辺境の街には、さまざまな冒険者がいる。
それは、この街に来たばかりの異教神官でもよく知っていた。
有名なのは辺境最強と呼ばれる槍使いと、その相棒パートナーである魔女。
辺境最高と名高い一党パーティーを率いる重戦士。
さらには、最弱の怪物である小鬼ゴブリンを専門とする銀等級までいるらしい。
かく言う彼も、銀等級の冒険者。
そしてなにより──
「……む」
「あっ……! ど、どうもすみません」
自分にぶつかった、純白の神官衣を着た少女。
恐らくは地母神、至高神の信徒であろう。
彼の信奉するところの神ではないが、一々反応していては面倒極まりない。
それに自分の信ずる神を他者に押し付けるほど、傲慢でもなかった。
「いや、見ていなかったのはこちらだ。すまない」
ぺこぺこと頭を下げる女神官だが、異教神官に言われ顔を上げる。
彼女は自分が奇怪な神官衣を着ていることに、最初面を喰らった様子だった。
しかしだからと言って何をするわけでもない。
一目見て異教徒だとわかる装いなのだが……。
女神官は「すいませんでした」と言ってどこかに去っていった。
「やはり、辺境はいい」
異教神官が独りでに呟く。
彼が信仰する神は、一般に外なる神と呼ばれる、神々の一柱だった。
自由を愛し、拘束を嫌い、種族関係なく加護を与える神。
数多の星を渡り、何にも縛られない星渡りの神。
彼の神が、それであった。
しかしながら、星渡りの神は種族関係なく加護を与える。
それは勿論、秩序、混沌も関係がない。
外なる神は往々にしてそういう存在であったが。
しかし、信心深き至高神の信徒の目にはどう映るだろうか。
──中央では、酷い目にあった。
だからこそ、彼は異教神官なのだ。
その点、辺境はいい。
一つの神の信徒が幅を効かせているということもなく、信ずる神によって差別されることもない。
今の女神官が良い例だろう。
見て、聞いて、己の自由と正しきを押し通せ。
それが、星渡りの神の教えだとしても。
やはり、場所は選ばなければならない。
「……ん? 新参か?」
そう異教神官が辺境の街の感慨に耽っていると、背後から男の声が聞こえた。
くるりと振り向けば、そこには槍を担いだ美丈夫が。
辺境最強と噂される槍使いだ。
「ああ、君は知っている。槍使いと呼ばれてる冒険者だろう」
「そりゃ光栄だね。でも俺はアンタのこと知らねぇな。見ない顔だが……」
「しがない神官さ。特筆すべきこともない」
「いや、あるだろ」
どこからどう見ても怪しい神官衣姿を見て、槍使いが言う。
邪教徒ではないとわかっているのか、興味がないのか、敵対する雰囲気は感じられない。
「まぁ、よくわかんねぇが頑張れよ」
「ああ、君も。これから冒険のようだし」
「おうよ」槍使いが頷いた。「これから
「君が死なないよう、私の神にも祈っておこう」
「死なねぇさ。賽の目が悪くなけりゃあな」
ひらひらと手を振って、槍使いが去っていく。
途中魔女と合流したが、それは異教神官が気にするところではない。
ふぅと一息吐くと、異教神官は改めてギルドを見渡す。
種族間の仲を表すように喧嘩する
それを諌める
カウンターには熱心に話す受付嬢と、みすぼらしい鉄兜の男の姿。
その傍らには、先程の女神官がいる。
ギルドの出入り口には新米戦士と見習聖女がなにやら話込んでいた。
実に、いろいろな冒険者いる。
「神官様っ……。遅れて……ごめんな、さい……」
と、そこへ走ってきたらしい銀髪斥候が駆け寄って来た。
「いいや、気にしていないよ」
異教神官は穏やかに言うと、乱れた息を整えるように促す。
これからこの冒険者達の仲間入りするのか、それはわからないが。
異教神官は、自分と彼らのすべての平穏を星渡りの神に願うのであった。