もしもガリィちゃんがちょっとだけ優しかったら(完結) 作:ぶり大根(元・孤高の牛)
あとガッキッの元ネタは『ガッフェ』だけど知らない人は『ガッフェ 大谷』か『ガッフェ 中田』で検索すると幸せになれるのはここだけの話だったりする
更に『自分を売るフ』『ホモパワー』『シャブレイユ』『ケツペロ』等で検索しても幸せになれるぞ!
「……なあ、君って心の底から笑えた事ってある?」
「はあ? なにいきなり頓珍漢な事言ってんのよ、アタシはドールよ。目的を達成する為にマスターの手で造られた『物』、そんなの有り得ないってーの」
青年がガリィ・トゥーマーンに家に来いと言ってから約二十分、道中でふと青年が疑問を口にする。
ガリィはドールの中でも非常に表情豊かである。先程も奏者のピンク髪や何故か変身出来なかった栗色との戦闘でも嘲笑い、見下し、呆れ、驚愕、苛立ちと決して良い感情はとても少ないとは言え、他のドールと比べると格段に人間らしくある。
だからこそ青年は、率直に『感情について』を疑問に出来、ぶつけられたのだろう。
「ふーん……それなら明日はショッピングに行こう、君の服を買おうぜ。んで明後日は水族館だ、水使いなら興味沸くと思うし。んで明明後日は遊園地だ、ジェットコースターに乗れば嫌な事も吹き飛ぶぜ! あと何より君と観覧車に乗りたい!」
「いやほんっと馬鹿でしょアンタ」
至極真っ当な結論を、何処か影のある雰囲気で発言したガリィに対し、青年はまたも頓珍漢な事を言うのである。
ガリィはマスターであるキャロルが成すべき事の為だけに造られたドール、今まで人間のやる事で遊んだ事は愚か人間と関わりを持った事すら無い。
それを聞かされていないのならまだしも、青年は全ての話を何とか理解して、しきった上でガリィをデートに誘っているのだ。
大抵の人間ならいざ知らず、どう考えても境遇からして楽しみ方なんて知る訳も無い、こう言ったタイプは通常人の多い場所は好まないのがセオリーである。
しかしセオリーなんて関係ないのがこの青年、誘いを断られた上に罵倒されても平気な顔をしている。
単に断られた事にも、罵倒された事にも気付いてないと言うのは禁句である。
「あ、因みにここ俺ん家ね」
「ボロいわね」
「謝れ! 今すぐ大家さんに謝れ!」
感想が余りに直球だった、しかもその直球は相手打者の頭部を撃ち抜く大暴投である。
今回ばかりは青年の方が正論である。
正論であるのだが、ここの大家が半ば経営を放置している事をこの青年は知らない。因みに青年はここに住んで三年、大家には会った事すら無い。
「ああうっさいわね……でも中は思ったよりかはまだマシね、思ったよりは」
「おお! さっすが分かってるー!」
何様だよコイツ、ガリィはそう思わずにはいられなかった。
殆んど初対面、名前すらお互い知らないと言うのにこの馴れ馴れしさは何なのであろうか。
「……まあ良いわ、付き合ってたら疲れるっつーの」
正解である、至極全うな正解である。
この青年は決して悪い人間ではないのだが、いやなまじ良い人間だと分かるからこそ一緒にいるとそれだけでストレスになり非常に疲れる。
それもこれも全て青年の残念な脳味噌構造のせいであるのだが七の段すらまともに言えない青年は勿論、知る由も無い。
「取り敢えず入って良いぜ、えーと……そう、確かレディーフォレストだかレディーフォースだかってやつだよ」
「それを言うならレディーファーストでしょ馬鹿じゃないの?」
至極今更な一言である。この青年の言動を24時間観察して馬鹿だと思わない人間がいるのだとすれば、周りの人間はすぐさま頭の病気を疑うレベルであるのだ。
寧ろこの青年よりおかしいのではないかと言う言葉が飛び出る始末まである。
今時中学生でも知っている様なレディーファーストを少なくとも二度も素で間違える言動は明らかに馬鹿のそれなのだ。
だからこの青年に向かって疑問型で馬鹿なのかと問い掛ける行為は、その行為事態が周りの人間からしてみれば馬鹿と言う事になり得る。
幸い今はこの馬鹿の擬人化こと青年と、人間の常識なんて知った事じゃないドールのガリィの二人だけなので支障は無いのだが。
「あ、そうそうそれそれ! いやー君天才かな?」
「殴るわよ」
この青年は人の神経を逆撫でする事に関しても長けていたりする。
勿論青年自身に悪意も意識も欠片も無いのだが、それが更に相手を激昂させる要因となっている。
無論青年は普通に褒め称えているだけに過ぎない。
「まあ細かい事は気にしちゃいけないって爺ちゃんも言ってたし」
「レディーファーストをフォレストとフォースに間違えた事のどこが細かいのよ」
「フまでは合ってるじゃないか!」
「寧ろそこまでしか合ってないわドクサレが!」
「???」
「本気で悩む様な顔すんじゃねえよ己は……」
青年は「何を言っているのかわからない」と言った顔になり、足りない脳味噌を使い思案している。
勿論だが何を言っているのか分からないのはガリィが一番叫びたい言葉である、どう見ても聞いてもファーストとフォレスト・フォースは細かい問題で無いのは目に見えて明らかだ。
「まあ難しい問題は置いといて」
「アンタの脳味噌が足りないだけだっつーの」
「シャワーは……ドールだから良いんだっけ?」
「無視かよ……まあそうだけど」
「んならテレビでも見る?」
「興味ない」
「んじゃ俺は見るわ」
「あっそ」
ガリィの意見などそっちのけで勝手にテレビを付ける青年。
ただガリィ自身テレビが嫌いと言う訳でもなく、単に興味が無いと言うだけなので別段青年がテレビを付けていたとしても何ら問題は無いらしい。
「アッハッハッハ! この芸人最高! めっちゃ面白いわ!」
「……全く、何がそんなに面白いのかねえ。アタシにはりかいふのーってやつだわ」
青年がテレビを見ながら爆笑する意味が分からないガリィ。
無論ガリィはテレビなんてものを見た事も無いのだから、面白さが伝わらなくとも仕方の無い話ではあるのだが、それ以前にこの青年の笑いのツボは壊滅的にずれている。
今青年とガリィが見ているテレビの内容は所謂お笑いの頂点を決めるトーナメントの様なものなのだが、青年が見ていた一回戦のとあるお笑い芸人は、柔らかく言っても『冷房の効きすぎたオフィス』を更に二段階程酷くしたものとしか言い様の無い出来であった。
それだけ身体の芯からブルッと寒気がしてくるのが、この芸人への評価の最適解なのだ。
勿論だが会場も凍り付いている。
それを見て爆笑されては、ガリィの様な答えが返ってくるのも無理も無いだろう。
「あー、あの芸人負けたのかよー……少なくとも準決勝くらいまでは行くと思ったんだけどなあ」
「……」
最早何も言うまい、ガリィの沈黙が正解であった。
件の芸人を面白いと信じて疑わなかった青年の気持ちも多少なりとも分かる人間はいるのかも知れないのだが、余りにも他の芸人に失礼であった。
あの芸人が準決勝に行けるのであるならばほぼ全てのそこまでに破れた芸人達は引退するだろう、それくらいには有り得ない言葉なのだ。
「あーあもう良いや、取り敢えず今日のプロ野球の結果でも見とくかー」
「スポーツねえ……」
「あ、言っとくけどスポーツ、特に野球は最高だぞ! 手に汗握る投手と捕手vs相手バッターとの読み合い、華麗な守備、忍者の様な走塁、大砲の様なバッティングかと思えば精密機械の様なバッティングコントロール……その全てが正に芸術さ!」
「ああ、そう……」
青年の言葉は珍しく最もな意見であり、その熱弁は野球ファンであったなら感銘を受けたであろう。
しかし話す相手が非常に悪かったのだ。
野球、スポーツどころか人間自体に興味の無いガリィに話したところで何の役にも立たないのは明白であった。
「よし、取り敢えず今日は贔屓のエックスバファローズは快勝か! これで今日は気持ち良く寝られるぜ!」
「アンタ失業してんのに良くそんな呑気でいられるわね……」
「どんな気持ちでいようが失業した事には違いないからな。落ち込んでるよりは前向き思考の方が良いでしょ、てか明日朝から君の服買いに行くんだしさっさと寝ようぜ」
「前向き、ねえ……」
この青年、別段悪いところしか無い訳でもない。
何回も出している通り努力家な面(但し努力が実るとは言っていない)、前向きな面、諦めが悪い面はこの青年が人間として立派な面である事に間違いない。
ただそれ以外が悪いから馬鹿なのである。
「まあ何はともあれ俺はもう寝るからな、君も寝る習慣があるかどうか知らないけど寝とけば?」
「寝て疲れが取れるでも無いアタシが寝てどうなるってのよ」
「や、知らないけど」
「……」
「んじゃお休みー」
最早この青年は殺されても文句は言えまい、それくらいガリィの神経を逆撫でしている事にやはり気付かない。
上手く言えば幸せな脳味噌をしている、悪く直球に言うなれば何処から見ても社会不適合者のそれである。
悪運が強かったのか、既にやる気を全て削り取られたか、ガリィが感情の赴くままに殺しにかかってこなかったのは幸いと言えるか。
「やってらんないわね」
そしてそう言いつつもちゃっかり青年がソファーで寝ていて、無駄にちゃっかりしている青年が無駄に気を利かせてちゃっかり用意されていた布団に寝転んだガリィは無自覚にツンデレだった。
「んじゃ服買いに行きますかー」
「興味無い上にアタシはさっさとシンフォギアを破壊して帰らないといけないんですけどー……って、一晩経ってマスターは愚か誰も迎えに来ない時点で帰ったところで無意味、か」
「まあ同じクビ組同士、仲良くやろうぜ?」
「張っ倒して原型が無くなるまで顔面殴り続けても良いんだぞゴラァ!」
翌日、一日と経っていないにも関わらず既に相も変わらずな二人になっている青年とガリィ。
そして青年は盛大な勘違いをしているのだが、青年は確定で仕事をクビになっているものの、ガリィに関しては音沙汰が無いだけでクビを宣告されてはいないのだ。
それを『同じクビ組』と一括りにしてはそう言われるのも無理は無い。
「やだ怖い……やめてください……アイアn」
「じゃあアンタがその煽りとアホをやめなさいよ! いつか殺されても知らないわよ!?」
「最後まで言わせてくれよ……」
「言っても良いけど殺す」
「やだk」
「それ以上言ったら殺す」
これまでに何回殺すと言ったか覚えてないな、とふとガリィは思う。
この青年と話して約半日、殺すと言って殺さなかった回数は数え切れない。
何故自分はここまで殺意の沸く人間を殺さないでいるのか分からないでいる、顔には出さないが。
最初に興味を持ったのは自分だ、それは確かなのだ。
ただ、ここまで自分を苛立たせる存在を生かしておく程ガリィ・トゥーマーンは生易しい存在では無かったはずだ。
何故だ……そればかりがガリィ・トゥーマーンの思考を回る。
「まあそんな冗談はさておき」
「よし殺す、絶対殺す」
そう言いつつもやっぱり殺さないでいるガリィ・トゥーマーンであった。
「……チッ」
一方その頃、キャロルは苛立っていた。
もう一人の自分とも呼べる存在が一人居ないのだ、そうなるのも無理は無い。
ただそれがガリィに上手く伝わっていたなら良いが、如何せんキャロルは想いを上手く言葉にするのを苦手とする。
正確に言えば、父親を処刑されるまでは天真爛漫好奇心旺盛喜怒哀楽も強く、良く笑う可愛らしい女の子であった。
ところが大切な人が殺され、変わってしまったのだ。
いや、大切な人が殺されて狂わない人間の方が珍しいとも言えるか。
ともあれ、父親を殺されて以降のキャロルは兎に角良い感情を出せなくなっていた、出す機会も無かったのだから致し方無いと言えばそうなのだが。
「あら~? マスターがガリィを心配するなんて意外ねえ」
「……してねえ」
「……全く、ひねくれたマスターだ」
「そうだぞ」
「……してねえって言ってるだろうが」
何はさておき、その感情は幸いと言うべきか不幸と言うべきか、他のドール達には筒抜けの様だ。
まあ伝わってほしい本人に伝わっていない時点でキャロルは不本意だろうが。
(ふん……他の三人の戯れ言はさておき、ガリィは本当に何処行きやがったんだ……帰ってきたら『家族会議』でも開いてやるか)
しかし、悪役にも悪役なりの絆がある。
少なくともここの世界線では、キャロルと四人のドールに『家族』の絆はあるらしい。