艦これ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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暗い話です

ハッピーエンドではないです。

嫌な人は見ないでね。しゅえさんに責任はとれないから。


村雨に依存しきった夕立が遺されたら

いつも使っている砲の調子が良くないからと、出撃をお休みして執務室で提督さんのお手伝いをしていたとき。

 

突然何かが、私の中から抜け落ちてしまったように感じた。

 

怖い。怖い。怖い。

 

今までに感じたことのない感覚。

 

今までずっとあったものが消えてしまった。

 

体に力が入らなくなって、そのまま床に崩れ落ちる。

 

視界がどんどん暗くなっていく。

 

提督さんが心配してくれているのがわかる。

 

自分の体が震えているのがわかった。

 

ぷしゅ、とふとももの間から生暖かい液体がふきだす。

 

床にできた水たまりに涙がボロボロ降り注いだ。

 

口から出ている音はちゃんと言葉になっているのだろうか。

 

私の状態を気にせずに、提督さんが抱きしめてくれる。

 

優しいな。でも、

 

意識がぶつんと途切れた。

 

 

 

 

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目を開く。

 

周りを見回してみた。

 

自分の部屋だ。

 

提督さんが運んでくれたんだろうか。

 

ゆっくりと体を起こしてみる。

 

下半身の不快感がないなと思って手を伸ばしてみるといつも着ているパジャマに着替えさせられていた。

 

身体も洗ってくれたのだろうか、鼻を動かしても匂いは感じない。

 

洗ってくれたのは提督さんじゃなかったらいいな。

 

まだ明るいけれど一体どれだけ寝ていたのだろうか。

 

ドアノブが回る音が聞こえる。

 

その音を聞いてとても嬉しくなった。

 

なくなってしまったものが戻ってきたかと勘違いしてしまう。

 

誰かが帰ってくるのをずっと待っていたから。

 

誰を?

 

ギリギリと心臓が締め付けられる

 

私の、大切な人。

 

隣にいた人。

 

胸の中がぐしゃぐしゃにかき回される。

 

苦悶の声が漏れ出た。

 

扉から入ってきた提督さんが慌てて駆け寄ってきてくれた。

 

 

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意識はすぐに戻っていたようだった。

 

寝ていた時間は1時間と少し。

 

村雨が、沈んだそうだ。

 

無線で連絡があったらしい。

 

撤退中に時雨をかばって、ドカンと。

 

こういう仕事をしているのだから、覚悟はしていた。

 

できていたつもりだった。

 

私の中の、村雨が占める割合はどうも思っていたより大きかったようで。

 

村雨がいない世界は想像できなかった。

 

世界から色が抜け落ちたように感じる。

 

今朝も村雨が水をやっていた、窓際の鉢の赤い花。

 

窓にかかった、村雨の髪型を真似たクリーム色のカーテン。

 

なんだかふわふわ浮いているようだ。

 

耳元で村雨の声が急げと言っているのは幻聴だろうか。

 

 

 

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撤退している艦隊のお迎えに行っていいかと提督さんに聞いた。

 

随分とダメと言われたけど。

 

頼み込んだら許してくれた。もしかしたら殺気が漏れていたのかもしれない。悪いことしたかも。

 

ベッドから起き上がってそのまま着替え出すと提督さんは慌てて部屋から出て行った。見たいならいてくれてもよかったのだけど。

 

いつもの制服に袖を通す。

 

髪飾りをつけて、リボンを結んで。

 

村雨が使っていたドレッサーの引き出しの中から、村雨が髪をまとめるのに使っていたのと同じ黒いリボンを取り出す。

 

同じ位置でまとめてみた。

 

いいかんじ。

 

へやのドアを開けて、そのまま閉めずに明石さんの所まで走っていく。

 

工廠の扉を開けると、こちらを振り向いた明石さんが私を見て怯えていた。

 

気にしている時間が惜しかったので無視して、村雨の艤装の予備のパーツの中から長い鎖がついた錨を貰って、自分の艤装に吊るした。白い布はむしって床に投げ捨てた。

 

明石さんの方を振り向くと、補給はできてますから、と連装高角砲を渡してくれた。

 

ふとももに酸素魚雷を着けて、そのまま艤装を背負う。

 

「村雨、夕立のいいとこ、見せたげるからね」

 

 

 

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鎮守府を出て少し。鎮守府正面海域と呼ばれる場所。

 

小さいのがいつもよりいっぱいいる気がした。

 

かまっている暇はないのに。

 

正面から来たやつに一発。

 

死角に回り込もうとしたのは加速して無視。

 

針路を塞ぐように近づいて来たのには左手の錨を投げてみる。

 

特殊な金属の塊は、そのまま敵の命を刈り取る。

 

「いい感じいい感じ」

 

予想していた以上に、砲も錨も馴染む。

 

 

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いた。

 

白露と時雨と春雨と海風と江風と、沢山の敵。

 

艦隊を囲っている敵の、1番薄い所に突っ込む。

 

手足はいつもより素早く動いてくれる。

 

頭は冴え渡っていた。

 

ひとつ、ふたつ、みっつ、

 

驚いているみんなの声を無視してよん、ご、ろく、なな、

 

どれだけ沈めても羽虫のようにわいてくる。

 

だが、所詮は雑魚だ。村雨を沈めたのはこれじゃない。

 

みんなに1度振り切ったと思わせて、鎮守府への連絡が終わったらまた食らいついてくるような、もっと賢いのがいるはず。

 

はち、きゅう、じゅう、

 

数えるのが面倒くさくなってきた。どこからわいてくるのだろうか。

 

時雨の背後から魚雷を撃とうとしている敵が見えたのでそいつに向けて引き金を引く。

 

高角砲ががちりと金属の音を立てた。ここまで一人で来たから弾薬を使いすぎたのか。

 

弾切れの砲を私の背後に近づいて来た敵に投げつける。

 

時雨の方には左手の錨を。

 

海風の悲鳴が聞こえた。

 

江風の、姉貴と呼ぶ声は時雨にではなく私に。

 

……ああそっか、村雨がかばったのは時雨だから。

 

恨んでると思われてるのかな。殺したりしないのに。

 

投げた錨を時雨の艤装に引っ掛けて、そのまま力いっぱい引っ張る。

 

「ありがと村雨!錨貸してくれて!」

 

錨ごと飛んで来た時雨を受け止める。

 

私達を貫こうと飛んで来た砲弾を驚いている時雨を抱えたまま跳んで避けた。

 

時雨の手から砲をかすめとって背後に向けて引き金を引く。

 

確認はせず、そのまま両舷一杯。

 

ズタズタになった包囲網から出てきた後の4人と合流して、そのまま鎮守府の方へ。

 

みんなを沈めさせはしない。村雨が守ったんだから、絶対。

 

 

 

 

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雑魚では倒せないと判断したからなのだろうか。見たことのない敵が海中から浮かび上がってきた。

 

人型をしているあいつを見ると、これが村雨を殺したやつなんだなとなんとなくわかった。

 

「…夕立?どうしたの?」

 

じっと見つめている私を心配してくれたのか、白露が声をかけてくれた。

 

「あれなの?村雨を殺したやつは」

 

「……うん。そうだよ。」

 

ならいい。あれを殺せば全て解決だ。

 

一気に加速しながら、時雨の砲の引き金を引く。

 

この程度で装甲を抜くことはできないとわかっていても、こっちに注意を引きつけるために撃ち続けた。

 

あいつが右手と一体化した砲をこちらに向けたけど、もうあいつを殺すことしか考えられない。

 

何度も轟く音もそばを通り抜けた衝撃も焼けどした肌も全部無視して接近する。

 

投げた鎖で右手ごと大きな体を絡め取った。

 

「つかまえた」

 

魚雷は全弾残っている。この距離でぶつければ私も巻き込まれるけど。

 

けど、村雨のいない世界なんかに未練はない。

 

いつものような、気の利いた決め台詞は言えなかった。

 

無言で全弾ねじ込む。

 

敵のあげる悲鳴は、魚雷の爆発音でかき消えた。

 

圧倒的な熱が体を焼く。

 

そっちに行けば会えるかな。村雨。

 

 

 

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なんとか生き残ったようだ。

 

時雨に抱えられて鎮守府まで帰ってきたらしい。

 

村雨のことを思い出すたびに苦しくなる胸が健康だと言えるわけがないのでまだまだだけれども、体の調子は戻ってきている。

 

もっとももう一生、元に戻れることなどありはしないのだけれども。

 

正直、生き残ったことを少し残念に思う。

 

村雨が隣にいること以上の嬉しさを見つけることができない。

 

何もかもが、圧倒的にそれに及ばない。

 

先に沈んだのが村雨で良かったと思う。

 

私が先に死んでいたら、村雨はこの感覚を味わい続けるのだろうから。

 

村雨は、自殺なんて手段、取れないから。

 

机の上に置いた、遺書がわりの簡単な手紙をもう一度読み返してみる。

 

提督さんにはたくさん迷惑をかけるし、みんなを悲しませることになるんだろうけど。

 

ごめんね。もう、生きることが楽しくなくなっちゃったから。

 

この前村雨がどこからか買ってきてくれたけど、ついに一度も正しい方法で使わなかったカッターナイフを握りしめる。

 

刃物なら包丁でも使った方が楽なんだろうけど。

 

村雨がくれたこれで死ねるなら、その死ぬという行為を楽しいものにできるから。

 

喉元に押し当ててみた。やっとまた、村雨に会えるんだ。

 

正気じゃない?当たり前だ。

 

最初に、村雨が死んだ瞬間から私は夕立ではなくなったのだろうから。

 

でもどうせなら最後は夕立らしく死のう。

 

いつも出撃するときはなんて言ってたっけ。

 

たしか、

 

「さあ、ステキなパーティーしましょ」

 

一息に切り裂く。

 

ドアが開いて飛び込んできた時雨に、赤色が降り注いだ。

 

頬に付いた血。

 

パーティーのためのお化粧みたい。

 

 

 

 

 

 




1番被害受けたのは時雨ちゃん。かばった村雨が死んで、村雨が死んだせいで目の前で夕立が自分の首を切るとか可哀想すぎる。

ごめんね時雨ちゃん。

あと一応、この作品は自殺を賛美するものでも推奨するものでもありません。

次はハッピーな話書きたい

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