星の距離さえ動かせたなら   作:歌うたい

2 / 40
タイトルは鬼束ちひろさんの名曲よりお借りしました。
今回の内容はアニメ、アイドルマスターシンデレラガールズ本編の3話から7話までの時間軸のお話となっております。
シーンが飛び飛びになったりしてますので、あらかじめ原作を見直してから閲覧なさった方がいいかもです。


アンケート小説 中編『眩暈』

―――――――

―――――

―――

 

 

 

 

 

 

一言で済まされる杜撰さが素っ気ないのに、伸ばしている髪を掬われて、優しくキスをされたみたいに繊細な扱いを受けた。

そう野暮ったく感じるのは、大人に成り済ましたくて背伸びをする癖が付いてしまったからなのか、渋谷凛という薄愛な人間の生来の個性が変わってしまっている証なのか。

 

 

大人っぽいね、って思わず胸が擽ったくなる卯月の憧れの眼差し。

落ち着いてるよね、って挑戦的に肩を寄せて砕けた笑顔で寄り添う未央の信頼。

 

でもね、そういうつもりでも、案外上手くは行かないんだ。

 

どういう意味と問い掛けて来る二人に、さぁねと煙に撒いた胸の中で反芻する仄かな苦味は、手渡された進路調査の埋めれない空白を指でなぞって唇を噛んだ、あの時の物足りなさに似ている。

 

例えば、落ち着いているのが大人、理解力があるのが大人、相手を思い憚るのが大人というなら。

いつまで経っても、子供にしか居られないのかもしれない。

少なくとも、この人の隣では。

 

 

「――でさ、凄かったんだ、ホントに。曲が終わった後の真っ白な感じから、一気にお客さん達の声援で溢れてさ。最高だった。一方通行にも来て欲しかったよ」

 

 

「仕方ねェだろ、別件が先に入ってたンだしよ。まァ、仮に暇だったとしても、クソみてェに人が多いのが鬱陶しいから行かなかっただろォがな」

 

 

「人が多いのは仕方ないよ、『Happy Princess』のコンサートライブともなればね。実際、人だってとんでもなく多かったし。けど、スタッフさんとかの熱意も凄くて、何より城ヶ崎美嘉さんのパフォーマンスとか圧巻でさ……バックやらして貰ったのがホント夢みたいで、思い出したら今でも手が震えちゃったりするんだよね、ほら」

 

 

「……寒いからとかじゃねェの、春だってのにまだこンなに冷えてやがるしな。つゥか良い加減暖かくなりやがれってンだ、畜生が」

 

 

「ちょっと、茶化されるのは面白くないんだけど。それと、今度私が組む事になったユニットがCDデビューも兼ねて、ミニライブするっていう企画が進んでるんだ」

 

 

「ほォ……やけに早ェじゃねェか。クカカ、無様に転ンだりすンなよ?」

 

 

「無様にって、なんかそれを期待してる様な悪意を感じるんだけど。挑発するんなら、ちゃんと今度こそ見に来てよ」

 

 

オーブンに火を通したグラタンのチーズみたくポコポコと興奮の熱を沸き上がらせて、柄にもなく火照ってしまった身体には、肌寒いくらいの春に成り立ての風はとても丁度良い。

灰と黒と白、その仄暗い三ツ色しか纏えない事に機嫌を損ねた厚雲に涙を流させない為に、遠い宙から光を届ける薄い下弦の銀月。

息吹を巡らせるらしい月の形をそのまま象って貼って飾った様な薄い下唇は中々に代わり映えしないのに、たまに優しく微笑むから、目を離そうとする度に後ろ髪を引かれてしまいそうになる。

 

けれど、それだけが理由で、父親に対して、親友に対して、或いは恋人に対してそうする様に、自分の経験した事を少しでも共有して欲しいと矢継ぎ早に言葉を尽くしているんじゃない。

もっと幼稚で、もっと剥き出しで、極めて貴重で稀少な感情に急かされているんだろう。

 

 

だから、一方通行を前にした私は、子供にしかなれないんだと思う。

きっと、こんな姿をシンデレラプロジェクトのメンバーや、あの口数の足りない不器用なプロデューサーが見れば、吃驚してしまうんだろうな、と。

 

自分でもそう思えるんだから、そうなんだろう。

そんなモノ、なんだろう。

そういうモノ、なんだろうね。

 

 

 

「予定が空いたらな。空いてねェなら仕方ねェし、仕事が入る可能性もある、学校行事に重なったら先ず無理だなァ……あァ、試験勉強もしねェといけねェ、参ったぜ」

 

 

「ちょっと、事前に予防線張り過ぎ。いっそ普通に行くのが面倒って言われた方がまだマシじゃん。というか、試験勉強って……かの有名な川神学園の『知神』が何言ってんのさ」

 

 

「……オイ、そのだっせェフレーズを俺の前で二度と吐くな。つゥか何でオマエがその阿呆みてェな忌み名を知ってンだ、オラ」

 

 

「いや、あのね、アンタが思ってる以上に色んな意味で有名みたいなんだけど、一方通行の名前。まさかウチのクラスでも知ってる人が何人も居るレベルとは思わなかったけどさ」  

 

 

「……冗談だろ、クソ。しかもオマエンとこ確か女子校だった筈だろオイ。なンで其処まで広範囲に……やっぱあの脳筋馬鹿の所為か。いや、寧ろ英雄のド阿呆が要らン事振り撒いてンじゃ…………チッ、殺すか今度」

 

 

「物騒な事あんまり言わないで、なんかアンタが言うと冗談に聞こえない。でも、卯月と未央は知らないって言ってたから、逆に共学には伝わってないのかも。良かったじゃんか、女子校では注目の的みたいでさ」

 

 

「……流石はアイドル、ちやほやされてェ欲求は一丁前か。生憎、俺は顔も知らねェ相手に騒がれて喜ぶ真似なンざ出来ねェよ」

 

 

「随分厭らしい言い方するね。でもさ、それって知ってる相手になら騒がれても良いって事になるけど?」

 

 

「揚げ足取りも随分型に嵌まるじゃねェか、誰の影響なのかねェ」

 

 

「お陰様で」

 

 

「どォ致しまして」

 

 

紺碧に染められた河川敷に、生え揃った草花へと黒くのっぺりとしたクロスで磨く度に震えるギターの弦のノイズを翳せば、錯綜すら誤魔化して同調する葉擦れの音がそっと寄り添って、耳に優しい。

 

アイドルになると、そう告げたあの日から映る景色が更に鮮明に輝いてくれるのは、重石代わりに乗せられた白い麗人の『そォか』という単純な一言のお陰なのだろうか。

 

期待もせず、否定もせず、きっと彼を理解出来ない人ならば、冷たい人、そのレッテルを貼り付けて終わりそうな顛末だけど。

煌めくダンスホールで踊れても、灰被る煙突の暖炉で炭をつつく結果に終わっても。

どちらに転んでも、変わらない皮肉で受け止めてくれそうな気がする。

 

それは思い上がりに過ぎない空想かも知れないのに、無遠慮な押し付けにしかならないかも知れないのに。

変わらず先を見続ける事を他でもない『私自身』に誓わせる、結果の一つ。

 

 

「未央とかもさ、友達皆に声掛けたりしてるし、卯月だってそうしてる。私達……シンデレラプロジェクトの皆にとっての、最初の第一歩なんだ。だから、一方通行にも見に来て欲しいんだけど」

 

 

「……」

 

 

鉄弦の裏側をクロスで拭き取る神経質な白磁色の指先が、ピクリと悴んで、ネックの舞台をもう一度滑り落ちて行くわざとらしさ。

震えた弦が紡ぐ幽かな音色に、正直に請うた願いとは裏腹に俯かせた顔と落ち着かない鼓動を急かされる。

 

シンとした夜宵の静けさが痛くて、一方通行の居る側、右耳に嵌め込んだアイオライトのピアスを手慰みに触れてしまうのは、少し前からすっかり癖になってしまっていた。

 

 

「……確約は出来ねェが、まァ、考えといてやる。もし行けなくても文句垂れンなよ」

 

 

「っ……そこまで子供じゃないし、無理を言ってるのはこっちだって云うのは百も承知してる。けど……」

 

 

「けど、なンだよ?」

 

 

「……ん、いや。何だったら川神の人達、皆連れて来てくれてもいいよ」

 

 

「……ライブ所じゃなくなるビジョンしか見えねェが」

 

 

期待しても良いんだよね、という言葉が願望の押し付けになってしまうからと、塞き止める辺りが、多分、背伸びしていると云う所なんだろう。

飾らない言葉を積み立てれる卯月達みたいに、上手くは言えない中途半端さが、如何にもこういう事には臆病な私らしい。

彼が来なくても、しっかりとベストを尽くさなければと意気込む心の何処かで、それは予防線に張ってるだけだよと、冷徹に分析している自分がいる。

 

 

「CDデビューねェ。ユニット名とかもォ決まってンのか」

 

 

「うん。ニュージェネレーションって名前なんだけど」

 

 

「……なンつゥか、シンプルだな。オマエらが考えたのか、それ」

 

 

「違うよ、名付け親はウチのプロデューサーになるのかな。本当は私達が決める予定だったけど、上手く纏まらなくて。便宣上の名前が取り敢えず必要だからってプロデューサーが用意したのがその名前で、じゃあこれで行こうって事になったわけ」

 

 

「主体性ねェな、オイ。まァ、変に可愛いぶるよりは良いンじゃねェの」

 

 

「まぁ、私もコテコテな名前よりはこっちの方が良いし、ね…………ちなみにさ、『フライドチキン』と『プリンセスブルー』と『シューアイス』の中から名前を選ぶとしたら、どれが良いと思う?」

 

 

「ンだその微妙過ぎる選択肢は。つゥかそのプリンセスブルーっての、絶対オマエが考えたヤツだろ」

 

 

「ち、違うし。あくまで皆で考えて残った候補の一つだから。で、どれ選ぶの、さっさと答えてよ」

 

 

「そン中なら……シューアイス」

 

 

「……あっそ。残念だったね、その名前に決まらなくてさ」

 

 

「やっぱそのプリンセス云々はオマエが考えたヤツなンじゃねェか」

 

 

「……バカ、意地悪」

 

 

「クカカ」

 

 

 

ふとした拍子に耳飾りに触れる度、思い浮かべる感情論はいつも最終形に辿り着けなくて有耶無耶になる。

こうして並んで座る私とこの人の関係は一体何と喩えるのが相応しいのか。

それなりの年頃ならば、月並みで指紋だらけの自問自答に過ぎないんだろうけど。

 

赤の他人、単なる知り合い、近しい親戚。

きっと客観的に見れば、仲の良い兄妹か、恋人同士。

主観的に見れば、気心の知れた友人同士が関の山。

 

その距離が余りに近くて、息が苦しい。

 

この距離が余りに遠くて、空を見上げる。

 

 

 

「じゃあ、私達がミニライブをちゃんと成功させたらさ、今度こそバイクの後ろに乗せてよ」

 

 

「あァ? なンでそォなンだよ。つゥか俺にメリットねェし」

 

 

「アイドルに密着出来るという特典」

 

 

「デビューまだの癖に何言ってンだメスガキ」

 

 

「CD無料で贈呈するから」

 

 

「只の宣伝じゃねェかそれ」

 

 

「缶コーヒー、今度からもう一本多く持って来るから」

 

 

「自分で買うから良い」

 

 

「じゃあ、ウチの商品、サービスするから」

 

 

「……オマエンとこに寄る予定はねェよ」

 

 

「嘘だね。母の日もそろそろだし、欲しいんでしょ、カーネーション。梅子さんって人に贈るつもりなんじゃなかったの?」

 

 

「…………チッ、随分目敏くなったモンだな」

 

 

「お陰様で」

 

 

「どォ致しまして」

 

 

 

願いを叶えて欲しいと夢中になって追い掛けるには、星屑ばかりが煌めいていている夜は眩し過ぎる。

波紋を響かせて広がるばかりの心を急ぎ足で落ち着かせてばかりの私は、いつまでも大人になれない。

 

 

追い求める物が多ければ多い程、足は縺れてしまうのはどこかで分かっていた筈なのに。

結局は躓いてしまったのだ。

よりにもよって、この人の目の前で。

 

 

そういうつもりでも、案外上手くは行かないんだよ、やっぱりね。

 

 

 

 

 

 

 

――

―――

 

 

『眩暈』

 

 

―――

――

 

 

 

 

 

深海の底みたいに無音に感じる部屋の中で、微かな呼吸音と、酷く他人面した雨音が遠くで鳴っている。

どうしたいのかも分からない、灰色に煤ける気怠さを重荷に感じてしまって、制服から着替える事すら億劫で。

仰向けに身体を投げ出したまま、見上げる天井の天気照明は灯らない、灯せない。

色が消えてく。

光が負ける。

 

 

「……」

 

 

 

水と油を掻き回したって混ざり切らないのに、無理矢理にでも溶かしてしまおうとグチャグチャと乱されてしまうかの様に、考えが纏まらない。

悔しさと、苛立ちと、虚しさが巣食っては遠慮もなしにざわめいてばかりの胸元に、そっと手を当てる。

 

 

 

ニュージェネレーションとして、シンデレラプロジェクトのメンバーとしての、第一歩となるミニライブ。

私達が抱いていた華やかな理想と、当たり前な現実の違いを上手く収めきれなくて、すれ違って、縺れ合ってしまって。

リーダーである未央が、検討違いな責任感を背負ったらまま、アイドルを辞めると言ったあのコンサートから、もう5日が経とうとしていた。

 

 

「……」

 

 

 

ちゃんと待っている、もう一度、やり直そう。

お客さんだって笑顔だったし、足を止めて聞き入ってくれていたんだから、手応えはあったんだ。

お客さんの数だって私達次第だから、今度は私達の力であのバックダンサーの時の興奮を掴もうよ。

 

 

浮かんでは消えて、消えては浮かんで、を泡沫の様に繰り返しては、紡ぐ事も、綴る事も、今の私には出来ないだろうし、資格なんてない。

 

幾ら理想と現実が違うからといって、身勝手な事を言って逃げてしまっている未央に対する不満、ちゃんと真っ直ぐに向き合ってくれないプロデューサーへの八当たり染みた不信感。

私が夢中になって追い掛けようとしたモノは、こんなにも簡単な事で崩れてしまうのかという落胆、そして、そんな状況でありながらも塞ぎ込んでしまって、何も出来ない私のみっともなさ。

 

 

 

「……やだよ」

 

 

 

窓際の勉強机の上に重ねた、二枚のCDと、透明なガラスを根城に咲いた青色のエゾギクの花が、臆病になってしまってばかりの私を見飽きたのか、顔を逸らして曇天を仰いでいる。

慰め代わりに触れた右耳のピアスの酷く無機質に感じる程に温度がない癖に、あの日のデビューライブで胸に走った鋭い痛みにすらシンクロして。

 

 

コンサートをやり終えた際に、会場の二階、柱の陰、目立たない処からひっそりと見下ろしていた、あの人を見付けて。

約束通りに来てくれたんだと頬を綻ばせる間もなく、あの人の、一方通行の隣で彼ととても親しそうに話す、とんでもなく綺麗な女の人を、見留めてしまって。

 

 

頭の中が真っ白になってしまって、何かから逃げ出す様に舞台袖に引っ込んだ未央の後に続いた最中に、初めて気付いた。

知らない内に、流れてしまっていた涙に。

 

 

 

 

「……嫌だよ、こんなの」

 

 

神様なんて信じてないのに祈ってる。

誰かに助けを求めてばかりで、膝を畳んだままでは一歩も先に進めない。

流れ星に願い事を届けるだけの停滞を許されるなんて、そんな優しい世界じゃない事ぐらい分かってる筈なのに。

都合の良い展開ばかりを望んでいる。

 

 

勝手に期待して勝手に決め付けて、勝手に落ち込んで、勝手に泣いてしまった。

せめてこの蟠りだけは隠そうとしてみてはいるけれど、卯月や他のメンバーには、もしかしたら、気取られているのかもしれない。

 

 

「……なんで、こんなに痛いの……」

 

 

 

時が止まっていてくれたら、どれだけ助かるだろうか。

そうしたら、いつか、この傷みにも慣れるかも知れない。

この気持ちに、名前を付けてしまえるかも知れない。

 

雨が止めば、虹が架かる。

この傷みからも立ち直れる筈だ、いつかは。

だからそれまで、どうか、待って欲しい。

 

 

けれど、空を覆う雨雲はいつまで経っても厚く広がったままで。

 

虹どころか、星一つさえ探せそうにもない。

 

 

 

 

 

 

 

―――

――――

 

 

 

 

 

随分と張り切って演出に凝ってくれる物だと、鬱陶しそうに尖って天を睨む紅い瞳と、底冷えすら誘う愉快そうな口元は酷くちぐはぐで、釣り合いがとれていない。

重量制限されてる黒傘の隙間から立ち込めた暗雲を確かめて、不遜がちに鼻を鳴らす辺りは、何処か誰かの言う通り、シニカルという記号だけはとても釣り合っている。

 

 

不穏な空気を作るには如何にも相応しい曇り空に罪なんてモノは無いけれど、いつまでも演出過多なのは戴けない。

睨まれる覚えなんて無いと一層強く泣いてる曇天を、その気になれば今すぐに泣き止ませてやるとでも謂わんばかりに見据えている、不倶戴天な紅緋の眼差しは、悪気の無い雲の裏側すら見透してしまいそうで。

 

 

「……身の程を弁えねェバカに振り回される事ほど、やる気の削がれる事はねェな」

 

 

 

空を脅すのにも飽いたのか、気紛れな悪態を一つ零して、お姫様を迎えるには上々の城構えの346本社に設置された、インテリアチックな時計へと視線を映した彼の瞳は酷く気怠そうで、どこか投げ遣りな癖に、随分枠に填まる。

 

下手をすれば、自分が導こうとするべく奔走している誰よりも、遠大な階段の先に構えた城を潜るには相応しいのかも知れないと思える程の絵空事染みた白麗さに、知らず知らずの内に鉄面皮を貼り付けてばかりの大柄な体躯の男は、息を呑んでしまっていた。

 

 

だからだろう、その白貌が、誰に向けて言葉を紡いでいるのかに彼が気付けたのは、鮮烈な程に奥深い紅い瞳を此方に向けられてから数秒も置いた後だった。

 

 

「冴えねェ面引っ提げてンなァ、オッサン。はン、その目付き、アンタで間違いなさそォだ」

 

 

「……貴方は?」

 

 

「名乗る程の者でもねェよ。強いて言やァ、どっかのオマエのファンの世話焼きに振り回されてるバカって処か」

 

 

「……私の、ファン……?」

 

 

白貌の青年が主演を務める舞台の聴衆者に過ぎない筈の自分が、無理矢理に不釣り合いな舞台の上へと引き上げられてしまった。

 

 

余りにも脈絡も容赦もない寸評は失礼を通して、いっそ清々しい。

 

一から十まで説明するつもりでも無いらしく、揶揄染みた謎掛けを擲って煙に撒くつもりも無さそうな口振りではあるが、本題が見えて来ない。

自分が手掛けるプロジェクトのメンバーである島村卯月が体調を崩した為に見舞いへと出向こうとした矢先で、如何にも自分を待ち構えて居たという口振りのこの青年に、心当たりが見付からない。

 

 

「話を聞いてやれってよォ……アイドルなンざ専門外な俺に無理難題押し付けやがって、あの腐れアマが。相談役くれェ自分でやれってンだ」

 

 

「……あの、先程から話が見えて来ないのですが。貴方は一体どういう方なのですか? 私はこれから、所用がありまして――」

 

 

「そンな面で見舞いに行ってどォすンだよ、余計に悪化させてェのか」

 

 

「――――」

 

 

 

皮肉めいた口調と共に紡がれるテノールに、足の裏を縫い付けられたのかと錯覚してしまいそうだった。

どうして、自分の予定を知っているのか。

そもそも、この青年の目的を額面通りに受け取って良いのだろうか。

 

まるで把握出来ない状況に動揺を隠せない自分に同情する様に浅い溜め息を吐いた青年は、自分と比べれば優に細く女性的な肩からぶら下げていたハンドバッグから、二枚のCDを取り出して、そのまま乱雑に自分へと突き付ける。

乱暴に手渡されたのは、他でもない彼がプロデュースを務める『ニュージェネレーション』と『ラブライカ』のデビューシングルであり、一瞬、この青年は彼女達のファンなのかとも思いもしたが、どうやらそうでは無いらしい。

 

 

「……悪ィが、オマエのファンにはクソうぜェ事に借りがあンだよ、俺は。勝手な話だが、その返済に付き合わせて貰うぜ、プロデューサーさンよォ」

 

 

「……貴方は、私の事を知っているのですか?」

 

 

「殆ど知らねェし、興味もねェよ。オマエラの抱えてるシンデレラプロジェクトとやらも割とどォでも良いし、そンなに首を突っ込むつもりもねェ」

 

 

「…………なる、ほど。しかし、その、私のファンと名乗る方の意図は兎も角、我が社のプロジェクトに関わる内容を、おいそれと口外する訳には行かないのですが」

 

 

「クカカ、良いねェ、ちゃンと社会人やってンじゃン。だが、もう少し察してくれると俺としても話が早くて助かるンだがな」

 

 

「…………っ」

 

 

言外に察しが悪いのだと指摘されているのだろうが、見ず知らずの人間に指摘される謂れは無いと噛み付けるだけの気概は、今の彼にはない。

いや、正確には寡黙がちな普段の彼でもそんな事にはならないのだろうが、間の悪い事に、外見でこそ判りにくいが内面では深く意気消沈としている彼には、到底無理な事だ。

その察しの至らなさと、寡黙さで二人の少女を傷付けてしまったと自分を追い詰めている、今の彼には。

 

 

「部外者がなンでオマエの予定を知ってンのか。つまり、俺にその予定を告げたファンってのは誰なのか。考えてみれば、限られて来るだろォよ」

 

 

「私が席を空ける事を報告しているのは部長と千川さんだけですが…………貴方は、一体……」

 

 

「――さァな、そこは取るに足らねェ事だろォよ。まァ、兎も角、俺は俺でさっさと借りを返させて貰いてェンだが、どォするよ、プロデューサーさン」

 

 

絞り出した憶測を肯定する訳でもなく、否定する訳でもなく曖昧に濁す辺り、どうにも只者ではなさそうな青年にも、彼なりの事情があるのだろうか、と。

しかし、言葉通りにも、態度的にも、少なくともプロジェクトの内容について悪用するつもりは無そうではある。

特別信頼に値するという人間性を示された訳ではないというのに、恐らくは自分より一回りは年若い筈の彼の堂に入った立ち振舞いは、不遜を通り越して清々しくも思えるのは何故だろうか。

 

 

「……」

 

 

「無理にとは言わねェし、面識の無ェクソ生意気なガキ相手に話す事なンてねェって振ってくれても構わねェよ」

 

 

「…………」

 

 

「……勝手な言い分だが、早ェとこ決めてくれると助かる。どォすンだ」

 

 

「………………私、は……」

 

 

見ず知らずの人間相手に悩み相談など、普通ならば憚れるのだろう。

それも、ましてや企業のプロジェクト内容だ。

相手にそのつもりが無くとも、本来ならば忌諱すべき筈だし、彼の言う通りに打ち明けるには社会人としての立場もあるのだが。

 

 

けれど、このまま解決策も無いままに抱え続けて、男の抱えるプロジェクトのアイドル達の行く先を閉ざす事だけはしては行けない。

破れかぶれに過ぎないのかも知れないが、見知らぬ誰かに、自分が傷付けてしまった二人の少女への葛藤を話してしまえば、この臆病に凝り固まってしまっている錆びた車輪みたいな自分も、少しはマシになるかも知れない、と。

 

そして、何より。

青年の目的や意図も、彼の言う自分のファンというのもハッキリとせずあやふやなのに、わざわざこの雨の中、自分を待っていたらしいこの青年の言葉を無下にするのは、どうしてか、抵抗を感じてしまうのだ。

いや、どうしてか、という疑問など浮かべる必要はなかった。

 

 

「………………………」

 

 

「………………………」

 

 

春に差し掛かってもう幾分も経つが、雨時の気温はまだやや低めであるので、寒さを苦手とする人間には少々堪えるのだろう。

散々不遜不敵を演じていた筈の青年もどうやらその部類らしく、小刻みに揺れる撫で肩を見て、それを気取られまいとしながらも急かす様に足踏みをする彼の、妙な子供らしさが垣間見えて。

 

こういう時は、茶化せば良いのか、気付いてない振りをするべきなのか、分からない。

不器用に輪を掛けた様な気質の自分には上手い正解例が見付けられず、どうするべきかと、プロデューサーと呼ばれる男は痛んでもいない首をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

プロデューサーという役職に居ながらも、饒舌などとは程遠い面倒な堅い口からは、流暢とは言い難いが、珍しくもスルスルと言葉を吐き出す事が出来てしまったのは彼自身にとっても驚くべき事だろう。

 

 

プロジェクトの第一足、二足となる二つのユニットのデビューを飾る事となったミニライブでの顛末。

その内の一つであるニュージェネレーションのリーダーである本田未央の、遠すぎた理想と現実の違い。

客数の少なさにもどかしさを抱えた彼女を叱るでもなく諭すでもなく、ただ『こういうものだから仕方ない』のだと削ぎ落と過ぎた言葉を突き付けてしまった彼。

 

客が少なかったのは、自分がリーダーであるからの結果と捉えてしまった稚拙さと。

客が少なかったのは、新人なのだから当然だと上手く伝え切れなかった言葉足らず。

そして、事務所へと訪れない彼女を連れ戻そうと一人で背負込んで、けれど中途半端にしか踏み込めなくて、正論を突き付けるだけで、余計に彼女を追い詰めてしまったのだと。

 

そして、自分の臆病さが招いた逃避の言葉で傷付けてしまった、渋谷凛の事も。

未央の事を追及されて、見解の相違などという言葉で濁して。

 

 

『信じても良いって思ったのに』

 

 

彼女の口元から零れ落ちた、明らかな失望の声が営利な硝子の破片となって、胸に刺さった儘、癒えないでいた事も気付けば語ってしまっていた。

 

 

 

表情こそ変わらない鉄面皮を貼り付けながらも比較的すんなりと、時折、躊躇いを見せつつも話せたのは、346の直ぐ近くにある喫茶店で流れるクラシックのBGMのお蔭か、喉に流すコーヒーの苦味に促されてか。

いや、多分、そうじゃないのだろうと、黒鳶色の水面に映る目付きの悪い堅い顔を眺めながら、対面を見詰める。

 

相槌を打つでもなく、頷く事もなく、先を促す素振りすら見せないで、先程の飄々とした食わせ者然とした様相が嘘の様に、ただ静謐な彫刻へと成り下がっているからだろう。

 

普段は華々しくも騒がしい面々に囲まれているのもあれば、生来の口下手も災いして、聞き役に徹する事の多い男であるのだが、コーヒーを啜るか、時折プロデューサーを一瞥するくらいしか白い青年は先程からまともにアクションを取らないので、必然的に彼が話を進めなくてはならなくなる。

斯くして、思惑通りかはさて置いて、事のあらましの全てを聞き終えた青年こと一方通行は、細い指先で引っ掛けたコーヒーカップの中身を一気に飲み干して、漸く無骨な男へと視線を移して。

 

 

 

「聞かせろって連れ込んどいて言うのもあれだがな……オマエ、そりゃ口下手過ぎだろ。いや、つゥか、プロデュースするアイドルに対して引け腰過ぎンだろ幾ら何でも。一線引いて接するのは間違ってねェけど、せめてその線引き隠すくれェしろよ」

 

 

「……線引き、ですか」

 

 

「見え透いた予防線を張って、大人同士なら兎も角、ガキ相手にビビってどォやってプロデュースすンだ。良いか、クソガキってのは物分かりは悪い癖に、本音も向けて来ねェで濁したり距離作ったりされると必要以上に傷付いちまうクソ面倒な生き物なンだ、その道潜ってンなら、そンくらい分かってンだろ、オマエも」

 

 

「…………私、は」

 

 

「其処らにはオマエなりの事情が関わってンだろォが……ハッキリ言っとく。オマエ、そのスタンスは向いてねェし役不足だ。寧ろぶつかるぐれェが丁度良いだろォよ。それとも、まともに向き合う踏ん切りが付かねェってのか、あァ?」

 

 

「――――」

 

 

ぐうの音も出ない、とはこの事なのか。

多少なりとも呆れられはすると思っていたが、こうまでバッサリ斬られた上に、必要以上を語らず、必要以上に向き合わずに居る過去の爪痕ごと、掬い上げられるとは思っても見なくて。

 

かつて、愚直な程に相手にぶつかって、正しいと思う道を押し付けて、その結果、自分の元から離れていった何人かのアイドル達の懐かしい面影が泡沫の様に浮かんでは消えていく。

いつしか、自分が導くべき者達へと踏み込む事を恐れては、伝えなくてはいけない本心を隠して、彼の云う通りに、線を引いてしまっていたのだろう。

ただ、シンデレラを華々しく絢爛な城へと送り届けるだけの、物言わぬ車輪として、無機質に動いていただけだ。

 

 

 

「……どうして、私が、彼女達と向き合うのを恐れていると思ったですか? 私は、其れほどまでに分かり易い人間なのでしょうか」

 

 

「……はン、他は兎も角、俺なら嫌でも分かっちまうンだよ、クソッタレ。だからあの女狐が俺とオマエを引き合わせたンだろォよ、クソ忌々しいぜ」

 

 

「……それは、私のファン、という方ですか。しかし、では何故その方は私と貴方を……」

 

 

「……少し似てンだよ、昔の俺と、オマエは。ロクデナシっぷりは俺のが桁違いに酷ェがな」

 

 

「………………」

 

 

――人を恐れて、周り全てに事あるごとに線引きして、本音を隠して逃げ回る辺りが、とまでは一方通行は口にしない。

そこまでに重症そうではないし、偉そうな口を叩ける大層な過去を持っている訳でもない。

 

猩々緋の眼差しが届けるのは、最低限の懐旧と、皮肉な口振りと、少しばかりの静寂。

 

そして、僅かばかりの後押しだけで充分だ、と。

半月を模した薄い唇が、気取られない程度の弧を描いた。

 

 

「最後に『臆病者としての大先輩』から、実に下らねェアドバイスをくれてやる」

 

 

「……」

 

 

「まともに向き合えもしねェヤツがシンデレラを導ける訳ねェだろ。傷付けンのが恐いとか抜かす陰気な幻想はぶち殺しちまえよ」

 

 

「…………っ」

 

 

「小っせェ自分だけの現実に引き篭るぐれェなら、さっさと甘ったれたクソガキのケツを叩いて来い」

 

 

「…………はい!」

 

 

 

 

漸く、踏み込む決心が付いたのか、それとも、元々燻っていただけの心に火を点けてしまったのかは定かではないけれど。

発破を掛ければすんなりと動き始める辺り、そもそも自分の出る幕では無かったのではないだろうかと苦笑を零す。

 

 

機敏な動きで財布から千円札を取り出して一方通行の手元に置いて、綺麗に一礼し、傘だけを置いたまま弾かれる様に喫茶店を飛び出して行った男を呆れながらも見届けて。

 

柄にもない、割に合わない配役を押し付けられて、どこかの誰かの望む通りに演じ切らされた事に対して、苛立ちを隠そうともしない仏頂面を浮かべながら、気怠そうな伸びを一つ。

そのままのだらしない体勢で羽織っていたコートのポケットから取り出した携帯電話を弄くって、あの不器用極まりないプロデューサーのファンとやらに、簡易なメールを送って、席を立った。

 

 

「……偉そォな口を叩くよォになったモンだ」

 

 

彼が残していった千円札と黒傘を拾い上げながら、どこか自嘲的に唇を震わせる白貌の者が貼り付けた感情は、インテリアの彩飾が目に優しい喫茶店の窓から伝う雨滴みたいに千切れ千切れて、形を損なった水溜まりの底の様に広く浅く、やがて渇いていくのだろう。

 

図体だけはがっしりとしながらも随分と繊細な心を持ったプロデューサーとの邂逅は、時間にすれば半刻にも満たない。

けれど、どっしりと腰を据えるかに思えた雨雲は少し薄くなっていて、夕方を過ぎる頃には雨足も遠退いてくれそうだ、と。

 

 

「……ガキだな、どいつもこいつも」

 

 

 

自分を含めて、と続きは敢えて音にしない辺りが、いかにも幼稚染みている自覚はある。

 

しかし、彼もまた、尻を叩いてやらねばならない甘ったれた子供を待たせているのだ、いつまでも喫茶店で優雅な一時を過ごすだなんて柄にもない真似に浸る性分でもない。

 

 

白磁の長い睫毛をシパシパと瞬せながら、ハンドバックから財布を取り出す青年の尻尾髪が、やれやれと肩を宥める様に右へ左へと波打った。

琥珀色の鈍い溜め息を、そっと置き去りにして。

 

 

 

 

 

――

――――

――――――――

 

 

 

次第にフェードを弱めていった雨の足音に怯えて、腕の中で抱き潰していたクッションが悲鳴を軋ませる度に、晒していた素足が縮こまって肌を触れ合わせて熱を生んだ。

 

私の渇いた地面を打つ雨を無謀に数えて、どれだけの時間が経ったのだろう。

 

私を振り切ろうとする私に気付きたくない。

暗がりに逃げ込んだ視界に射し込む薄明の月白のラインがあの人の細い指先に重なって、瞳を閉ざしているのに、眩暈を呼び込んで。

吐息を重ねた数だけ明光を失って夜へと加速していく部屋の、窓の外を眺める気にはなれない。

望む輪郭を辿るだけの今日を追いかけている数日が、借り物の歌詞ばかりを拾い集めて作った詩の様に色褪せて、失いたくない本質さえも剥がれていく。

 

けれど、もう聞こえない雨の音を心音で作り出しながら、ベッドの上で仰向けに転がっていただけの幼稚な私の卑屈を遮る、どこか躊躇いがちなノックの音が鼓膜に届いて。

誰だろう、と限られた選択肢を思巡する事もしない無気力さを引き摺ったまま鈍く身体を起こした私を迎えたのは、少し困惑した様な母の顔だった。

 

 

「……凛、ちょっと……いい?」

 

 

「……どうしたの?」

 

 

ここ数日、暗い表情ばかり浮かべていた私の所為で、暖かな笑みに少し陰を差し込ませてしまった母は、どこか遠慮がちに此方を窺っている。

でも、仄かに届く花の香りと共に見えた、少し朱を添えた頬は珍しく興奮を冷めきれない様子を感じ取れるのは、何故なんだろう。

 

頻りに部屋の外、というよりは下の階の店内をチラチラと一瞥している妙な落ち着きの無さは、穏やかでのんびり屋な母にしては珍しい。

 

 

「今、前に一度来られたお客様が居らしててね、その……凛に花のサービスを予約していたらしいんだけど。ちょっと私には良く分からなかったから、呼びに来たんだけど」

 

 

「……予約? え、何の?」

 

 

「カーネーション。それにしても、あんな美形と知り合いだったなんて、隅に置けない娘ねぇ。お母さん聞いてないわよ」

 

 

「……まさか」

 

 

 

 

予約。サービス。カーネーション。美形。

 

母の口から紡がれた符合と合致する人物なんて、一人しか居ない。

慌てて手元に手繰り寄せた携帯電話を確認すれば、ディスプレイに浮かび上がったデジタル表記の日数が示すのは、『母の日』という紛れもない証左。

思い浮かべるのは、自分達のデビューライブを見に来て欲しいと打ち明けた夜に交わした、頼りない口約束。

 

 

どうしよう、多分、間違いなく彼が……一方通行が来ている。

どんな顔して会えば良い、ちゃんと笑えるだろうか、気取られないように接する事が出来るだろうか、無理だ、絶対気付く、あの人は。

 

デビューライブに来てくれるという約束もちゃんと果たしてくれたけれど、それなら彼の隣にいる女の人の存在に心を掻き乱されて茫然としていた私の姿を見ている筈だ。

唯でさえ未央やプロデューサーとの蟠りを抱えて余裕のない私が、一方通行を前にして何も語らずに居られるのか、そんな自信なんて欠片もない。

 

 

どうしよう、どうしよう。

グルグルと乱れては定まらない思考を大した成果もなく繰り返しては俯く私を、けれど母はそのままそっとしておいてはくれなくて。

 

 

 

「取り敢えず、着替えてらっしゃい。あと、寝癖付いてるから、櫛も通しときなさいね。その間、ちゃんとお母さんが接客しておいてあげるからっ」

 

 

「……ねぇ、何か……楽しんでない?」

 

 

「気の所為よ、気の所為。ほら、さっさと動く。あんまり遅いと、この部屋にあのお客様通しちゃおうかしら?」

 

 

「わ、分かったから、着替えるから……それだけは絶対に止めて。あと、変な事聞いたりしちゃ駄目だからね!?」

 

 

「はいはい」

 

 

 

 

何か絶対良くない勘繰りをしている事は想像するに難くない意味深な笑みを満開に咲かせながら閉めた扉越しに聞こえる、母の機嫌良さそうな足音に急かされて、慌ててクローゼットを開いて。

スカートのホックを下ろして、萌葱色の下地に青のストライプが挿す学校指定のネクタイを解いて、大急ぎでブレーザーを脱いで、と、滅茶苦茶な順番で着替えていく。

 

 

どんな顔をして会えば良いだとか、そんな事を気にしている暇なんてない。

日頃から、浮いた話一つない私にわざとらしい溜め息を吐いては余計な世話を焼きたがる母の横顔が、今にも下で待っている一方通行に根堀葉堀あれこれと質問責めでもしてそうな悪戯めいた笑顔に脳裏で変わって。

 

そんな顛末を迎えれば、私の一方的な蟠りの所為で、唯でさえ顔を合わせ辛くなっているのに、最早合わせる顔なんて無くなってしまうだろう。

それだけは避けたい、そこまで割り切れる相手じゃないし、こんな幕引きで終わらせて良い関係なんかじゃない。

少なくとも、私にとっては。

 

 

「……ぅぁ、寝癖……」

 

 

脱ぎ捨てたカッターシャツの布擦れ音で一拍置いて、こんなにも急かされて着替えた試しなんてないからか、クローゼットに取り付けてある等身大の鏡に映された自分の姿が、酷くみっともなく思える。

単調な白の上下の下着姿に、不満顔と半開きの目と、コームで巻いた訳でもないのに不自然に波打った寝癖髪は、とても誰かに、ましてや一方通行に見せられるモノじゃない。

 

揶揄われるし、弄られるのはまず間違いないけれど、仮にも女の子としての自覚はあるし、その、多少なりとも意識してる相手にこんな姿見られるなんて死んでも御免だ。

 

髪を梳かせという母の忠告通りに櫛を通さなくてはならないが、素直に有り難みを感じるには些か釈然としない。

 

 

「……はぁ」

 

 

ジーンズを履き終えて、長袖のインナーに袖を通しながら、数分前までセンチメンタルに浸っていた筈なのに、こうやって年甲斐もなく焦っている私は、我ながら酷く節操のない人間に思える。

一刻も早く着替えて彼を出迎えなくては、母に何を吹き込まれるか分かったもんじゃないからと、急かされている理由はきっと、それだけじゃない。

 

 

合わせる顔がないと心中で散々足踏みしておいて、いざ彼が直ぐ傍に居ると知れば、この有り様。

鏡に映る私の顔は、熱病に浮かされているみたいにすっかり朱に染まっていて、深いマリンブルーのインナーには都合の良いコントラストを演出しているのだから、救えない。

調子の良い、思い通りにならない心音を嫌でも示されて、途方もない倦怠感から背中を押された無情な溜め息が、やけに安っぽく部屋に響いた。

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

黄金色に晒された泥混じりの砂の粒がキラキラとオレンジ色に輝いて、雨上がりの夕暮れに星屑を散りばめている、男の子の小さな手。

遠き日をなぞる魔法使いは無垢な儘に指先を杖にして、雨で膨らんだ砂を蹴る音と共に、甲高い笑い声を高い空に溶かしている。

 

あれくらいの、幼少の頃の私は、泥塗れになるのも御構いなしに公園の砂場ではしゃぐ男の子の様に、無邪気で居たのだろうか。

いや、澄ました顔で一人静かに本とか読んでいた気がする。

周りと比べて早熟だと言われていた私は、どこか気取ったように大人ぶって、冷めた視線で遊び回る男の子達を見ていたのかも知れない。

もう随分遠い昔だから、あんまり覚えてないし、無理に思い出したいとは思えない程、味気無い記憶だ。

 

 

それなら今の私は、あの頃から少しは大人になれたのだろうか。

背は伸びて、髪も伸ばして、身体付きは少しは女の子らしくはなったし、顔も、街中で男の人から声を掛けられるくらいには、成長した。

けれど、多分、あの頃から内面は殆ど育まれる事もなくて、反抗期は通り過ぎたけれどその証は耳に残した儘な私は、そんなに変われてはいないんだと思う。

 

 

しがらみばかりを消化出来ずに、簡単に立ち止まっては膝を抱えてばかりの私は、手の掛かる子供に過ぎないんだろう。

遠巻きに見える、母親に叱られて肩を落としながらも水道で泥を洗って、仲良く手を繋ぎながら公園を後にしたあの男の子と、きっと、そんなに変わらないくらいに。

 

 

「……私って、一方通行から見て、そんなに手の掛かる子供みたいかな」

 

 

手も繋がない、叱られる事もない、いつものギター演奏も、伴奏もない。

細く骨張った指先で、古ぼけた木製のベンチに腰掛けて組んだ膝の上に乗せた、ラッピングされてるカーネーションの一輪を弄ぶ右側は、星が浮かんでない空の下では、独奏を促す聞き手にしかなってくれなくて。

 

ぽつりぽつりと、止み時に気付けなかった一縷の雨滴を落とす悠長さで、私は胸に巣食う蟠りを、少しずつ、歩く様な速さで一方通行へと吐き出した。

あのデビューライブでの事と、それからの衝突と、どうしたいのかも見定めれずに塞ぎ込んでしまっている事。

 

 

――彼の隣に居た女の人の事は、言わなかったけれど。

 

 

 

 

「馬鹿正直にそォ聞く辺り、自覚はあンのか」

 

 

「……さぁ、分かんない。けどさ、子供より質が悪いかもね、今の私。変に挫折して、曲解して……プロデューサーとか、未央とか、卯月とか……色んな人から向き合わないで逃げてばっかで……」

 

 

「…………」

 

 

「格好悪いね、私……アイドルになるってアンタに言っといて、こんなに簡単に挫けて……」

 

 

情けなくて、泣いてしまいそうだ。

クヨクヨ悩んでいるぐらいなら、もう一度プロデューサーにぶつかって行けば良いのに。

アイドルを続けたいなら、未央を意地でも連れ戻そうと奔走すれば良いのに。

切っ掛けばかりを探して、動かない脚を動かせないまま、鈍い本音を隠しては怯えてる。

 

 

『信じても良いって思ったのに』

 

 

自分勝手な言い草で、きっと私以上に錯綜していた筈のプロデューサーを無遠慮に突き放して。

夢中になれたあの時間を嘘にだけはしたくないと、都合の良い奇跡ばかりを祈ってる。

 

雨雲を払った赤橙のグラデーションが眩しくて、一方通行が何故か持っていた二本の黒傘の内一つの、取手の部分を手持ち無沙汰に撫で付けながら、顔を俯かせている私は、本当に子供だ。

 

 

「格好悪くて何か問題あンのか」

 

 

「……あるよ。嫌じゃん、そんなの」

 

 

「下らねェ事でウダウダ悩むのはガキの特権だろ。迷って悪ィのか、挫折したら悪ィのか。オマエの見て来た同輩の――例えば、城ヶ崎センパイとやらが、順風満帆に進ンで来たとでも言いてェのか?」

 

 

「…………」

 

 

「ンな訳ねェだろ。ガキがガキらしく挫折迎えて、それの何が悪ィンだよ。所詮、駆け出したばかりのクソガキが不様に転ンで喚いてるだけに過ぎねェ。指差して笑うのも馬鹿馬鹿しいだろ」

 

 

「……そう、かもね。本当はね、アイドルなんて止めたくないんだ。また皆で頑張ってさ、ダンスの練習したり歌のレッスンしたり、ユニットの名前を決めるのに四苦八苦して……でも」

 

 

熱に浮かされた様な勢いで、紛れもない本心から紡いだ言葉を区切って、俯かせていた顔を上げて、気付けば私と一方通行しか居ない夕霧に焼かれた公園を、見渡してみる。

 

あの日、アイドルになってみようと考える切っ掛けを与えてくれた、卯月の笑顔が咲いていた、この場所で。

色とりどりの美しい宝石なんかよりも綺麗だと思えた、あの娘の様に、私はちゃんと笑えるんだろうか、楽しめるんだろうか、夢中に、なれるんだろうか。

 

その自信が沸き上がって来ない理由なんて、分かってる。

プロデューサーや未央を、私の幼稚な嫉妬心の言い訳にしてしまっていると、自覚しているからだ。

 

 

執着、してるんだ、隣のこの人に、痛いくらいに。

嫉妬してしまった、一方通行の隣に立っていた、綺麗な大人の女の人に。

鮮やかな金色のブロンドと澄んだブルーの瞳を持った、私なんかよりも全然、大人で、綺麗で。

『子供』みたいに嫉妬して、それを打ち明ける事も出来ずに塞ぎ込んでいるだけの情けない私よりも、ずっと、一方通行の隣立つ事が相応しい、そう認めてしまったから。

 

そんな自分の醜い姿に失望してばかりで、前に進めない。

脚が、動いてくれない。

 

 

――貴方が好き、そう言える勇気も持てない癖に。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

住宅街の喧騒も、夕暮れを侵していく夜の葵に子守唄を紡がれたのか、静謐に包まれている。

寒くもないのに悴む掌が黒傘の取手を頼りなく握り締めているのは、気を抜けば今にも雨が降り出してしまいそうな目蓋を、精一杯で繋ぎ止める痩せ我慢なのかも知れない。

 

私を振り切ろうとする私に、気付きたくない。

諦めようとする私を、認めたくない。

 

 

 

 

「――凜」

 

 

「……ぇ」

 

 

けれど、ふと私の名前を呼ばれて。

多分、初めてちゃんと彼の口から紡がれた、私の音に振り向けば、真っ直ぐと私を見詰める紅い月が、いつもの様に浮かんでいて。

呆気に取られる間もなく、伸ばされた白い掌が、私の頭を優しく撫でた。

 

 

「ライブの感想、言ってなかったな。まァ、最後は棒立ちはダメダメだったが、それ以外は良かったぜ、割と」

 

 

「――――」

 

 

「そォ、そのアホ面さえ無ければ合格だったンだがな。仮にもこの俺が毎週伴奏してやってたってのに、つまンねェミスしやがって」

 

 

「……ぅ、ぁ……」

 

 

「『次』の日曜は罰としてアカペラで一曲歌え。御得意のダンスもご披露してもらおォか?」

 

 

あぁ、やっぱり、意地が悪いな、この人。

いつもいつも突き放す様に皮肉屋な癖に、レッスンで失敗した時とかも何だかんだで優しかったりするけど。

 

こういう時に優しくされたら、溺れてしまいそうになる。

想いを手放す事なんて出来なくなる。

 

 

そんな『不馴れ』な手付きで撫でないで欲しい。

折角我慢してるのに、涙が出そうになるから。

なんでこんなに不器用な励ましで、簡単にその気になっちゃうのか、分からない。

 

諦められないじゃん、もう。

あの女の人に、負けたくないって、そう思ってしまうから。

 

 

 

「――ば、か……アイドルだよ、私……お金、取るよ……」

 

 

「はン、頭っからケツまでしっかり演りきってから言えやクソガキ。次、あンな不様晒しやがったら指差して笑ってやるよ」

 

 

「……逆に、貴重な所を見れたって思ってよ。もう、金輪際、あんな失敗しないから。それに、格好悪くても問題ないって言ったの、アンタだよね」

 

 

「クカカ、吹いたじゃねェか。まァ、問題はねェが、ダッセェ事には変わりねェよ。なンだ、そういうキャラで売ってくつもりか? オマエンとこのプロデューサーに同情するぜ」

 

 

「同情するならCD買って、私達に貢献して欲しいんだけど」

 

 

「厚かましい事抜かすンじゃねェよ。誰の影響なンだろォな、全く」

 

 

「お陰様で」

 

 

「どォ致しまして」

 

 

代わり映えのない憎まれ口に、乱雑な皮肉が灯火を連ねて胸の内に広がっては、揺れていく。

撫でてくれていた掌の淡い感触が麻酔の様に広がって、彼の残り火に晒された顔は、鏡を見るまでもなく朱色を差し込んでしまっているだろう。

顔が赤いのは夕焼けの所為だなんて、洒落た誤魔化しなんて今更過ぎて言えない。

 

 

「……ねぇ、一方通行」

 

 

「なンだ」

 

 

「……星が綺麗だね」

 

 

「……」

 

 

 

 

黄昏の中に瑠璃色を滲ませる、生まれたての夜に浮かぶ星屑はとても小さい。

けれど、眩暈がするくらいに綺麗で。

それが少し、惜しいな、とも思う。

 

 

 

星屑が綺麗な夜は、月がいつも大人しい。

 

 

 

シニカルで鋭利な笑みが似合う気紛れ者と見上げる夜は、不思議といつも、星だけが瞬いていて、月明かりが少し寂しい。

 

 

――月が綺麗ですね。

 

 

そう言えない夜ばかりなのが、いかにも私らしいけれど。

 

 

 

「ねぇ、一方通行」

 

 

「なンだよ」

 

 

「私さ、負けるつもりはないから」

 

 

「……はァ?誰と闘ってンだよ、オマエ」

 

 

「ライブの時、一方通行の隣に居た女の人」

 

 

 

これは、宣戦布告みたいなモノ。

というより、最早告白にも近いのかも知れない。

けれど、それならそれで良いとも思える。

どちらにせよ、もう諦めるなんて私には出来そうにもない。

まだ、あの女の人とはスタイルも雰囲気も立ち位置も負けてばかりだけど、これから実績を積み重ねて強くなっていけば良い。

それに、これでも負けず嫌いだから、私。

 

 

「……………………そォいう事か」

 

 

「……う、うん」

 

 

妙に腑に落ちたというか、納得したというか。

長い沈黙の後にポツリと零して、頭痛を感じた様に眉を潜めて額に手を当てる一方通行の仕草に、諦めないと意気込んでいた癖に、早くも萎縮してしまいそうになる。

 

だって、これ、横恋慕するって言ってるようなモノだし。

ましてやアイドルと宣っている身分の人間が発言して良い内容なんかじゃないというのは、流石に分かってるけど。

 

しかし、何だろう、何か違和感を感じてしまう。

何か、ボタンを掛け違えているかの様な、そんな変な空気というか、雰囲気というか。

 

 

 

どうしたんだろうと思って、口を開こうとするが、それは耳にすっかり馴染んだ私のアダ名を叫ぶソプラノに遮られて叶わなかった。

 

 

 

「――しぶりん!!」

 

 

「……み、未央……それに、プロデューサーまで……」

 

 

「……はン、手回しの良い事で」

 

 

 

鋭く尖ったナイフで黄昏時の静謐を切り裂いた未央の声に弾かれる様に顔を向ければ、ダンスレッスンの時みたいに汗だくになって肩で息をしながら公園の入り口に立っている未央とプロデューサーの姿。

どうして此処にと呆気に取られる私とは違って、動揺する素振りなんて欠片も見せず、寧ろ彼らが此処に来たのは当たり前の事だと泰然とした様子の右側に、思わず瞠目する。

 

もしかして、未央達を呼んだのは一方通行なのだろうか。

でも、二人と面識なんてない筈だし、私と一緒に居た時からずっと、どこかに連絡を取っていた時間もなかった筈だ。

 

けれど、そんな私の憶測とは裏腹に、彼に良く似合ったカラカラとしたシニカルな笑い声を響かせながらベンチを立つ一方通行を見て、プロデューサーは明らかに狼狽していながらも、ペコリと一礼して、未央を伴って此方へと向かって来る。

 

 

「よォ、遅かったじゃねェかよ、オッサン。しっかりケツは叩いてやったのか?」

 

 

「……いえ、私に出来る事は彼女達と向き合って一緒に進んでいく事だけですので。それに、貴方の様に上手く叱咤を出来そうにはありませんから」

 

 

「……そォかい。で、此処に来たと」

 

 

「……えぇ、部長から連絡が入りまして、貴方の言う『私のファン』を名乗る方から、渋谷さんがこの場所に居るという情報を戴いた、と。まさか貴方まで居らっしゃるとは思いませんでしたが」

 

 

「フン……良い面になったモンだ、上等だぜオマエ。なら、後は任せる。そろそろ俺も帰って飯作らねェと、口の減らねェ軍犬に噛み付かれちまうからなァ」

 

 

「ちょ、ちょっと待って、一方通行!その、良く分かんないんだけど、色々と。いつの間にプロデューサーと知り合ってたの?」

 

 

「…………あァ、説明が面倒臭ェ。オッサン、オマエが説明しといてやれ。それと、ソイツが持ってる傘、オマエが忘れてたヤツな」

 

 

「……あぁ、これはどうも」

 

 

「いや、どうもじゃなくてさ……」

 

 

何というか、状況に全く付いていけない。

口振りから察するに一方通行とプロデューサーは知り合いみたいだけど、というか傘を忘れた云々のやり取りからしてつい最近会ってたみたいだけど。

 

じゃあ、この状況は一方通行によって導かれたって事なのだろうか。

いや、でもプロデューサーと未央が此処に居るのは、プロデューサー曰くプロデューサーのファンって名乗る人によるモノらしい。

けど、それなら一方通行の言う『プロデューサーのファン』ってどういう意味なんだろう。

 

状況が掴めなくて、頭が付いていかない。

それはどうやら私だけじゃなく、息を切らしながらもひたすらに困惑顔を浮かべている未央も同じらしい。

 

 

「……まァ、二つだけ説明しといてやるよ、クソガキ。オマエが見たっていうクソアマと、このオッサンのファンって名乗ってるバカは同一人物だ。オマエが勘違いしてるみてェだから補足しとくが、俺とあのバカはそォいう関係じゃねェ、ただの腐れ縁だ」

 

 

「……え」

 

 

あの綺麗な女の人と、プロデューサーのファンが、一緒?

というか、あの人、一方通行の恋人じゃないの?

じゃあ、さっきの宣戦布告は……自爆?

 

ガラガラと、何かが音を立てて崩れてしまいそうになる。

というか、もしかして私、とんでもなく恥ずかしい事してしまったんじゃないか、と。

それも、プロデューサーに八つ当たりみたいに突き放しておいて、その結果がコレ。

 

どうしよう、死にたい。

本気で心が折れそう。

 

 

そして、色んな意味で噴火してしまいそうに茹で上がった私の頭を気遣ってくれるほど、一方通行が優しさを見せる訳もなく。

寧ろ若干嗜虐的で蟲惑的な光を紅い瞳に灯らせて、蔑む様な笑みを浮かべるのは、流石としか言い様がない。

 

 

 

「ンで、もう一つ。これはあのクソアマから口止めされてたンだが、散々引っ張り回された仕返しも兼ねて、ソイツの肩書きを教えといてやるよ、オッサン」

 

 

「……肩、書き……あの、まさか……」

 

 

「ハッ、今度は察しが良いじゃねェかよ、プロデューサー殿。道楽気取って掻き回してくれたクソアマはなァ――」

 

 

それは、言ってしまえば仕掛けられたトリックの謎解きパートの様なモノなのかも知れないけれど。

こんな結末は、幾らなんでもあんまりだろう。

 

色んな意味で、私はその『クソアマ』さんとは仲良く出来そうにない。

 

 

 

 

――霧夜エリカ、346常務代理。

 

 

 

――オマエらの会社の上司サマなンだよ。

 

 

 

 

宣告された内容の無情さを物語る、プロデューサーのぐったりと煤けた背中が、とてももどかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

.


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。