フライパンにごま油を引いてひき肉を炒める。火が通ったところでお湯につけた春雨とニンニク、豆板醤を加える。もう少し炒めたら醤油とニラを入れて更に加熱、水溶き片栗粉を回し入れてまとまるまで炒める。ラー油を加えて和えるように炒めれば完成だ。
麻婆春雨というのはフライパンひとつで作れて特に失敗する要素もなく、俺が個人的に好きなのもあって、学生時代から作ってきた料理だ。
提督になってからは包丁を握る頻度も減ったがときたま無性に何かが食べたくなって自分で作ることもある。今回の事情はそれとは少し違うのだが…。
話は執務をしていた頃まで遡る。俺は独り言をつぶやく癖があった。流石に空気を読むくらいはできるのでそこかしこで言っているわけではないが、今日の秘書艦は気を許せる時雨だった。
彼女の前では特に抑える理由もなく、彼女の姉妹の口調を真似て「いっちばーん」だとか「ちょっとイイトコ、見せてあげる」などと言ってみたり、「だりぃ」「うぉっ」などと言葉を漏らすことは多々あった。そして今日、彼女の前でいつものようなノリで「春雨喰いてえ」と口にした。
一般的に春雨といえば食べ物が出てくるのだろうが、彼女の妹には、白露型五番艦の春雨という女の子がいて。
「て、提督には失望したよ///」と叫び、時雨は執務室から去ってしまった。今日の昼食は時雨が作ってくれる予定だったので、自分で作らなくてはならなくなったということだ。
話は戻るが、俺は麻婆春雨が好きだ。美味しいのもそうだが作るのも好きだ。
いい色合いの豆板醤を使うと白く透き通るような春雨(食材)が羞恥に染まるかのように赤く色づいていくのが面白い。提督になり、春雨という女の子にあってからは彼女の白い肌を汚すことを重ね合わせているのかもしれない。
不意に、背後で足音がした。
振り返ると、まだ少し顔が赤い時雨が立っている。
「提督、さっきはごめんね……」
「いいや、俺の癖が悪かったんだろう」
誤解は溶けてくれたようだ。……春雨ちゃんを食べたい(意味深)と思うこともしょっちゅうあるのであながち間違いではないのだが、わざわざ口に出す理由もないだろう。
「時雨も食うか?」
「…うん」
2人分作っていた麻婆春雨を、二つの器に盛り付ける。
食堂の長いテーブルに並んで座った時雨がいつもより近く感じた。……いや、マジで。物理的に。密着してるんだけど。
………顔を赤くしながらすり寄ってくる時雨も可愛いからまあいいか。
そう思いながら箸に手を伸ばした。
あー春雨ちゃん食べたい