もしもガリィちゃんがちょっとだけ優しかったら(完結) 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
何を(ry
因みにこれは二話か三話で完結する予定
ガリィ・トゥーマーンは悩んだ。
何故アイツの想い出を搾取した途端、自分の身体はドキリと跳ね上がり、顔は熱くなり、搾取し尽くすのをやめてしまったのか。そもそもなんでアイツは吸われても平気だったのか。
人間でもない自分が何故そんな事になり、殺人と言えど今まで少しだけ残った良心からか重大犯罪者しか狙っていなかったとは言え、見付かった以上一般人でも殺めても何一つ問題も無いと判断したにも関わらず殺せなかった事実にただただ苛立つばかりだった。
「まあ良い、ミカが起きるには充分な想い出は獲ってきた……もう会いもしない奴の事なんて考えるだけ無意味ね」
ガリィ・トゥーマーンは何とか目的の達成、そして今日は偶然だったと思う事でその苛立ちを誤魔化し静める程度しか出来なかった。
今日、青年は絶世の美少女にキスをされた。
女子高生と謎のロリ魔女コスプレ俺っ娘美幼女痴女とのこの世界では有り得ないはずの超常現象……もとい魔法を使った闘いを目撃、ロリ魔女コスプレ俺っ娘美幼女痴女とか属性過多も程々にしろよと思いつつ、これは売れると下衆な気持ちで青年はスマホで動画撮影していた。
するとどうだろう、いきなり肩を叩かれたかと思ったらメイド姿の美少女が不敵な笑みを浮かべているではないか。
青年は何かのドッキリにでも巻き込まれたか、いやでもこんな美少女テレビで見た事ねえなあ、なんて思いながらボーッとしていた。
そしたらキスをされた、それもガッツリ濃厚な舌と舌を絡ませるディープなやつを。
生まれてこの方彼女の一人すら作れず年齢=彼女いない歴と言う屈辱の二つ名を御歳24で未だ所持しており、こんなガッキッ(ガッツリキス)どころか手を繋ぐのも愚かここ数年身内以外の女性と喋ったのは会社にいるベテランキャリアウーマン……もとい四十も半ばに差し掛かったお局様から受けた説教のみである。
いや本当にそうなのか、もしかしたらただの一度くらい救いがあったのではないか、そう思い必死に記憶を擦りきれる直前まで遡り無いと思い返しては記憶に対し膨大な数の捏造にこれまた膨大な数のIF捏造、分岐捏造を重ねては補完しを繰り返し、何時しかポ○モンの数より膨大な数の捏造を作り上げた頃には虚しくなってはその捏造記憶をちぎっては投げ捨てちぎっては投げ捨て、そして現実に引き戻される。
そして現実では未だにキスをされる青年。
やだ、この子長すぎ……と思いつつも今までの捏造に次ぐ捏造のオンパレードが何故か一瞬にして頭から消えたのはきっとこのキスが全世界の万物を凌駕しているからだろう、と考える事を止めた。
「夢じゃねえんだよな……」
唇の感触を確かめ、噛み締める様に人差し指で唇を撫でながらあの時の感触を思い出す。
ああ、夢でないならもう一度あの子に会いたい……そう思い青年の夜は更けていく。
因みに動画は有り得ないと言う事で全て門前払いだった。
ガリィ・トゥーマーンは苛立っていた。心底苛立っていた。
この前想い出を吸い付くしきれなかった青年の事が脳裏から離れず、任務でも他のドール達に劣り、装者にはトドメをさせず終い、何もかも上手く行っていなかった。
そして辿り着くのは『あのおかしな人間のせいだ』と言う理不尽な思考であった。
このドールに理不尽等と言うのは今更だが、この青年のせいで格段に効率が落ちているのは確かである。
だが100%悪い事だけ、と言う事でも無い。
「ガリィがこの前くれた想い出はとても美味しかったんだぞー!」
一番強くて嫉妬の存在の癖に、靴紐を結ぶ等常識的な事が出来ない上に自ら想い出を集める事さえ出来ない、癪に触る存在であるミカ・ジャウカーン。
それでも見捨てられず、いつの間にか嫉妬の存在から少しずつ手の掛かる妹的存在に移行しているのを双方知らないでいるが、端から見れば悪い関係には見えない存在。
そんな存在から絶賛され、鬱陶しく思いながらもどこか満足げなガリィ・トゥーマーンはそんな自分の芽生えた心等知る由も無く、ミカ・ジャウカーンの前だけで見せる妹を見る表情すら今のところは周りも本人も、そんな感情は知らない。
「全くコイツは……アタシがいないと何一つ出来ないとかウザすぎだっつーの」
「えっ、何これは……」
青年は恐れおののく前に、ただただ困惑の表情を浮かべていた。
努力はしたもののこれと言った成果が上げられず、とうとう会社をクビになりトボトボと道を歩いていた。
ふと気が付けば聖リディなんちゃら学園みたいな名前の女子高の生徒が何人か歩いており「うわあ不審者に間違われないかな……嫌だなあ……」なんてそれこそそう思う事で不審者っぽさが上がるのを知らないからか負の連鎖に陥っていた。
そそくさと帰る宛も無いものの不審者と間違われるのは更に嫌だと言わんばかりに早足になった時であった。
ふと視界の隅にこの前ロリ魔女俺っ娘コスプレ美幼女痴女に襲われていた栗色の髪の少女を見掛ける。
やっぱりあれは嘘やガセなんかじゃないよなあ、なんて動画が売れなかったのを歯噛みする様に舌打ち一つを溢す。
その瞬間だった。
この前青年にディープなキスをしていたメイド美少女が何も無い場所から現れたかと思えば栗色と何か言い合いをしている。
何を言ってるかは興味が無かったからボーッと見つめていたが、口論が終わったのか一瞬静寂が訪れたかと思ったらなんか知らない内にノイズが大量発生していた。
「えっ、何これは……」
そして目が状況を理解しているのに脳が追い付かないちょっぴり残念なこの青年は、そう呟いたのだ。
「なあっ……!?」
ガリィ・トゥーマーンは驚愕した。それもドール生活をしてきて最大の驚愕であった。
本人最大の悩みの種である青年がいたのだ、それも自分は気付かずにノイズを大量放牧した後の話だ。
実は自分一人だけ一般人を意図的に襲っていなかったガリィ・トゥーマーンだったが、ここで一般人、しかもなんで死ななかったのか気になって仕方ないあの青年を殺してしまえば寝覚めが悪い。
「……チッ折角のチャンス無駄にするとか有り得ねえっつーの!」
こうなれば自棄だとばかりに困惑している青年を脇に抱え、仕切り直す。
因みにその間にシリアスな空気は無くなり栗色の少女、脇に抱えられた青年共に「どういう事なの……」となっていたが、気にしたら負けだと言わんばかりにガリィは無視を決行する。
その後栗色の少女が変身出来なかったり、ピンク髪の気の強そうな騎士風の女が現れて戦ったり等をしたが、彼女の「弱い者に興味は無い」と言う性格上の問題からか、はたまた青年を脇に抱えているせいで興が覚めたか、ガリィ・トゥーマーンは少し戦っただけで溜め息を吐きながら勝手に退散していった。
「……それはそうとどうすんのよコイツ」
退散したは良いがこの青年を持ち帰る訳にも行かず、らしく無いと思いながらも薄暗い廃ビルで大きく息を吐き、途方にくれていったのだが。
「どうすんのよはこっちのセリフなんだよなあ……こんなんじゃ仕事探せへんやんけ」
青年は青メイドの美少女の脇に抱えられながらそう呟いた。
なんでこの少女がノイズを召喚したのだとか、なんで脇に抱えて瞬間移動出来る様なトンデモ能力持ってるんだとかの前に、あの栗色の少女+αに見られた時点であの近くにあるハロワには行けない、しかもそこ以外のハロワは自宅から約二十キロ離れている、とてもじゃないが貧乏車無しに行ける距離では無い……と言うこれからの再就職の事を考えていた、生きる事に図太いのか疎いのか分からない青年である。
「なあ」
「……なによ」
「家帰りたいんだけど」
「この状況で良く言えるわ……」
真顔で帰宅を要望する青年と、呆れ顔で溜め息を付くガリィ・トゥーマーン。
なおこの間青年は脇に抱えられたままであった。
「あっ、それはそうと」
ポンっと手を叩く。話題が変わる合図である。
「なんで俺にキスしたの?」
その瞬間空間が凍り付いた、見事に凍り付いた。
脇に依然抱えられた青年への締まりが強まり青年が青/年になろうが今のガリィはお構い無しである、青年に取ってみればお構いあってくれないと死んでしまうのだが。
結局ガリィが青年への暴行に気付いたのは、綺麗に青年が落ちきった後であった。
「で、なんでアンタはアタシがキスしても死ななかったのよ」
「いや起きて開口一番に訳分からん言葉を浴びせるの止めてもらえますかね?」
物事には手順がある、人間界の常識である。
青年が意識を取り戻して五秒でそれを聞けば思考停止でそう言うのも頷けるだろう。
最もガリィ・トゥーマーンは人間ではないのだが、青年からしてみればそんな事実は知らないのだから当然の解答になる。
「……チッ、これだから人間はつくづく面倒臭い」
悪態を付くガリィ、人間の常識等知った話では無い為に致し方の無い事だろうが、そう言いつつも説明を始める辺り、所謂ツンデレである。
勿論ガリィに自覚は無い、青年にはあるが。
やだこの子、顔だけじゃなくて性格も好み……なんて思っている青年に果たしてどれ程の話が伝わっているかは知らないが。
「ふーん、つまり君はナルシストな上にキスで何人もの男を惚れさせて来たって事だな。いやはや参ったよ、俺も惚れちった」
「おいゴラどんだけ曲解するんじゃドクサレが」
あんまりである、双方が双方共に同時にそう思った。実はコイツ等かなりソリが合うだろうと思うくらいコンマ一秒のズレすら無く、一語一句同じニュアンス、同じスピードでそう思った。
青年は今の今までの記憶を辿り、会社のキャリアオツボネーマンにすらそんな暴言を吐かれた覚えは無いと思い、ガリィ・トゥーマンはこの自分がドクサレ人間風情に情けを掛けた上に正体を一語一句至極丁寧に説明したにも関わらず、ほぼ全てを曲解されていた事に対して同時に「あんまりだ」と心の中で完全シンクロしていた。
しかし青年がこんな解釈になってしまうのも無理は無い。
この青年は其処は彼となく馬鹿なのである。
運良くデスクワーク職に就けたのも、やる気があるから採用してみようかと言う言わばプロ野球で行く育成選手枠、つまりはお試し採用だったのである。
だがやる気は薄れずとも成長の兆しは無し、何時まで経っても売り込みは上手く行かず幾人もの後輩に抜かれていった。
そして遂にはクビを宣告されたのだ。
クビを宣告されただけ辞めたくても辞められない社会の闇ことブラック企業よりかは幾分もマシではあるのだが。
そして何より、青年は九九の七の段が言えない。
確かに九九の中では難易度が高い数字だが、あくまで九九基準である。
今時九九と言えば小学校二、三年生で習う様なものであり、九九が言えないのは社会人として論外である。
もう一度言うが九九が言えないのは社会人として論外なのだ。
なのだからドヤ顔で全く方向の違う大暴投を決めてしまうのはある程度仕方ないのである。
そしてとんでもない爆弾発言をかましている事も全く理解していないのだ。
「……なんでアタシがこんな奴に何度も……次間違えて解釈したら殺すわよ」
(あ、やっぱこの子好みだわ)
こうして殺人宣言されようとそのツンデレっぷりにしか目が行かない辺り、所謂ニュータイプの様な人の心を敏感に感じとってしまうタイプの人間のストレスとは無縁な為、ある意味羨ましがられる脳味噌構造をしているのかも知れない。
「……で、アタシはアンタにキスした、分かった?」
「えーと……つまり君は人間じゃない?」
「そう」
「俺を殺す為にキスをした?」
「そう」
「んで何故か殺せなかった」
「そう言う事」
「んで俺が君のロストヴァージンだったと」
「そう言うk……よし殺す」
この青年は何度も言う様に其処は彼となく馬鹿なのである。
幾ら努力家で二回で話を奇跡的に理解出来ていたとしてもこうして余計な事を言うのだ。
ガリィ・トゥーマーンに羞恥心は無いが、自分が何の為に験担ぎと称して一般人に手を出さず、且つ糞真面目に説明をしているのか。
それを無神経且つお馬鹿に蔑ろにされては怒るのは無理も無いだろう。
「あれこれヤバくね?」
圧倒的に今更である、キスをされた時に幾ら捏造想い出を持っていかれたとしても多少なりとも生気を吸われているのだからそこで気付くべきである。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「ちょ、ちょっと待って! 俺なんかしたっけ……ええいそれよりも話題変えた方が良いよな……そうだ! そういやもう夜更けだけど君は帰らなくて良いの?」
その瞬間、ガリィの動きが止まる。
そして諦めた様に、自分に対して嗤う。
「……落ちこぼれなのよ、アタシは。他のどのドールより性能が悪くて、戦果も悪い。んでもって期待もされてない。これで帰っても馬鹿にされるのがオチよ」
本来ならそこで『自分は落ちこぼれなんかじゃない』と野心をギラつかせるのがガリィ・トゥーマーンなのだが、青年の馬鹿だから気付かず心の深層にまで落ちていた劣等心を搾取してそのままにしてしまったのか何なのか、何故かその影響でこんな変貌を遂げてしまった。
全く傍迷惑も良いところなのだが、今回ばかりはそれが全ての運命の歯車を回し始める事を
「うーん……じゃ俺ん家来る?」
「は?」
二人はまだ知らない。