書いた。
普通にむらだち
街の外れにある、その街の中で1番下等な霊脈。
強さを求める聖杯戦争で、わざわざこんな所で召喚しようとする馬鹿は私くらいだろう。
そこに、適当に拾った木の棒で地面に線を刻んで行く。
でも。ここはあの子との思い出の場所だから。
小さい頃あの子と駆け回った大切な場所だったから。
昔私達が過ごした街に聖杯があったのは幸運だった。この場所に、微かながらも霊脈が通っているのは僥倖だった。
掘った溝に、持ってきた容器から水銀を薄く流していく。
私の一生を賭けた戦いが始まる時だというのに、環境破壊に心を痛めてしまう。
蝶のような紋様が、赤い線で刻まれた右手を体の前に掲げる。
『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。
四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する。
――――告げる。
汝の身は我が隣に、我が命運は汝と共に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理が届くなら答えて。
誓いを此処に。
我は常世総すべての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
我は主人に在らず、汝は従者に在らず。ただ、我と同じ道を歩み、我と同じ時を刻むべく来たれ。
汝 三大の言霊を纏七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――! 』
ばちり、と何かが弾ける音がした。
地面に刻んだ召喚陣が励起し、ほのかな赤色に光り始める。
周囲の空気に漂う魔力と、私の魔力が吸い取られていく。
触媒なんて必要とはしない。
私がいる。私が呼んだ。
それだけできっと、あの子は来てくれる。
集まった魔力が溢れる光の奔流へと変換される。
眩い閃光に、とっさに目を閉じた。
しばらくして光が止むと、そこには、
「さーゔぁんと、あーちゃークラス。夕立。……問おう。貴女が私のますたーか?…………。なんて。…呼んでくれたの、聞こえたよ。」
掲げた右手に意識を馳せ、蝶の羽根の様な紋様に魔力を流しながら口にする。
『令呪を以って願う。ずっと、私の隣にいて』
「もちろん」
『令呪を以って願う。私から離れないで』
「いいよ」
『令呪を以って、願う。……もう、私を、…1人にしないで」
「今度こそ、約束するっぽい」
赤い線は右手から消え、黒ずんだ様な薄い跡が右手に残る。
「ずっと、会いたかった」
「…私も」
夕立が、昔と同じローファーで地面を踏みしめて私の元に歩いてくる。
広げられた両腕に従って、夕立の胸に抱かれた。
魔力で編まれた仮初の体でも、しっかりと夕立の鼓動を感じた。温もりを、思い出した。
ずっとこうしていたい欲望に抗って、やっぱり少しだけ堪能してから離れる。
右目から溢れた雫を拭った。
「絶対、勝つわよ」
「もちろん」
まだ、私の願いは叶えられていない。
聖杯を手にして、もう一度夕立をこの世に降ろす。
喪われてしまった幸せを取り戻すまで。私は止まれない。
むらだち尊い…
fate知識薄なので用語の漢字間違いなどの訂正はありがたく受け止め、誤字は修正しますが、こんな召還できんとかいう文句は無視するので悪しからず。