艦これ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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おやすみしぐうみの設定とちょっと似てるかも。

危うく壊れた女の子の方に投稿しそうになりました。


時雨と精霊

 

 

「どうしたの?」

 

共用部屋のソファーに座って今年度の新しい電話帳を眺めていると、隣で眠っていた村雨が声を出した。

 

僕に話しかけたのかと彼女の方を向いてみたけれど、彼女の目は虚空に向けられていた。

 

「……うん。……ん」

 

その視線の先には、この部屋の中には僕と村雨以外の人影は見当たらない。

 

心なしか、彼女の赤い目が輝いているように見えた。

 

「そうなの?」

 

しかし彼女の様子を見る限り、誰かとの会話が成立しているようで。

 

「だーめ。……ごめんね」

 

彼女の視線が時々ゆっくり動いているのは村雨が話している誰かが移動しているということなのだろうか。

 

「うん。そうなの。…………ありがとう。ーおやすみ」

 

話が終わったのだろうか。

村雨が開いていた目を閉じると、糸が切れたように僕の方に倒れこんできた。

 

村雨を膝の上に寝かせてからおでこに手を当ててみる。

 

熱は………ないみたい。

 

 

____________________

 

 

 

ちょうど電話帳の電気工事のページをめくりおわったときに扉が開く音がした。

 

「あー村雨、やっぱりここにいた。」

 

静かに歩いてきた夕立がソファーの前に座り込んで僕の膝で寝ている彼女の輝く髪を撫でる。

 

「…ねえ、夕立」

 

「なに?」

 

「ここに…何かいる?」

 

正面の虚空を見つめたまま、夕立ならもしやと思って聞いた。

 

夕立は、目を閉じて小さく息を吐く。

 

パチリと目を開いた。

 

「あ、いる」

 

え。

 

ぼんやりと発光して見える夕立の目が、虚空のある一点を凝視していた。

 

「どうしたの?………そう」

 

「ゆ、夕立?」

 

「時雨とも、仲良くなりたいんだって」

 

僕と……誰が?

 

「村雨は、時雨は知らなくていいって断ったって。」

 

「…えっと」

 

赤い目のまま、夕立が僕の方を向く。

 

「どうする?」

 

もう一度虚空を見つめてみた。

 

「……どの辺りにいるのかな」

 

「あの…机のよこあたり」

 

今度は意識して、そこにあるモノを見ようとしてみる……が、やはりというか、何も見えない。

 

「時雨」

 

夕立の手が僕の顔に手を伸ばしてその手で視界が黒く染まる。

 

「一回目とじて。…見ようとするんじゃダメなの。…あるから見えるの」

 

あるから、みえる。

 

「私達とおんなじように、あの子もいるの。そこにいるから、見える。聞ける。感じれる。」

 

 

わたしは、ここにいるよ。

 

 

言葉につられて目を開いた。

 

夕立が僕の顔を覗き込んでいる。

 

「ん、じょうできっぽい」

 

夕立が目線で指した机の隣あたりの空間に目を移す。

 

 

こんにちは。

 

 

「こんにちは」

 

ずっとみていたよ。君は、本を読むのが好きなのかい?

 

「うん。そうだよ」

 

形はわからないけど、白い靄のようなものが集まっているのがわかる。

 

「お名前はあるのかな」

 

ふぇーちゃん、だよ。夕立と村雨がつけてくれたんだ。

 

「いい名前だね」

 

ありがとう。私も気に入ってるんだ。

 

 

たしかに見えたわけじゃないけれど、きっと微笑んでくれている。

 

 

「ふぇーちゃん」

 

次は何を聞こうかと口を開きかけると、夕立の声が割り込んだ。

 

「時雨、ふぇーちゃんとお話しするの初めてだから、そろそろダメだよ。……じゃないと、私みたいに寝込んじゃうっぽい」

 

 

…そうだね。ありがとう、時雨。……また今度お話ししてくれる?

 

 

「うん。もちろん。…ありがとう、ふぇーちゃん」

 

小さく微笑んでみた。

 

また、夕立が僕の目を覆う。

 

 

ばいばい。

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

夕立が手を退けると、いつもの色の赤い目が僕を見つめていた。

 

「…大丈夫ね。 …あんまり見すぎるとダメっぽい。負担かかるからね」

 

膝の上の村雨を起こさないように背後の背もたれに体を預ける。

 

大きく息を吐くと疲れがどっと押し寄せてきた。

 

「時雨の目、綺麗だったよ。淡い青色で、海みたいに揺れて輝いてるの。」

 

「ありがとう。…夕立の目も、僕大好きだよ」

 

 

カタリ。

 

なにが鳴ったのかはわからないけどそう聞こえた。

 

ふぇーちゃんが鳴らしたのなら、僕か夕立への同意なのかもしれない。

 

あるいは、嫉妬だったりして。

 

 

 

 

 




フェアリーのふぇーちゃん。

精霊はスピリットなんですが、妖精にするとようせいさんと被りそうなので時雨と精霊

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