カルデアのマスターと、もう一度の   作:魚谷井亭 桝

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ライダー(M)

 汝、右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ。

 

 あの人の言葉の中でも割と有名な一節を思い出す。

 道の異なる者とぶつかった時、大人しく従うのではなく、感情に身を任せて相手と同じに成り下がるのでなく、あくまで自分の流儀を貫いて相対せよとの、尊い教え。多分。

 私は直接それを聞いたわけではないけれど。

 それでもあの人の言葉だからしっかりと、何度も諳んじたし、心に刻んでいる。

 

 だというのに……。

 

「なんでまたやっちゃうのかしらね、私は……」

 

 目の前に人が倒れている。

 倒れているというか、倒した。この拳で、コツンと。

 いや、エイヤっと?セイッ?ドゴォ?或いはシュ…って感じだったかもしれない。

 まぁどれでも同じか。ともあれ、やってしまった。死んでないのがせめてもの救い。本当に良かった。

 

(Grrrr……)

 

 違っ……いえ、違うのですタラスク。

 だから「どんまい姐さん……いつもの事っすよ」ではありません。

 確かに私はこいつ……この方を殴りました。それは事実、私の罪です。罪は認めねばなりません。

 でもこいつも悪いというか、私に言い訳……いえ、懺悔。そう、懺悔をさせなさい。聞け。

 

 倒れているこの男を私は見下ろして、思い返す。……もちろん物理的な意味合いでね?

 

 この聖杯(※当然偽物よ)戦争におけるライダー、つまり私のマスター。

 神父服を着ている事からもわかる様に聖職者。確か聖堂教会の所属? とかなんとか言ってたっけ。

 同じ主を信じるものとして、聖杯もどきを求める事をどやしつけ……諌めたけれど、非道の輩に渡せば無辜の民がと言われてしまえば私も強くは出られなくて。

 まぁ本来喚ばれる筈のない私を召喚したくらいだから根は善性だろう、同宗のよしみか……、なんて甘い事を考えてしまったあの時の私を叱り飛ばしてやりたい。

 

 さっきの部屋で見つけてしまったものの事を、私は思う。

 

 それは骨だった。女の子の腰の骨。

 骨を見ただけで生前の素性がわかる技能なんてのは私にはないけど絶対にそう。見た瞬間にビビッときた。神託とかじゃなくて乙女の勘の方で。

 名のある聖遺物としての骨ではない。

 これはあの子の骨だ。かつて世界を救うために奔走した女の子の。

 つまり私はあの子との縁を利用されて召喚されたという事。

 つまりこの男は他人の遺骨を私利私欲の為に使う糞y……罪深き者。

 そう理屈ではなく直感で理解してしまったら、気づいたらこうなっていました。

 どうやら私はかつてのマスターの事を、英霊の座に残された知識として以上に大切にしていたみたい。義憤以上のものが拳に乗った感触が残ってる。返り血も残ってる。

 

 ですから「流石です姐さん」ではありません。恥ずべき事です。

 

 そう、恥ずかしい事なのだ。

 怒りを感じたことがではない。それは人としての正しい感情だ。

 しかしその感情のままに考えなく動いて、あまつさえ人を殴ってスッとするなど。

 例え相手が罪深き者であっても、いけないことだ。猛省よ、猛省。

 

「主よ……どうか、未だ至らぬ私をお許しくださいっ!」

 

ーーーー

 

 いつもより長く祈りを捧げ、私は目を開いた。

 

「さて、これからどうしましょう……」

 

 悔いる事とくよくよする事は違う。

 反省したらそれからは、より正しく在らなくちゃ意味がない。

 

「とはいえ、これ以上こいつに使われるのはまっぴら御免だし……」

 

 こちらから契約を破棄する手段はない。

 かと言って自分で自らの命を断つのは教えに反する。

 この男が目覚めてからなんとか説得する?

 それも難しいだろう。 私はあの人程そういう事に長けていない。

 

「んー……よっし、決めた!」

 

 こうして喚ばれたのもあの子との縁ならば、せめてそれに報いよう!

 この戦いを終わらせる為、偽物の聖杯を壊しに行こう。

 何処にあるかは分からないけれど。幸いにも、あれがどういうものかは人理修復の際に何度となくこの目で見ていて、覚えている。

 リミットはこいつが目を覚まして事態を察するまでの短い間。

 確かバーサーカー、アサシン、ランサーが既に消えたって話だっけ?

 なら妨害はサーヴァント3騎と、あと魔術師連中からもあるかも?

 上等上等。神の試練にはよくある事よ。

 

 床に置いていた聖杖を手に取る。

 

 本当は拳を解禁すればもっと話が早いのだけど、それではたった今した懺悔も反省も祈りの言葉も嘘になってしまう。

 汝、右の頬を打たれたら。

 あくまで自分の流儀のままに、聖女として、皆を守り導かなくちゃ。

 

「行くわよタラスク。街中じゃあんたの出番はないと思うけど」

 

(Grrrrrrrrrーーーー!!)

 

 良し良しいい返事ね。ま、最悪盾になったり単騎ぶっ込みかけてもらうから。

 

「主よ、どうかお導きください……ょしっ、舐めんじゃないってのっ!!」




「カルデアのマスターが闇オークションにかけられたら」の第三弾です。
書きながら彼女の設定を読み返していたら「聖杯に願いないから本来喚ばれない」とあって、
やべぇと思いましたがそこはまぁ、例外があるのが聖杯戦争ということで。

文頭の一文含む宗教観にも私的な解釈が入ってますが、違うのでは?と思われても
見逃していただければ幸いです。

言い訳ばかりですが、この辺で。読了ありがとうございました。

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