艦これ短編   作:天城修慧/雨晴恋歌

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今回の話にはあんまり明るいとは言えない表現があったりするので、血とか鬱とかが嫌いな人は見ないで下さい。


追記:艦これ短編r18版に続きっぽいの投稿してます


村雨と渇き

 

夕立が、改二になった。

 

髪の先や翡翠のような色の目が赤く染まった。

 

それでも、今までの夕立とそう変わっていない。

 

そう思っていた。

 

 

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夕立の改二を祝う、ささやかなパーティーでのことだった。

 

食べ物を口にするたび、みんなに気づかれないように小さく首をかしげる夕立。

 

何かを飲んだ時も同じだった。

 

すぐにでも話を聞きたかった。どうしたのって聞きたかった。

 

でも、夕立がみんなに隠しているなら、わざわざここで話してはいけないはずだ。

 

部屋に帰ってすぐ、夕立に話を聞いた。

 

なにを食べても、物足りないと言っていた。

 

密閉容器に入れておいた、夕立が大好きだと言ってくれた手作りのクッキーを取り出す。

 

夕立の笑顔は、心からの笑顔ではなかった。

 

少しだけ、夕立のことが何でもわかってしまうことが辛かった。

 

 

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できる限りのことをやってみた。

 

鳳翔さんや姉さん達に頼んで、いろんな料理を作って貰った。

 

色々な食材を集めて、食べて貰った。

 

改二になって良くなった嗅覚が関係しているのかと、バニラエッセンスや、イチゴの香りのシロップや、チョコを混ぜたお菓子を作ってみた。

 

藁にもすがる思いで、ホットミルクのような熱いもの、アイスクリームのように冷たいもの。

 

カラダのどこかが悪いのかと明石さんにも診てもらった。

 

私の心はどんどん疲弊していく。

 

それでも、夕立のためになにもしないことは出来なかった。

 

 

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どうか、変に思わないで欲しい。

 

どうしようもなく参っていたのだ。

 

夕立の悲しい笑顔が、何もしてあげれないことが。

 

生きていくのに支障がなくても、夕立の悲しみを感じ続けるのが辛かった。

 

夕立を満足させてあげることはできないのかと、不安が頭を埋め尽くした。

 

私自身、どうしようもなく参っていたのだ。

 

私も夕立も、もうどうして良いのかわからなかったのだ。

 

あらかたやれる事はやって、2人で次がダメだったら諦めようと約束した。

 

もう一度だけ言わせて欲しい。どうしようもなく参っていたのだ。

 

…私が最後に用意した食材は、『私』だった。

 

手首を掻き切ってガラスのコップに出した血を、ゼラチンで無理やり固めた。

 

赤い色をした、見た目はそこまで悪くないゼリー。

 

夕立の目と同じ赤でも、そこに輝きはなく、黒ずんだ赤。

 

狂っていた。これを作った私も、抵抗することなくスプーンですくった夕立も。

 

ダメだったら良かったのに。

 

そのまま、満足はできなくても、2人でそこそこ美味しい普通のごはんを食べていけば良かったのに。

 

私達の体は、たとえ欠損してもドックで治った。

 

夕立が私のカラダをかじるようになるのに時間はかからなかった。

 

 

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爪だとか髪の毛だとかよりも、私の体温を感じられる部位が好きらしい。

 

中でもお腹や太ももは絶品だそうだ。

 

カミサマは残酷だ。

 

私と夕立に、こんな答えを用意していたことが。それが幸せな事が。

 

夕立の渇きを潤せるのは私しかいない。

 

村雨の心は、夕立にかじられるコトを必要としていた。

 

みんなに知られてしまったら、この生活を続けられるはずはない。

 

もう私と夕立の2人が死ぬまで、

 

私達は永遠に離れることはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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おまけーー村雨と癒しーー

 

 

夢から覚めてすぐ、暴れまわる胃袋の中身を抑えきれずにベッドのわきにあるゴミ箱を掴んで、吐いた。

 

どうしようもない悪夢だった。

 

ただ、現実でありえないとは言い切れなかった。

 

隣のベッドで寝ていた夕立が気づいてくれたのか、タンスの中からタオルをいくつか取り出して、胃袋の中身を空にし終えた私の口をぬぐい、浮き出た汗を拭い、何も言わず抱きしめてくれる。

 

漠然とした恐怖に支配された心と、乱れていた息が少しずつ平穏を取り戻していく。

 

大丈夫だよ、と。夕立が側にいるから、と。

 

ありがとう、と伝えると、夕立が「どういたしまして」と呟いてくれた事が嬉しかった。

 

何も言わなくても伝わる2人の関係が嬉しかった。

 

 

 




最初は村雨と夕立がバス停で雨宿りする話を書くつもりだったのにどうしてこんな話になったんでしょうか。まあその雨宿りの話も明るいかと聞かれるとそうでもないんですが。

これを書き終わって話の内容に影響されて暗い感じになっているしゅえさんはハッピーな話を見てから寝るので誤字とかあっても修正は早くても起きてからになります。

ゼラチンで血を固められるかは知りません。加熱したらどうなるかとか調べてないけど調べてまた後書きに追記したいです。



追記:ゼラチンの溶ける温度は最低でも50℃くらい、ただ加熱しちゃうと血が単品で固まっちゃうんから難しいらしいんですよね。

固まるギリギリの温度のゼラチン水溶液を作って冷やした血液と混ぜ合わせれば作れるって事にしといて下さい。

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