マフラーネタが被ってるのは時雨と同時期に書いててその時マフラーいいよねってなってたからです。
俺は屋上へと続く階段をのぼっていた。なぜだか、無性に夕焼けが見たくなったのだ。
古ぼけた蛍光灯がチカチカと瞬いている。あまり使う人のない階段なだけに、切れかけていると知っていても未だに取り替えられずにいた。
階段を登りきって、少し錆びたドアノブに手を掛ける。風に押されているのか、少し重く感じた。
扉をひらくと、桃色の髪を風に揺らす少女がいた。てっきり誰もいないものだと思っていたのもあり、咄嗟に声を掛けることは出来なかった。
「司令官…?お邪魔でしたら、如月は下がりますが……」
「いい。大丈夫だ。時間があるなら少し話がしたい。」
「はい。わかりました。」
そう言うと彼女は目を少し細めて笑った。
「 今日はどうだった?」
少しの間考え込んだ後に如月が口を開く。
「そうですね……特に何もなく、いたって平和な1日でした。」
面白い話が出来なかったことに申し訳なさを感じているのか、少しだけ声から暗さを感じた。
「そうか。……如月、今日の仕事は終わりだ。好きに喋っていいぞ。」
「…わかったわ、司令官。」
暗くなった声が元に戻ったことに嬉しさを感じた。
「そういえば、夕日を見に来たんだったな。」
ここに来た理由を思い出し、俺は太陽の沈む方角にめをやった。
「なあ如月」
落下防止用の柵の側に立っている如月の隣まで歩きながら尋ねた。
「マフラーが一本欲しいんだが、如月は編み物できるのか?」
「ごめんなさい……今度鳳翔さんに作ってもらう?」
「いや、如月のマフラーが欲しかったんだが…如月も忙しいだろうし、慣れないことはしなくていいよ。」
「いいわよ。少しづつ、負担にならない程度に鳳翔さんに習うことにするわね。」
「あぁ、すまんな。」
そう言って俺はポケットからタバコの箱を取り出した。
顔に出さないように抑えているようだが、少しだけ、如月の眉がゆがんだ。
「すまん、タバコ嫌いだったのか?」
「そんなことないわ、」
如月が慌てて取り繕う。
「いいんだ。俺は如月のことを知りたい。馬鹿げたことで、如月との関係を壊したくないんだ」
そう言うと如月は、おそるおそる口を開いた。
「如月、タバコがダメなわけじゃないのよ?でも、提督の体に悪いから心配で」
俺は小さく震えている如月に手を伸ばす。
「気遣ってくれたんだな。俺も如月と長く一緒に居たいからタバコは控える。」
頭を撫でてみると少しだけ笑顔になった。
俺はタバコの箱を握りつぶしてポケットに押し込んだ。
「……睦月型2番艦、如月。」
「はっ」
如月が表情を引き締めて答える。
「お前を囮艦として運用する、と言ったら如何だ?」
「作戦を全うします」
「不服はあるか?」
「あるはずがありません。それが勝利に繋がるなら」
「……如月。」
「はい。司令官。」
「お前を囮にすると言ったらどうする?」
「構いません。それが司令官の選択なら」
「嫌か?」
「…沈みたくはありません。でも、司令官がそれを望むのなら、」
「望むはずが無いだろう!」
如月の答えは前と変わっていなかった。
「なあ如月、俺が言えばお前は何もかも捨てるのか?睦月も。他の姉妹も。その左手の指輪も。自分の命さえも…」
如月が自分を好いてくれるのは嬉しい。如月の言い方を借りるならそれが如月の選択だ。
それでも……こんな言い方をすれば怒るだろうが、俺なんかのために如月が他の全てに蓋をするのが、耐えられない。
自分勝手な、我が儘な思考だとわかっていても、苦しくて苦しくて仕方がなくて。
「しれいかん…」
「……今、お前は幸せなのか?」
「…幸せですわ。司令官のお側に居られるなら、これからもずっと。
そう言うと彼女は静かに顔を伏せる。
その彼女がとても悲しそうに見えて手を伸ばして、
「司令官、貴方がいけないのよ」
反射的に固まった。
「貴方が、あんなにも優しくしてしまったから、絶望の淵から掬い上げてしまって、」
彼女が飛びついて来て、トンと軽い衝撃がはしる。
「こんなにも、かっこいい姿を見せつけて、指輪までくれて……それなのに、なんで、っ、貴方を愛しちゃいけないの?」
彼女の声に涙が混ざった。
回された両腕で、強く抱きしめられる。
今更ながらに、彼女は俺をただ愛していて、優しさに触れたことがなかった彼女は、ずっとその温もりに触れていたいだけだということに気づいた。
「如月、」
自分の意思で、俺も如月の背中に腕を回す。
「ずっと、隣にいてくれるか」
「…しれいかんっ……!」
屋上で俺は如月と抱き合った。
少しの間は夕日が照らしてくれていたが、その日も落ちて、あたりは暗闇に包まれ始める。
秋も終わり、冬に入るこの時期、寒くなるであろうことは目に見えている。
「如月、一旦中に入ろう…?」
…離してくれない。
「風邪ひいたらめんどくさいし、な」
……しょうがないか。
俺の体を抱く如月を、両手で抱きかかえる。
改二になり、大きくなった体ではあるが、駆逐艦の女の子1人ぐらい、余裕で抱きかかえることができる。
「……司令官」
「どうした、如月」
俺の上着をきゅうっと握りしめ、頬を染めながら彼女は呟いた。
「……今夜はずっと、一緒にいさせて」
「ああもちろん。如月が望むなら、毎日でも」
そう返して、如月の体がなるべく揺れないように気をつけながら、室内へと繋がる扉を開いた。
好きになるのは簡単だけど難しいなと思いました(小並感
というかまず自分の好きにあまり自信がない