オリ設定を含みます。
言葉にしなくても想いが伝えられるみたいな。今更だけど。
「……ねえ、さ。村雨。」
「な、何?」
目に焼きつくピンク色の服になった村雨が、私の下、ベッドの上でこちらを伺う。
馬乗りになったまま、ぽいんぽいんとピンク色を押し上げる膨らみをつっついた。
「ね。私、この前村雨の改二の時も大変だったじゃない。私と違うのが嫌だからって村雨の新しいお洋服びりびりにやぶっちゃったり。左目はおんなじじゃないからって血で赤く染めようとしたり。」
「そ、そうね。」
村雨が抵抗したときしわくちゃになったシーツで右手に滲んだ汗を拭って、村雨の首元に持っていった。
「……わかってるでしょ?…けっこう時間経ったけど、まだ、不安定なんだって。……わかるよ?村雨のことは全部。だから、おしゃれしたかったんだよね。可愛いよ、村雨」
「あ、ありがと……あ、待って、…ちょっと…いい?」
自分の荒い息が届きそうな距離にいる村雨が、服の上からがしがしと自分の胸を引っ掻く。
そのあと、私のおでこと首に手を持ってった。
「……やっぱり、ちょっと体熱い、よね。私までちょっとキてるし…辛くない?」
…うん。熱いよ。とっても。
私の体の熱を近くで感じているからか、それとも、私達を繋いでいる何かのせいで村雨の体温まで上がっているのか。
想いを伝えられるのだから、体調が同期してもおかしくないと思う。
そういえば、一緒に風邪をひくことがなんどもあったな。
「言葉もいつもとちょっと違うし…風邪?最近、夕立ずっと変だったよね。氷枕とかいる?」
「いいよ。大丈夫」
知っているもの。これは私の熱。…きっと、想いを溜め込んでいるから。
今までずっと、村雨とは『繋がって』いたからできるかわからなかったけど、この想いは伝えたくなかったから。
その感情が浮かび上がりそうになるたびに慌てて飲み込み続けた。
繋がりを切るのではなく、拒絶するのでもなく、ただ『伝えない』。
生まれて初めて、村雨を裏切った。
隠し事はできるだけやめましょ。思ったことはちゃんと伝えましょ。ずっと仲良くしたいから。
言葉に出して約束はしなかったけど、私も村雨も、そうやって相手を信頼した。……違う。きっと信頼するように生まれてきたんだ。
なのに、しまいこんでしまった。
今だってそうだ。村雨は、私は何かあったら伝えてくれるって信じてくれてるから、私の変化に気づいても聞かないでいてくれたのに。
一度伝えなかった罪悪感から、1つ、また1つと溜め込むものは増えていく。
少しずつ、少しずつ、溜め込んだ想いは私を蝕んでいった。
それが、今回の村雨の新しいお洋服で限界を超えてしまったんだろう。
愚かな。なんてバカなんだろう。
私と村雨は、どちらかが欠けたら生きていけないって知っているはずなのに。村雨だけは裏切りたくなかったのに。
これ以上は無理だと想った。
聞いて。お願い。
村雨の肩がびくっと跳ねた。
「ごめんね。村雨に隠し事してた」
ふっ、と。小さく吐いた息が同期する。
「……知ってたわ。伝えたくないからなのかって。ずっと聞かなかった」
「伝えたくなかったの。…でもね。伝えなきゃいけなかったんだろうね。体までおかしくなっちゃったの」
「この熱、そうなのね。……聞くわよ。何でも。ずっとそうだったじゃない」
「……あのね。」
村雨が、欲しいの。村雨の全部が欲しいの。
村雨が目を丸くした。
「この前の、改二の時の」
「そう。……我慢、できなくなっちゃったみたい。」
ねえ、私、どうしたらいいのかな。
ずっと村雨といたいのに。村雨と幸せになりたいのに。
どうしたらいいのかな。
「1番じゃ、ダメなのよね」
「…村雨は、知ってる?もう、わからないの。こんなになったのは初めて」
行き先がわからないの。辛いの。苦しいの。…もう、この道を終わらせたくなってしまうくらいに。
「それだけはだめ!絶対だめ!許さないんだから!」
ガツンと、頭の中に村雨からの感情が溢れかえる。
好き好き好き。死なないで。いなくならないで。もっと夕立と生きてたい。嫌だ。ヤダヤダヤダやだ!大好き!死なないで!もっと一緒に幸せになりたいのに!
「…そう、言ってくれるのはわかってたの。でも、聞いただけで村雨悲しんじゃったでしょ。こんなの今まで感じたことないもの」
ボロボロと涙を流しながら喚く村雨。私の下から手を伸ばして、必死に、逃すまいと私の体を抱き寄せる。
「ごめんね。村雨。悲しませちゃって」
ああでも。少しスッキリしてるの。ごちゃごちゃに絡まってたものを吐き出せたから。
好き好き大好き。
大好き。
だいすき
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「夕立、本当に、いなくならないでくれるの?」
「言ってるでしょ。村雨と生きたいから伝えたの。」
ほんとに?
ほんと。
わしゃわしゃーっと。いつもやってくれているみたいに頭を撫でる。
笑ってくれた。
「ね、夕立」
「なあに?」
村雨は、自分の頭の、髪を留めているリボンに手を伸ばして、解いた。
「左手出して」
いつまでも村雨の上に乗ってるのも悪いかな、と退こうとすると、言うが早いか左の手首を引き寄せられた。
「これからは、夕立は私の1番じゃなくって、『特別』ね」
黒いリボンが、左手の薬指に巻きつけられる。ちょっと歪んだ蝶の形になった。
「村雨にもちょうだい」
それを眺める暇もなくもう1つのリボンが押し付けられ、目の前で村雨の手がひらひらとはためく。
「夕立の、『特別』にして」
くるっと、指の周りを一周回す。
すっごくドキドキしてるの。
私もよ。
手に染み付いた動き。自分の頭のリボンとおなじく輪っかを作って
「できたよ」
「特別なら、満足できるかしら?」
「うん。きっと」
……ああ、これでもう、死ぬという道すら閉ざされた。
左手の薬指。そういうことなんだろう。
将来、もしかしたら村雨と仲のいい男の人が現れて、特別に収まって村雨を奪っていく。そういうことはなくなった。
ずっと。一緒。私には、村雨を幸せにする義務がある。
そういう特別。
「ごめんね。村雨、そのお洋服も綺麗だよ。」
「ありがと。今度着てみる?きっと夕立も似合うわ」
「今度、ちゃんとした指輪買いに行こっか」
「…海に行く時は外して行ってね。それ庇って死なれたら意味なくなっちゃうから」
「村雨、ちゅーしたい。…いい?」
「いいわよ。……その先も…いい?」
「もちろん」
「大好きだから」
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「ってことがあったのよ」
「だから村雨指輪つけはじめたんだ。……僕、びっくりしたよ。村雨が誰かと結婚するのか、って。……夕立なら納得だね」
「…時々、ちょっと後悔するのよ。」
「え、…っと、それは」
「あ、そう深刻なのじゃないのよ?…もっと、ロマンチックな渡し方とかしてみたかったなって」
「…やっぱりそういうの憧れるよね。夜景の見えるレストランとか、桜の丘で、とか」
「…時雨ちゃんは、白露とかな?」
「や、やめてよもう///」