艦これ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

45 / 45
追記:1部フラグの変更とそれに伴って描写ちょこっと修正


DateDays

叔父さんと叔母さんと山風がいなくなった。

 

村雨と叔父さんが調子に乗って喰い散らかした事件だったり、叔母さんが父さんにコーヒーをぶちまけたり。

 

騒がしかったけどその3人が帰ってしまうとやはり少し寂しく感じた。

 

叔父さんかっこよかったし、叔母さん優しかったし、山風やわらかかったし。水族館も楽しかったな。

 

今日は父さんが姉さんと夕立と春雨を連れて出かけてしまったので、余計に静かだ。

 

母さんも買い物に行ってくると言っていなくなったので音を発しているのはめくられる本のページとなんとなくつけているテレビと、そして窓ガラスを叩く雨だけ。

 

雨が降るのは久しぶりなきがする。慈雨、と言うのだろうか。

 

確か『時雨』を『しぐれ』と読まずに『じう』と読めば程よい時に降る雨、と言う意味になったのでそれかもしれない。

 

本に栞を挟んで机の上に置いた。

 

リモコンを手にとってテレビの電源を切る。

 

あまり活発に外で遊ぶほうではなかったし、雨は嫌いじゃない。この音は好きだ。

 

時雨、村雨、夕立、春雨。……ごめん姉さん。露時雨とか雨露とかあるからそれで我慢して。

 

…………気のせいかな、この名前の並びはどこかで見たことがあるような気がする。

 

不意に、リビングの壁に付いているモニターに光が灯る。ピンポーン、と、明るい音を立てた。

 

……宅配便かな?雨なのにご苦労様なことで。

 

「はい」

『〇〇、玄関開けてくれない?ちょっと両手塞がってて』

 

聞こえたのは母さんの声だった。カメラの死角に立っているのか姿は見えない。

 

…この時、気づいておけたはずだった。

 

母さんは「家の近くのスーパーに傘をさして歩いて行った」のだ。

 

傘をさしているなら両手がふさがるほど買い物をするとは思えないし、玄関先の屋根の下に傘立てがあるから「両手がふさがる」ことなどないはずなのに。

 

廊下を歩いて抜け、玄関の扉を開ける。

 

母さんがいた。

 

見てしまった。

 

ツーサイドアップの長い髪。

セーラー服のような襟が特徴的なノースリーブの服。大きな切れ込みが入ったケープ。

右腕は黒いインナーで覆われていて、左手は白い素肌を露出させて、どちらも先には白い手袋。

白いフリルがついた、赤いラインが入った黒のプリーツスカート。

右足の黒いハイソックス。左足のガーターベルトで吊ったニーソックス。アクセントなのか、白い包帯のような。

胸元から伸びた長いリボン。

黒いベレー帽。

透明なビニールの安っぽい傘。

背景の雨。

 

見てしまった時点で負けだったのだろう。これがゲームの中ならハートのアイコンがついて行動不能になっていたに違いない。

 

3人産んでも引き締まったくびれのある体。黒い布地を窮屈そうに押し上げる膨らみ。赤く輝く右目。

 

その姿はもはや魔法だった。

 

他人を魅了するための姿。

 

今、それが向けられているのは、

 

「…〇〇、〇〇、大丈夫?」

 

はっと我に帰る。

見惚れていた。

 

「…よかった。ね、今からお出掛けしない?」

 

「…今から?」

 

「うん。他のみんなは出掛けてるんだし…折角だから2人でデートしましょう♡」

 

「……財布持ってくる」

 

「?私が誘ったんだし出してあげるよ?」

 

いや、その見た目の連れにお金出させてるとか俺がダメな人に見えるから…

 

 

 

____________________

 

 

 

「時雨!私これ欲しい!」

「夕立もこの服欲しいっぽい!」

「姉さん、…私もこれが…」

 

「…しょうがないな。…これ、お願いします」

 

『はい。可愛い妹さんですね』

 

「…はい」

 

『少々お待ちください』

 

(……父と娘だなんて言えないな。……だってここ、ランジェリーショップだし。3人にはお父さんって呼ばないように頼んでるけど…もしバレたら、)

 

『ーーほら、あそこの白と黒の三つ編みの人、』

 

(っ⁉︎)

 

『ほんとだ、スタイルいいし、肌もすごくキレイ…話しかけてみる?』

 

(え、無理無理、話してたら絶対ボロ出しちゃうって、)

 

「時雨も何か買わないの?」

「お姉ちゃんも…ほら、これとか、」

「2人とも、姉さんに迷惑かけちゃ、」

 

「…うん。僕はいいかな」

 

(あ、やば、つい僕って)

 

『…あの人今僕って』

 

(やばいやばいやばい)

 

『あの見た目で僕っ娘なんて…私もあんなお姉さん欲しかったな』

『妹さんいるみたいだし邪魔しちゃ悪いよね』

 

「…よかった、」

 

「白露姉さん、何読んでるんですか?」

 

「ここのパンフレットだよ。どこ行こうかなって……!ここ行きたいおとモゴモゴ」

 

「やめて白露、それ言われたら僕(社会的に)死んじゃう…!」

 

 

 

____________________

 

 

 

「母さん、」

 

「なあに?どうし……ふ、ふん!」

 

「…母さん」

 

「もー、何で村雨って呼んでくれないの?」

 

「呼ぶのは別にかまわないんだけどさ、1つだけお願い聞いてよ」

 

「…なあに?」

 

「いやその、車道側歩かせてくれない?さっきから何回かそっち行こうとしてるんだけどやんわり押し返されてて、」

 

「………あ、」

 

「はいほら、こっちね」

 

「…ごめんね、今まで〇〇と歩く時ずっとこうだったから」

 

「いいよ。気にしないから。…で、どこ行くの?む、村雨?」

 

「!…どうする?どこ行きたい?」

 

「むりゃ、村雨が行きたいところでいいよ」

 

「…じゃああそこのショッピングモールかしら?時雨たちもそこにいるらしいけど」

 

「村しゃ、…村雨と2人でいるとこ見られたら俺父さんに殺されたりしない?村さ、め、のマジックコーデでずいぶん別人っぽくなってるけど」

 

「……大丈夫。時雨なら自分の子供ならわかると思うわ」

 

「むギッ…したかんだ…」

 

「私の名前ってそんなに呼びにくいの⁉︎……別に呼びにくいなら母さんでもいいのよ?」

 

「いいよ。…ありがとう、村雨」

 

「ちゃんと呼べるじゃない、もう!」

 

 

____________________

 

 

 

 

「すみません店員さん、」

「お姉ちゃんを可愛くしてあげてくださいっぽい!」

 

「……え、僕⁉︎なんで、」

 

「嫌だったらいいんですけど、……私も姉さんには可愛くなって欲しくて」

 

「なんで…」

 

『…あの、どうなさいますか?』

 

「…えっと、じゃあお願いします。……もう、ほんとみんな村雨の子供なんだから」

 

『…じゃあ!せっかく足綺麗なんだからジーンズじゃなくてスカートにしましょう!』

 

「え、あ、」

 

『体も細いのでふわっとした服でも横に広く見えないのかな、じゃあこんなのとか、』

 

「えっと、」

 

『髪の色に合わせて白と黒で揃えたいんですけどいいですか⁉︎』

 

「あ、うん、」

 

『あとは髪おろしてこの帽子とか』

 

「ごめんそれはダメ。これだけは、ダメ。譲れない。」

 

『…あ、わ、ごめんなさい私、調子に乗って、』

 

「……ごめん、僕も強く言いすぎたね。君はそれがお仕事なんだから僕は気にしないよ。……体じゃなくて、この髪に合う服見繕ってくれるかい?君の選ぶ服好きだから、君にお願いしたいな」

 

『‼︎はいっ、すぐに準備しますね!」

 

「……時雨、あの人墜としたね、」

「姉さんの知り合いに女の人も多いのもわかりますね」

「お姉ちゃんもお母さんに似てる……どうしたの?」

 

「………いや、平穏に解決しようとしてついああ言っちゃったけど、これもう買わないといけない流れだよね……安く済んだらいいな」

 

「…多分無理ですね」

 

『お待たせしてごめんなさい!これと、これと、これと、これも!絶対似合いますよ!』

 

「時雨の魅力に虜っぽい」

 

「…うん、ありがとう、ありがとう、嬉しいよ。うん…………はぁ、」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「あ、アイスクリーム!…〇〇、私アイス食べたいなー」

 

「やめて母さん押し付けないで、人目あるから体で言うこと聞かせようとしないで」

 

「ごめんごめん、ついクセで」

 

「くせになるほどやってるんだね……まあいいや、ちょっと待ってて」

 

「お願いねー」

 

 

 

「すみません、アイス2つお願いします」

 

『おうよ。……おいボウズ、』

 

「何ですか?」

 

『…貴様はカップルか?』

 

「カップル割とかあったり?」

 

『ただ今夏のカップル殲滅キャンペーン中だ』

 

「おじさんいいキャンペーンしてるね。頑張って俺たちの殺意の源を減らしてね」

 

『おうよ……ところであそこのベンチで人目集めまくってるやつは』

 

「ああ、村雨?」

 

『あいつのツレお前かよ…おいバイト、包丁持ってこい、虐殺の時間だ』

 

「まあおじさん、話をしようじゃないか」

 

『遺言なら聞いてやるぞ』

 

「……あまりあの人を怒らせないほうがいい。自分を餌にして確実に迅速に、社会的に殺しにくる。……ホモでもなきゃ男じゃあの人には勝てない…俺も」

 

『……苦労してるんだな』

 

「まあ俺の母さんだから1番被害受けてるの父さんなんだけどね」

 

『あの見た目でか?』

 

「うん。よく間違われてる」

 

『…まあ親子なら許してやろう』

 

「義母で、一度関係持っちゃったとは言えない流れだな…」

 

『貴様…やっぱり生かしては、

 

 

「ねーえ、…私の子に…何しようとしてるの?」

 

 

『⁉︎』

「まって母さん、俺たちちょっと話してただけだから、な、おっちゃん⁉︎」

『あ、ああそうだ!』

 

「ふーん…〇〇がそうしたいならいいんだけど…。アイス、とびきり美味しいのお願いね、おじさま?」

 

 

「………おじさん、今すぐこの店で1番美味しいアイスを出すんだ、じゃないと母さんが、」

 

『金はいらねえ。これを持っていけ。……強く生きろよ』

 

「ありがとう、おじさん」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「結局タグ切ってもらって試着室でそのまま着替えてそのまま来ちゃったけど……冷静になって考えたら僕、公衆の面前で女装してる変態さんってことになるんじゃ…?」

 

「時雨、すごくかわいいよ!」

「お姉ちゃん、ずっとお姉ちゃんでいればいいのに」

 

「僕男だから、ね?……で、さしあたってけっこう重要な問題があるんだけど、」

 

「?どうしたんですか?」

 

「…トイレ行きたいんだけど、どうしよ、」

 

「「「あっ」」」

 

「そっか、その見た目じゃ男の子のトイレ入れないね」

「エロ同人みたいに!」

 

「やめて夕立……ちょっとシャレにならないかもしれないから」

 

「なら、私たちと女子トイレに…?」

 

「それもそれで問題だよね。僕男なんだし。白露たちは嫌じゃないの?僕が女子トイレの中にいいたら」

 

「時雨なら私たちで変なこと考えたりしないだろうし…そんなに嫌じゃないかな?」

「私も、そんなに」

 

「あのさ、それは女の子としてどうかと思うけど」

 

「……お父さん、多目的トイレに行ったらいいんじゃない?個室だし、どっちが入ってもおかしくないし、」

 

「「「あ、」」」

 

「…何で気づかなかったんだろ。…混乱してたのかな。ちょっと僕行ってくるね」

 

「ついでだし私も行っとこうかな」

 

〜移動中〜

 

「………あ、」

 

 

『故障中につき使用できません』

 

 

「……ついてないですね、」

 

「やっぱり私たちと女子トイレに、」

「それかエロ同人」

 

「行かないからね⁉︎別のとこ探してくるからね⁉︎」

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「あれ、夕張さん?」

 

「うそ、村雨ちゃん⁉︎なんだか懐かしい服だと思ったら、」

 

「デート用に自分で作ったんですよ?昔の服と同じのを。…流石に、細部までおんなじとはいかないですけど」

 

「そうなのね、私もさみちゃんに昔の服作ってあげたら喜んでもらえるかしら?」

 

「私も五月雨も、もう人妻ですけどね。……あ、指輪外すの忘れてた」

 

「え、外しちゃうの?それって時雨ちゃんと江風ちゃんの、」

 

「うん。今私、不倫してるの♡」

 

「……え、…え?ちょっと衝撃的すぎて、……え、」

 

「…うふふ、とってもいい人なのよ?かっこよくて、やさしくて」

 

「……村雨ちゃん、やっぱりそれはよくないんじゃ、」

 

「あ、戻ってきた、こっちこっち!」

 

「…あ、こんにちは。えっと、この人知り合い?」

 

「うん。夕張さんよ」

 

「……あ、聞いたことあるような」

 

「…ねえアナタ」

 

「何ですか?」

 

「この人結婚してるの知ってるの?」

 

「…知ってますけど、えっと」

 

「だったら!アナタ何してるか分かってるのにこんなことしてるの⁉︎村雨ちゃんには時雨ちゃんと江風ちゃんが」

 

「まってまって、なんて説明したの『母さん』」

 

「私今不倫してるのー、って」

 

「え、お母さん?……も、もしかして〇〇くん⁉︎」

 

「ええ。そうよ。かっこよくなったでしょ?」

 

「きゃーこんなに大きく!おぼえてる?私最後に会った時まだこんなに小さかったのよ?きゃーほんとに!」

 

「時雨は今白露と夕立と春雨といるの。私は〇〇とデート♡」

 

「あらあら、じゃや邪魔しちゃ悪いわね?〇〇くんも、デート楽しんでね!」

 

「…………元気な人だね」

 

「とってもいい人なのよ。昔お世話になった…先輩?」

 

「なんで疑問形なの?」

 

「ちょっと複雑なのよ。………さ、行きましょ、私パンケーキ食べたいな」

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「あ、クレープ屋さんか……」

「時雨、私食べたい!」

「ぽい」

「私も…いいですか?」

 

「…………あのさ、実はさ、…さっきこの服買った時、サイフの中身結構ギリギリだったんだよね。女の人の服って思ったより高くて。まさか一式揃えるとは思ってなかったし……それで、中身が悲しいことになってて、……下ろそうにもカードとか家に置いてきちゃってて、……誰かサイフ持ってたりしない?」

 

「「「ーーー。」」」

 

 

「だよね。僕が出す、って言っちゃってたから。………クレープ、食べたいけど…200円はあるのか。………よし増やそうか」

 

「増やすの?どうやって?」

「時雨に賭け事させちゃダメってお母さんに言われてるっぽい」

 

「うん。それはしないよ。近くの駅前広場で、お金を投げてもらおうかな、と」

 

「駅前ですか?あの、歌歌ったりジャグリングしたりしてる」

 

「うん。100円ショップでスケッチブックとペンだけ買って来る」

 

「何するの?」

 

「村雨が言ってたの聞いたことない?……可愛いって、それだけで価値があるんだよ。……僕、男だけど」

 

 

____________________

 

 

 

スケッチブック

 

『 キス するので、ちょっとだけお金めぐんでください♡♡』

 

 

 

____________________

 

 

 

「…どう、かな。あんまりこういうの慣れてないから……そう?…よかった」

 

「もう一回?いいよ。…ちゅ、……うん。……え、こんなに?いいよ、僕…そんな。……うん。ありがと」

 

「…唇がいい?ダメだよ。女の子の唇は大切にしなくちゃ。……なんて、僕がが言えたことじゃないね。…じゃ、…ちゅ、」

 

「手の甲?…跪いてして欲しい?……いけないお姫様だ。…ちゅ、」

 

「……罵倒して欲しい?………頼めばしてもらえると思ったのかい?君がすることは財布を置いてすぐに帰ることだよ。いくら君がクズでも、言われたことくらいできるでしょ?まさか人間以下のゴミクズだなんてことはないよね?………わ、待って、本当にお財布入れてかないで、カードとかも入ってるでしょ?」

 

「…え⁉︎どこから聞いて来たのさ……いいよ。ちゅ。おまけにもう一回。ちゅ。……この鞄?提督のじゃ……うん。ありがとう。…またね」

 

 

____________________

 

 

 

「ただいま。終わったよ」

 

「おかえりー…って、どうしたのその大きな鞄」

 

「ちょっと貰ってね」

 

「すごいジャラジャラ言ってるっぽい」

 

「……これって、大丈夫なんですか?」

 

「うん。問題ないよ。……まあ何かあっても何とかはできるから」

 

「どうしてこんなこと思いついたの?」

 

「村雨がよくやっててね。見様見真似でやってみたけど上手くいってよかったよ。…この服だったしいくらかやりやすかったのかな……よし、クレープ食べに行こう。よいしょ、」

 

「……え、硬貨だけじゃないの?」

 

「野口さんに、樋口さんに、……あ、福沢さんだ」

 

「さ、どれにする?僕甘いのがいいな」

 

 

____________________

 

 

 

「クレープ食べたい!」

 

「……母さん、口悪いの謝るけど…太らないの?アイスに、パンケーキに、ドーナツとか、カステラとか、」

 

「大丈夫、私は太りにくいから。……そういう物なの。……そりゃ食べた分重くはなるわよ?それに少しは体に付くけど……最近ちょっと減りすぎてたからむしろそれでいいの」

 

「え、減りすぎってくらい減ってたの?大丈夫なのそれって」

 

「ああ、違うのよ。健康的には問題ないのよ?ただ、時雨が好きなのがもうちょっと柔らかいのってだけで」

 

「あー……あんまり実の親の性癖教えられても反応しにくいんだけど」

 

「〇〇はどんなのが好き?線は細い方がいい?」

 

「いや、わざわざ変えてもらわなくていいし…」

 

「えー、〇〇の為なら、時雨のと矛盾しない限りなんでもやったげるのに……あの時、熱で頭回ってなかったし、もう一回教えてあげよっか?私の、ちょっとイイトコ♡」

 

「クレープだね。近くにお店あったよね。」

 

「そんなのいいから、私といいことしましょ♡駅の近くに休憩できるホテルがあるから♡」

 

「お願い、引っ張らないで、見られてる、見られてるから!母さんなんでそんなに力強いの!」

 

「♡ ♪」

 

 

____________________

 

 

 

「美味しかったね……って、夕立どうしたんだい?」

 

「…ううん。お兄ちゃんの悲鳴が聞こえた気がしただけ」

 

「え、〇〇の?…お母さんも〇〇も家にいるんじゃ?」

 

「電話してみよっか?夕立、僕より耳いいし」

 

「……いい。多分気のせいっぽい」

 

「ん。……じゃあ、次はどうする?お金は余裕できたし、もう少しくらいなら何か買ってあげられるけど」

 

「もう私は特に」

「ぱんつ買って貰ったし」

 

「夕立、女の子なんだからそんな言い方しないの。 ……春雨は?」

 

「私も大丈夫です、はい。」

 

「そっか。…じゃあ、ご飯食べて帰ろっか。気の近くにいいお店があったはずなんだ。…このお金もちょっと減らしとかないと村雨に怒られちゃいそうだしね」

 

 

 

____________________

 

 

 

「…………むら、さめ…?」

 

 

気のせいだ。違う。

でも、あの服は村雨のものだろ。僕が妹を見間違えるか?

 

村雨は、そんな人じゃない。知らない誰かとラブホテルになんて。

海風。江風。五月雨。涼風。他にも、鎮守府の人たちと仲良くしてたよね。忘れたのかい?

 

でも、何か用事があるときはいつも言ってくれて、

約束したわけじゃない。……それに、こんなことだからこそ言いにくいんじゃないのか?

 

でも、村雨は、

僕と村雨は好き合って籍入れたんじゃないだろう。春雨だって、本当は、海風と江風に幸せだって見せれるなら僕じゃなくたってよかったんじゃないかい?

 

違う!違う‼︎

 

お前は村雨の何を知っているんだ?所詮は言葉を交わさないと何もわからないくせに、今まで妹たちとも深くまで話さなかったくせに。それに。

 

 

今、村雨は指輪してないじゃないか。僕と、江風との印を。

 

海風の、形見も

 

 

____________________

 

 

 

「………お父さん、お父さん、どうしたの?」

「ねえ、お父さん」

「あの…」

 

「ーーーごめんね。ちょっと用事できちゃった。………お金、これだけ貰っていくね。あと白露に渡しとくから。白露、2人を頼むね。家の鍵持ってる?…服も、持って帰ってて。………村雨に、よろしく伝えて」

 

「わ、待ってお父さん」

 

「ごめんよ、僕、」

 

「お父さん」

 

 

「お願いだから‼︎……何も、聞かないで。放っておいて………じゃあね」

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

ああ、何がいけなかったんだろう。

 

海風、わかる?

江風、僕はどうしたらいいんだい?

 

………そもそも、僕がいけないんじゃないか。自分は勝手にキスをばら撒いておきながら、村雨のことにはこんなになって、

 

村雨を繋ぎ止めて置けなくたって、それは僕の責任だろうに。

 

 

 

好きなものすら、また手から落とすクズめ。

 

お前は、お前は

 

 

____________________

 

 

 

 

 

「ただいまー………どうしたの?白露、その鞄。…時雨は?」

 

「お母さん……」

 

「お父さんね。駅の近くで何か見たみたいで。…顔色変えて、どっか行っちゃったの。…。様子が変だったからね、どうしたのって聞いたんだけど、聞かないでって。……あとね。お母さんによろしく伝えてって言ってたよ」

 

「…そんな、時雨、」

 

「母さん、駅ってもしかして」

 

「白露、時雨に電話した⁉︎」

 

「うん。…この鞄の中で鳴ってた。…夕立と春雨には部屋で待って貰ってるけど………やっぱり何かあったんだね」

 

「ええ……。…〇〇、この番号に電話して!海風と、時雨の子って言ったらわかってもらえるはずだから、探すの手伝ってくれるはずだから………私は、海見てくるわ」

 

「あの、近くの?」

 

「うん。……白露、もし、もしね。……私と時雨が帰ってこなかったらね、五月雨と涼風頼ってね。……みんなを頼むわ」

 

「まってお母さん」

 

「ごめんね。親失格だけど、……ああごめんねほんとに…」

 

「待ってお母さん!」

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「…もしもし」

 

『………あい。で、誰だ?見たことない番号だし、聞いたことない声だし。…これにかけてきたってことは誰かの親戚だろ』

 

「……海風と、時雨の子だって言えばわかってもらえる、って言ってた。……村雨母さんの息子でもあるんだけどね」

 

『…ということは〇〇か。小さい頃に一度観に行ったきりだったな……よし、何があったんだ?』

 

「…父さんを探して欲しい」

 

『任せろ。……というか、昼前くらいに駅で会ったんだが』

 

「そのあといなくなったらしいんだ」

 

『理由とかはわかるか?』

 

「…多分、母さんと俺がラブホに入ったの見たからじゃないかな。 母さんが浮気とかそういう、」

 

『……なるほど。気に入った。男として。…村雨はそこにいるか?』

 

「これに電話しろ、って言ったあと海に行くって。…帰ってこなかったらごめんねって」

 

『チッ……おい由良、村雨に電話かけろ。すぐに戻らせろ。……〇〇、妹たちは?』

 

「うちにいるよ。姉さんも」

 

『よし。お前も家で待ってろ。知り合い使って見つけてやる』

 

「……ありがとうございます。…で、誰?」

 

『俺か。…ああそう言えば言ってなかったか。…あいつらの…時雨と村雨の、昔の上司みたいな感じかな。………由良、繋がったか?………おい村雨、今すぐ家に戻れ。子供達心配してるぞ。時雨はこっちで見つけてやるから。……ああ。命令だ。 ………ああ。由良、後は。…………悪かったな〇〇、村雨はそのうち帰ってくるから。必要ならお前にも電話するぞ。…これお前の番号だよな?』

 

 

____________________

 

 

 

「……山城、」

 

「…ハァ、あんた、また来たの……ってなんて格好してるのよ」

 

「………。」

 

「海風の時以来かしら?あんたがこういう風に来るのは。………提督から話が来てるのよ。時雨が来たら連絡しろって」

 

「っ、」

 

「落ち着きなさい。…今は信頼だけで成り立ってる関係だもの。すぐには連絡しないわ」

 

「…うん」

 

「……何があったのか話しなさい。…聞いてあげるわ」

 

 

 

____________________

 

 

 

「…まずね、あんた冷静じゃなかったでしょ」

 

「…うん。」

 

「少しくらい考えたらわかりそうなものを……それに、縋ったのが別の女なんて、あの子を泣かせたいのかしら?」

 

「そんなつもりじゃ、」

 

「わかってるわよ。……指輪してなかったんだって?あの子」

 

「…うん。」

 

「落ち着いて聞きなさいよ。…時雨のいない所じゃね、あの子ちょくちょく外してるわよ?あれ。…あんたの前じゃ外さないようにしてるんだろうけど」

 

「え、」

 

「あなたに、心配させたくないから、ですって。……安心しなさい、嫌われてはないわ。むしろ……」

 

「……帰ったら、謝らなきゃなぁ」

 

「…あの子なら、許してくれるでしょうよ。……待ちなさい、送って行ってあげるわ。…あんた、電車で来たんでしょ?車の方がいくらか早いわ」

 

「…ごめん、迷惑かけて」

 

「今更よ。……忘れてないわよね?昔も、海風がどうとか、妹なのにとか」

 

 

____________________

 

 

『村雨ちゃん、落ち着いた?』

 

「はい、由良さん。……ごめんなさい」

 

『いいのよ。……村雨ちゃんでも、やっぱりそういう風に思うわよね』

 

「…………」

 

『提督さんがね、きっと山城さんの所に行ったんじゃないかって。あと、手の空いてる空母さんたちに、こっそり空からも探してもらってるんだって』

 

「…迷惑、かけちゃいましたね」

 

『いいのよ。…提督さんもみんなも、嫌ならこんな事してないわ。……村雨ちゃんは、帰って時雨ちゃんの帰り待ってなきゃね?』

 

「………なんて、言ったらいいんでしょうかね」

 

『心配しなくても、ごめんなさいって言えばだいじょうぶよ。お互いが、お互いのこと好きだからこうなっちゃってるんだし』

 

「………」

 

『ほら、元気出さなきゃ。じゃないと時雨ちゃんも悲しんじゃうわ。ね?』

 

 

 

____________________

 

 

 

「ほら、着いたわよ。…心配してるらしいから早く帰ってあげなさい」

 

「うん。ありがとう」

 

「何かあったらまた来なさい。……まあ、何かなくてもお茶くらいなら出してあげないこともないわ」

 

「…ありがとう」

 

「じゃあ」

 

「うん」

 

 

____________________

 

 

 

『時雨ちゃん、そろそろ着くって山城さんから電話あったんだって。ちゃんと迎えてあげてね?』

 

 

 

____________________

 

 

 

……心配かけちゃったよね。村雨にもみんなにも、なんて謝ろうか。

 

玄関の扉に手をかける。

 

大きく深呼吸した。

 

力を込めて、

 

開く

 

「おかえり」

____________________

 

 

時雨だろうか、外で気配がする。

 

なんて謝ろうか。

 

落ち着くために大きく息を吸った。

 

扉が、開く音を立てる。

 

「ただいま」

 

 

 

____________________

 

 

 

「ごめんね、時雨」

 

「僕の方こそ。」

 

「好き。大好きなの。なのに私、」

 

「僕もだよ。…迷惑かけちゃったね。みんなにも。…謝ったらさ。…一緒に寝よっか……僕と、まだいてくれる?」

 

「…時雨も、私なんかでいいの?きっとまた、今日みたいに迷惑かけるよ?」

 

「いいよ。………行こっか」

 

「…はい」

 

 

____________________

 

 

 

 

「…え、あの一緒にいた人〇〇だったの?」

 

「はい…すみません、土下座するので許してください…」

 

「…よかった……いや、よくないけどよかった。……〇〇じゃなかったら、殺しに行ってたかもしれない」

 

「………。」

 

「なんで無言で土下座するんだい?」

 

「いや、ほんとにごめんなさい」

 

「いいんだよ。〇〇なら。……僕と海風の子なんだから、半分は浮気じゃないでしょ?」

 

「……時々、父さんの考え方がよく分からないんだけど」

 

「そうかな?」

 

「…今だって、格好すごいし」

 

「これは、夕立達に着せられちゃってね………村雨が呼んでる、そろそろ行かなくちゃ」

 

「…ごめん」

 

「だからいいんだって。謝らないといけないのはきっと僕達のほうだから」

 

 

 

 

 

 




作中で売春になりそうなことやってるけど犯罪を推奨するものではなく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。