去年書いた原稿を年末見つけて打ち込んで、今思い出したので。
私は目を覚ます。
カーテンからは薄い光が差し込んでいた。
ふと、なにか違和感を感じた。
寝起きであるにも関わらずスッキリした頭で起き上がる。
部屋を見渡すと、本来夕立との2人部屋であったにも関わらず、その夕立が生活している痕跡は全くなかった。
これはいつもの夢なんだな、と理解した。
自分の服装を確認するといつもの制服だったので、そのまま部屋の扉に手を掛ける。
扉の外になにかの気配を感じた。
扉を開くと、黄色い髪をした私の妹がうずくまっていた。
どうしたの⁉︎
慌てて駆け寄ると夕立はすぐに立ち上がる。
「エイプリルフールっぽい!」
なるほど、今日はエイプリルフールだったのか。
私は夕立と別れて執務室へと向かう。
太陽のような笑顔だった。
階段に差し掛かると、上から声をかけられた。
「村雨、おはよう」
見上げると、黒い髪をした私の姉が立っている。
時雨はそのまま一歩を踏み出して、足を踏み外して階段から落ちる。
下にいた私を巻き込んで2人で倒れこむ。
ガツンと頭を床に打ち付けたが、夢だからなのか痛みは感じない。
痛みだけでなく顔面に押し付けられる時雨の胸の膨らみの温かさも感じることはできなかった。
「ご、ごめんよ村雨、すぐに退くから、」
彼女は立ち上がって私に手を差し伸べる。
恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
曲がり角に差し掛かった。
ドン、と右半身に衝撃が走る。
そちらを向くとピンク色の髪をした妹が尻餅をついていた。
「村雨姉さん⁉︎ごめんなさい!」
いいのよ。春雨こそ大丈夫?
彼女の周りには書類が散らばっていた。慌てて立ち上がる春雨と一緒に書類を拾っていく。
「姉さん、ありがとうございます」
春雨は私に向かって、どこか熱っぽい笑顔を浮かべた。
提督がいる執務室にたどり着く。
扉に手を掛けたところで、びりり、と胸が痛んだ。
それを無視して私は扉を開く。
拳銃を持った、茶色い髪の私の姉さんと、
赤に染まった提督がいた。
ふと右手に重みを感じた。
視線を向けると拳銃を持っていた。
私はそれを姉さんに向ける。
姉さんは、どこか楽しそうな笑みを浮かべ、
私の顔は狂喜に歪んでいた。
____________________
私は目を覚ます。
カーテンからは春の日差しがさし込んでいる。
重たい頭で起き上がって部屋を見回す。
夕立は先に起きたのか布団にはいなかった。
さっきの夕立の痕跡のない部屋はこのことだったのだろうか。
私は寝巻きからいつもの制服に手早く着替え、壁にかけられたカレンダーの、3月のページを破りとる。
下からは桜の描かれた4月のページが現れる。
3月のページを机の上に置いて、扉に手を掛ける。
扉の外に夕立の気配を感じた。
扉を開くとそこには夕立がうずくまっていた。
「どうしたの⁉︎」
慌てて駆け寄ると、夕立は苦しそうに顔を上げた。
「村雨…お腹が痛いの…」
夕立の首には脂汗が浮かんでいて、嘘でないことは明白だった。
「大丈夫、明石さんの所で診てもらいにいこ」
優しい言葉を心掛けつつも、内心は焦りながら夕立を抱えて明石さんの所へ向かった。
明石さんに、『体には何の異常もなく、疲労とストレスから来るものだ、1日休めば良くなるだろう』と言われた私は夕立を抱えて部屋に戻って、布団に寝かせる。
「村雨、迷惑かけてごめんね」
「こういう時は、ありがとうでいいのよ。提督さんに連絡して来るわね」
そう言って彼女に布団を被せた。
太陽のような笑顔だった。
階段に差し掛かって、夢のことを思い出す。
「村雨、おはよう」
上から時雨の声がして、咄嗟に上を向く。
時雨は一歩を踏み出して、足を踏み外して階段から落ちる。
このままいけば頭を打つことになる。しかし、避けることは彼女が床に叩きつけられることになるのでその選択はありえない。私は急いで体制を整えて、
「わっ⁉︎」
時雨を受け止める。
「大丈夫?怪我してない?」
「ごめんよ村雨、ありがとう」
腕に直接触れる彼女の肌は温かくて、柔らかかった。
時雨は少し恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
曲がり角に差し掛かった。
夢のことを思い出す。
右から来た春雨にぶつかりそうになって、春雨が倒れこむ前に抱きかかえる。
「村雨姉さん⁉︎ごめんなさい!」
「いいのよ。春雨こそ大丈夫?」
春雨に怪我はなかった。どうやらこのまま資料室まで向かうらしい。
「気をつけて行くのよ」
春雨の頬にキスをする。
「は、はいっ♡」
春雨は私に向かって、どこか熱っぽい笑顔を浮かべていた。
執務室にたどり着く。
扉に手を掛けると、ぎゅうと胸が苦しくなった。
「…提督、入っても大丈夫かしら?」
「村雨か。いいぞ入ってくれ」
提督の声が返ってきたことに安堵しつつ扉を開く。
提督は何やら書類の整理をしているようだ。
あのね提督、夕立がね、
ぱん。と乾いた音が響く。
提督の左胸が赤く染まった。
後ろを振り返ると、拳銃を構えた姉さんがいた。
提督が椅子から崩れ落ちる。
カシャンと音を立てて拳銃が腰から落ちた。
姉さんを見る。
どこか楽しそうな笑みを浮かべていて。
私は提督の拳銃を拾い上げた。
拳銃を、姉さんに向ける。
引き金に指をかけて、これは違う、と思った。
私は姉さんに向けた拳銃を自分のこめかみに当てた。
おそらく、狂気に歪んだ笑みを浮かべているのだろう。
姉さんの顔が恐怖に歪んで、
「止めろ村雨!」
提督の声が響く。
よかった。予知夢は夢は外れたみたい。
緊張の糸がちぎれて、私は意識を失った。
____________________
「村雨、大丈夫…?」
目を覚ますと姉さんがいた。
「姉さん、提督は…」
「いるぞ。…その…ごめん」
「今日はエイプリルフールでしょ?だから提督とドッキリしよう、って」
提督の左胸に目を向ける。【インクの赤色】に染まっていた。
「よかった、提督。…姉さんも。」
「わ、私?提督だけじゃなくって?」
「うん。夢で、私は姉さんを…」
姉さんの顔が悲しみに歪んだ。
「ごめんね村雨…」
「大丈夫よ。現実では姉さんを殺さなくて済んだもの。それに……姉さんは、笑っていてて。何だかちょっと寂しいわ」
そう言うと姉さんは笑ってくれた。
夢とは違って、いつもの姉さんの、私の大好きな笑顔だった。
裏時雨オンリー用に連載形式じゃなく短編形式で別に時雨の冬お投稿してるので良かったらどうぞ