェ。そォいうのはお祭り好きな馬鹿にやらせとけば良いンだよ」

 

 

「何だかんだで騒がしいの好きな癖に。似合うと思うけどね、生徒会長」

 

 

「分かったよォな口利くじゃねェか。高校生になって生意気っぷりに拍車掛かりやがって」

 

 

分かったような、じゃなくて、分かってるんだけどね、ある程度は。

数えれば多分、彼の周りに居る人々よりかはずっと短いし少ないけれど、演奏の余韻を終えた後のトークタイムで交わされる内容は、お互いの日々を詰め込んだ思い出語りばかりだし。

スケールの大きいお祭り事に引っ張り出されては苦労しているらしい一方通行の愚痴は、彼には悪いけれど、とても濃くて面白い。

いっそ、私も川神学園に入学していれば良かったな、って思う程に、本当に面白そうで。

 

 

だから、私の背中を押したのは、彼の所為でも、彼のお蔭でもあるんだろう。

一番の切っ掛けは、多分――あの娘の笑顔だったけれども。

そして、この決断を一番伝えたかった相手は、他でもなく。

 

 

 

 

「……あのさ。聞いて欲しい、事があるんだけど」

 

 

 

私に魔法を掛けて欲しい。

 

 

 

特別なお姫様になりたい訳じゃない、硝子の靴も履かなくて良い、綺麗なドレスなんて要らないから。

 

 

 

「私ね、実は――」

 

 

 

満開の桜みたいに咲いた、あの娘の笑顔の様に。

 

 

綺麗に咲いてみたいと思ったんだ。

 

 

気難しくて、世話をするのが大変で、頑固で意地の悪い花だけど。

 

 

 

だから、魔法を掛けて欲しい。

 

 

ほんの少し、前に進むだけの勇気を。

 

 

 

 

 

 

 

 

――アイドルに、なろうと思うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.

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